サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

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 金木が家に戻って数時間。あたりが暗くなったのを見計らって金木は家から出た。人の太ももの肉をむさぼり喰ってから、金木の腹はとてつもない空腹を訴えていた。保存してあった人肉は、先程食べた太ももの肉だけで、金木が腹を満たすには人を狩る必要があった。

 

 だが、幾ら喰種(グール)になったからといって、真昼間から人を殺すわけにはいかない。そのため、夜になるまで家で待っていたのだ。

 

 金木は家にいた数時間をただ無為に過ごしていた訳ではない。気を抜けば家を飛び出して周囲の目などお構いなしに、人を襲ってしまいそうなほどの空腹感を紛らわすため様々な食材や調味料を口にしてみた金木は1つの発見をした。

 

 「喰種(グール)でも珈琲は飲めるのか」

 

 そう、金木が試しに口にしたコーヒーは人間の時と変わらず飲むことができたのだ。とはいえ、牛乳や砂糖が入ったものは他の食材と同様まずく感じ、ブラックしか飲むことができないようだったが。

 

 金木は人気のない薄暗い道へと入っていく、狙い目は会社帰りのサラリーマンかOL、1人でいるところを後ろからナイフで1突きで片をつけることができる。

 

 だが、全く獲物が見つからない。金木が少しイライラしつつ歩いていると、道の端で高校生くらいの女の子が酒に酔った小太りの中年男性に絡まれている場面に遭遇した。

 

 金木は、そこで中年男性を止めるなんていう正義感は欠片も持ち合わせていない。むしろ、見ず知らずの人間のために面倒ごとに巻き込まれるなんて面倒だと考える人間だ。

 

 だが、彼は足を止めた。それは完全に打算から来た行動だ。金木は男を追い払い、女の子が油断したところをナイフの1突きで殺し、彼女を食べることにしたのだ。更に金木には絡まれている女の子に見覚えがあった。喫茶店あんていくの店員で、霧嶋と名乗っていた子だ。

 

 「…あ?なに見てんだコラぁ…?」

 

 金木が2人の方を見ていることに気が付いたのか、霧嶋に絡んでいた男が金木にも絡んでくる。

 

 「その子も嫌がっているみたいだし、そろそろ辞めてあげたらどうですか?」

 

 「ああ?てめえには関係ねえことだろうが!」

 

 酒に酔って見境のなくなった男が金木に殴り掛かってくる。

 

「はあ…もうこいつでいいか」

 

 金木は溜息をつき、ちらりと霧嶋の方を見ると懐から大ぶりのナイフを取り出し流れるような動作で、男の腹にナイフを突き刺した。

 

 「あ…が…」

 

 金木は腹から血を流し倒れ伏す男の首を斬り裂き、とどめを刺す。

 

 「ふう…あとは君だけだ」

 

 金木は血に濡れたナイフを霧嶋へと向ける。

 

 「ちっ!なんなんだよお前!」

 

 霧嶋の眼が紅く染まり、その背中からは翼の様な赫子が現れる。

 

 「喰種(グール)だったのか…」

 

 金木の口元が歪む。霧嶋の赫子は火力に特化した羽赫。自らが喰種(グール)になったことを知ってから日が浅く、赫子を出せない金木にとってはかなり荷が重い相手だ。だが、金木は笑う。死ぬかもしれないという恐怖より、喰種(グール)を食べたいという思いが勝っているのだ。

 

 「死ねよ!」

 

 霧嶋は、背中の羽赫から弾丸のように赫子を飛ばす。金木は致命傷は避けたものの、足や腕に幾つもの傷を負ってしまう。

 

 「やっぱり赫子の攻撃は防げないのか」

 

 金木は、人を狩るため外に出る前に家の中で自分の身体のスペックを確認していた。その確認によると、金木の身体能力は確かに向上しているが、人間の5倍近いと言われる喰種(グール)の身体能力には及ばず、人間の3倍というところだった。

 

 金木の身体能力と同時に、耐久力も大きく上がっていた。包丁を手の甲に突き刺しても手に傷はなく、むしろ包丁の刃の方が曲がってしまった。そのため正確な耐久力を計ることはできず、金木が霧嶋の攻撃を受けたのは自分の耐久力を確認するためでもあった。

 

 「今度はこっちの番だよ!」

 

 金木は、ナイフを霧嶋に向かって投げつけ、懐から新たに拳銃を取り出す。

 

 「予備を残しておいてよかったよ」

 

 喰種(グール)にはナイフなんてものは通用しない。更に言うと、拳銃の弾もほとんど通用しない。金木が利世と戦った時に、利世の額を打ち抜けたのは『Qバレット』と呼ばれる赫子を練り込んだRC鋼を使用した弾丸の存在が大きいと言える。

 

 そんな銃弾を込めた拳銃を向けられた霧嶋だが、動揺はほとんど見られない。それもそのはず、『Qバレット』が通用するのは血液中のRC値の低い、つまり〝弱い"喰種(グール)だけなのだ。事実、額を打ち抜かれた利世も、その後普通に活動していた。そして、霧嶋は利世並みとまではいかなくてもかなり強い喰種(グール)である。『クインケ』と呼ばれる階級の高い喰種(グール)捜査官しか使用できない武器を持ち出されたのならともかく、拳銃程度で動揺するはずがなかった。

 

 だが、金木の射撃技術は霧嶋の想像の上をいく。

 

 「…っ!」

 

 霧嶋の眼球を正確に狙った射撃。もし咄嗟に避けていなければ、霧嶋は左眼を打ち抜かれていただろう。いくら喰種(グール)といえども、眼球を打ち抜かれては無事では済まない。再生にはかなりの時間がかかることだろうし、そうなれば勝負の行方は見えている。

 

 「危な…、けどもう油断はしない」

 

 霧嶋は、金木に対する警戒を高めた。こうなると金木はジリ貧になってしまう。霧嶋の羽赫から放たれる赫子の弾丸は金木にダメージを与え続け、金木は霧嶋に対する有効な攻撃手段を持たない。

 

 「…ぐ!?」

 

 必死で霧嶋の攻撃を避ける金木だが、段々とその動きも鈍ってくる。

 

 「これで終わりだ。人間」

 

 「僕はここで死ぬわけにはいかない、喰種(グール)を食べるんだ!」

 

 とうとう動けなくなった金木に霧嶋が近づいた時、金木が叫びその左眼が紅く染まった。

 

 「な…」

 

 金木を人間だと思い込んでた霧嶋は驚きからか一瞬動きが止まる。金木はその隙をついて逃走。霧嶋はその場に1人残された。

 

 「本当なんなんだよあいつ…」

 

 霧嶋は自分がさっきまで戦っていた男に見覚えがあった。霧嶋の働いている喫茶店あんていくの常連客にして『大喰い』神代利世に眼をつけられてしまった不幸な人間。彼の身体から血の臭いすることが多々あったが、普通に人間の食事を食べていたし、霧嶋の気のせいだろうと思い気にすることもなかった。

 

 最近は見かけることがなかったが、利世に喰われたのだろうと大して気にもしていなかった男は喰種(グール)として霧嶋の目の前に現れた。

 

 「…店長に相談するか」

 

 

 

 

 




口調が安定しなくて3回くらい書き直しました。

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