サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

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 金木と利世の約束当日、昼前に集合した2人は本屋を巡る前に昼食を取りながら読書家トークに花を咲かせていた。

 

 「金木さんの1番のオススメって何ですか?」

 

 「トマス・ハリスの『羊達の沈黙』かな…、『レッド・ドラゴン』と『ハンニバル』も読んだんですけどやっぱり僕は『羊達の沈黙』が1番面白いと思います。結構グロテスクなので女性にはおすすめしづらいですけど」

 

 「私、残酷な描写はそこまで苦手じゃないですよ。『黒山羊の卵』も結構過激な作品ですし」

 

 「ああ、確かにそうですね」

 

 「私のおすすめはやっぱり高槻さんの作品かな…、短編集も面白いですよね。『虹のモノクロ』とか…」

 

 「………」

 

 「どうかしましたか?」

 

 金木からの返事が返ってこないのを不思議に思った利世が金木の顔を見ると、金木の視線は利世が注文したサンドイッチの皿に向いていた。

 

 「いえ…利世さん随分小食なんですね」

 

 皿の上のサンドイッチはほとんど減っていなかった。

 

 「…あ、ちょっと最近食べ過ぎちゃって…えっと…ダイエットみたいな…」

 

 利世は羞恥からか顔を赤くする。

 

 「すいません。お手洗い行ってきますね」

 

 「ああ、どうぞ」

 

 トイレへと向かう利世の後姿を見送る金木の表情はとても歪んだものだった。

 

 

 

 

 

 昼食を取った後、金木と利世は予定通り本屋巡りを行い、数軒を回ると日が暮れようとしていたので、今日はお開きということになり、現在金木は利世を家の近くまで送っている。

 

 「金木さんって血液型は何型ですか?」

 

 「ABです」

 

 「本当ですか?奇遇ですねっ私もAB型なんです」

 

 金木の返事を聞いた利世は少し顔を赤らめながらこんなことを言った。

 

 「読書の嗜好もそうだし、年齢も同じだし…私達って結構共通点多いですね」

 

 並みの男性なら一発で虜になってしまうであろうシチュエーション、しかし金木は利世を殺す隙をずっと窺っている。

 

 2人はとりとめのない話を続けながら、人気のない道へと差し掛かる。

 

 「…でも不思議ですね」

 

 利世が不意に口を開いた。

 

 「何がですか?」

 

 「高槻さんの本がきっかけで、こうして私と金木さんが一緒に歩いてるのって…ホント不思議…」

 

 利世は切なげな表情を浮かべ、金木を見つめる。それに対し金木は、懐に忍ばせていた拳銃を引き抜き素人とは思えないスピードと正確性で利世の額を打ち抜いた。

 

 「…え」

 

 驚いたような表情で額に風穴を開け倒れ伏す利世、金木はそれを無表情で見つめながら呟く。

 

 「人間ならこれで終わり、もし僕の予想が正しければ…」

 

 「ひどいわあ、金木さん。女性の頭を拳銃で撃つなんて」

 

 金木の言葉を遮るように立ち上がった利世の目は赤と黒に染まっていた。

 

 「やっぱりか…」

 

 「あら?私が喰種(グール)だって気づいてたの?」

 

 「あくまで予想だけどね」

 

 「結構自信あったんだけどな、因みにいつから気付いてたのかしら?」

 

 「確信を持ったのは昼食の時さ、君はサンドイッチをほとんど口にしていなかったし、食事の後すぐにトイレに行った。人間の食事は喰種(グール)にとって耐えられないまずさだし、毒ともなる。喰種(グール)が人間に擬態するために食事をしたときは、その後必ずと言っていいほどトイレに行くって聞いたしね」

 

 「そこまで気づいていながら逃げないなんて、あなたよほどのお馬鹿さんなのね」

 

 「逃げなかったのは勝算があるからさ、それに逃げたら君が食べられないじゃないか」

 

 「人間のあなたが喰種(グール)の私を食べたいですって?」

 

 利世は心底不思議そうに金木に尋ねる。

 

 「人間は何人も食べてきたけど、最近飽きてきてしまってね。新たな刺激が欲しいのさ」

 

 金木はそう言いながら拳銃を構える。

 

 「どおりであなたからは濃密な血の臭いがしてたのね」

 

 金木は自分の服の臭いを嗅ぐが、金木には全く分からない。

 

 「喰種(グール)は感覚が鋭いって聞くけど本当みたいだね」

 

 「あなたとはもう少し友達としておつきあいしてたかったけど、ここまでよ」

 

 利世の背後から4本の赤黒い触手が姿を現す。

 

 「あれが赫子か…形状的に鱗赫といったところか」

 

 金木が捜査官を拷問して得た情報には、喰種(グール)の生態に関するものがあった。喰種(グール)には人間が持つRC細胞を生成する器官の代わりに、赫包と呼ばれる器官が存在し、ここから赫子という捕食器官がうねるように出現する。

 

 赫子は喰種(グール)によって形状が異なっており、その種類は4つに分けられる。遠近両方での戦闘に対応でき、高速機動を可能とするが持久力にかける羽赫、その耐久力は随一だがスピードに欠ける甲赫、一撃の重さはピカ一だが脆弱性を持つ鱗赫、短所がなく安定感はあるがこれといった長所はなく決め手に欠ける尾赫。

 

 「羽赫じゃなかったのは幸いだが、危険度は変わらないか」

 

 羽赫の弱点は持久力だが、その火力は4つの中でも随一と言っていい。持久戦に持ち込む前に遠距離から一府的に攻撃されて終わりだろう。だが、鱗赫の近距離での攻撃力は羽赫に勝るとも劣らない。現に今ギリギリで金木が避けた一撃は、道路に大穴を受けている。

 

 金木も拳銃を撃って反撃するが、赫子で銃弾を防がれてしまい中々利世本体に当てられない。

 

 「ここは、一旦引くべきだな」

 

 金木は利世に向かって弾倉に残った弾を連射し、利世の隙を作ると身をひるがえし、全速力で駆け出す。しかし、喰種(グール)の身体能力は人間の数倍。すぐに利世は追いつくだろう。

 

 必死で走る金木の脳裏に浮かぶのは、この近くにある工事現場。工事中現場なら隠れ場所もあるだろうし、鈍器になるものも豊富にあるだろう。隠れて利世の背後から鈍器で一撃入れることも可能かもしれない。

 

 「あそこまで逃げられれば…」

 

 だが工事現場の入り口までもう少しというところで金木の足に何かが巻き付き、金木はその場に引き倒される。

 

 「つかまえた」

 

 金木のあしに巻き付いたのは利世の赫子。

 

 「金木さァん。…喰種(グール)の爪は初めてでしょう…?お腹の中優しくかき混ぜてあげますよ…」

 

 迫ってくる利世の赫子。金木はズボンに隠していたナイフを引き抜き利世に向かって振るい、また逃げ出そうとするが、その金木の腹を利世の赫子が貫いた。

 

 「…あら、死んじゃった?」

 

 その場に倒れ伏した金木に近づいていく利世。金木にはもう逃げる力は残っていなかった。

 

 「ウフフ…私、金木さんみたいな体型の人好きよ。程よく脂も乗ってるし、筋肉質じゃないから柔らかくて食べやすそう…今週食べた2人とどっちが美味しいかしら」

 

 そう話す利世の頭上でプチっという音がし、物凄い勢いで吊られていた鉄骨が落下してくる。

 

 「あら?」

 

 利世が頭上から落下してくる鉄骨に気付いた瞬間、利世の身体はグチャアという音を立てながら鉄骨に押しつぶされた。

 

 鉄骨の下から流れ出す利世の血、金木は身体を懸命に動かしながら鉄骨の方に這っていく。

 

 「血…喰種(グール)の血…」

 

 鉄骨の近くにたどり着いた金木は、流れ出す血を一舐めする。

 

 「美味しい…」

 

 金木には喰種(グール)の血は、今まで食べたどの人間よりもおいしく感じられた。

 

 「もっと、喰種(グール)を食べたかった…」

 

 その言葉を最後に、金木は意識を失った。

 

 金木研はどこにでもいるような大学生ではない。人の肉を喰うことを覚え、人を殺すことについて何も感じない異常者だ。

 

 もし金木研を主役に物語を書くとすれば、それはきっと『悲劇』なんかでは終わらない。きっともっと残酷な『惨劇』になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 




明日から部活の合宿なので、1週間ほど更新できないと思います。

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