サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

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 あんていくでの一件の翌日、金木は永近に明日例の女性…神代利世(かみしろりぜ)と本屋巡りに行くことを報告していた。

 

 「マジか!?やっぱ彼女カネキに気があるんじゃねえの?」

 

 「そうか?」

 

 「くそー、あんな美人とデートだなんて羨ましい!」

 

 「デートじゃなくて本屋を周っておすすめの本を紹介しあうだけだ」

 

 「世間じゃそれをデートっていうんだよ!いいか、お前キスの1つでもして来いよ!」

 

 悔しがる永近をなだめようとする金木だが、更に地雷を踏んでしまう。

 

 「はあ…」

 

 そう溜息をつく金木だったが、彼も明日が楽しみではある。勿論、永近が考えているような不埒な理由とは大きく異なる理由だが。

 

 永近と別れた後、金木は彼の住む家へと帰ってきていた。まだ大学1年生の金木だが、一軒家に一人暮らしだったりする。勿論、その家は金木が建てたものではない。彼を10歳の頃から育てていた叔母一家のものだ。とはいえ、彼女らはとある事件によって既に死亡し、その所有権は唯一の肉親である金木へと移っているのだが。

 

 更にその事件のことで、かなりの額の補助金が出ており金木は大学生とは思えないほど裕福な生活を送っていたりする。

 

 金木は明日のための準備を終え、ベッドの上で横になりながら太宰治の『斜陽』を読んでいた。

 

 『私は確信したい、人間は恋と革命の為に生まれてきたのだ』

 

 金木はこの『斜陽』の一説を読んで、自分の彼女に対する思いが恋なのだろうかと自問自答していた。彼女を殺して()()()()()というこの思いを。

 

 金木は昨今噂になっている喰種(グール)と呼ばれる存在ではない。歴とした人間だ。だが、所謂精神異常者(サイコパス)と呼ばれる部類の人間だ。その証拠に金木はカニバリズムを行っている。金木がカニバリズムに目覚めたのには金木の過去に理由があった。

 

 金木は4歳の頃に父親を失った。金木本人に生前の父親の記憶はないが、読書家だった父親の遺した本を読むことによって亡き父親との対話を行っているような気分になることができた。

 

 金木の母親はとても優しい人だった。母子家庭ながら女手一つで金木を育ててくれた。誰にでも平等に優しく、彼女の作るハンバーグは金木の大好物だった。

 

 だが、優しさというのは時に仇となる。金木の母は姉である金木の叔母によく金を無心されていた。そして、いつもそれにこたえていた。金木の叔母の夫が借金を作ってからはそれがさらに酷くなり、それに答えようとした金木の母は余裕を失い、ときたま金木に暴力を振るうようになった。そして、金木の母は金木が10歳の時に過労死で亡くなった。

 

 金木の叔母も流石に責任を感じたのか、金木は叔母の家に引き取られることとなった。最初叔母は金木に優しかったが、それは本当に最初だけだった。叔母夫妻の一人息子の優一は勉強が好きで成績優秀な金木とは違い、余り成績がよくはなかった。元々妹である金木の母にジェラシーを抱いていた金木の叔母は、金木にも嫉妬し金木に精神的虐待やネグレクトを行った。

 

 叔母一家の家に金木の居場所はなかった。学校でも隅っこの方で本を読んでいるだけの金木に友達はほとんどいなかったし、金木の居場所は唯一の友達永近英良の傍だけだった。

 

 だが、金木が永近の傍にいる時間は決して長いものではなかった。社交的で明るい性格の永近は男女問わず友達が多く、永近の傍にはいつも人が居たからだ。

 

 金木は人知れずそのストレスを内側に溜め込んでいた。そのストレスが遂に爆発したのは、金木が14歳になった年だった。金木は深夜包丁一本で叔母一家三人を刺し殺し、その犯行を喰種のものに見せかけるため死体を()()()のだ。はじめて食べた人の肉は金木が思っていたより美味しかった。

 

 現場から喰種の体液が発見されなかったことから少し疑われはしたものの、遺体の状況などからCCG(喰種対策局)の捜査官は金木のことを信じた。金木は学校や近所で真面目でおとなしい子として評判だったし、金木に同情する人はいれど金木のことを疑うことはなかった。

 

 金木はCCGの捜査官に1つ頼みごとをした。それは、金木の叔母一家の事件を喰種の仕業として世間に公表しないこと。金木は自分の身勝手のせいで永近を心配させたくなかった。そして、それは受け入れられ事件が喰種の仕業だと公表されることは無かった。

 

 金木が次に人の肉を食べたのはそれから1ヶ月後、また人を殺すことはできず自殺の名所に放置されていた新鮮な遺体を食べた。久しぶりに食べる人の肉はとても美味しく感じられた。

 

 それから1年、金木は1ヶ月に1度の割合で自殺の名所に赴き放置されていた新鮮な遺体を食べる日々が続いた。だが、人の肉の味を覚えてしまった金木には1ヶ月に1度という頻度でしか人の肉が食べれないという現状が不満だった。所有権を受け継いだ叔母一家の家を改造し、地下室を作りそこに人の肉を保存しようとしたが、自殺の名所から家まで死体を運んでくるのは不可能と言ってよかった。車が運転できるなら別なのだろうが、当時金木はまだ高校生、免許を取ることはできなかった。

 

 そして金木は自分の嗜好のためだけに、また人を殺すことを決めた。そうと決めてからの金木の行動は早かった。凶器となる刃渡りの広い銃刀法違反すれすれのナイフを、どこからか手に入れてくると女装の勉強を始めた。

 

 女装をするのは別に金木の趣味というわけではない。自分の身分を欺くには女装が一番いいと判断したのだ。金木は細くそれほど力があるわけではない。もし抵抗され、逃げられたら自分の身が危ない。だが、女の格好をしていれば相手は警戒を緩めるだろうし、もし逃げられても犯人が金木であるとばれる可能性はかなり低い。金木の身体が細く、顔が中性的なので女装しやすそうというのも理由の1つだ。

 

 それから4年大学生になった金木は多い時には1週間に3人の人間を殺す、快楽殺人者になっていた。今まで殺して食べた人間の数は100を越えようとしていたが、金木は一縷の物足りなさを感じ始めていた。そして、彼が目を付けたのが喰種(グール)だった。人を喰らう人類の天敵である喰種(グール)、100人以上の人間を喰らってきた金木でも今まで喰種(グール)を食べたことは無い。それどころか、生で見たこともなかった。

 

 1度決めたら金木は止まらない。人の4倍以上の身体能力を誇る喰種(グール)に平均的な成人男性の身体能力しか持たない金木が何の策も無しに、真正面から挑んでいって勝てる訳がない。喰種(グール)を狩るには、CCGの捜査官達が持つ対喰種(グール)用の武器が必要となる。金木が今までに喰った100人の中には1人CCGの支部の局員が居り、彼の持っていた拳銃と銃弾を持っているが、それだけでは不安な金木は情報を集めることにした。

 

 金木が様々な手段を駆使して集めた情報によると、CCGには本部捜査官と支部局員という役職の違いがあり、対喰種(グール)用の武器であるクインケは、本部捜査官にしか所持が許可されないということ、支部局員も対喰種(グール)用の銃弾Qバレットを所持しており、この銃弾でも弱い喰種(グール)なら倒すことができるという。

 

 慎重な金木にとって万全を期すためにはクインケが欲しいところだが、流石に本部捜査官を敵に回して無傷で済むとは思えない。しかも、殺した捜査官がクインケを持ってない可能性もあるのだ。到底割に合うとは言えない。金木はクインケを手に入れるのは諦めることにした。

 

 「神代利世か…」

 

 話をした感じ金木には彼女は普通の人間としか思えなかった。だが、金木の心の中に湧きおこる感情は何なのだろうか、彼女を解体したい。喰らいたいという強い気持ちは。 

 

 金木は明日のために準備した荷物の中にこっそりとナイフと拳銃を忍ばせた。翌日、金木は前日の夜の自分にとても感謝することになる。

 

 

 


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