サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

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半年近く投稿期間が開いてしまい、申し訳ないです。センター試験まで1年を切り、本格的に受験生となったので更に投稿期間が開いてしまうかもしれませんが、今後もよろしくお願いします。


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 時は遡り、笛口親子が喰種(グール)捜査官に襲撃された数時間後。学校の定期テストが終わった霧嶋は数日ぶりにあんていくへと向かっていた。

 

 「―――はあ~…ヤマ外した…」

 

 溜息をつきながら歩く霧嶋は、あんていくのドアにかけられた『Close』の札を見て立ち止まる。

 

 「今日休みだっけ…」

 

 霧嶋はまあいっかと呟くと、ドアを開けた。

 

 「おはようございまー…」

 

 「トーカちゃん」

 

 カウンターの奥に居る芳村が霧嶋に声をかける。

 

 「あっ店長、やっぱいるじゃないですか表の看板逆でしたよ。それより聞いてくださいよ!試験のヤマが外れて」

 

 「トーカちゃん…上に来てくれないか?」

 

 芳村は真剣な表情で霧嶋の言葉を遮る。

 

 「…?はい…」

 

 芳村と霧嶋があんていくの2階の1室に入ると、そこには既にあんていくの店員である古間、入見、四方が沈痛な表情で待っていた。

 

 「四方さんまで…何があったんですか?」

 

 「…笛口さんとヒナミちゃんが喰種(グール)捜査官の手で…命を奪われた」

 

 芳村の言葉を聞いた霧嶋は唇を強くかみしめる。

 

 「…リョーコさん、ヒナミ…」

 

 「彼らには決して手を出さないこと、いいね?トーカちゃん」

 

 「でも…!」

 

 「白鳩(ハト)が20区で命を落とせば、好戦的な喰種(グール)が存在していると見られ、目をつけられる…そうなれば巣の連中は次々と新たな白鳩(ハト)20区(ここ)に送り込むだろう…俺たちを狩り尽くすまでな。理解(わか)れトーカ」

 

 声を荒げた霧嶋を四方が諫める。

 

 「…だけど!」

 

 「トーカちゃん、四方くんの言う通りだ。彼らに手を出してはいけない…みんなの安全のためにはそれが最善なんだよ」

 

 「最善…?」

 

 霧嶋は芳村を睨みつけた。

 

 「仲間が殺されたのに黙って指咥えて見てるのが…店長の最善なんですか?」

 

 「ああ、そうだ」

 

 霧嶋は思い切りドアを閉めると、部屋を出る。

 

 

 「…店長、いいんですか?」

 

 古間が芳村へ問いかける。

 

 「彼女にも色々と思うことがあるんだろう。今は1人にしてあげた方がいい。古間くんと入見さんは、四方くんから捜査官の画像を受け取っておいて」

 

 「はい」

 

 「重ねて言うが彼らには決して手を出さないこと、お客さんにも更に注意を促してあげてくれ」

 

 部屋の中でこのようなやり取りが行われている間、部屋を飛び出した霧嶋はあんていくの裏口のドアにもたれかかって座り込んでいた。

 

 「なんで、リョーコさんとヒナミが…」

 

 憎々しげに歪んだ眼に覚悟の炎が宿る。

 

 「店長も四方さんもやらないっていうのなら、私が2人の仇を討ってやる!」

 

 

 

 

 

 翌日、霧嶋は四方からあんていくの店員全員に送られた画像を携帯電話に表示し、廃ビルの屋上に陣取って目的の捜査官を探していた。

 

 霧嶋が捜査官を探すこと数十分。霧嶋の眼に高架沿いを歩く中年の男と、眼鏡を掛けた青年が映る。

 

 「見つけた…」

 

 霧嶋はそう呟くと、口元を歪め手にしていた携帯電話をしまいウサギのお面を身につけると、喰種(グール)特有の身体能力で2人組の男との距離を一瞬で詰め、眼鏡の青年の顔をRC細胞の操作によって硬化させた爪で斬り裂いた。

 

 「え…?」

 

 間の抜けた声を上げて倒れる眼鏡の青年。

 

 「うさ…お…お面」

 

 霧嶋は返す刀で残った中年の男へ攻撃するが、霧嶋の死角から飛び出てきた大柄な男が中年の男を突き飛ばし、霧嶋の腕は空を切る。

 

 「中島さんッ下がって!!」

 

 霧嶋と相対する大柄な男の声に、中島と呼ばれた中年の男は尻もちをついたまま後ろへと這って行く。霧嶋はターゲットを目の前に立つ男へと変えると、男に格闘戦を仕掛ける。

 

 「ぐっ!」

 

 男も必死で応戦するが、いくら喰種(グール)捜査官と言っても所詮は人間。喰種(グール)の腕力に真っ向から対抗するのは難しく、次第に押されていく。

 

 直撃すれば必死の攻撃をギリギリのところで避け続ける男だが、彼には眼前の喰種(グール)に対する有効な攻撃手段を持ち合わせていなかった。

 

 「最悪のミスだ…!『アレ』を忘れるとは…ッ!」

 

 小声でそう毒づく男。男の動きが鈍ったのを好機と捉えた霧嶋は驚異的な速さで男の懐に入り込み、腕を振るおうとした。しかし、その直前で霧嶋の死角からの攻撃により、霧嶋は吹き飛ばされてしまう。

 

 霧嶋に攻撃を与えたのは蛇腹剣のような形をした武器、それを持つのはどこか狂気を感じる初老の男性だった。

 

 「ダメだろうクインケ(仕事道具)を忘れちゃあぁあぁ」

 

 「ま、真戸さんっ」

 

 「まったく…男前が台無しだな。下等な喰種(グール)如きに後れをとりおって…」

 

 真戸と呼ばれた男は自らが吹きとばした霧嶋をゴミを見るような目で見下ろす。

 

 「熱意は買うが冷静さを欠いてはならないぞ亜門くん。手本だ見てろ」

 

 そう言いながら、真戸は手に持った蛇腹剣のような形をしたクインケを霧嶋に向かって振るう。それを間一髪で避ける霧嶋に、真戸はほう!と感心したような声を上げた。

 

 「これを躱す奴を久々に見たよ!お見事、お見事…そういえばこの間殺したメスの喰種(グール)旦那(つがい)は中々手ごわくて苦労したな…そんなことを思い出したよ…クク。反対にメスの方はなにも出来ず惨めに死んでいったなあ…ハハハハハハ…!あれは笑えたなあ…クハハハハッ」

 

 「テメエェ…」

 

 真戸の言葉に歯をかみしめ怒りを燃やす霧嶋、今にも真戸に飛び掛かろうという直前、その動きが止まる。

 

 「子供の方は逃がしてしまったが、見つかるのは時間の問題だ…両親の赫子から作ったクインケで子供を殺す…クク、その時が待ちきれないね」

 

 「な!…ヒナミは死んだんじゃないのか!?」

 

 思わず真戸に向かってそう叫ぶ霧嶋。

 

 「なるほど、お前は奴らの知り合い、これが敵討ちとでもいうのか…クハハハハ!下等な喰種(グール)風情が人間の真似事とは…本当に笑わせる」

 

 「答えろ!ヒナミは、雛実はお前らが殺したんじゃないのか!?」

 

 「それを知ってどうしようと?貴様はここで死ぬというのに」

 

 そう言いつつ、真戸はクインケを振るう。霧嶋はギリギリでそれを避け、真戸が振るったクインケはアスファルトで舗装された道路に大穴を開けてめり込んだ。

 

 「糞が…」

 

 彼我の戦力差を慮るに霧嶋が目の前の喰種(グール)捜査官に勝てる見込みは万に一つもない。そして、雛実が生きているということを芳村か誰かに伝え、雛実を喰種(グール)捜査官達よりも早くに見つけ保護しないと、雛実は確実にこの捜査官達によって捕らえられ殺されてしまうだろう。霧嶋は数秒で思考を終わらせると、真戸が道路にめり込んだクインケを引き抜く一瞬の隙をついて逃げ出す。

 

 「…フン、力量をはかる頭はあったか…」

 

 あの喰種(グール)を追っても人間の足では追いつけないだろうということを悟った真戸はその場を動かずに呟く。

 

 「―――しかし、ラビット…『羽赫』の喰種(グール)か…あの動き何人かCCGを殺っているな…」

 

 

 

 

 

 「店長!」

  

 深夜、あんていくの扉を思い切り開けた霧嶋はそう叫ぶ。

 

 「なんだい?トーカちゃん」

 

 もう店は閉まっている時間の筈だが、芳村はカウンターの奥で皿を磨いていた。

 

 「ヒナミは、ヒナミは生きてるんだ!」

 

 「トーカちゃん…白鳩(ハト)に手を出したね?」

 

 熱くなる霧島に芳村は静かにそう言った。

 

 「店長…」

 

 「ヒナミちゃんを救いたいという君の気持ちは分かる。だが、白鳩(ハト)を相手にするということは、トーカちゃんだけではなく、この「あんていく」の喰種(グール)全員の命を危険にさらすということだ。君にその責任を背負う覚悟があるのかい?」

 

 一瞬逡巡する霧嶋だが、すぐに決意したような目つきで店長の眼を真っ向から見据える。

 

 「あります」

 

 その言葉を聞いた芳村は少しだけ微笑む。

 

 「ヒナミちゃんを救いたいなら命を懸けなさい。その代わり、私と「あんていく」のみんなが全力で君を守るよ。

 

 芳村は一拍置いてから言葉を続ける。

 

 「喰種(グール)同士助け合うのが「あんていく」の方針だ。…やるかね?」

 

 その言葉に頷く霧嶋の顔は、さっきまでの焦ったような顔からどこか安堵したような顔になっていた。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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