サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

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食物連鎖の頂点とされる人を…

 

 『食料』として狩る者達が存在する…

 

 人間の死肉を漁る化け物として彼らはこう呼ばれる…

 

 …『喰種(グール)』と

 

 

 『28日、高田ビル通りで男性の遺体の一部が発見されました。現場には喰種(グール)の者と思われる体液が残されており、捜査局はこれを喰種(グール)の捕食と見て周辺調査を開始しています…』

 

 「おっかねえなー高田ビルって結構近いぞ…」

 

 東京都20区、喫茶あんていく。初老のマスターの入れるコーヒーが美味しいと評判の喫茶店の内部に設置されたテレビで流れていたニュースを聞いた金髪の髪を逆立てた青年、永近英良(ながちかひでよし)はそう呟いた。

 

 『東京の街を襲う喰種(グール)の恐怖…彼らの実態とは…?今日は喰種(グール)研究家の小倉先生にお話を伺ってみたいと思います…』

 

 「お、胡散臭いおっさん出た」

 

 テレビの画面では小倉と呼ばれる喰種(グール)研究家を名乗る男性が熱弁をふるっている。

 

 「喰種(グール)ねえ…本当にいるのかねそんな化物」

 

 永近は対面に座る黒髪の青年に話しかける。店内に流れるニュースには全く興味が無さげに本を読んでいた青年、金木研は永近の言葉に本から顔を挙げた。

 

 「さあ…」

 

 「なんだよ、ノリ悪いな。まあ、もし喰種(グール)が本当に居たとしてもお前は絶対に喰われなさそうだけどな」 

 

 永近の言葉に金木は眉を顰める。

 

 「どういう意味だい?それ」

 

 「カネキを喰おうとしたら、カネキに逆に喰われそうだと思って」

 

 「君は僕を何だと思っているんだい?」

 

 「カネキだろ」

 

 はあ…と溜息をついて読書に戻ろうとした金木に、永近が身を乗り出して話しかける。

 

 「そんなことより!例のコーヒー屋の気になるかわいい子ってどこだよ!」

 

 「かわいいなんて一言も言ってないだろ、僕はただ気になる女の子がいるって言っただけだ。」

 

 永近は金木の言葉に耳を貸さず、カウンターの方を指さして金木に尋ねる。

 

 「あの子か?」 

 

 永近の指の先に居るのは高校生位の年頃と思わしき、女性店員。ショートカットながら前髪を伸ばし右目を隠しているが、顔立ちはかなり整っていることが分かる。しかし、金木の気になる女の子は彼女ではない。

 

 「違うよ、まあ確かに彼女も美人だとは思うけど」

 

 「すいません!」

 

 永近は声をあげその女性店員を呼ぶ。

 

 「はーい」

 

 女性店員は小走りに金木達の座るテーブルにやってくると、注文票を取り出した。

 

 「注文いいですか!?俺カプチーノ!お前は?」

 

 「僕はまだ残ってるからいいよ」

 

 注文内容を注文票に書いている女性店員に永近が話し掛ける。

 

 「あー、すいません。お名前なんて言うんですか?」

 

 「霧嶋トーカですけど…」

 

 それを聞いた永近はガバッという音が聞こえそうな勢いで椅子から立ち上がると、霧嶋トーカと名乗る女性店員の手をガシッと掴んだ。

 

 「霧嶋さんはッ恋人はいるんですか!?」

 

 「え…えっと…、い…いっ…いません…!」

 

 「あっ!」

 

 店員は永近の質問に顔を赤くすると、しどろもどろになりカウンターの奥へと走っていってしまった。永近はそれを残念そうな顔で見送る。

 

 「やめろヒデ」

 

 呆けた顔で愛らしい…と呟いてる永近に金木が声を掛ける。

 

 「この店の雰囲気は気に入っているんだ」

 

 「いやー、悪かったって。可愛かったからつい…な!」

 

 全く悪びれていない永近に対し、金木は本日2回目となる溜息をつく。とはいえ、金木はべつにこの関係が嫌いなわけではない。永近は金木の唯一の友人なのだ。

 

 金木が手元の本を読み進める作業に戻ろうとしたとき、あんていくのドアのベルが鳴り響き、新たな来客を知らせる。

 

 金木が新たに入って来た客の方をずっと眺めているのに気付いた永近はその客の方を振り返り…数秒間停止し、また動き始めたかと思うと金木の肩をガシッと掴み、金木に告げた。

 

 「悪いことは言わん…諦めろ。あんな美人、周りの男が放っておくわけないって」

 

 金木が気になる女性とは、すらっとして均整の取れた体つきに紫がかった艶のある髪、そして道行く人に聞けば10人中10人が美人というに違いない美貌を持つ女性だった。眼鏡を掛けており、地味な印象を与えるもののその美貌はまるわかりであり、確かに周りの男達が彼女のことを放っておくなんてことはありえないだろう。

 

 「なんか勘違いしていないか?ヒデ」

 

 「へ?」

 

 「僕は別に異性として彼女に興味があるわけじゃない。僕がこの喫茶店に来ると彼女がチラチラとこちらを見てくるのが気になってるだけだ」

 

 その言葉を聞いた永近がこっそりと女性の方を伺うと、確かに金木達のテーブルをチラチラとみている様子である。

 

 「カネキ…お前にもやっと春が来たか」

 

 永近は感動したような表情で金木のことを見つめる。

 

 「は?何を言っているんだ君は」

 

 

 「いやー、俺は感動したよ。いつも教室の隅で本を読んでいて、俺以外に友達がいなかったお前にも遂に春が来るなんてな」

 

 「ヒデは僕の母親か何かか?」

 

 永近は先程とは別の店員が持ってきたカプチーノを一気に飲み干すと、バイトがあるからと言って帰ってしまった。

 

 「はあ…」

 

 金木はブラックコーヒーのお代わりを頼むと、また本を読み始めた。金木が読んでいるのは新進気鋭の作家高槻泉の最新作『黒山羊の卵』。金木はこの作者を結構気に入っており、彼女の処女作である『拝啓カフカ』からずっと読み続けていた。

 

 「彼女も高槻を読むのか…」

 

 奇しくも金木の視線の先の女性の手にする本も『黒山羊の卵』、偶然なこともあるものだなと思いつつ本を読むことに集中していると、本に何かがぶつかり本を取り落としてしまった。

 

 「ごめんなさい!」

 

 ぶつかってきた何かとはどうやら件の女性の様だった。

 

 「こちらこそ、すいません」

 

 そう言って、拾い上げてもらった本を受け取り続きを読もうとした金木に女性が話し掛けた。

 

 「これ面白いですよね私もちょうど今読んでて…お好きなんですか?高槻さん」

 

 「ええ、まあ。彼女の作品は一応全て読みました」

 

 「あっ、私もなんですよー」

 

 そんなやり取りをきっかけに2人は読書家トークに花を咲かせ、あっという間に明後日一緒に本屋巡りに出かけるという約束を取り付けていた。

 

 この出来事が今後金木の運命を大きく動かしていくことになるのだが、金木がそのことを知る由もない。

 


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