FGOの世界にTS転生   作:イザベラ

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1話 こんにちは、アーチャー

 マシュちゃんの協力で、サーヴァントとして微かな自信を手に入れた私。これから厳しくも輝かしい戦いが待っている。と、なるほど現実は甘くなかった。

 

 怒られた。説教された。大人になってからのお説教は、割と本気で心をえぐる。それが万能の天才による理路整然としたものであればなおさら。

 

 ダ・ヴィンチちゃん曰く。

 今のカルデアは本当に余裕がない。次の特異点は特定しているが、最優先するべき人理修復のためのレイシフトをすぐに行うほどの余裕すらない。コフィンや観測機器の修理、怪我人のケアなどで人員が足りない。

 

 すでにカルデアの外の世界が存在しないので、自給自足についても考えなきゃいけない。元々シェルターとしての機能もあるとはいえ、外界が消えてなくなるレベルでは想定していなかったから見直しは必須だ。

 

 という訳で、召喚した君たちの維持もギリギリだ。そこに宝具まで使われた訓練をされてはたまったものじゃない。この私が思わず聖杯に手を出すか考えてしまうくらいにね。わかったかな? だからできれば大人しくしていてほしい。

 

 もっといろいろ言われた気がするが思い出せない。立香くんと契約を交わした直後に、天才による怒涛のお説教により奈落へと落とされた。

 

 マシュちゃんが、冬木での不甲斐なさから訓練を頼んでしまった。と言い訳をしてくれたおかげで、ようやっと解放された。ダ・ヴィンチちゃん、マシュちゃんに甘いよね。

 

 ゲームの時はチュートリアルな冬木を終わらせて、すぐに次の特異点にいったけど……。思い返せば物語ではDr.ロマンが何日も徹夜して、さらにスタッフも徹夜して、命を懸けるくらい働いていた。元の私の職場も真っ青なブラック状態だ。

 

 修練場の使用も、マシュちゃんと私の宝具使用も、たぶんカルデアの電力変換の魔力だったかを大量に使ったに違いない。そりゃダ・ヴィンチちゃんが怒るわけです。

 

「うぅぅ、やってしまった……」

 

 やはりどこか浮かれていたのかもしれない。私にとって現実となったカルデアの現状を、もっと詳しく把握してから行動するんだった。

 

 明言されていないが実質部屋で謹慎状態の私は、鎧を消して一人ベッドの上で体を丸めて頭を抱えた。召喚時にご挨拶していない上に、最初の行動が大迷惑とか印象最悪だ。体の丸さが止まらない。

 

 英霊っぽく、アルトリアさんっぽく振舞おうとしていたが、一人になると私はやはり私だった。

 

 うぅ~うぅ~とゾンビのように反省と後悔をしまくっていたら、ベッド横のモニターがついてマシュちゃんが現れた。

 

『あ、ランサーさん、カルデアの案内と皆さんにランサーさんの紹介をしたいのですが、大丈夫ですか?』

 

 TV電話っぽい物らしい。画面上のマシュちゃんと、その後ろにいる立香くんは普通にしている。ということはこちらから操作しないと通信できないのかな。じゃなきゃベッドで丸くなっている私を見て平然としてられまい。プライバシー保護ってやつかな。

 

 画面に何個かマークがある。近づいて直感で適当に押すと、直後にマシュちゃんと立香くんがビクッとした。どうやら相互通話状態になったらしい。

 

 ではアルトリアさんらしく決めようではないか。

 

「わかりました。カルデアの案内をお願いします。マスター、マシュ」

 

 オルタな自分なので少し澄ました感じで言ってみた。フッ、決まった。なんて自画自賛していたが。

 

『ではすぐに迎えに行きますね。あとその、案内中は鎧を着てくださいね』

 

 そうマシュちゃんが言い残し、通信が切れて画面が暗くなった。それを確認した私はベッドに戻り丸くなる。

 

 お腹丸見えのハイレグ水着のような恰好をした澄ました感じのお姉さんが急に現れたら、そりゃぁビクッとなるよね。う、うふふふ……うぅ~丸くなるためにこの格好なのを忘れてたぁ。

 

 二人が迎えに来てくれるまで、羞恥で身を焦がす私であった。

 

 

 

 

 

 しっかり鎧を着こみ、二人の後をついていく。会議室やら事務室、医療エリア、職員用の住居施設、体育館に食堂等々、カルデアの施設案内を真面目にしてくれる。

 

 途中で職員の方々とも会うが、皆様忙しいのか礼をするだけでお仕事をなさっていた。カルデアの職員へ私の紹介も兼ねるはずだったが、Dr.ロマンが全体メールか何かで紹介するだろうから問題なしだ。

 

 マシュちゃん先導の施設案内は社会科見学のようで面白く、ふむふむと楽しんで聞いていたのだが、何やら目の前にもう一人同じようにしている子がいた。はて?

 

「マスター、あなたもマシュの説明に頷いていますが、どういうことですか?」

「あ~、実は俺もカルデアにはきたばかりで、はは」

 

 恥ずかしそうに少し顔を赤くして話す立香くん。そういえば、彼は来て早々にレフ教授の陰謀に巻き込まれたのだったか。

 

「そうでしたか」

 

 私と同じく案内される側とわかり、親近感からにっこりと微笑み話しかけた。すると立香くんが顔をぷいっと背けた。若いなあ。彼の反応にクスリと笑うと、気づいた立香くんが真っ赤になった。

 

「先輩、ランサーさん、次がカルデアスとレンズ・シバ、トリスメギストスがあるカルデアの心臓部ですよ」

 

 私と立香くんに普通に話しかけてくるマシュちゃん。立香くんの態度に嫉妬でもするかと思ったが、むしろにこやかだった。

 

 私のことをかなり信用してくれてるのか、それとも立香くんがフラグをまだ立てれてないのか。はてさてどっちだろうか。などと人の恋路を愉しむ悪い大人をしながら、マシュちゃんに続いてドアをくぐると、そこは。

 

「酷い有様ですね……」

 

 ここがレイシフトを行う場所で、レフ教授が爆破させていった場所なのだろう。機材は散乱し、どう見ても壊れているものが多かった。

 

 それらを片付け、あるいは直そうとしていると思われる多数の職員の方々が居た。惨状と職員の人達の必死の作業を見て、胸に来るものがあった。複雑で自分でもどういう想いかはわからなかったが。

 

「あ、アーチャーさんが居ます。アーチャーさんには、ランサーさんをちゃんと紹介しましょう」

 

 どうやら喧騒にまぎれ私より先に召喚されたアーチャーがいるらしい。軽く駆けだしたマシュちゃんを見て、少しだけ自室に帰りたい気分になった。英霊と会うのちょっと怖いです。

 

 アーチャーと聞いてずらっと脳内で候補を思い浮かべる。ぱっと浮かんだのが金ぴかな王様で、心の中でオウフッと吹いてしまった。想像しただけで恐怖で逃げ出したい。

 

 こっそり震えながら、作業の邪魔にならぬように隅っこで立香くんと待っていると、こちらにマシュちゃんが歩いてきていた。一人の英霊を後ろに連れて。

 

 赤い外套を纏うその英霊から、私は目が離せなくなった。

 

 あぁこれが縁というものだろうか。アルトリアである私は彼との見えぬ何かを感じずにはいられない。彼は私の前まで来ると渋く落ち着いた声で喋った。

 

「私ができる作業は一旦終わった。なので今後戦友となる相手との顔合わせは吝かではない。だがここは騒がしすぎる。できれば休憩室あたりに移ろうと思うが構わないかね?」

 

 立香くんとマシュちゃんに問いかける彼を、私はずっと見続けていた。

 

 

 

 

 

 解析で修理作業などを手伝っていたアーチャー。彼の提案で幹部クラスが使用する休憩室へとやってきた。部屋に居るのは立香くん、マシュちゃん、アーチャー、私。人数的には十分に余裕がある広さで快適だったが、室内の空気は重かった。

 

 移動中私がずっと黙っていたせいで、今の空気になったのだ。

 

 だって仕方ないじゃないか。あのアーチャーなんだもの。あの正義の味方なのだから。アルトリアな私はどうしたって意識してしまうでしょう?

 

 空気を和らげようとお茶をつぎ椅子に座っている立香くんとマシュちゃん。少年少女が休むテーブルを挟み立っているアーチャーと私。テーブルの反対側で壁に背を預けているアーチャーは、私が道中喋らなかったせいでちょっと不機嫌っぽいです。

 

 別に嫌いだから喋らなかったわけじゃない。むしろ好意を抱いているからこそ喋れなかったのだ。stay nightを知っている人ならほとんどの人が思うはずだ。彼はかっこいい。憧れるに足る紛れもない英雄なのだ。

 

 けれどその生き方には物申したい部分も多く、こう、色々考えてしまい、なんて話しかけたら良いかわからなかった。演じるアルトリアさんと自分自身の別々の想いの板挟みで、黙るしかなかったのだ。

 

「え、えーと、アーチャーさん、こちらがさきほどカルデアに召喚されたランサーさんです」

 

 厳しい空気に負けず、マシュちゃんが紹介してくれた。さすが盾の英霊。空気に負けない守備力だ。彼女の紹介に光明を見たのだけど……。

 

「アーチャーだ。何、別段仲良くしてくれなくて構わんよ。サーヴァントとしての役割を果たしてくれればね」

 

 アーチャーの言い方にカチンとくる。

 

 確かに私の態度は悪かった。角在り棘在りの黒い鎧に白すぎる肌。ダークなオルタ系な雰囲気はまさに悪者っぽく、黙っていたら敵にしか思えず敵意があると思うことでしょう。そこは私自身もそう思う。

 

 だけどあれだ。肉体も精神もアーチャーと私は年齢的に同年代だ。上から目線で言われるほど差はなかろう。さらに我が身は英霊アルトリア。オルタであるがアルトリアなのだ。偉いのだ。

 

 私自身の同年代的対抗心か、アルトリアとしての負けず嫌いか、どっちにしろアーチャーに対する態度を決めた。あまりよくないと思うが決めました。

 

「ふっ、大きくなりましたね、シロウ」

「なっ!?」

 

 ニヒルな感じで見下すように言うと、アーチャーが組んでいた腕を解いて驚いた。そんなに驚くとは予想外。思った以上の反応に、私の心は黒い楽しさに満たされていく。

 

「ランサーさん、アーチャーさんとお知り合いなんですか?」

 

 マシュちゃんもびっくりしたようで、驚いて私に聞いてきた。マシュちゃんの正面、私の前に座る立香くんも体をひねり私を見て驚いている。

 

 ふふふ、そうなのです。知り合いなのです。正確には私とは知り合いではないが、私はよ~く彼のことを知っているのです。

 

「あなたのことですから、てっきり食堂に居るかと思いましたが、料理の腕は鈍ったのでしょうか」

 

 現状なら料理作るより解析の魔術で手伝う方がカルデアのためになる。投影や固有結界ばかり目立つが、彼の解析魔術の腕前は超一流だ。機械の内部を調べさせたら、どれだけ役に立つか計り知れないだろう。

 

 そんなことはわかっていて、彼の得意な料理の腕をバカにした。私は仲良くしたいのに、仲良くしてくれる気がそちらにないなら、こっちだって言ってやるのだ。

 

「き、君は、まさか」

 

 どうやら私の正体に気づき始めたご様子。成長した姿の私は、彼には見慣れぬものでわからなかったのだろう。だが遅い。もっと早く気づいていれば違ったルートもあったろうけど。

 

「あなたをランサーの魔槍から守り、ライダーのペガサスからも守り通し、バーサーカー相手には共に戦ったのを忘れてしまいましたか」

「うっ、いや……」

 

 このアーチャーがどのシロウくんだったかわからないが、適当に言い放ちました。ん? そういえば実際にstay nightのアーチャーは摩耗して忘れてしまったはずだが、Grand Orderの彼はどうなのだろうか? ま、今はいいか。

 

 にやにやと人の悪い笑みでアーチャーを見ていたら、とうとう彼が白旗を上げた。ため息を大きく吐いて完全に態度を軟化させ、雰囲気がガラッと変わった。

 

「まさかとは思うが、君は『セイバー』なのか?」

「ふふふ、久しぶりですね。シロウ」

 

 アルトリアさんに成りきって、自分がセイバーだと返事をした。演技のはずが、久しぶりの言葉は胸にすとんと落ち他意は生まれなかった。温かな気持ちで言った自分に、ちょっと戸惑う。

 

「もしかしてアーチャーとランサーって生前の知り合い?」

 

 立香くんがフレンドリーに私達に問いかけてくる。この気安さが一般家庭出身の彼の良い所か。魔術師であったら、こうも気軽に質問してこないはずだ。

 

 立香くんの質問になんて答えようか。アーチャーはまだ立香くんに真名を明かしていない様子。私はなんとなくだが、彼なら意図があって明かしていないのだろう。

 

 説明ついでに真名を明かしちゃおうかな。なんて悪だくみをしていたら乗り遅れてしまう。

 

「あぁ、私は生前彼女に助けてもらった。どんなに記憶が摩耗しても、彼女のことは忘れない。忘れられない。俺はそれほどの憧れと……」

 

 立香くんの質問に素直に答えたアーチャーの言葉を聞いて、頬が赤くなってしまう。いや、言葉だけじゃなくて見つめられてしまっているのも原因だ。

 

 途中で一人称が私から『俺』になってることから、本当にぽろっと漏れた本音に違いない。それを聞いてから寂しさと懐かしさと、たぶん愛情を籠めた視線で見つめられたら、頬の一つも赤くなってしまう。

 

「そうか、呼ばれたのは君だったのか。君ならば共に戦う者として、これ以上はない」

 

 責めていたはずが好意の反撃を受けてしまう。言われた言葉が嬉しくて感情が治まらない。

 

 ドキドキする動悸を抑えようとしていた私に向かって、アーチャーがテーブルをぐるっと回り近づいてきた。あ、ちょっと待って。今近寄られたら色々と大問題です。

 

「望みは何もないと思っていたが、思い出したよ。あの時の気持ちを」

 

 私より背の高い彼が前に立つと少し見上げてしまう。見上げた彼の顔は優し気に微笑んでいてドキッとしてしまった。まるで遠坂凛にだけ向けるような笑顔が、私に向けられていた。

 

「今度こそ君の横で、君と共に……守れるように戦おう」

 

 優しさと決意が籠められたアーチャーの言葉に、私はもう駄目だった。アーチャーに対して恋心があるとかではないが、こんなにも想いをぶつけられた経験が皆無な私は、男女とか通り越して茹で上がってしまった。

 

 だから決して女性としてドキドキしているわけじゃない。偽者とはいえアルトリアさんになると決めただけで、心までアルトリアさんではない。けれどドキドキは止まらない。

 

 思いの丈を言ったアーチャーは、また『セイバー』と戦いに臨むからか言峰教会での再現のように、そっと右手を出して握手を求めてきた。

 

 現クラスはランサーだけど、『セイバー』と衛宮士郎にはふさわしい行動だろう。それがわかっている私はその手に自分の手を重ねぎゅっと握った。そして私も言葉で返答しようとしたのだけれど。

 

「は、はひ、私もあなたと一緒で嬉しいです」

 

 あまりの緊張に噛みました。しかしアーチャーは私の噛みまみたな不祥事をスルーして、再びにっこり微笑んでくれた。

 

 朗らかな彼の表情に、毒気を完全に抜かれた私はぽ~と見惚れてしまった。視界の隅に、並んで興味津々の目で私たちを見ている立香くんとマシュちゃんを映しながら。

 

 アーチャーと私が見つめ合う時間は、休憩室にDr.ロマンが入ってくるまで続いた。




お読みくださった方、感想をいただけた方、評価をしてくださった方、
ありがとうございます。
感想とか評価とか、すごく嬉しいです。

さて皆様、TS作品は好きですか?
私は好きです( ˘ω˘ )リアとアルトのお話とか特に。

それはそれとして90連+αして、また爆死しました。
あはは~……はぁ。確率に勝てない……。

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