チート転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった   作:おもちさん

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最終話  転生を断ったら、女神がチートスキルをくれた

あの大戦から数日が過ぎた。

それまでの騒ぎが嘘のようにアシュレリタは日常を取り戻していた。

オレはというと町から離れた高原までやって来ている。

イリアから逃げるためだ。

 

 

「陛下は約束なさいました。どんな望みでも叶えると」

 

 

かつてない圧迫感とともに迫ってきた阿呆メイド。

言質をとってる為か相当強気の姿勢だった。

もちろん褒美くらいはやるが、何でもって訳にはいかない。

コイツの考える『どんな望み』の範囲がどこまで入っているのか。

考えるだけでも身の毛がよだってしまう。

 

 

「陛下の〓〓〓〓をいただけますか。もちろん〓〓〓から〓〓に〓〓〓〓〓〓〓してください。ですが〓〓〓や〓〓〓でも私は構いません」

 

 

悪い予感が的中した。

こいつは規格外のアホでもあると思い知る。

そしてこんな事を口走りながら迫るイリアは、オレにとって恐怖の対象そのものだった。

 

 

だから逃げた。

アカスジヘビの『ミーくん』を置いて。

今頃大変な騒ぎになっているだろうがオレは知らん。

残った奴らでなんとかしてくれ。

 

 

草原で1人寝転がってみる。

あの日見上げた空とはまた違い、長く延びた薄雲が散らばっていた。

それが一層空の青さを引き立てているようでもある。

涼しげな風も吹いて土や草の匂いを運んでいく。

サラサラと優しい音を立てながら。

 

 

生き残ったんだなぁと改めて思う。

いつ死んでもおかしくない戦いだった。

命があるからこそ、こうしてゆとりを愉しめる。

 

時間の感覚も、他人の目も、この世に縛り付けるものが無いからだろうか。

ふと魂が世界と繋がったような錯覚を感じる。

多くのものから解き放たれたような、不思議な気分だ。

 

いや、そんな小難しい話は置いておこう。

今はただ、この涼しさを味わえばいい。

 

 

フワリ、フワリ。

 

 

オレは思わず身を起こした。

久しぶりの女神からのメッセージだった。

これがやってくるという事は無事なんだろうか。

逸(はや)る気持ちを抑えて受け取った。

 

 

ーー本当にとんでもないヤツよね。【4指の力】を持つ化物とは言え、神鉱石の兵器に勝っちゃうなんてさ。

 

 

オレは慌てて木の棒を掴むと、地面に返事を書き起こした。

 

 

『頑張ったらなんか勝ってた。つうかお前は大丈夫なのか? 力は戻ったか?』

 

ーーああ、神鉱石を壊してくれたんだよね。ありがとう。でもあの終わり方は予想外だったよ。暴発のせいで力はほとんど戻ってこなかった。

 

『やっぱあれじゃダメだったか。解放すればなんとかなると思ってた』

 

ーーおかげで私の力は【1指の力】分くらいしか残ってないわ。3指分を取り戻すのにどれだけ時間がかかる事やら。

 

『いやほんとスマン。何か手伝うか?』

 

ーーいや、いいわ。どうせ時間をかけるしかないんだし。気遣いありがとね。

 

 

やっぱりあのやり方じゃ問題があったのか。

返し方を確認しとくべきだった。

でもどうやら本人が消失する事態は避けられたみたいだから、最悪の結果は回避できたのか。

そう、前向きに捉える事にした。

 

 

ーーもうさ、アンタの好きに生きていいよ。力は返してほしいけど、今となっては全力でも敵わないしね。自然死するまで待ってるから。

 

『微妙に怖い言い方だが、わかった。死んでまでこの力を貰おうなんて思わん。そのときキッチリ返す」

 

ーーそうして頂戴。そもそも魔人王を倒す為に呼んだんだし。大暴れせずに大人しくしててくれるなら目を瞑(つぶ)っとくわ。

 

 

そういえばオレはそんな理由で転生したんだよな。

魔人王になってからはすっかり忘れてたぞ。

旅に出た当初はクソスキルを寄越されたりしてたっけ。

 

 

『なぁ、なんかスキルないのか? 良いのあったらくれよ』

 

ーー急に言わないでよね。今は……こんなんしかないよ。

 

 

 

フワリフワリと贈られたスキルはこれだった。

・叡智の王(えいちのおう)

  基礎的な統治知識を呼び出せる。さらに領民から信頼と共感を得やすくなる。

 

 

 

『これ、いいじゃないか。今必要なものだぞ』

 

ーーそんなんでいいの? それだと今より弱くなるよ。

 

『これからは武力なんかいらねえよ。それに魔人王の力があるし、リョーガも居るしな』

 

ーー私としてはスキル差分の力が戻ってきて嬉しいけどさ。反対する理由なんかないよ。

 

『早速スキルを入れ替えてくれ、オレはやり方をしらん』

 

ーーちょっと待ってて。今差し替えるから。

 

 

その言葉を聞くなり、体が少しだけ重くなった気がする。

ひょっとしたら力が弱まったせいかもしれない。

それでも『叡智の王』の方が欲しいから問題無いな。

 

 

『こんな愉快な毎日を送れるのも、転生させてくれたからだな。ありがとう』

 

ーーえ、アンタ……今お礼を言った? 嘘でしょ?

 

『ケンカ売ってんのかよ。感謝してるのはマジだって』

 

ーーいや、前に『感謝させてやる』とかは言ったけどさ。改まって言われるとむず痒いね。

 

『そういうもんかもな。そのうち暇な時にでも遊びに来いよ。なんだったらお礼も兼ねて町に別荘も用意するぞ』

 

ーーはぁ、アンタには勝てないな。そのうち行くかも。それじゃあね。

 

『おう、またな』

 

 

オレはそれからもしばらく空を眺めてただずんでいた。

どこに居るかわからない女神を見つめるように。

 

 

ーー数日後。

オレは例のメンバーで自宅で飯を食っていた。

怪我の治ってないヤツも居るから食堂まで出向くのは控えているからだ。

いつものようにトンボを食っていると、外が何やら騒がしくなった。

見張りの兵と揉めているようだった。

 

 

『だから通しなさいよ、私は呼ばれて来たんだってば』

『確認を取って来ますからここでお待ち下さい、勝手に入ろうとしないでくださいって!」

『そんなん二度手間する必要ないよ。アンタたちの親玉に会わせてくれりゃ解決するんだから』

『この人話聞いてくれない?! リョーガ様、助けてください! 妙に馴れ馴れしい侵入者が!』

『誰が馴れ馴れしいだこの野郎!』

『怒るポイントも何かおかしい!』

 

 

ああ、この声は……。

来るなり揉め事起こすってどうよ。

アイツらしいっちゃらしい気がするが。

 

 

「なんだか、外が騒がしいわね。誰なのかしら?」

「タクミ様。どうかされましたか? 嬉しそうな顔をして」

「いやさ、馴染みのヤツが来たっぽいんだが。相変わらずな感じが面白くてな」

「あの態度が普段通りなの? なんか強烈な人っぽいわね」

 

 

聞こえる声がどんどん大きくなってくる。

この部屋まで来るのももうすぐだろう。

オレは自分が発する第一声を、既に心の中で決めていた。

 

 

ーーようこそアシュレリタへ。何も無い町だが、気の済むまで遊んでいってくれ。

 

 

 

ー完ー

 




これにて本作は完結となります。

長らくご愛読ありがとうございました。

またどこかでお会いしましょう。


おもち

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