チート転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった   作:おもちさん

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第36話  唯一の手段

オレたちの構えは単純だった。

イリアが陽動して、生まれた隙をオレが叩く。

今残された戦力ではこれが限界だった。

手負いのリョーガは出せないし、レイラは町の防衛に不可欠だからだ。

 

 

イリアはやはりただ者ではなかった。

武芸百般との噂が高いが、偽りはないらしい。

柳のようにしなやかに動き、避ける仕草は風を泳ぐ綿毛のようだ。

間合いを見切っているのか回避行動も最小限に収めている。

イリアは避けている間も小刻みに短剣で斬りつけるのだが、目立った効果は無いようだ。

せめてもう少しまともな武器を持たせてやりたかった。

 

 

 

その隙にオレは装甲の薄い関節部分に攻撃を見舞う。

可動部分は多少の隙間が開いている。

鋼鉄を砕く手段がない以上、防御の弱そうな所を攻めるしかない。

気紛れのようにオレにも攻撃が飛んでくるので、気を抜いたら一撃もらってしまいそうだ。

集中しなくては。

 

 

攻撃の手を休めて跳躍し、一度距離をとった。

機鉱兵に変化は見られない。

何度もオレの鉄拳を受け、イリアの短剣による斬撃を食らっているのにだ。

こうも平然とされると自信を失いそうになる。

 

 

「陛下、作戦に滞りはありませんか?」

「大丈夫だ。イリアこそどうだ?」

「脅威的な力と速さですが、それだけです。回避を重視している限りは問題ありません」

「わかった。こっちはまだ時間かかかりそうだ。そう少し粘ってくれ」

 

 

オレの言葉を聞き終わるなり、イリアは特攻していった。

伸ばされる鉄の腕を駆けながらかわし、腕関節に一刀を浴びせてから離脱した。

キンッと乾いた音が響いただけで、ダメージは無いようだ。

 

 

その間にオレは機鉱兵の背中を襲った。

時間をかける程こちらが不利になるかもしれない。

作戦の為にも速攻を選ぶことにした。

 

 

左右の腕、両足の関節を狙いもつけずに乱打。

もちろん損傷を与えるどころか、揺るがせる事すらできない。

怒りに任せて渾身の右もくれてやったが、結果は同じだった。

 

 

『化け物』なんて言葉も生易しい。

そんな陳腐な言い方で表せる存在ではなかった。

絶望に膝を折りそうになるが、それには耐えた。

オレがしっかりしなくては何も始まらない。

 

 

「陛下、敵の動きが」

「あれは不味い! 止めさせるぞ!」

「ハイ、ただ今!」

 

 

機鉱兵は突然アシュレリタに片手を挙げた。

その手には魔力が集約され始めている。

今あの攻撃をさせるわけにはいかなかった。

レイラと手負いのリョーガに防げるはずがない。

 

 

「全力で行くぞ! 真上から腕に叩き込め!」

「承知しました!」

 

 

二人の全体重を乗せた攻撃が機鉱兵の左腕に向けられた。

手首に狙いを定めて。

オレは両手を組んで叩きつけ、イリアも左手を柄の底に手を添えて降り下ろした。

さすがの巨体も耐えきれなかったのか、腕が大きく下がる。

光の波動は地面に向けられ、大きな溝を作っただけだった。

 

だが、それは誘いだった。

すぐさま逆の手で払われ、オレたちは吹き飛ばされてしまう。

受け身を取れたオレとは違い、イリアは地面に引きずられるようにして転がった。

オレよりも遥かにダメージが大きかったらしい。

 

 

「イリア、大丈夫か! 今助けてやる!」

「陛下、申し訳ありません。私の事は気になさらずお逃げください」

「うるせぇ! ふん縛ってでも連れていくからな!」

 

 

オレの行動を見透かしたように、機鉱兵が魔法攻撃の姿勢に入った。

オレとイリアをまとめて吹き飛ばす気だろう。

オレは見よう見真似で魔法防壁を張った。

頼りなく、そして歪(いびつ)な壁。

これがオレたちの最後の生命線だった。

イリアも震える手を伸ばして魔力を送ってくれるが、果たしてこれで凌げるのか。

 

 

機鉱兵の腕には十分な程の力が集まりかけている。

間もなく無情に放たれるだろう。

どうやらオレの作戦は失敗に終わったようだ。

 

 

「陛下。短い間でしたが、お仕えできて幸せでした。魂だけになってもお側に居ります」

「あと一歩、いや半歩だな。魔人のやつらに平穏な暮らしを与えてやりたかった……」

 

 

暴力的な光が集約を終えた。

眩い光の波動がオレたちの元へ。

 

 

 

向かうことなく、光は暴走して鋼鉄の両腕を吹き飛ばした。

腕は肩の部分からダラリと下がり、両足は砕けたように崩れ、バランスを保てなくなり、巨大な鉄の塊は地に伏した。

 

 

「これは、いったい……?」

「そうか、ようやくか。やっとオレの『毒』が効いたようだな!」

「陛下、毒とは何を指しているのでしょう?」

「そうか、お前にはまだ細かく話してなかったな。これだよ」

 

 

オレは腰の袋から取り出した。

魔力が空になった使用済みの魔緑石だ。

 

「攻撃の最中にコイツを大量に放り込んだ。関節部分に重点的にな」


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