チート転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった   作:おもちさん

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第32話  明け方のメッセージ

とうとう町の人口が100人超えたぞー!

おめでとう、オレたち!

 

ジジイ1人しか居なかった廃墟がよくぞここまで再生出来たもんだ。

その日の夜はちょっとだけお祝いムードだった。

特に魔人からすると嬉しくて仕方がないんだろう。

故郷を破壊されて以来、迫害も受ける日々だったもんな、無理もないか。

 

「何か欲しいものはありますか?」とその時に聞かれたよ。

ここまで導いてくれたオレに恩返しだってさ。

だからオレは即答したね。

 

 

ーー豪邸、と。

 

 

今住んでる家はかなり手狭だ。

1人で住むには十分なんだが、何故か5人暮らしなのだ。

さらに言えばベッドも狭苦しい。

そこそこ寝相の悪い4人が毎晩乗り込んでくるので、家主のオレが一番辛い思いを強いられていた。

 

だから広い家を希望した。

ついでにでかいベッドも。

「すぐに出来たら嬉しいなぁ」なんて言ってしまったせいだろうか。

ほんとにすぐ建ったよ、半日足らずで。

 

完成した家は町の中心付近にあり、広さも3軒分ほどある。

内見しようと思って中に入ると、新築特有の匂いがした。

木の香り好き、最高。

 

中にはイリアが直立でオレを待っていて、目が合うなり深々と頭を下げた。

その頭をポンポンと叩き、頑張りを労ってやった……つもりだ。

 

うん、内装もシンプルながら機能美が備わっているな。

実を言うと、派手な装飾ってのはあまり好きじゃない。

特に生活空間の中にあるものは。

見ていて疲れるし、うっとおしくなる。

だからこの家はオレ好みと言える、でかしたぞ。

 

 

オレは早速荷物を運びいれた。

国王とは思えないほど運送量が少なく、往復する必要なく完了した。

 

さて、新しい家の中で、新品のベッドに埋もれる感覚はどんなもんかな?

憧れの「大」の字になって眠れたりするんだろうか。

楽しみだ、マジで。

 

 

ーー翌朝。

オレは「よく伸びたツクシ」のような形で目が覚めた。

クソッ なんでだ?!

前よりずっと広いベッドなのに……。

周りを見てみると、その理由がはっきりした。

 

ベッドの右上付近にはアイリスが寝ていて「く」の字になっている。

まぁ、これくらいはいいだろう。

体が小さいからそこまで邪魔になってないし。

問題は逆側か。

 

左上はレイラで「つ」の字だった。

本当におまえは寝相悪いな!

場所取りすぎだぞ、オイ。

 

左下はシスティアで「し」の字だ。

両手を挙げたまま体が反った状態になっている。

割と辛い姿勢なのか、苦悶の表情を浮かべている。

だったら早く起きろって。

 

右下はイリアなんだが「よ」の字だった。

これは形容表現ではなく、かなり正確な「よ」をかたどっている。

お前は寝てても完璧なのかよ。

本来の美しい寝姿からはほど遠いが、脱帽ものだぞ。

 

 

改めて全体を見るとなんたるカオス。

このど真ん中でオレは寝てたのか。

そりゃツクシのような形にもなるわな。

 

喉が乾いたから井戸へと向かった。

東の空は赤みが差していて、「今日」が始まることを報せていた。

オレの一日は、これよりずっと後に始まるんだがな。

薄く雲がかかった朝焼けを眺めていると、空からフワリ、フワリと光のツブが舞い降りてきた。

随分と久しぶりの連絡だが、なぜだろう。

今までは感じなかった胸騒ぎがする。

いつもと同じように胸元で光って消えるんだが、焦れているオレには妙に遅く感じられた。

 

ーー助けて、タクミ。言えた義理じゃないけど……このままじゃ消えちゃうよ。

 

なんだ、このメッセージは。

『助けて』はまだ良いにしても『消える』ってどういう事だよ?

 

『おい、何があったんだ。説明しろ』

 

ーー人間がまた私の力を奪い始めた。今までの比較にならないくらい、凄い量だよ。どうか、止めて。これ以上石を、止めて。

 

『石ってなんだよ。もう少し詳しく話せって』

 

それ以来返事はなかった。

いつもの無視とは違う、これは緊急事態なのだろう。

ひとまずはドンガかリョーガに相談しよう。

何らかの情報が手に入るかもしれない。

 

 

この時のオレはまだ気づかない。

人間の持つ底力を、技術力とその脅威(きょうい)を。

ヤツらを見くびっていたつもりは無いが、対策は何一つ講じていなかった。

油断していたと言うしかない。

 

「東の丘に敵影! 鋼鉄の兵です!」

 

この報告を切っ掛けに始まった戦いは、かつて無いほどの死闘となるのであった。

 

 


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