チート転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった   作:おもちさん

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第27話  失言は死を誘う

私は最前列を機鉱兵に守らせながら、魔人どもの動向を見定めていた。

連中から仕掛ける気は無いらしく、壁の近くに10人にも満たない数の敵が立っているだけだ。

偵察者の報せでは20人程度しか居ないと聞いているが、油断はできない。

あの壁の向こうに敵兵が伏せられている事も有りうるのだ。

 

 

「ハッハッハ! なんだよありゃあ。ボロ家にチビた壁、兵は居らずジジイと女子供が前線に居るぜ!」

「何が魔人王だ、浮浪者の集まりじゃねぇか!」

 

 

兵士どもから笑い声が聞こえだした。

恐怖に駆られても困るが、侮るのもよくない。

気を引き締め直さないと。

 

 

「全軍、三列縦隊だ! 機鉱兵を先頭にして進み、魔人どもを駆逐せよ!」

 

 

可能な限り厳しい声を出したのだが、あまり効果が見られない。

動きは重く、隊列も正規兵とは思えない程緩い。

凄惨な噂話と、眼前の光景のギャップに気が抜けてしまったのかもしれない。

それでも3体もの機鉱兵が居るのだ。

負ける心配をするだけ無駄だと、自分に言い聞かせた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

敵は三隊に分かれて攻めてくるようだ。

例の鉄塊の後ろに歩兵が続いている。

あれだけの巨体のくせに意外と動けるようで、駆け足くらいの早さが出ていた。

よほどの重量なんだろうか、地震のような地響きが止まらない。

確かに脅威的な強さと言えそうだ。

 

敵の構えは右左翼と中央による一斉攻撃か。

根拠は特に無いが、相手の指揮官は初心者だなと感じた。

大した駆け引きもせずに全軍突撃なんてバカのやる事だ。

仮に勝ちを確信していたとしても、だ。

 

 

「イリアとレイラは右のデカブツをやれ。」

「わかったわ。まずあのでっかいのを倒すのね?」

「機鉱兵さえやれば戦意もなくなる。手早く片付けろ。イリアが撹乱、レイラが魔法で攻撃だ」

「はい、ただ今」

 

気合い十分のようで意気揚々と駆け出す二人。

オレはその背中を見送りながら考えていた。

なんで二人ともスカートをはいてるんだろう、と。

 

 

「真ん中はリョーガが行け。オレは左に当たる」

「スイマセン! わ、私は怖くて……恐ろしくて……!」

 

 

あ、そうだ。

コイツは人見知りと言うかシャイボーイと言うか、気が弱いんだった。

今も青ざめて縮こまったヒグマの様にしている。

なんとか奮起させなくては使い物にならない。

 

 

「お前はいいのか? あいつらにあんな暴言を吐かせたままで」

「スイマセン。笑い声は聞こえたんですが、内容までは……」

 

 

聞こえてないのはオレも一緒だっての。

でもここは作り話でもして、ピクニック感覚で攻めてきた敵兵をリョーガに蹴散らしてもらおう。

 

 

「あいつら『あんなおっかねぇ顔してるヤツ初めて見た』とか言って笑ってたぞ」

「……は?」

 

 

いいぞいいぞ、食いついてきた。

リョーガはキレる前に左のこめかみをクイッと上げる癖がある。

今はピクついてる程度だからもうひと押しだな。

 

 

「あの顔で壁に隠れる臆病者とも……」

「顔は関係ないでしょうがーっ! 許さん!」

 

 

放たれた矢のように飛び出したリョーガはあっという間にレイラたちを追い抜き、大きく跳躍した。

いや、跳躍というより滑空に近いな。

一体どれ程のスピードが出ているんだか。

 

 

そして落下の加速を利用した重い右が機鉱兵に炸裂。

一瞬で鉄塊は地中に沈み、そして巨大な地割れを引き起こし、中央の歩兵もそれに巻き込まれた。

 

「人の顔を笑う愚かさを噛み締めながら死ぬが良い!」

「コイツは何を言ってるんだ?!」

「ば、化け物だぁー!」

「まだ言うか貴様らぁーー!!」

 

 

縦横無尽。

一騎当千。

そんな言葉が安っぽく聞こえるほどの暴れっぷりだな。

さすがは【三指の力】を持った怪物。

魔人王たるオレですら寒気を感じる程だ。

 

 

一体目を沈めた瞬間に戦の勝敗は決まったようなものだった。

勝ち戦と踏んでいた士気の低い兵に、未熟な指揮官に戦線を支える気概など無かった。

まともなぶつかり合いをする前に撤退し、その背中をリョーガの拳で散々に討たれた。

 

さすがに憐れに感じたが、これは歴とした独立戦争だ。

相手が諦める日まで『ヒグマの怪物』には頑張ってもらおうか。


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