チート転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった   作:おもちさん

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第24話  年寄りの話は長い

「鋼鉄の兵士?」

 

 

ドンガがオレの作業場まで足を運びに来たから、緑色の石コロの事を聞いたんだが、返って来た言葉がそれだった。

爺さんは建材に腰をかけ、積み上がった石材に肘をかけ頬杖をついている。

あのさ、オレ王様なんだよ、その態度はなんなのかと。

無礼打ちするぞ?

 

 

「そうじゃ。忌まわしくも凶悪なニンゲンどもの兵器のひとつじゃ。他にも魔法筒なんてのもあったかの」

「それも気になるが、鋼鉄の兵ってなんだよ」

「文字通り、巨大な鋼鉄の箱のようなものが動くんじゃよ。フルプレートなんてメじゃない。金属の塊が動き回って暴れまわる恐るべき発明じゃ」

「じゃあここが破壊されたのも?」

「そうさのう、街を破壊したのは筒。人民を殺戮し尽くしたのは鋼鉄の兵……じゃろうな」

 

 

爺さんはつぶやくように語ると、腰から皮袋を取り出した。

中身は水でも入っているのか、喉を鳴らしながら呷った。

大げさな動きで気持ちを誤魔化すかのように。

 

 

「先代が崩御されてより300余年、玉座を燃やされてもなお、市街地に立て籠もっては撃退し続けたんじゃ。いつか戻られる、我らの王の為にのう」

「ちょっと待て、気になってたんだ。そんな長い間ここを死守できてたのか?」

「まさしく。成人であればニンゲンなどに遅れは取らん。壁に隠れ、野に伏せ山を駆け、散々に手こずらせたわ。だが、ヤツらは決して諦めず執拗に攻め続けた。このアシュレリタを地図から消したくて仕方が無かったようじゃ」

 

 

かつて栄耀栄華を極めた魔人の都『アシュレリタ』

今は見る影もなく、10棟程度の建物と井戸があるくらいで、開拓村と呼ぶに相応しいレベルだった。

空を見上げてみれば視界を遮るものはなく、晴天の空が一面に広がった。

悠々と滞空するトンビがヒョロロと鳴き声をあげているが、それは祝福か侮蔑なのか。

 

 

「それで魔緑石についてじゃったな。自然界の魔力を秘めた石であり、鋼鉄の兵の動力源にもなっておった。天然物でも十分に力を発揮するが、天や地の加護を受けた石は比較にならない程になる」

「詳しいな。どうやってその情報を得たんが?」

「ワシが調べたからじゃよ。倒した兵の残骸からの。勇敢な魔人の勇者たちが鋼鉄の兵を5体全て殲滅したんじゃ。その命と引き換えにな。主戦力を欠いてしまったワシらは、結局ここを守りきれなかった」

「ふぅん。さすが発明家だな。そんなことまで調べられるのか」

「よしてくれ。只の偏屈ジジイじゃ。もう少し腕があればたくさんの命を救えたんじゃが、ワシの力量では足りんかった」

 

 

記憶の断片をつなげると、オレが魔人王を殺してしまったハズだ。

たぶん、人間や女神に唆(そそのか)されたからだろう。

きっとロクに考えもしないで突っ走ったんだろうな。

記憶の中のオレは主人公気取りというか、ガチガチの正義感を持ってそうだったし。

つまりはこの種族の苦難は、オレのせいでもある訳だ。

罪悪感が無い事も無いが、数百年も前に過ぎた事はどうしようもない。

 

 

「話が長くなった。ワシは研究所跡に戻るよ。若い連中を頼むぞ。廃墟が故郷では不憫で敵わん」

「なぁ、ジイさん。アイリスたちは幸せだと思うか?」

「それは本人に聞いとくれ。ワシが答えることではないわ」

 

 

腰をひと撫でしてからドンガは去っていった。

背中越しにどんな表情をしているのだろう。

それを確認する気までは起きなかった。

 

作業もほどほどにして家に戻ると、アイリスとシスティアが待っていた。

 

 

「あ、お帰りなさいー、今日は早いんですねー」

「タクミ様! 今日はモリトカゲのスープにウサギ肉ですよ、スープはイリア姉様に教えてもらった逸品です!」

「おうただいま。ポンコツメイドは作業中か」

「ええと、姉様はお仕事中ですね。股割りをしながら塩の精製をしてましたけど、あれには深い意味があるんですか?」

「ない。思い付きだ」

 

 

本当に意味は無かった。

作業に大きな負荷をかけないと直ぐに終わらせちまうから、難易度をエクストリームにしてみただけだった。

 

二人はオレの帰宅を待っていてくれたらしく、アイリスは木椀にスープをよそり始めた。

立ち上る湯気に『あちち』なんて言いながら、愉快そうに。

見たところ、不幸そうには見えないな。

 

システィアも舌なめずりをしながら焼いた肉に塩を振りかけていた。

絶妙な加減があるのか、真剣な表情で丁寧に調節をしている。

肉くらいでこの顔をするなら、コイツは不幸と考えてないだろう。

 

 

「なぁ、アイリス。お前は幸せか?」

 

 

ポツリと呟いたオレを向いて、ビタリと二人が固まる。

オタマからはスープがダダ漏れ、肉には延々塩が溢れていった。

おまえら、手! 手元にも気をつけろよ。

 

 

「えぇー、タクミさんがそんな事言うなんて何かあったんですかー? お金積んでもそんな事言いそうにないのにー!」

「うっせ! うっせ! ちょっと気になっただけだっつの!」

「タクミ様。辛い事も寂しい事もありましたけど、今は幸せです! とっても、とっても幸せです!」

「なら良い。なんか希望があれば言え。気が向いたら叶えてやる」

 

 

オレがそう言うと、アイリスは後手にオタマを持ったままモジモジし始めた。

システィアは興奮して握り拳を作り、塩を辺りに撒き散らした。

もう食事の準備なんかすっかり忘れてるだろ?

 

 

「あの、その、ダメだったら全然良いんですけど……。えっと、お姫様抱っことか憧れてて、その……」

「うん? そんなもんがいいのか? ほらよ」

「ひぅぅーっ! すっごいですコレ。ほんともうたまんねっす。もう一生忘れねっす」

「タクミさぁーん? 私もちょっといいですかー? この国の交易の全権とかー」

 

 

オレがアイリスを抱き上げていると、背中からそっとシスティアが抱きついてきた。

口から強欲な要求を零しながら。

もちろん無視、つうか魔人じゃないお前に気を遣う必要ないし。

オレの腕の中で夢の世界に旅立ったアイリス、背中で粘り続けるシスティア。

この奇妙な光景は、レイラとイリアの帰宅まで続く事となった。


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