チート転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった   作:おもちさん

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第23話  泣き虫さんは だぁれ?

あぁー、快適!

やっぱベッドで寝ると全然違うな。

イリアのやつ、マジで全員分をサクッと完成させやがった。

てっきり敷布と枕のセットくらいだと思ってたら、ベッド一式を用意してた。

しかもフレームには龍やら狼やらの細かい意匠が施され、貴族御用達みたいな上等なもん寄こされたぞ。

 

これをものの数日で、しかも大量に仕上げるなんてアホかあいつは。

ぶっ壊れキャラも大概にしろよ。

 

 

「イリア、オレはこれから防壁の建築に入る。お前はそこで足に建材を乗せつつヘッドスピンをキメて、1人で二重奏を口ずさめ」

「はい、ただ今」

「それから、飯時になったらオレを呼べ」

「承りました」

 

 

やっぱり躊躇することなくオレの指示通りに動くイリア。

美しく均整の取れた回転をしつつも建材を落とすことはなく、さらに完璧な旋律を奏でていた。

コイツにあまり活躍させない為の意味なし作業だ。

 

再建作業もイリアに頼めばあっという間に片付いてしまうだろう。

それをしないのはコイツだけがスポットライトを浴びるのがムカつくからだ。

この建設作業も危うく奪われそうになったしな、だから連日のように無駄な作業を振っている訳だ。

 

 

「タクミー、防衛施設についてなんだけどさー。……えぇ?」

「タクミ様! 今日のお昼についてですが……ウッフ」

「ん? なんだよ黙り込んで。用があるんだろ?」

「え、いや、この人何してんのよ?」

「何って、仕事してんだよ」

「こんなアクロバティックな仕事風景って中々無いわよ」

「高難度の作業を苦もなくやってのける姉様、さすがです」

 

 

その間も回転数は衰える事なく、一定の速さを保ちながら回り続けている。

顔はやっぱり笑顔のままだ。

こわっ。

 

 

「アイリス、コイツってなんか弱点ないのか?」

「弱点ですか? うーん、どうだったかなぁ。急にどうされました?」

「完璧すぎてムカつく。弱みを握りたい。あとイジリたい」

「タクミさぁ、もうちょっと本音を隠しなさいよ。ダダ漏れじゃない」

「そういえば、致命的に苦手なものがあったような?」

「お、それそれ。ちょっと教え……」

「キャァァアアーーッ!」

 

 

あん?

何叫んでんだよ、二重奏はどうした?

イリアの方を向くと、完璧メイドが痙攣しながら泡を吹いて倒れていた。

辺りには足に乗せていた建材が散らばっている。

この短い時間で一体何があったっていうんだ。

 

 

「思い出しました。アカスジヘビです。ほら、この子」

「何か白いヘビが居るな」

「目の脇に赤い線が入ってるのが名前の由来ですね。おとなしくて賢い子なんですよ」

「へぇー。こんなヘビいるのね。初めて見たわ」

「グレンシル近辺にしか居ない種類みたいです。先の魔人王様も愛されたとか」

 

 

アイリスに敵意が無い事がわかるのか、撫でられたりしても逃げようとしない。

確かに賢い生き物なのかもしれない。

つう事はこのヘビが弱点か?

 

 

「アイリス、そいつを寄越せ。魔除けに良さそうだ」

「やめておいた方がいいと思いますよ? このあと面倒になりそうですし」

「面倒? どういうことだよ」

「へへへ陛下ぁーー! 悪魔の子が! 悪魔の子がそこにぃー!」

「グフッ 何すんだ、離せ!」

 

 

イリアが横一文字に宙を飛びながらオレにしがみ付いてきた。

ガッチリとオレの首に腕を絡めて離そうとしない。

なんだこの力、尋常じゃねえぞ。

 

 

「お前ふざけんなよ、マジで離れろっつの!」

「陛下ぁー、どうか御慈悲を、御慈悲をぉー!」

「あぁやっぱり。姉様は一度そうなったらテコでも離れませんよ」

「なんだよそれ、いつまでこのままなんだよ?!」

「落ち着くまで、ですけど。半日くらいじゃないです?」

「……半、日?」

 

 

こうしてオレの期間限定の介護暮らしが開幕した。

 

 

ーーお昼。

当然のようにオレに引っ付きながらの食事となった。

耳元でたまに涙ぐむからうっとおしくて敵わん。

オレが苛立ち半分で食事をしていると、イリアは口を広げて待ちの姿勢になっている。

 

 

「陛下、私は今両手が使えません。どうか食べさせてください」

「おう、そうか。焼き殺すぞ」

「お願いします。お腹が膨れないと復調できません」

 

 

足元見やがって、クソが!

そして何でそんなに偉そうなんだよボケ!

仕方なしにトンボを2匹つまんで口にほうりこんでやった。

 

 

「おらよ、ありがたく食え」

「陛下、トンボの羽が胸元に落ちてしまいました。払ってください」

「ふざっけんな。テメエでやれ」

「ダメです! 完璧なメイドたるもの、身だしなみを整える事は初歩中の初歩です!」

「今のお前が完璧を語るな! 生物の基礎条件も満たしてねえじゃねえか!」

「お願いします、胸をパンパンしてください! 斜め30度の鋭角でパンパンしてくださいぃー!」

「角度関係ねえだろ! ちょっと手を離すだけで出来るだろうが!」

 

 

しばらく騒いでたら羽が取れてた。

バカバカしい。

 

 

ーー食後。

オレは防壁の建設作業に戻ったんだが、相変わらず首に余計なもんブラ下げたままだ。

もはや付属品くらいに思っていた方がストレスも少ないかもしれない。

作業を続けていると、石を手に持ったリョーガがやってきた。

 

 

「スイマセン、お仕事中に。珍しい鉱石を見つけたんですが……お取り込み中ですか?」

「大丈夫だ。コイツの事なら巨大なアクセサリーだと思え」

「リョーガ様、私のことはお気になさらず。ただの見目麗しい装飾品ですので」

「黙ってろポンコツ」

「ハイ、気になりますが気にしません。こちらドンガさんに見てもらったんですが」

「なんだその石ころは?」

「ハイ、魔緑石というものだそうです。色々使える特別な石だとか」

 

 

見たところ、ただの緑色の小石にしか見えない。

色も均等ではなく濃淡がはっきりと分かれていた。

疎(まば)らな染まり具合から言って、装飾品やらに向いてる訳ではなさそうだが。

あとでシスティアかドンガに聞いてみるか。

 

 

「陛下、魔緑石でブローチを作りましょう」

「なんだよ、それが何か役立つのか?」

「それを使って私を口説けば、かなりの高ポイントです。女性は大抵光り物に弱いのです」

「そうか。お前には炎龍をプレゼントしてやるよ」

 

 

そんで弾けさせてやるよ、盛大にな。

こんな状況が夕飯後まで半日続いた、本当に勘弁してほしい。

ちなみに翌朝本人に問いただしたら、記憶にございませんと来たもんだ。

便利な脳みそしてんなこの野郎。


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