チート転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった   作:おもちさん

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第16話  甘えたいお年頃

リョーガの暴れっぷりを目の前で見せつけられたせいだろうか。

アイリスがすっかり怯えてしまってる。

自分を虐げてきた人間族の仕業だってのもあるだろうし、インパクトも強烈だったもんな。

それに顔も怖いし……エッフンエフン。

 

あれからというもの、天真爛漫だった少女はちょっと元気がない。

歩く時も休んでる時も、寝る時も目が覚めた時も、ずっとオレの服の裾を掴んでいる。

それを許している間は落ち着くようで問題無いのだが、離そうもんなら大変だ。

途端に泣きそうな顔をして飛びついてくる。

そうなると泣き止むまで頭を撫でてやらねばならない。

いつから保護者になったんだっつの。

 

オレがトイレに出たから離れた時の事なんか、戻った時が大変だった。

アイリスが両手を伸ばしながら、フラリフラリとオレの元に歩いてきた。

さすがに『あんよが上手』をやられるとは想定外だったぞ。

 

 

「タクミ様ぁー、見捨てないでくださいぃー。置いていかないでくださいぃぃー」

「便所だよ! こればっかりはしょうがねえだろ」

「そんな……、それしきの事で私は! 離れ離れになんかなりたくはありません!」

「おい、人の羞恥心越しに謎要求すんな」

 

 

このザマだよ、全く。

万事こんな調子で、オレが居ないと情緒不安定になってしまう。

その代わりというか、そばに居さえすれば落ち着いてくれる。

 

ついさっきもそうだ、地面に座ってるオレの膝の上。

猫のようにゴロンと体ごと甘えてきた。

オレと目が合うとニコッと微笑んでくるんだが。

いや、ニコォじゃなくて。

 

オレってお前らにとって王様なんじゃないの?

ほら、敬意を持って接するべきじゃないのか?

 

まぁ本人はどこ吹く風、都合の悪い話はシレッと流しやがる。

 

 

そしてただでさえ面倒な事態なのに、どっかからやる気を出した空気読めないのが一人。

やっぱりレイラだ。

急接近しているように誤認した阿呆は、空回りという名のアピールをし始めだのだ。

その悲劇は食事どきに起きた。

 

何故か料理が異様に上手いリョーガが用意してくれたスープと、アイリスのオオトンボを食べようとしたんだが。

右にアイリス、左にレイラがオレに寄り添うように座って、二人同時にスプーンをオレに差し出してきた。

 

 

「タクミ、あーんして。飲ませてあげるから」

「タクミ様、私のをお飲みください。こっちの方が美味しいです」

「味ならこっちの方がずっと美味しいわよ、そりゃもう舌が破裂するくらい」

「絶対私の方がずーっと良いです。飲んだらその、骨という骨が溶けます」

 

 

こえーよ、料理に使うキーワードじゃないだろ。

拷問でもする気なのか?

作ったリョーガがすごく寂しそうな雰囲気出してんだろうが。

 

結局、二人がかりで飲まされた。

そして話はそこで終わらない。

飲んだら飲んだで、二人が口を開けて待ちの姿勢になる。

ヒナドリかよ。

 

2本のスプーンを受け取って二人同時に飲ませる。

飲まされる。

飲ませる。

飲まされる。

……アホかと。

 

効率最悪じゃねえか、後半はスープ冷め切ってたぞ。

そんなオレを見てリョーガがポツリ。

 

 

「タクミさんはモテるんですね。羨ましいですなぁ」

「本当にそう思うか?」

「ハイ、正直大変そうだなとも思いますが」

「なんならポジション譲ってやろうか?」

「スイマセン、そればっかりはご勘弁を……」

 

 

またお手本のような拒否だな、傍観してないで助けろっつの。

これがいつまで続くか思うと、別の意味で頭が痛くなる。

こんな精神状態で、打ち捨てられた故郷をアイリスに見せて良いのだろうか。

どれだけ考えても答えが見えてこない。

 

だが、悩んだとしても他に行く宛てはない。

心の暗雲を気にかけながらも、着実に目的地へと歩を進めるのだった。


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