チート転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった   作:おもちさん

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第15話  第2の転生者 リョーガ

ーータクミ、まさかアンタが魔人王だったなんてね。すっかり騙されたわ。

 

女神から久々の連絡が入った。

オレは手頃な棒切れを見つけて地面に返答を書き始めた。

 

『連絡くらい寄越しなさい。母さんも心配している』

 

ーー誰だよアンタ。念の為聞いておくけど、魔人王の力をアタシに返す気ある?

 

『これってお前の力なのか?』

 

ーーどういう原理かはわからないけど、私が持つ【十指の力】のうち2指が魔人王に奪われたの。それを返して欲しいだけ。

 

『どうやって返せばいいんだ?』

 

ーーアンタの魂を封印石っていう石の中に入れる。現地時間で5年くらいかな。それが済んだら解放してあげる、どう?

 

 

この話が本当なら返すべきなんだろうな。

何があったか知らねえが、泥棒みたいなもんだし。

そう思いはしたが、先日の事が頭をよぎった。

幼い嗚咽や涙とともに。

 

「あなたの事をお待ちしておりました、何代も、何代も!」

 

5年かー……。

そんだけアイリスたちを放置したら、ますます危ない思いをするよな。

そもそも魔人王の力を返したら連中を守ったりしてやれないし。

その状態になっても頭痛に襲われたら大変だ。

あの痛みが続くようなら自殺でもしかねんぞ。

オレは決意を固めて書き記した。

 

 

『悪いな、状況から言って返すわけにはいかん』

 

ーーそう、残念ね。アンタのこと嫌いじゃなかったけど、こうなったら仕方ないわ。リョーガ、行きなさい!

 

 

その言葉を合図に、目の前の道が楕円形に輝きだした。

その光は人の足をかたどったかと思うと、腿、胴、腕、肩、頭と、人型の塊となる。

そして眩く閃いて辺りを白く染め上げた。

 

再び視界が戻った頃、既に一人の男が現れた後だった。

筋肉質で無骨な外見は、見た目からして手強そうだ。

側から見たら、オレよりずっと戦い慣れしてるように映るのだろう。

女神からの刺客。

オレは片時も目を離さなかった。

 

 

ーーそいつは転生者のリョーガ。3指の力を持った、ね。2指しか持たないタクミに勝てる?

 

『魔人王とあわせて4指だ』

 

ーー使いこなせてるなら4指だけど、どこまで扱えてるのかしら? さぁ、やっておしまい!

 

 

言われてみればその通りだ。

まだ『炎龍』と『性癖』くらいしか自覚できてる記憶はない。

こんな体勢でどこまでやれるのか。

 

 

……ん?

身じろぎするだけで、かかって来ないんだが。

歴戦の傭兵みたいな顔が眉間にシワを作りつつ、赤くなったり青くなったり。

スキルのせい、とかじゃないよな?

 

 

「おい、お前さ」

「……ヒェ!」

 

 

ズダァン!

 

 

ーーええぇぇ!? 何それー!

 

『なぁ、何もしてないのに倒れたんだが。そういう技か?」

 

ーー知らないわよ! メチャクチャ強そうだから選んだってのに、どういう事よ!

 

 

知らん、オレに言うなよ。

つうか『どういう事』なのかはオレが聞きたい。

 

 

「ねぇタクミ。すごい演出の後に泡吹いて倒れたコイツはなんなの?」

「オレが知ってると思うか?」

「ごめん、知るはずないよね」

「タクミ様、これからどうされますか?」

 

 

どうするったって、うーーん。

どうすりゃいい?

とりあえず話を聞くために木陰で介抱することにした。

念の為武器は預かって。

 

しばらく待っていると、地獄の亡者のような顔が、苦悶の塊のような表情になって目覚めた。

確かに見た目だけなら強そうだ。

 

 

「えっと、女神が寄越してきた転生者で間違いないよな?」

「スイマセン、多分そうだと思います。夢の様な世界で誰かに命令されて、ここへやってきました」 

「白い部屋だったろ、オレも同じ転生者だから知ってる」

「スイマセン、まさか先輩だとは露知らずご無礼を。何分右も左もわかりませんので」

「テンセーシャって何よ?」

「タクミ様がその様な種族であるなら、私もなりたいです。私もテンセーシャにしてください」

 

 

うん、君たちちょっと黙ってて。

今大人の話をしてるから。

転生者について知りたい?

わかったわかった、後でしてやるよ。

 

近いうちに説明するとは言ってない。

 

 

「アンタさぁ、そんな図体して強そうなのに、なんでいきなり倒れちゃったの? すんごい敵が来たのかと思ったわ」

「ハイ、私は争い事が嫌いと言いますか、人が怖いと言いますか、あの時も頭が真っ白でして……」

「へえ、そんな怖い顔してるのに随分と小心者……」

「顔の事は言わないでくださいよぉーっ!」

 

 

怒鳴り声を上げたリョーガが地面を叩くと、大地が大きく揺れた。

地面はひび割れてへこんでしまい、発信源を中心にクレーターのようなものが生み出された。

こいつ、低姿勢のクセにとんでもない力を持ってんじゃねえか。

 

 

「とりあえず落ち着け、レイラは早く謝れ!」

「ごめんなさい! 怒らせる気はなかったの、本当にごめんなさい!」

「はぁ、はぁ、スイマセン。こちらこそ声を荒げたりなんかして」

「いや、大声よりも気にすべきもんがあるけどな」

 

 

とにかく情報が必要だな。

オレは出来立てのクレーターから飛び出して、地面に質問を書き出した。

 

 

『こいつのスキルって何なの? あとコイツ何なの?」

 

返答に迷ったのか、多少のタイムラグの後に答えが返ってきた。

 

ーーそいつのは【超人Ⅳ】よ。単純に筋力や反応速度とか身体能力がとんでもなく増大するスキル。素の筋力や体格は申し分なかったんだけど、志向が致命的だったわね。

 

 

なにそのスキル、すげぇ欲しい。

メモ帳とかハーレムとか送ってないで、そういう使えるヤツを寄越せっつの。

まぁそれも今更な話か。

 

 

ーー今回は失敗したけど、その力はいずれ返してもらうからね! じゃあね!

 

 

そんな捨て台詞を吐いていった。

頑張ってるとこ悪いが、女神に出し抜かれる気がしない。

たぶん詰めが甘いタイプなんだろう。

どっか肝心なところが抜け落ちてんだよな。

 

さて、そうするとリョーガの処遇を決めないと。

敵対しないなら放置してもいいけど、どうしたもんか。

こういうのは本人に聞くに限る。

 

 

「さて、オレたちはこれから魔人の拠点だった所に向かうんだが。お前はこれからどうする?」

「スイマセン、事前知識もなく、この世界の事はサッパリです。先輩に付いていかせてもらいたいです」

「先輩はやめてくれ。オレはタクミっていうんだ」

「スイマセン、名前を知りませんでしたので。邪魔にはならないよう気をつけますので、どうか」

「まぁ、いいだろう。極力感情を昂ぶらせるなよ?」

「ハイ、気をつけます……」

 

 

こうしてまた旅の仲間が加わった。

丁寧仕立ての不発弾と言うべきか、休憩中の活火山と見るべきか。

魔人王、残念魔術師、暴走娘、人間兵器という歪な小集団は動き始めた。

 

かつて魔人王が築いた、魔人たちの聖地と呼ばれる『アシュレリタ』へ。


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