RWBY~俺は死にません~   作:傘花ぐちちく

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あらすじ
おデートですわ


四話街の陰を往け!

 

 

「それではチームRWBY初の偵察任務を皆さんに課します! リーダーはわたしルビー! 情報分析係はワイス!」

「任せなさい」

「偵察係はブレイク!」

「ねぇルビー、こんな事していいのかしら」

「みんな準備万端、それじゃあ……隠れて!」

 

 合図と共にルビー、ワイス、ブレイクの三人全員が、サッと建物の影に身を潜める。視線の先には衝撃貫通型加速(アクセルピアシング)アーマーを身につけたムラクが居た。

 

「うーん、小さくてよく見えないね。ワイスはどう?」

「あの男は目立っていますが、そのせいで周辺のポイントが全て使えなくなりましたもの、遠目ではわたくしにも見えませんわ」

「じゃあブレイクは?」

「……ヤンが来たみたいよ」

 

 風に揺れたブレイクの黒いリボン。彼女の視線の先――双眼鏡の映す景色には二人の男女がよく映っていた。

 

「あら、やる気満々でしたのね?」

「これは……何でもない」

 

 ワイスの言葉にブレイクはサッと双眼鏡を隠す。

 

「移動するみたいだよ、追いかけよう!」

 

◆◆◆

 

 ヴァイタル・フェスティバルを数ヶ月先に待つ街道は、徐々に華やかになっており、ムラクの立つ駅前は最初の波が訪れていた。横断幕が張られ、心なしか人々の顔も明るい。

 

 早朝の街にしてはやけに賑わい、ヴェイルの『安全』が人々にどれ程の恩恵を与えているかがよく分かる。

 

 しかも休みの日で、待ち合わせをするグループが大勢いる中、ムラクは人一倍目立っていた。高い身長は目印としてはこの上なく適した人間で、彼が辺りを見渡せば人もファウナスも関係なくゴチャゴチャと行き交うのがよく分かる。

 

「半分の」「ごめーんおま」「どこにいっ」「おそい」「血の」「運命を占」「いないなぁ」「人が多」「えー、だる」

 

 ムラクの耳に飛び込んでくる雑音は実に様々であったが、彼はある種のトランス状態に入っていた。

 

 そう、デートだ。紛れもなく、誰が何と言おうとデートだ。「ヤンに奢る」という約束、ただのそれだけに一日を潰して付き合う人がいるだろうか? 否、これは脈あり、ラブコメの波動である。と勝手に盛り上がっているのだ。

 

 ムラクは自分の心を奪った相手と出かけられるというだけでテンションが最高潮であり、間違っても腹の音が鳴らないよう、前日にはいつもより多くの泥を頬張った。

 

 そんなことを考えているうちにあっという間に時間が過ぎ、ヤンが時間通りにやってきた。

 

「やっほー、おまたせ」

「おはようヤン。君は今日も綺麗だ」

 

 ヤンの格好はいつもの戦闘服兼私服だった。首にオレンジのスカーフを巻き、妖艶な胸元が見え隠れする茶色のベストから、燃えるハートの意匠が顔を出す。黒いホットパンツとひらひら(・・・・)の付いたベルトから見える太腿は白く輝いている。

 

 両腕には勿論、二重射程(デュアルレンジ)ショットガングローブ【エンバー・セリカ】が付いていた。

 

 当然といえば当然、ハンター見習いとしてではあるが、力を持つ以上は有事に備えるべきである。

 

「はいはい」

 

 ムラクの謝辞を軽く流すと

 

「それじゃあ食べに行こう! 引換券配ってるから早く行かないとね!」

「噂の『パピー・ツリー・スウィー』の限定パフェを食べようとするなら、今の集合時間は遅い……並ぶ必要はもう無いだろう」

「ねぇムラク、それ本当に言ってる?」

 

 怪訝な目で見つめるヤン。人の奢りで食うパフェは最高に甘いだろうが、時間設定が甘ちゃんだと言われたのだ。

 

「間違いない。が、ヴェイルの街に存在するありとあらゆる菓子屋は俺の捕食アイ()からは逃れられないのだ。引換券は既に二枚あった(・・・・・・・)!」

 

 ムラクがオーラで内部の機構を作動させると、ゆっくりと胸の板金が外れる。懐から財布を出すと、赤色の紙を二枚取り出した。

 

「ウッソぉ……それってちょーサイコー! あたしの為にわざわざ並んでくれたの?」

「あぁ、勿論。背中を押してくれたヤンの為だ」

 

 並んだとは言うが、朝の四時から店の前に立っていれば取れるというものだ。

 

 あたかも大変な労力を賭して手に入れたように思えるが、ビーコンに入る前からムラクは金ができればヴェイルの街までダッシュでやって来て、店の前に立っていたのだ。彼は高カロリーな甘い物に昔から目がなかった。

 

 田舎――走って四時間程度――から往復して食べに来る程度には情熱を注いでいた「食」だ。ヤンに聞かれればついついと語ってしまう。

 

 あそこが美味い、アレは夜食に最適だ、紅茶と会うのはあそこの店、イチゴは意外な店が最高等、ムラクが六年掛けて集めた情報網は惜しげもなく披露される。少なくとも、ヤンはここ数年はケーキなどに困らなくなっただろう。

 

 そんなこんなで『パピー・ツリー・スウィー』の中でパフェを堪能する二人だが、行列のある店に並ばれると困る人物がいるのだ。

 

「あのー……何分位したら入れ、ますか?」

 

 しどろもどろに話すのはチームRWBYのリーダールビー。行列の最後尾で聞き込みをしていたが、並べば八十分は待つことを知ると、彼らとは反対側の建物のカフェで待っていたワイスとブレイクに泣きつく。

 

「ワイス~わたしもパフェ食べたかった……」

「その様子ですと、予想以上に混んでいるようですわ」

「二人の様子ならここからでも覗けるわ。でももう食べ切ったみたいね」

 

 ブレイクが双眼鏡を片手に、テーブルに置かれたツナサンドイッチを頬張る。

 

「ちょっと見せてくださる?」今度はワイスが双眼鏡を覗く。

「お姉ちゃんはどんなの食べてたのかな……」

「お黙りなさい、この位で騒ぐなんて……おかわりですって!?」

「ずるい! わたしにも見せて!」

 

 ルビーとワイスがギャーギャー騒いでいる横で、ブレイクは優雅にモーニングを楽しむ。チラリと横目で様子を探れば――ムラクと目が合った。

 

 ムラクが窓側にいてバレやすかった訳ではないが、ブレイクは視線が交差した気がした。カマキリの瞳がいつもこちらを見ている……と言った類の気味さだ。……彼の持つスプーンが妖しく輝いている気もしてきた。

 

 ブレイクの目がぐるぐる(・・・・)してくると、店内の様子を探っていたルビーが叫んだ。

 

「移動するよ! 追いかけよう!」

「いっつもこればかり。もう少しまとも(・・・)なイベントは無いのかしら」

「ワイス、愛する二人を引き裂けないのよ」

「あなた、それ……何の台詞ですの?」

 

◆◆◆

 

「ねぇ、ムラクっていつもその髪型だよね」

 

 ヤンがクリームを掬い取ってぱくりと食べる。頬を緩ませて幸せそうな笑顔を浮かべる。

 

「この三つ編みは……色々あった」

「色々? 毛先も整ってるし、ツヤもボリュームもあるのに?」

「別に整えてるわけじゃない。単純に……アレなだけだ」

「じゃあ触らせて」

 

 ムラクの白い髪の毛の殆どは編まれて後ろに垂れ下がっている。ヤンは堅物、とまではいかないが、バリバリの武闘派が長髪にしていることが珍しいと感じたらしい。

 

「……まぁ、察してくれ」

 

 ムラクが毛束をヤンの方に向けると、彼女の白く柔らかな手がわさわさと白い三つ編みを撫でる。

 

「超奇妙」

「だろうな。君の生来の美しい御髪(みぐし)とは違う」

「何ていうか、鉄みたいな触り心地だけど、もしかして武器?」

「ノーコメントで」

「ゴメン。触れ(・・)ないほうが良かった」

 

 ヤンの微妙なジョーク? で何とか場は保たれた。ムラクが強引に学生らしい話題へ舵を切った。

 

「ああ、そう言えばピーチ教授の課題があったね。何にした?」

「あたしフォーエバー・フォールで樹液を集める課題」

JNPR(ジュニパー)CRDL(カーディナル)が一緒のやつか。俺は多少楽なのだ」

「そっちは文献調査があるじゃん! やっぱり体動かしたほうがイイよ、絶対楽しいし」

 

 他愛もない会話を続けているうちに、二杯目のパフェを頼むムラク。運ばれてきたのはチョコソースとキャラメルがたっぷりと掛けられ、アイスクリームと果物が山盛りになっているものだ。

 

 これ見よがしに食べているつもりは全く無いが、ヤンの視線がムラクに突き刺さる。

 

「……悪い、すぐ食べるよ」

「いや、そういう意味じゃないから」

「おかわりなら遠慮しなくても……」

「それができたら!」

 

 一瞬、ヤンの瞳が紫から赤色に変わった。

 

「苦労しないんだけど?」

 

 甘い物は女の子の大好物だが、その陰には壮絶なシェイプアップと食事制限が立ちはだかっているのだ。

 

 光があれば闇もある。

 

 その一端が見え隠れするヤンは本気で威圧している。

 

 ムラクからしてみれば、大きめの器一杯のスイーツなど少なめ(・・・)だ。七、八キロ走ればすぐに消費できると思ったが、その言葉をグッと飲み込んだ。

 

「ヤンにその必要は無いと思うが……そうだ! チームのメンバーに室内でできるレクリエーションがないか聞かれているんだが、オススメはある?」

「それならいいボードゲームがあるよ、あたしもハマってるやつ」

「ああ、ぜひ買いに行きたいな。この後時間あるかい?」

「いいよ、付き合ってあげる」

 

 虎の尾を踏まずに済んだムラクは何とか話題を変え、ついでにこの後もおデートをする時間を確保したのだ。

 

 ヤンは食べた分を消費する腹積もりだったが、『パピー・ツリー・スウィー』を出たムラクは傍目から見て分かるほど上機嫌で、ヤンばかりを見つめていた。

 

 しかし、あくまでもパフェは余剰(・・)であって、必要(・・)を摂らない理由にはならない。

 

 昼食を取るために公園の屋台でホットドッグを購入すると、二人でベンチに座って食事を楽しむ。勿論お代はムラク持ちだ。

 

 マスタードとケチャップがたっぷりと掛けられたソーセージに齧り付くと、心地よい音が鳴って食欲をそそる。

 

 (うらら)かな日の平和な広場。穏やかな雰囲気が二人の会話を弾ませる。

 

 そんな時間を過ごす彼らの前で、風船を持ったファウナスの幼女が転んでしまう。慌てて母親らしきヒトが駆け寄るが、風船は空高く飛んで行き、幼女がわんわんと泣き出してしまった。

 

 ヤンが泣き出した女の子の声に気付いた時、既にムラクは空高く飛び上がっていた。

 

 右手をギリギリまで伸ばし、その指先で風船の紐の端を掴んで着地する。残念なことに、ホットドッグは衝撃に耐えられなかった。

 

「君の風船だろう? さぁ、どうぞ」

 

 ムラクが落ちたホットドッグを一瞥もせず、ファウナスの幼女に風船を差し出すと、彼女は泣き顔のまま「う」と受け取った。

 

「ありがとうございます……ユリったら、初めて来たヴェイルではしゃいじゃって」側に立つヒトの母親が礼を言う。

「いいえ、お気になさらず」

 

 母娘が去ると、ムラクは地面に散らばった食べかけのホットドッグをゴミ箱に捨てる。

 

(まだ食べられたんだがなぁ)

 

 ヤンの目の前で落下したものを食べたら「や~ん」などと思われてしまうのだろうか、とムラクは馬鹿なことを考えながら彼女の元へ戻る。

 

「悪いヤン、少し席を外していた」

「……なーんか分かった気がする。ムラクがハンターになろうとする理由」

「何と!」

「お人好しでしょ? それも重度の」

「……それは違う。お人好しと言うには(さか)し過ぎる」

「そうは見えないけどね」

 

 ムラクが背もたれに体を預けると、ヤンが目の前に千切ったホットドッグを差し出す。

 

「……これは?」

「あたしからのご褒美。要らない? た・べ・か・け」

「要るともッ!」

「なーんてね、はむ」

 

 ヤンはムラクの答えを聞いた直後に自分の口に運ぶ。ムラクがお預けをくらった犬みたくしょぼんとすれば、ヤンは口の端についたケチャップを舐めとって笑う。

 

「あははは! 超変な顔!」

「も、(もてあそ)ばれた……ッ!? いとも容易く!」

「さ、腹ごしらえも済んだし行こうか! あたしのオススメしかないから、財布の中には気をつけてよ」

 

 ヤンとムラクが公園を出ると、その後ろをルビー達三人が追い掛ける。

 

 ルビーが人数分のドリンクとパンを手渡しているが、ワイスは渡されたものに不満があるようだ。

 

「ワイス、ミルクとアンパンだよ」

「ちょっとルビー、あなた本気でこれを食べるつもりですの?」

「当然当たり前! だって追跡にはこれが定番だもん」

「ルビー! もう少しまともな昼食にするべきと言っているのです! こんな事なら適当な店に入るべきでしたわ」

「目が離せないって言ったのはワイスでしょ!?」

「……静かにするべきよ。今はね」

 

 冷静なブレイクの言葉で二人は押し黙る。思いつきで始めた事だが、そろそろ飽きが来たらしい。

 

「……あの二人、どこまで(・・・・)いくのかしら」

「うん、映画館にでも行ったのかな?」

 

 ブレイクのソレとはやや違う意味でルビーは返事をした。

 

「この前『サウザンド・パピー(千匹の子犬)』って映画が公開されたんだよ! それを見に行ったのかも」

「それあなたの趣味ですの?」

「……絶対に見ないから」

「えぇー……」

 

 三人がそんな話をしていると、ムラクとヤンは小じんまりとした店に入っていく。一見オンボロな店で、ワイスは露骨に顔をしかめた。

 

「大丈夫ですの、これ?」

「た、多分……お姉ちゃんが行く店だし。……あぁ、やっぱり駄目かも」

 

 それから一時間も経つと、大きな袋を三つ手にぶら下げたムラクが出てきた。

 

「あのパッケージ見たことあるよ。ボードゲームだ!」

「……それでルビー、そのボードゲームって()かしら?」

「ワイス、それ(・・)本気で言ってる?」

 

◆◆◆

 

「今日はとても楽しかった。ありがとう、ヤン」

「あたしも結構楽しめたよ、ムラク」

 

 西日が差す頃にビーコン・アカデミーへ戻ったヤンとムラクは、ヴェイルの町並みが一望できる発着場で佇んでいた。

 

 街に注ぐ大河が太陽光を跳ね返し、二人の横顔をオレンジ色に染め上げる。

 

 奇しくもヤンが相談に乗ってくれた時と同じ空であった。

 

「ヤン、言っておきたいことがある」

 

 夕空を眺めるヤンの横顔を、ムラクはまっすぐに見つめる。

 

 風に(なび)くヤンの髪は太陽の光をきらきらと反射して輝き、金色の龍が空を飛ぶように波打っていた。

 

 ムラクはその美しさに息を呑み、目が吸い込まれて離れなかった。

 

「ムラクの気持ちはありがたいけど、あたしはまだそういうことは考えてない。ついでに言えば、まだまだ知らないし」

「違う。俺が言いたいのはそう(・・)じゃない」

「……?」

 

 ヤンは丁度、ムラクが言うかもしれない事を先回りして答えを出したが、彼はそれを否定した。

 

 ヤンがムラクの方を見れば、一直線に見つめる瞳がヤンを貫く。ムラクの鎧が西日を反射して眩いが、ヤンはその強い意志の篭った視線から目が離せなかった。

 

「ヤンが好きだ。偽れない、俺の正直な気持ちだ。だけどヤンは……(うなず)かない、分かっている、だから――」

「――っ!」

 

 ムラクの手がヤンの両手を優しく握り締めると、ヤンは突然のことに息を呑んだ。

 

 ムラクの拳と比べれば幾分か小さくて華奢なヤンであったが、それでも力のある拳だ。振り払おうと思えば振り払えたが、ヤンは何故かそうしたいとは思わなかった。

 

 素直に、誤魔化すこと無く、直球で気持ちをぶつけてくるムラクを拒絶する気にはなれなかった。

 

 ヤンの為に長時間並んだであろうムラク。困っている人を躊躇いなく助けに行くムラク。ヤンの口車に乗ってボードゲームを片っ端から籠に突っ込むムラク。そして、誰よりも裸の心をぶつけてくるムラク。

 

 彼は愚直で、お人好しで、正直であった。

 

 だから、ほんの少しだけ格好良く思えた。

 

「――ヤンを振り向かせる。この全身全霊で」

 

 柄にもなく、ヤンは自分の顔が赤くなっていることに気付いた。太陽が暑いのか、それとも少し息苦しいからか。

 

 ヤンは途端に恥ずかしくなり、ムラクの手を振り払う。受け止めたことのなかった気持ちに、ヤンの心は付いていけなかった。考えがゴチャゴチャとしてまとまらず、本当に自分らしく(・・・・・)なかった。

 

「…………」

「……俺はそろそろ寮に戻るよ。風邪を引かないように気をつけて。夜風は少し寒いから」

「……ムラク!」

 

 立ち去ろうとしたムラクをヤンが呼び止める。

 

 彼の背中に投げ掛けた言葉は、恐ろしい第一歩だ。「好き」という得体の知れない感情をぶつける相手に、答えを返す。いや、ヤンは返さなければならなかった。

 

 ワクワクしているのが心臓から伝わる。初志貫徹、答えは決まっていた。けれども、ムラクは何と返すのか――もっと知りたい。

 

「あたしは、今は応えられない」

 

 保留が「答え」。

 

「だって、まだハンターにすらなってないし、やりたい事も沢山あるし、ワクワクするような冒険もしてみたい! あたしは今その事に夢中で、他のことに気を払えないの」

 

 自分の道、人生がある。

 

「だから……気が向いたら付き合ってあげる」

 

 自由で、縛られない答え。我が儘に我が道を行くヤンの出したものだ。

 

 ムラクからすれば残酷と思えるものだが、ヤンの素直な気持ちが導いた言葉だ。

 

 勿論、ムラクは真っ向から受け止めた。

 

「とてもいい夢じゃないか。……今度、山に登った話をしよう」

「……はい?」

 

(山、ってミストラルの崖の話? でも今この場で言うこと?)

 

「――ヴェイルの自然防壁、あの山脈を越えた話さ」

 

 やや混乱するヤンだが、それは十分に興味が惹かれる話題だった。

 

 冒険の話――グリムがそこら中に居るであろう危険地帯の事を、ヤンは聞いてみたかった。

 

「ムラク、また今度聞かせ――」

「――であれば勝ち取れ!」

 

 声を張ってムラクが叫んだ。その顔には不敵な笑みが浮かび、両手を広げていた。ムラクは分かって(・・・・)いる。

 

 ヤンは楽しいことが好きだ。ワクワクすることやイベントがあれば飛び込むし、危険も恐れない。

 

 それを分かって、ムラクはこの話題を出した。

 

 ヤンが聞きたい話をムラクは持っている。ヤンが聞きたいと思うならムラクをどうにかせねばならず、それはヤンと関わりたいムラクにとっては嬉しい事だ。

 

「じゃあいいや」

 

 ヤンはそんな見え透いた釣り餌に引っかからない。

 

「ならヤンの負けだ」

「はぁ!?」

「挑まれた勝負に背を向けた。故にこの話は君以外に披露しよう」

 

 あまりにも馬鹿馬鹿しい理論だが、今ヤンは物凄くコケにされているのだ。指を咥えて黙っているなど、到底許せなかった。

 

「その言葉、今更泣いて謝ったって許さないからね!」

 

 街の()でヴェイルの情報を扱う『ジュニア』でさえ、ヤンとの力比べには敵わなかった。勿論、ムラクとやり合って負けるつもりなど微塵も無かった。

 

「この拳、こじ開けるには(いささ)か強いぞ!」

「上等ッ! ぶん殴ってゲーゲー吐かせてやるから覚悟しておきな!」

 

 ムラクとヤンはお互いに宣戦布告し合うと、意気揚々と寮に戻っていく。

 

 甘酸っぱい時間が一転して、血気溢れる誓いの口上タイムへと変貌したのだ。

 

 本人達は納得しているが、それはそれは残酷なことだった。

 

「……なにあれ?」ルビーが呟く。

「今日一日追いかけて、結果がアレですの!?」

「……はぁ」

 

 ワイスもブレイクも納得がいかず、事態が飲み込めていない。チームRWBY初のミッションはこうして失敗に終わった。

 

 いや、成功はしたが、澱んだ徒労感をもたらした。

 

 愛の告白が殴り愛に発展したと言うべきなのか。

 

 ところで、ピュラがこの事に大変な興味を持っており、ルビーに土産話を期待しているらしいが、笑い話にしかならなさそうである。

 

 どうなったにせよ、何とも平和な時間である。青春を謳歌する彼らには、戦いが訪れていなかった。

 

 心を持たぬ怪物(グリム)との戦い。それはハンターの最上級の使命であるが、彼らの相手はグリムだけではない。

 

 ハンターは時として、邪悪な心を持つ人とも戦わなければならないのだ。

 

◆◆◆

 

「『悲惨! 家族を襲った魔の手』

 

 XX日午前六時半すぎ、男性から「人が死んでいる、大変だ」と通報があった。ヴェイル市内の居住区の路上に駆けつけた警官はファウナスの幼児の遺体とヒトの女性が倒れているのを発見した。遺体には激しい打撲痕があり、警察は殺人事件として操作している。

 

 同署によると、被害者は同居住区内に暮らす母娘、ラベンダー・ラヴァンドラ(25)とユリ・ラヴァンドラ(3)。いずれも打撲痕があり……」

 

「おいムラク、朝っぱらからなんてものを朗読しているんだ!」ナヴィーが怒鳴り散らす。

「ああ、悪い。少し気になって……」

 

 ムラクは新聞を畳み、山のように盛られた朝食へ手を伸ばす。

 

 できれば気のせいであって欲しいと、不安を噛み殺す様にパンを食いちぎる。

 

 ――犯人の残したメモには「穢れた血に裁きを」と書き込まれており、反ファウナスの団体の犯行であるとして……

 

「まさか、な」

 

 

 







※捕食アイ……節穴アイみたいなやつ
※走って四時間の田舎……大体六十キロ位
※愛する二人を云々……ブレイクってノリはいいんですよね。なんだかんだでふざけている時はふざけるので、それです。読んでる小説から引用したんじゃないんですか(ハナホジー
※ピーチ教授の課題……いくら何でも十二人しか取ってないのはおかしい。つまり何個か課題があるか、単に描写していないかのどちらか。
※母親らしきヒト……ファウナスじゃないということ。ヒト×ファウナスだと半々の割合でどっちかが産まれる……みたいですよ?
※ミルクとアンパン……日本の刑事ドラマの基本。らしい。
※どこまで……恋のABCD、なおいかなかった模様。
※ブレイクさんノリよくない?……あの白い団体が絡まなければ、親しくなった相手とのノリはいいと思いますよ?
※ワイスさんボードゲーム知らない疑惑……ゲームとか知らなさそう。S2でも要領が掴めてなかったし
※個人的考察要素3……山登りは絶対にメジャーじゃない。そもそも山は自然であり、グリムの領域。自然はグリムを寄せ付けないが、居ないというわけではない。ハンター以外は絶対にやらないであろう行為だと思います。つまり一種の冒険。
※ヤンを挑発してどうすんの……押してだめなら引いてみろ(震え声)

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