ヤンに惚れた主人公ムラク!それとコレとは別にしてチーム決めだ!
(よっしゃぁああああ! ヤンと同じクラスだぁああああ!)
ムラクは内心ガッツポーズを決めて大いに喜んだ。
舞踏場に泊まった日、グリンダ女史から所属するクラスとロッカー――なんと空を飛ぶ――が与えられ、新入生は朝起きてすぐに武器を取りに走る。
これから訓練が始まるのだ。と言っても、机に貼り付いてお勉強……ではなく、武器を持ってハンターらしく体を動かすのだ。
ビーコン・アカデミーでの学生生活を四年間共に過ごす「チーム」をその訓練で決めるのではないかと、
しかし、前もってチームになりましょう、と誰彼にアプローチを掛ける様子は散見できた。
誰彼、というのにもある程度の傾向があり、人気なのは当然強い生徒だ。友人間で話し合う人もいるが、特に男は女の子と同じチームになりたがっているのがよく分かった。
しかし、話し掛けられていない人物というのははっきりしていて、特に「彼女」は高嶺の花の様に扱われていた。
「おい、彼女に話しかけに行ってこいよ」「ヤダよ、あのピュラ・ニコスと話せるわけないだろ」誰もがそう思う優等生。
ピュラ・ニコス。
余程頭の悪い間抜けか脳筋でなければ、知らない人はいない有名人だ。赤毛の凛とした長身美人で、新入生の間では既にその名が知れ渡っている。
ビーコン在籍前のサンクタムという学校では主席、ミストラルの地区大会では四年連続優勝を果たし、その高い実力が評価されてシリアルのパッケージにもなった優等生だ。
強さと魅力的な外見が、逆に人を寄せ付けないのだ。
「まさか、僕達のクラスにあのピュラ・ニコスとワイス・シュニーがいるなんてネ……」
キザったらしい仕草でムラクの新しい友人エレファンスが言う。小さな友人ナヴィーは、自分の緑の髪を弄りながら興味なさげに鼻で笑う。
ワイス・シュニー。こちらもまた知らぬ者はいない超有名人。北国アトラスに存在するダストを取り扱う大大大企業のお嬢様で、跡取り娘だ。
逆玉の輿を狙う男は大勢いるが、そんなもの山程見てきたであろうワイスには一切通用しない。ムラクとは違う美しい白い髪に白い肌、それに見合う美貌を兼ね備えた冷たい北風の様な少女で、こちらも同様に人を寄せ付けない。
「逆だろう。俺達があいつらのクラスに居るんだ」
ムラクは謙虚であった。いや、関心がないとも言い換えられる。
あくまでも、ムラクの目標は「ハンターになること」だ。極論、友人と呼んでいる人間との関係を捨てる事だってするだろう。流石にぼっちは辛いので、彼にはできそうもないが。
準備が終わったムラク達はさっさとロッカールームを出るが、途中でヤンとルビーのペアとすれ違う。
二人は何事かを言い合っていたが、ムラクはあまり気にしていなかった。
「ハロー、ルビー。ハロー、ヤン。今日も一段と綺麗だね」
「おはよう、ムラク」ルビーはやや不機嫌そうだ。
「ハロー&ありがと。あっそうだ! 見ず知らずのハンター同士の連携って必要だと思わない?」
ヤンがムラクの胸当て部分をコンコンと叩いて、いたずらっぽい笑みを浮かべる。美少女の上目遣いを喰らった彼の心拍数は一瞬で限界突破し、瞬く間に顔が赤くなる。
このような意味深な質問にも理由はある。ヤンはルビーが自分以外の人とも積極的にチームを組んだほうが良いと考えており、人付き合いの苦手なルビーに自分の殻を破るよう促していたのだ。
そんな事情を知らないムラクだが、ヤンの質問に無言の圧力を感じ取って全力でノッた。
「勿論! 突っ込んでぶん殴る役と近づいて蹴飛ばす役がいればオールオッケー!」
「ほらお姉ちゃん、一人でも大丈夫な人はいるよ!」ムラクの言葉にルビーがノッた。
「はいはい、聞いたあたしがバカだった」
「もう大丈夫な感じ?」
「ありがとう。時間とらせたね」
「ヤンの頼みならいつだって聞くさ。それじゃあまた後で」
ムラクは恥ずかしげもなくそんな事を言うと、ワイスに色目をつかうジョーンと、その間に入ろうとするピュラを横目に、エレファンスとナヴィーに追いつこうと小走りで出ていった。
ジョーンはワイスの側にいたピュラと話しながら、同じチームに入りたいだの何だのと言っていたが、そんな男など山程見てきたワイスの頑強な抵抗にあい敢え無く撃沈。ジョーンの行動には深ーい事情があるのだが、冗談を本気にしてしまっただけなので割愛する。
ついでに言えば、ピュラの事を知らないのはジョーンだけだった。つまり間抜けである。
◆◆◆
クラスに分けられた新入生達はエメラルド・フォレストが一望できる高台――ビーコンクリフに登り、入学の洗礼を受けようとしていた。
彼らは一列になって模様の刻まれたパネルの上に立ち、前に立つオズピン教授とグリンダ女史の言葉を待った。
「これから君たちには、戦士になるた為の訓練を受けてもらう。その為に、このエメラルド・フォレストで実力を測らせてもらう」
オズピン教授の言葉に、生徒の一部は疑問符を頭に浮かべただろう。その訓練と「ジャンプ台」に一体何の関係があるのかと。ついでにチーム分けとの関連性もだ。
「クラスをチームに分けると聞いた人もいるでしょう……」
疑問に答えるようにグリンダが話し出す。
――チームメイトは今日、この場で決まります。
幾らか溜め息や驚きの声が上がるものの、どちらかと言えばそれは少数。皆「あっそう」とでも言わんばかりに構えていた。
オズピン教授は「今後うまくやっていける相手と組む事が重要」だと言っているので、ある程度自分で相手を選び取ることが大事であると示唆していた。
「森に『着地』し、最初に目が合った者同士が四年間の相棒となる」
ムラクには特にこれと言って組みたい相手はいなかった。ヤンに恋心を寄せていると自負してはいたものの、そんな事をすればルビーがあまりにも可哀想ではないか。
結局、ムラクにとっては特定の親しい相手は居ない――エレファンスとナヴィーという新しい友人は彼ら同士で組むようだ――ので、誰でもいいと考えていた。
一応、彼の頭には「RWBY」という作品自体の記憶はあったものの、何かがあってもどうせ解決される筈だと、完全に第二の人生を歩む気が満々であった。
「ペアになった後、森の北部へ向かいなさい。途中でグリムとも出遭うだろうが……倒すのには躊躇しないように、さもなくば死ぬだろう」
突き放すような言葉だが、寧ろグリムを倒せない者はこの場に居ない。ビーコンの求める「水準」をクリアしたからこそ、更なる高みへ至る訓練を受けているのだ。当然の対応だろう。
ジョーンは引きつった笑みを浮かべていたが。
「この訓練はモニターで監視されているが、教師は介入しない。ペアになって北に進めば寺院の廃墟がある。そこにあるレリックをペアで一つ取り、ここに戻ってくること。持ってきた者を見て評価をする」
幸いなことに、ムラクの順番は最初の方だ。一人の時間を伸ばせば少々食事を摂っても大丈夫だろう。
「では、質問は?」
「は、はいせんせ――」
「――よろしい。では構え!」
ジョーンの言葉を食い気味に遮ると、彼以外の全員が一斉に飛ぶ体勢に入る。
「着地って……誰かが降ろしてくれ――」
――ドンッ!
床のパネルが力強く跳ね上がり、上に乗っていた生徒が空高く射出されていく。放物線を描いて森の中へ突入し、それを追うように他の生徒も数秒間隔で飛んでいく。
ムラクもやや低めの軌跡を描いて飛んでいき、ジョーンはどう足掻いても飛んでいってしまう事に気付いてしまった。残念ながら、彼は着地がとても苦手だ。
自分でパラシュートなんて物がある訳もなく、ハンター見習いでもこの程度なら出来て当然である。降りなければならない
「各自、工夫して降りるように」
こうしてジョーンがオズピン教授と話している間にも、次々と生徒は飛んでいく。
ついに隣の隣のヤンが飛び、直後に隣のルビーが飛んでいく。時間切れだ。
「じゃ、じゃあ、どうやって飛んだら――」
――ドンッ!
「いいぃぃぃぃ…………」
オズピン教授は飛んでいった最後の生徒を見送って、手に持ったカップの中身を飲んだ。
◆◆◆
ムラクは落下しながら、腰部に付いた二門のバーニアにベルトの
炎の暴風によって落下の勢いは更に加速していき、緑の海を一筋の閃光が貫いた。
「邪魔、だぁッ!」
ムラクが突き出した鋼鉄の腕は生い茂る太い幹を次々と砕いていき、通り道に一直線の傷跡を残す。
「はぁぁああああッ!」
右腕の腕部のハンマーを引き伸ばし、打撃の瞬間に解放。ナックルガードに包まれた拳が大木を引き裂いて倒し、ムラクはその反動で一回転。脚から地面に飛び込み、凄まじい衝撃と轟音を響かせて着地に成功した。
増加した落下エネルギーをその両足で受け止めたのにもかかわらず、ムラクの甲冑はおろか肉体ですら無傷。よろける素振りすら見せずに姿勢を正す。
「消火よし。敵影無し……今の所は。とっとと誰か探さないとな」
抉れ飛んだ土を払いながら、ムラクは北を目指して森を歩き始める。よく使われているのか、エメラルド・フォレストにはハンターの戦った跡やグリムが暴れた跡が散見できた。
しかし、ここは既にグリムの領域。派手に音を立てれば彼らを引き寄せるのは当たり前のことである。
『グルルゥゥッ……』
「来たぜ、肩慣らしの雑兵共!」
ムラクの周囲を囲むように現れたグリムの群れ。この瞬間、平和な森が
重厚な【ヴ―クゥ・フン】の外殻がムラクの動きに合わせて戦闘体勢をとる。両足を横に広げ、身体は前傾姿勢、両手を前に伸ばすと……
「ハンッ!」
脚部のピストンが作動、両足から計八本のパワージャッキが飛び出して大地を蹴り飛ばし、ムラクの巨体を持ち上げて急発射。
刹那にしてベオウルフの前に躍り出ると、地面を踏み締めて体重を乗せ、丸太のような右腕を振り抜いて顔面に叩きつける。抵抗もなく硬い頭蓋を辺りに撒き散らし、追加で加速するとその勢いのまま背後のグリムを巻き込んだ。
黒煙を散らして消えたグリムの跡を巨体が突っ切ると、同じようにグリムを殴り飛ばし、蹴り飛ばし、反撃する暇も与えずにグリムを塵に返した。
「残りは……一体か」
クマ型グリム、背中に白い棘を生やした巨大なアーサーが低い唸り声を出してムラクに飛び掛かる。歳月を経て比較的老齢した個体であり、そのフィジカルは通常のアーサーとは比べ物にならない。
咆哮と共に襲い来る巨体。グリムが薙ぎ払うように左腕を振りかぶると、ムラクは駆け出す体勢から一歩踏み込み、パワージャッキの衝撃で跳ね上がった右脚で相殺――否、撥ね退ける!
真上に上げた脚を振り下ろして力強く踏み込み、大地を踏みつけ、自分を押し上げる衝撃を仰け反ったグリムのがら空きな胴目掛け叩き込んだ。グリムの身体が跳ね上がり、大きな穴を開けて黒い塵と化した。
「よし、いなくなった」
振動で舞い落ちた木の葉を払うと、今度こそ北の寺院を目指して歩き出した。
藪を払い、木々を潜り抜け、三十分足らずで開けた場所に出た。石で出来た寺院……と言うよりも、石垣がサークル状に積まれた何某かの跡地である。
広場には大きな燭台が二十個並べてあり、その上にレリック――チェスの駒が並べられていた。しかし、既に何個かは持っていかれていたため、選べる駒は多くなかった。
「これは、ちと遅すぎたか」
二人組で持っていくものだしなぁ、とぼやく。仕方がないのでムラクは木の上に寝っ転がって一人でやってくる生徒を待ち続ける。
パラパラと聞こえる銃声や怒号を聞きながら、やってくる二人組の生徒たちを一組、また一組と見送っていると、森の奥からくたびれた足取りで八人の男女がやってくる。
ルビーにヤン、シュニー家令嬢のワイス、黒髪でネコミミに似たリボンをしているブレイク。
ゲロ吐きのジョーン、優等生のピュラ、天真爛漫なノーラに苦労人のレン。
ムラクは見覚えのある顔が――彼が知らない人間はいない、覚えていないだけだ――幾つかあったので、彼らの前に勢い良く飛び出した。
「久しぶりだねヤン! あえて嬉しいよ、つかぬ事を伺うけどどうして森の奥から?」
「レン、グリムだ! 新種かもしれない!」
急に現れたムラクを見て、胸元のハートがキュートなノーラ・ヴァルキリーが、ハンマーを構える。
「ノーラ、彼は恐らく人間です」
緑のエスニック風な着衣を身に着けたライ・レンがノーラをたしなめる。彼は疲れた顔でヤンに目配せをした。
「ムラク、あたし達今さっき
「大型グリムを二体……凄い成果じゃないか! 新入生じゃ一番間違いなしだ。疲れてるところ悪かったね、それじゃあまた後で」
ムラクが元の位置に戻ろうとすると、ジョーンがその背中に声を掛ける。
「やぁ、ムラク。君……相方は?」
「おひさ、ジョーン。実はまだ見つかってない……森での人探しは苦手でね、ずっとここで待ってたんだ」
「おぉう、探しに行かないのかい?」
「迷子は動くなって言うだろう。それに此処にいれば誰かしらは来るさ。……置いてかれてるぞ?」
「ええっ! やばっ、待ってくれよ!」
先に行ってしまった彼らを見て、ジョーンは「グリムに気をつけろよ―!」と残して慌てて駆け出す。待ってくれていたピュラに追いついて、森の中に消えた。
それからムラクはレリックを取りに来た二人組を次々と見送ると、駒が最後の一つになるまで居座り続けた。
そもそも、この実力試験は「ペアになって」、「寺院へ向かう」のだ。決して寺院で相方を待てという内容ではない。
彼の場合は単純に森に対する無意識的な恐れからか、目的地へいち早く向かおうとしただけなのだが、モニターを監視するグリンダからは間違いなく減点されているだろう。
そんな大馬鹿者を迎えに来たのは、ファウナス――獣の特徴が身体に見られる人種――の女の子だった。獣の部分は、茶色い髪から生えた後ろに捩れた渦巻状の角だ。ヤギのそれと似通っている。
彼女はワンドを片手に持ち、キョロキョロと周辺を見渡しながらレリックのある台座の方へ向かっていた。
「ハロォォ~」
「ひゃぁああっ!?」
ファウナスの娘が悲鳴を上げて振り返り、愕然とした様子でムラクを見る。
「二人揃って残念賞だ、仲良くしましょうぜ」
「えっ、なんでこんな場所にいるんですか!?」
「ちょっと寝すぎたかもしれないな」
「……いえ、もう良いです。私、ライムです」
「よろしくライム。俺はムラクだ……黒いポーンしか残ってないな」
ムラクは燭台の上に乗った駒を手に取ると、踵を返してビーコンクリフに向かう。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ~!」
「待つも何も、早く戻らないと」
ライムはイラッときたが、付いていく。
(こんな人が四年も一緒にいる相棒なんて……ビーコンでやっていけるかなぁ?)
不安を抱えるライムだが、ムラクは単に森で迷いたくないだけである。尤も、試験でそれをするというのがアレなのだが。
道を急ぐ彼らの行く手を遮るように、森の陰からグリムが出てきた。
「アーサー! 倒さなきゃ!」
出てきたのは一体のグリム。ライムが武器を構えるよりも疾く、一陣の風となったムラクが穿ち貫いた。
「必要ない。いなくなったからな」
「うそぉ……」
「露払いは任せろ、ただ駆け抜けるのみ!」
「ああ、変なヒトだ……」
ライムはムラクに促されるままに走り、二人一緒にビーコンクリフに戻った。
◆◆◆
試験を終えてメインホールに集められた生徒たちは、オズピン教授とモニターに注目していた。
「――次は、エレファンス・エーラーヴァ、ナヴィー・カルブンク、ムラク・アルヘオカラ、ライム・ボレリオスの四人。彼らは黒のポーンを持ち帰った」
壇上に上がるムラクら四人、モニターに映る四人の顔写真が並び、順番に入れ替わる。
「今日を以って、彼らをチーム『
拍手が起こり、ライムはチームの面々を見渡した。
「はぁぁ……」
落胆は他のチームの発表が続く中も続いていた。
「チーム
「ジョーン……朝にあのピュラと話してた奴か」ナヴィーが関心なさ気に反応した。
「はぁぁぁぁぁぁ……」
まだ続いていた。
「チーム
「君、あの美少女チームに知り合いがいるのかぁい?」エレファンスが髪を撫でる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
長い溜息はチームごとに部屋が割り振られてからも続いた。
「ベッドだ! 新品だぞ!」ムラクが大騒ぎする。
「ガキか……」
「まだ十七歳さ」
「アイアムフラァァ――アアイ!」
――バギィ!
「もうっ! どうしてあなた達はこんなに落ち着きが無いんですかッ!!」
と言えたら何度良いことか。ライムは既にチームLEMNのリーダーとしてやっていけるかどうか、
◆◆◆
見たことのないロビー、見たことのない階段、見たことのない絨毯!
修学旅行や合宿で泊まるホテルに到着したかのような、ワクワク感!
ああ、寮生活がかくも興奮するものとは。
親元を離れ、ビーコンに入学して正解だった。
部屋の中は少し手狭だが、ベッド四つと机四つが入る程度には広かった。防音で、しかも玄関に近い良立地だ。
俺は興奮のあまりベッドに飛び込んで――
「アイアムフラァァ――アアイ!」
――バギィ!
ベッドのどっかが折れた。チーム
何か不安を抱いている、思い詰めている顔だ。俺もよく鏡で見たことがある。ライムはベッドの位置決めでさえ「どうでもいい」と言う始末だ。何か無いと思わない方がおかしい。
因みにベッドは壁際、洗面所のドアの側だ。ライムとは正反対の場所だ。
彼女は男三人の部屋に放り込まれて不満があるのだろう。思えば、チームを発表する時も溜め息ばかり吐いていた。
……放って置けないな。
「ヘイ、ライム」椅子に座って、ベッドで横たわるライムに話しかける。
「……どうしたんですか、ムラク
「君はリーダーなんだ、呼び捨ての方がいい。で、消灯時間まであと二時間あるんだが……トレーニングでもしないか?」
後ろでエレファンスとナヴィーが「正気かい?」とか「筋肉バカ」とか言っているが、無視だ無視。
「……なんでそんなことする必要があるんですか」
「ベッドの場所決めをしてる時、浮かない顔をしていただろ? そういう時は体を動かすが一番だ。……そうだよなぁ?」
後ろの男二人からはブーイングが起こった。
「私……今疲れてるんです」ライムがランプのスイッチに手を伸ばす。
「精神的にか? 男所帯だし、分からない訳でもないな」
「寝ますね」
素っ気なく振る舞って、毛布を被ってしまった。
「強引なアプローチでは、振られるのもムリはないね」
「黙れエレファンス。俺にはヤンという心に決めた女性がいるんだ」
「知り合い風情で何を言う」
「ナヴィー。これから仲良くなればいい」
初日から不安の種があるのは少々先が思いやられるものの、俺は「MUSCLE SOUL」と印刷された
ビーコンはそのような施設が充実しており、無いものは無いと言っても過言ではない。流石にグリムと戦えるような物はないが。
そんなわけで、ベンチプレスをやりに来たのだ。
ビーコンへの入学準備で地元――辺鄙な田舎を離れていたので、マトモに上げていないのだ。あと地元ではウエイトが物理的に足りず負荷にもならない。まぁ俺くらいしか使うのがいなかったからな。で、強引に増やそうとすれば周りが止めに来る始末だ。
正直、オーラ無しのフィジカルは世界で一番だと思っている――化け物染みた身体だ、色々とおかしい――ので、限界を知る意味でも俺には必要だ。
扉を開けて入ると、消灯前だからか人はやはり少ない。三人くらいだ。
これなら邪魔も入らんだろう、とコッソリ――よくよく考えたらコッチのほうが常識人は多そうだ――重りを運ぶ。
が。
「キミ……オーラ込みで訓練するにしても、それはやりすぎだと思うがね」
「そうだよ。さっきからチラチラとこっちを見て、無茶だと分かっているんだろう?」
ナイスマッスルなお兄さん二人が寄ってくる。どうやって説得したもんか。
「大丈夫です。自信がありますから」
「キミ、新入生だろう? 徐々に負荷をあげるべきだ……その筋肉を見れば、理解しているとは思うがね。とはいえやり過ぎだ」
俺がベンチに横たわると、彼らは太い――俺より細い腕をポールの上に置く。身体を心配してくれるのは分かるが、コッチはコッチで限界を知りたい。俺が差し伸べる手はどれほどなのか知りたいのだ。
恨むならこのバグだらけの身体を恨んでくれ。
HAHAHA!
グッと力を込めると、田舎にいた頃よりはいい塩梅で負荷がかかり、六百キロが持ち上がる。
「!?」
「少し軽いですね」
「……オーラ有りなら、まぁこの位は……しかし筋肉を痛めるぞ」
オーラは無いんだなこれが。
まぁ、必要以上に摩擦を起こす必要は無いかな。先輩に気を遣って普通に少し話して帰る。
オーラが無い状態でも大抵の面倒事が解決できるのを確認したので、今日はこれでいいかな。
明日からの授業が楽しみだ。九時から始まる一限は確か……ポート教授のグリム学だったかな。
凄く楽しみだ。
内容の捕捉です。興味ない方はスクロールしてください
あとRWBY見てください
※ビーコンクリフって何?……多分エメラルド・フォレストでルビー達が並んだ場所。(S1E4 The First Step参照)文脈的にそうなのかなーと
なぜなら、校内放送でグリンダ先生が「ビーコンクリフに集合」って言って、オズピン教授も「top of the cliff」(日本語字幕だと「ここに」)って言ってるから。
ようつべの日本語字幕は有志のファンの皆さまが、そのサイコーに気高い志から無償で付けて下さっているものです。この場をお借りして感謝申し上げます!RWBYサイコー!
※ブレイクとかノーラとかレンとか言われても分かりません><……今すぐようつべでRWBYと検索するべし。この話のところまで一時間で見終わるので大した労力ではありません。
※なんで主人公がリーダーじゃないんですか><……Mから始まる色関係の言葉が思いつかなかったから。しかも考えなしに待ちガイル決め込む奴がリーダーに向いているとは思えませんね。彼を放流すれば多分可能性はあったかもしれませんが、目的地がある場合真っ先に目指します。めちゃ迷いましたからね
※若干防人語入ってね?……ハンターの志望動機が守護者になるとかなんとかなので仕方ない。実質防人
※オリキャラ目立ち過ぎでは?……最初は無視しようかとも思ったんですが、整合性的に会話しないわけにもいかなくて……。
※ベンチプレスの話これマジ?……どの程度ヤバイか、を端的に表すための物です。器具ありの世界記録が五百キロ、器具なしが二百とかそこら辺らしいので、六百を何もなしに軽々ってのは「お前だけタンパク質とカルシウムがちげー!」って感じのヤバさ。フィジカルエリートどころじゃない。大胸筋デカすぎィ!あと普通にガイジなので真似しないように
※グリム学……曖昧さを回避するためにあえて一人称視点を利用して煙に巻いた。本当の名前は知らない。