Fate/Abysswalker   作:キサラギ職員

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こうですか? わかりません!


FGO編

 ささいなボタンの掛け違いから、異なる位相へと接続された英霊と呼ばれた人類史に残る偉人や戦士をかりそめの使い魔として呼び出す技術は、その騎士を選び出した。

 あるいは召喚されるのはブリテンを治めた一人の王だったかもしれなかったが。

 呼ばれたのは誰だったか。

 自らに王たる器がないと一人悟り選定をやり直そうとした愚か者か。

 王たる才があると後の世にその器を語られた主と民のために全てを犠牲した愚か者か。

 

 王とは果たしてなんであろうか。

 ある者はそれを生来の器だと言い、ある者は定められた運命(fate)だと言う。

 ただ人の世を統べる者の名であるのなら、それでも足りるのだろうが。

 

 全てを手に入れた人の王は尚も餓え、渇望し、しかし、王ではなかったのだと言う。

 

 

 

 

 

 事態は逼迫していた。

 人類は果たして瞬間的に絶滅するものだろうか。仮に核戦争が起こったとしても、人類の一部はほぼ必ず生き残る。抑止力が働こうが、黙っていようが、核シェルターやあるいは安全圏を作り出し、いつか再生を果たす。その人類のしぶとさはある意味ウィルスじみており、ゆえに人類以上の怪物は存在しないのだとも言える。

 その未来を“観測できなくなった”ことが全ての始まりだった。

 あるものはこういうことだろう。

 然り。その先にある霧を見通すことはできない。闇の時代の先の、更に先は、もはや観測不能であると。

 あるいは、その時代の先に待ち受けるのは真に偉大な(ふる)い怪物が世界の理の力(ソウル)を司る時代かもしれない。

 その世界は、もう終わっていた。いつか太陽は燃え尽きると言われている。宇宙さえ、永劫の彼方に終わるように。既に終わることが確定しているその世界に比べ、もうひとつの世界には希望があった。観測可能な未来がまだ残されていたのだから。

 そのあるべき文明の光が疑似地球環境モデル・カルデアスすなわち地球のコピーから完全に消えうせてしまった。徐々に減少するならば、目標を絞ることはできる。疫病か。戦争か。外部からの介入か。資源枯渇か。しかし、ある地点で唐突に消えてなくなるなど、ありえない事象だった。

 ―――不確定要素(イレギュラー)が介在している。国連は、魔術師たちは、イレギュラー要素の排除を望んでいた。

 

 2015年。近未来観測レンズ「シバ」によって人類は2017年に滅ぶことが確定された。同時に、歴史上に観測を拒む地点が存在していることも、確認された。

 究明しなくてはならない。人類の滅亡を阻止しなくてはならない。

 魔術師から有望な38人が、才能のある一般人からの10人が、霊子ダイブ適合者として選出された。

 説明会が行われた。別の時代へと存在を情報化し送り込む言うならば擬似的なタイムスリップを行い、観測のできない特異点の究明を行おうとした。事故が起こった。当初それは単なる爆発事故であると思われた。人為的なものであると人理継続保障機関フィニス・カルデアの面々が気がついたのは、ある意味取り返しのつかないダメージを負った後であった。

 そうして場面は特異点F 炎上汚染都市 冬木へと移る。

 

 

 

 

 

 例え、サーヴァントと呼ばれる卓越した叡智の持ち主や至高の戦士の力が肉体に宿ったからといって、精神が伴わなければただの硬い壁にしかならない。

 無尽蔵に襲い掛かってくる骸骨の群れ相手に、新人マスターと新人のデミ・サーヴァントと、戦闘に関しては素人と切って捨てるほかにない評価の魔術師では荷が重かった。

 

 『こうなってはやむを得ません所長。新しいサーヴァントを呼ぶしかありません!』

 

 Dr.ロマンことロマニ・アーキマンの提案を瞬時に跳ね除けるものがいた。

 

 「無茶よ!」

 

 カルデアの責任者ことオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアが声が裏返るのにも構わず大声を張り上げた。オルガマリーという人間は承認欲求こと高くとも、自己評価を正しく付けることのできる人間だった。自分は優秀であることはわかっていても、戦闘に関しては素人であるということも。素人マスターに素人デミ・サーヴァントそして自分。どう間違っても生き残れる組み合わせではない。第三者の応援を呼ぶというのは正しい。しかし、召喚にかかる時間をどう捻出するというのだ。

 

 『一分……あるいは数分かもしれませんが、時間さえ稼げば呼ぶことができます! 足元の霊脈にマシュの盾を置いて触媒として、召喚サークルを形成すれば……』

 「ああもう! こんなときにレフがいてくれれば……! ………わかりました。私も栄誉ある魔術師の端くれ。マシュ、あなたを先頭に突撃して時間を稼ぐわよ」

 「所長……!」

 「ほ、ほ、ほかに選択肢はな、ないわ!」

 

 胸を張り宣言してみせるオルガマリーにマシュらが目を輝かせる。その足ががたがた震えていなければよかったのだが。ついでに恐怖の余り声が震えまくっていなければよかったのだが。

 

 「所長、本当に大丈夫なんですか? 大丈夫には見えないんですけど」

 

 素人マスターこと藤丸 立香が疑問符を挟むや否や、オルガマリーがそっぽを向いた。

 

 「ば……早く行けッ!! 駆け足! いっけええ!!」

 「は、はひいっ! 所長痛いです!」

 「こんくらい痛くもないでしょうがあ!!」

 

 オルガマリーがデミ・サーヴァントの肉体の耐久性を知ってか知らずかその尻を蹴っ飛ばした。凸凹コンビが時間を稼ぐべく走り出した。半ばやけくそだった。

 燃え盛る冬木の土地の中、召喚が始まった。

 召喚陣が展開し、聖晶石の力を受けて盾が神々しく輝く。カルデアの英霊召喚システム・フェイトが起動した。

 

 「早く……早く!」

 

 立香の焦りを知ってか知らずか、光は一向に安定しなかった。柱のような形状になったかと思えば、火炎を彷彿とさせる揺らぎに変わる。

 

 「まだなのか!!」

 『まだ……かかるみたいだ……!』

 

 ロマンの声に表情が歪む。戦闘の音に混じって、足音がどんどんと接近してきていた。

 群れ。群れ。群れ。骸骨に混じり、いびつに変形した人のような物体もいた。異様に伸びた腕、膨れ上がった頭、ただれた皮膚。骸骨は単に武器を握った敵だったが、それは、人のようで人ではない何かのなれの果てのようだった。

 

 「あ………」

 

 ロマンが何かを叫んでいる。逃げろ、とか、危ない、とか、そんな言葉だろう。

 所長とマシュは間に合わない。そもそも完全に包囲されているのだ、もはや逃げる場所もなく。

 素人マスターで魔術師としては素人同然。相手は異形の怪物。立ち向かったところで殺されるだけ。けれど、可能性があるならばやらねばならない。拳を固める。人類ではありえない速度で戻ってくる我が使い魔の声も聞こえない。全てが引き伸ばされた時間。これが走馬灯かと、けれど目は閉じなかった。

 敵が、戦列ごと、紙切れのようになぎ払われた。

 栄華の片鱗を宿した無骨な大剣が空間を薙ぐ。

 

 「―――――シフ、行けッ! 狩りを始めるぞ!」

 『―――――――――!!』

 

 遠吠えが鳴り響いた。規格外の特大剣を咥えた大狼が、金色の瞳の残像のみを宙に描き出しながら疾駆する。骸骨がなぎ払われ、異形が血の塊となって散る。

 

 「狼!? 所長、狼さんが剣を持っています!」

 「ええいくっつくな! 犬………? 狼? いえ、こんな怪物がいたなんて……魔獣……?」

 

 攻撃に夢中になる余り近眼になっていたことに気がついたオルガマリーとマシュが戻ってきてみたものは、蹂躙だった。

 召喚サークルのあるベースキャンプの外周を、尋常ではない体躯を誇る狼が円を描くように駆け回っては剣を振るっている。横薙ぎ、突き、後方斬り下がり。つかみどころの無い激しい剣戟を、あろうことか人ではない怪物が振るっているという不思議。

 丁度、マスターたる立香を守るようにして一人の騎士が立っていた。担いだ剣を振るうだけで宙が揺れ、火の粉が乱流に渦を巻く。一太刀で数体を粉々とし、シールドバッシュで反撃さえ許さず虚空に返す。敵がまとまっているのを見るや否や、けだものじみた声を上げて五体を投げやって力技で粉砕する。

 その一対のサーヴァントが戦闘をやめたのは、敵が全て消滅したからだった。

 銀の無骨な鎧に青い布と房の飾りをした騎士は、他の者、マスターさえいないかのように、本当に嬉しそうに表情を綻ばせて大狼の鼻っ面に抱きついた。

 

 「久しいな朋友(とも)よ、遥かな時の果て、地の果て、そしてこの我らが世ではない土地にまででも、共に戦えることを嬉しく思う」

 

 狼は何も言わず、騎士の顔を見つめていたが、顔を離して、ぺろりと舐めあげた。その反動で兜がずれて、青布の奥の美麗な顔立ちが露になった。

 金糸を後頭部で纏め上げた年若い乙女。年齢はマシュよりも高く、オルガマリーよりも若いだろうか。ほっそりとした頬の輪郭線はしかし、身にまとう鎧の物々しい造形とは相反するものだ。

 騎士はここでようやく周囲に目をやり、そして己のマスターを認めた。剣を地に置き頭を垂れる。

 

 「自己紹介が遅れた。私はグウィン配下、四騎士が一人。アルトリアである。ここに契約は完了した。この身はそなたの剣となり、盾となる」

 

 盾の部分で約一名不満足そうに頬を膨らませていたとか、いないとか。

 

 「あわわわわわわわ」

 

 大狼が何かを察知してオルガマリーのポケットの匂いを延々と嗅いでいるせいで一向に話が進まなくなったとか。

 場面は、また別の場所へと移る。


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