Fate/Abysswalker   作:キサラギ職員

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あったよつるはしが!(聖杯戦争島)


同盟

 弓兵は一人屋根の上に佇み弓を片手に見張りをしていた。千里眼とも呼ばれる弓兵特有のスキルは実に数キロメートルを有視界とし、音速を超えて放たれる一撃は針の穴を通すように正確である。見張りとしてこれ以上うってつけのものはなかった。

 

 「………」

 

 戦闘に使う思考と、平常の思考は完全に独立している。仮に呆けていても手は自動的に接近する脅威を打ち落とすことができる。

 正義の味方を目指し人を救い続け、しまいには汚名着せられ絞首刑。世界の守護者として剣を振るう。けれど役割といえば大多数を生かすために少数を殺すという単純極まりない役割だった。それが世界の定めた正義の味方であるならばきっと抱いた理想自体が間違ったいたことになる。人生の根本を否定された男がたどり着いた結論は一つだけ。かつて愚かだった己を抹殺し歴史の改変を祈ること。

 騎士に守られたかつての自分を見たときに抱いた感情は、殺意と、諦めと、驚愕だった。

 あの騎士はなにものか?

 自分の知る聖杯戦争で召還されたのはブリテンの統治者アーサー王であった。真名アルトリア・ペンドラゴン。だがこの世界で召還されているのは、外見こそ瓜二つだが獣染みた剣術を使う青と暗銀の甲冑に身を纏った乙女だったのだ。ならば格好が違えど彼女もまたアルトリア・ペンドラゴンであると考えるのが普通だろうが。

 

 「あれは違う……聖剣であって聖剣ではない」

 

 己のときとは異なる状況に弓兵は咄嗟に騎士の剣を解析していた。

 

 その剣は真の清らかな騎士を選ぶために神により打たれ、

 戦いの中で折られ、

 打ち直され、

 主人と幾たびの戦場を経てなお負けを知らず、

 最期まで共にあり、

 故に■に飲まれ、

 遥かなる後世に遺志を引き継がれた剣だった。

 

 聖剣であって聖剣ではなく、

 魔剣であって魔剣ではなく、

 己の知る約束された勝利の剣と同等の存在骨子をしていながら、異なる次元の同一存在だった。

 ならばその担い手もまた同一でありながら異なる次元の存在であることが容易に想像できた。

 アルトリア・ペンドラゴンであってそうではなく、アーサー王であってそうではない、存在と考えるのが自然か。

 

 あろうことか英霊の身である男が解析をしても、解析しきれない部分があった。直視してはならぬ、と本能が叫んでいた。触れば最後どこまでも落ちていくような、恐怖が剣の歴史にはあった。剣であって剣ではない歴史があったのだ。

 

 「よっと。ふぅむここがいわゆる現代という世界か。聳え立つような岩の塔といい、人の力はやはり侮れない」

 

 独り言なのか誰かに話しかけているのか、屋根の上にもう一人がやってきた。青と暗銀の鎧の主だった。

 

 「待ちたまえ。まだあの小僧と(マスター)の協定が成立したわけではあるまい。私と君との関係は共に肩を並べ敵を迎え撃つ間柄にはない」

 「気を張り過ぎるなよ。我が主(マイロード)のことを小僧呼ばわりすることに対して文句があるわけじゃない。あの娘、根っこの部分がとことん善人だな。やろうと思えばすぐにでも手をかけられるだろうに、懇切丁寧に魔術から始まり聖杯戦争について説明してやっている。魔術師らしかならぬ行動だと思うからに、きっとそのうち協定を結ぼうと言ってくるに違いない」

 

 黒赤の男の隣、丁度視界の隅に映る位置に青銀が腰掛けた。盾は背中に、剣は抜き身のまま手元にあった。

 騎士がほうとため息を吐くと胸を押さえた。とんとんと鎧越しに胸を叩いている。

 患っているかのような行動に弓兵がちらりと視線をやった。

 緊張の余り脈拍があがっているなどとは想像もできなかっただろうが。悲しいかな、騎士は獣相手には饒舌になれるが同属や人相手には極端に無口になるか、まくし立てるだけまくし立てて突然押し黙る系列だった。

 騎士が腰を上げた。

 

 「予想が的中したようだな。協定……共闘戦線というべきかな。これで我々は同志だ」

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 いやな予感はしたのだが、魔術師とは何かというクエンスチョンに対し魔術師って魔術を使う人のことだろ?というクエスチョンマークが返ってきた段階で予想が的中していることが明らかになった。

 魔術師とは万物の始まり(アルファ)であり、終わり(オメガ)である根源と呼ばれる地点への探求者であり、唯一絶対の統一理論を求める数学者のあり方に近い。間違っても魔術を目的遂行の為に行使する人間のことではなく、青年の――まだ少年と表現しても差し支えのない衛宮士郎の認識が下手すれば素人並みであることがわかってしまった。まれにいるのだ、魔術回路を自然発生的にもって生まれる人間が。その偶然に、非常識な誰かが知識を授けたとすれば、そもそも魔術とは何ぞやという初歩すらわからない魔術使いが誕生してしまうことも、宝くじ並みの確率であるが、十分ありうる。

 赤の少女――凛は己の不覚を悟った。

 

 「まさか魔力量が少なすぎて探知にかからないなんてね……」

 

 魔術師は魔術を少なからず発するものだが、士郎の魔力量は素人魔術師よりなお低く、生体が発するそれと大差なかったのだ。冬木の土地における凛の探知網を潜り抜けようとしたのではなく、閾値に達していないから反応しなかった、が正しい。

 一通りの状況を把握したもといさせられた士郎は椅子に深く腰掛け拳を握り締めていた。殺し合い。つまるところそれは正義に反する行為で。自分にできることはないか、何をすればいいかを考えていた。

 

 「衛宮君。あなたには二つの選択肢がある。マスターになった以上、半人前だろうがなかろうが参加者。降りるか、乗るか。降りるならばセイバーとの契約を解除して教会に保護を求めなさい。乗るなら、例え一時的に私と共闘したとしても、セイバーかアーチャーが死ぬまで殺し合うことになる」

 「知ってる。出来れば敵同士にはなりたくない」

 「甘さは身を滅ぼすわよ」

 

 うん、と士郎は言うと真顔で続けた。

 

 「俺、おまえみたいなヤツ好きだ。殺すとか殺されるとか間違ってる」

 「な」

 

 少なからず、無自覚ながら、遠坂凛という人間は衛宮士郎という人間について意識している。だからこその態度対応でもあるのだが、直球過ぎる物言いに頬に朱が差した。

 

 「な……ば、ばかおっしゃい! ド素人魔術師の癖にあんた状況わかってるわけ!?」

 

 凛は被っていた巨大な猫をぶん投げて吼えた。説明のときはまさにお嬢様のものいいだったというのに、唐突に素を出してきて士郎がたじろいだ。

 凛は机の上の茶で唇を湿らすと腕を組み相手を睨み付けた。

 

 「私たちならいいわよ。勝てると言い切れる実力があるからね。でもあんたらの凸凹コンビじゃその辺でアウトよアウト。セイバーは優秀でも魔術師が付け焼刃じゃ無理ね。最初はなんとかなるでしょう。でも息切れするか不意打ちなり食らってアウト。かけてもいいけど生き残れない」

 「わかった。遠坂、俺に魔術を教えてくれ」

 「魔術師に限らないけれど―――この世の中はギブアンドテイク。あなたに何が差し出せるのかしら? 魔術使いさん」

 

 凛が余裕を取り戻した。さあどうだと言わんばかりに小難しい顔をする士郎に手を差し出してみせる。

 士郎が面を上げると手を取った。凛の細い造形の肩が跳ねる。

 

 「つまり提供できるものがあればいいのだな」

 

 唐突に空中に声が出現した。丁度士郎の背後に銀色の鎧を纏ったセイバーがあらわれたのだった。椅子を引き寄せて腰掛ける。

 

 「隠すまでもないのだろうな。魔術師。貴公は優秀なようだから。私は聖杯戦争においてセイバーのクラスで召還されたものである。行けと言われれば行こう。守れと言われたら守ろう。それではだめだろうか」

 「ふーん……私の指示にしたがって戦ってくれると。そういうこと?」

 「うむ」

 「………はあ。これも心の贅肉ね」

 

 なにやら凸凹コンビにはわからない独り言を凛が呟いた。

 

 「わかった。条件を飲んであげる。ただしもう一つだけ確認したいことがある」

 

 凛の鋭利な瞳が騎士を見据えた。

 

 「貴方何者なの?」

 

 騎士は良くぞ聞いてくれたと咳払いをして、それから士郎を見遣った。

 

 「身分、名前、出身を明かすと弱点になりうる。構わないだろうか」

 「ああ。話してくれ。俺もセイバーの名前すらわからないしな」

 

 騎士は机の上で両手を合わせ身を乗り出した。

 

 「我こそは始まりの騎士の血を継ぐもの。大王グウィン配下。四騎士が一人。アルトリアである。後世ではアルトリウス、アーサーとも呼ばれているようだ」

 「ん? ん? ちょっと待って。つまりアーサー王? でも女の子じゃないあなた」

 「はっはっは……私は王という器ではないよ。確かに女性であることは認めるが、なに、逸話が捻じ曲がって伝播するなどよくあることではないだろうか」

 

 凛の眉間に皺が寄る。

 アルトリウス。アーサー。そして騎士。ここまでくればイギリスもといブリテンの守護者として名高いアーサー王以外に他ならないはず。曰くアーサー王は男で、騎士で、エクスカリバーという剣を持っていたそうである。合致するのは名前と、武器くらいなもの。グウィンなる王など聞いたこともないし、まして四騎士などという単語もわからなかった。

 すると騎士は同じように眉間に皺を寄せた。

 

 「並行世界。私の世界においては並行世界、別の時間軸の住民を召還する技術はありふれていた。思うにここは私の世界ではないのかもしれない。あるいは私自身が人類史より遥か以前の文明の出身なのか」

 

 並行世界の運用。それは凛が目指す“魔法”の一つであった。ごく自然に語られる魔法についての話への突っ込みはぐっとこらえ、追求を重ねていく。

 

 「要するに並行世界のアーサー王。その一つの可能性ということかしら」

 「ああ、その答えの方が美しい。もっとも私は王ではないが……説明が下手で申し訳ない」

 「証明できるのかしら」

 

 凛が挑発的な言葉を投げた。すなわち自分自身がアーサー王の一つの可能性であることを示せということだ。裏の意図は同盟関係とはいっても最良にして最優とも呼ばれるセイバークラスの能力を推し量ろうという考えあってのことであるが。

 すると騎士は仕方がないなと言って手元に武器を顕現させた。

 獣のあぎとを思わせる柄。強固な石突。切っ先は鋭く、剣身は人類が扱える限度を超えた分厚さ。かすかに青みを帯びた見事な特大剣が机に置かれた。机の四本足がぎしりと悲鳴を上げる。

 

 「私が生前握っていた武器だ。つまり宝具だな。証明材料として使えると考えている」

 「アーサー王が握っていたとする武器――――」

 

 士郎が剣に手を触れて呟いた。

 

 「エクスカリバー………」

 

 士郎の上半身がばたりと寝た。ふざけているのかと凛がいぶかしむも、セイバーがすぐさま肩に手を置いたことで腰を上げざるを得なかった。

 

 「衛宮君!?」

 「我が主(マイロード)!」

 

 二人分の声が重なった。




人間性を解析するとどうなるの→こうなる

アルトリウスさんのステ妄想
実は火の時代が現代のさらに大昔だったんだよ説になるといろいろとアップする

【ステータス】筋力A 耐久A 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【固有スキル】
神性:D
 神霊適性を持つかどうか。
 はじまりの騎士の眷属であり、神族の一柱と考えることもできる。
 召還先と召還元の神の概念的差によりランクが低い。

無双騎士:A
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 身体的・精神的制約の有無に関わらず常に最良の戦闘能力を発揮できる。

戦闘続行:A
 生還能力。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。


【宝具】 こっから下はうまい感じの文がおもいつかない。ダクソ的な文でごまかす
『灰色の大狼(グレート・グレイ・ウルフ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
アルトリアが数少ない友とした規格外の体躯を誇る大狼。
ランク相応の技量を持つ擬似的なサーヴァントとして運用することができるが、
自らが目上と認めた相手にのみ従う。

『不朽大剣・深淵踏破(エクスカリバー)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
別次元の約束された勝利の剣。
この剣は打ち直され、最期まで主と共にあり、
故に闇に飲まれ、しかし朽ちず後世に狼血の遺志は引き継がれた。
星によるものではない“神”造兵器であり、神聖属性を帯びている。
聖剣であると同時に魔剣であり、特に霊体に対しては常時クリティカルヒットを発揮する。

『暗銀の大盾』
ランク:? 種別:結界宝具 防御対象:1人
別次元における全て遠き理想郷。
この盾を主は友のため自ら手放し、故に闇に飲まれた。
あらゆる攻撃や異常に対する守りの要であり、特に闇に対する加護を強く宿している。
盾としての機能を放棄することで物理・魔術結界を展開可能。

ランク:? 種別:? 対象:1人
深淵の契約
セイバークラスを棄却。
擬似的なバーサーカークラスとなり、理性と引き換えに大幅な能力上昇と、“渡航”の能力を得る。
ただしセイバーがこの宝具を嫌悪しており通常使うことはできない。

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