Fate/Abysswalker   作:キサラギ職員

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なんとなく続いた


死闘

 主君というものは、どっしりと構えているものだ。太陽が不動なように。

 

 騎士が言った。

 

 それは流星群だった。真紅の流星群が大気中に無数に放たれていた。人類の限界の先へと到達した異次元の攻撃は一見不規則にばらまかれていたが、人体の構造上距離感を掴みにくい額から始まり首心臓肝臓股間膝とかするだけで致命傷となりうる箇所を狙い済ましていた。

 冷兵器は射程がものを言うのだという。すなわち攻撃とはリスクを負わずして敵を抹殺できることが至上であり、故に槍は比較的安全で、使い手に担われるや否や一騎当千の武器となるのだと。

 怒涛の攻撃はしかし鉄壁の盾に遮られ効力を発揮できないでいた。

 

 「ちぃっ! だがその盾、いつまで持ちこたえるかな!?」

 

 槍兵が悔しそうな口上をあげたが、表情は好戦的そのもの。必ず心臓を射抜く呪いを与えられた槍でもっても傷一つ付かない暗い色の銀盾を捲くらんと、肉食獣じみたフォルムの肢体を使う。

 

 「特別な祝福を受けた盾だ。貴公の槍もさぞ名のある鍛冶が打ったものなのだろう」

 

 赤いグラデーションが宵闇を切り裂く。遅れて大気の炸裂音と、盾表層を走り抜け上下左右に分かれていく衝撃波が地面を揺らす。

 槍兵がバックステップ。距離を取り手に柄を馴染ませた。距離にして三間半は離れている。それは槍の有効射程内であり、同時に迎撃圏内である。

 騎士が盾で身を隠しながら駆けた。

 

 「シイッ―――」

 

 歯の隙間から吐息を抜く。白皙の頬に朱色が灯る。

 なぎ払い。大重量が駆動することによる慣性を活かし騎士が跳ねる。狼が疾駆するが如く五体を投げ出し刃を縦に三度回転させた。パァン、と拳銃のような炸裂音が響く。

 槍兵が距離を取ると同時に穂先を滑らせた。赤い残光が唸りを上げ、宙を撫で斬る。狙いは騎士の着地の隙だ。

 

 「背中がガラ空きだぜ!」

 

 相手に対し背を向けるような挑発の姿勢。槍兵が死を繰り出した。

 火花が咲き誇る。にび色の特大剣が中空を独楽のようにかき鳴らした。身体の柔らかさと、細腕からは想像も付かぬ怪力がもたらす回転斬りが突きをいなしたのだ。

 槍が空間を射抜く。無数に射出されるそれを第三者たる青年は捉えることさえできなかった。

 剣と盾が直射を打ち砕く。数十合重ねても騎士の体に傷一つ付かぬ。

 騎士が動いた。担いだ剣を振り回し背中をさらす。槍兵が介入せんと武器を照準した時には既に盾が射線を妨害していた。盾という壁が、足運びにより体当たり攻撃を生み出す。槍兵が下がった。

 

 「やるじゃねぇか!」

 「貴公こそ!」

 

 槍兵と騎士が互いに賞賛の言葉を投げあう。

 騎士の剣術はいっそ蛮族染みていて、オーソドドックスな騎士の戦い方とは大きく異なっていた。槍兵にはむしろ好ましく感じたことだろう。騎士という存在が形骸化し礼式に囚われた身分にまで貶められた時代のそれではなく、騙まし討ち裏切り奇襲に伏兵なんでもありの分かりやすい殺し合いに発生した戦い方に似通っていたからだ。

 

 「貴公、名はなんというか」

 「悪ィがくそったれのお陰で名乗りすらまともにできやしねぇ。俺は槍兵(ランサー)であんたは剣士(セイバー)。それじゃだめか」

 

 名乗りはできないが、身分(クラス)は名乗ることができる。槍兵は主人(マスター)の命令には忠実だったが、命令の抜け穴を突いたのだ。彼は忠犬であって、猛犬だった。時に必要なら主人の声を無視することくらいはできた。

 クラス。聖杯戦争。騎士の記憶に情報が勝手に追加されていく。同時に現代の情報が理解できるようになる。科学の発展した違う世界。騎士が銃によって淘汰された遥かな未来の世界。あるいは並行世界。騎士は思わず空を仰いでいた。銀色の月。この世にも太陽はあるのだろうか。あるとすれば、また翳ることもあるのだろうか。

 騎士が視線をそらしたのは一瞬のこと。盾の先を地に下ろし、剣の切っ先を照準する。戦闘で帯びた熱を排気するが如くほうとため息を漏らす。

 

 「私は剣士ではなく弓兵かもしれんぞ。あるいは魔術師であるとも考えられる」

 「抜かせ。どこの出だから知らんが剣と盾を使う弓兵がいるか。いたとしたらそいつはペテン師だ」

 

 槍兵の言葉はどこかの誰かを指し示しているようだった。何かを思い出したのか苦虫を噛み潰したような表情がちらつく。

 

 「む……確かにそうだ。私は剣士(セイバー)クラスらしい。初体験だからな許してほしい」

 「オイ。知ってるだろうが聖杯戦争の記憶は持ち越せないぞ。そういう意味じゃ俺も初体験ってことになるわけだが」

 「おお、それは行幸だ。同じ初体験仲間ということだ」

 「……あのなあ」

 

 騎士が暢気に頷く。誤魔化そうとしたらしいが、相手の指摘を受けてすぐに間違いを認めてしまっている。正直者の気質があるのか、槍兵が呆れて首を振った。

 

 「まったく戦場でやるような会話じゃねーぜ。まあ俺たちゃこの世一番親しい仲になったからな。悪くない」

 「ほう、どのような」

 「殺しあう仲さ。命のやり取り以上に親しい仲もないだろ?」

 「違いない」

 

 さてと。槍兵が兵器を背中でくるりと回し腰を落とした。

 

 「お嬢ちゃんとの会話もいいが武器で語るほうが俺は好きでね。目撃者はみんな消さなきゃならん。そこでお前さんを援護したくてたまらんって顔をしてる小僧はとくにそうだ。いい目をしている。鍛えりゃいい線いくだろうな。人生が終わりにならなきゃだが」

 

 青年こと士郎がガラクタの中から拾い上げてきた鉄パイプを握って様子を伺っていた。異次元の戦闘を前に怖気ついたのはわずかな時間だった。自身を守ってくれた少女姿の騎士の援護もとい身代わりになろうと、距離をはかっていたのだ。

 

 「ぐ……」

 

 猛犬の牙を見て士郎の脚が縫い付けられたように止まった。青年はこの場に不釣合いだった。たかが強化の魔術によって存在を高められた鉄パイプでは、槍兵が武器を使うまでもなく圧倒されてしまうだろう。実力は天地ほど離れている。間に入る、援護する、などおこがましいにも程がある。

 騎士がにっこりと口の端を持ち上げた。甲冑を鳴らしながら己を現界させた主人と槍兵の間に入り剣を担ぐ。

 

 「あまり我が主(マイロード)を怖がらせないようにお願いしたい。貴公と私の間で死合い、雌雄を決する。私が敗れたのならば我が主(マイロード)に手を出すことはしないようにお願いしたい」

 「ちっ! イカれた剣術使いやがる癖にいっぱしの騎士みてぇな口利きやがる。俺もそうしたいとこはヤマヤマなんだが、後ろで見てる問屋がそうは卸さんっておっしゃってる」

 

 騎士の言い方はまるで自身が負けるすなわち殺されることを前提としているかのようだった。

 衛宮士郎という人間にはこれが我慢できなかった。騎士の隣を過ぎ、前に出て武器を構える。

 

 「それはだめだ! 殺す殺されるなんて……」

 「我が主(マイロード)

 

 騎士が士郎の腰を掴むと背後に押しやった。青布の奥で若い宝石が柔和に笑う。しかし士郎にはその笑みは狼が牙をむき出しているようにしか見えなかった。

 騎士が囁く。

 

 「私は負けない。だから―――チッ。伏せろ!」

 

 二名が同時に動いた。

 槍兵が何かを察知し槍を手に戻す動き。

 騎士が士郎を盾の後ろへと引き寄せ抱きしめる動き。

 

 遥か遠方から“剣”が槍兵の頭部目掛け明白な殺意を持って飛来した。

 

 「――しゃらくせぇッ!!」

 

 殺意をむき出しにした攻撃ほど読みやすいものはない。

 槍が軌道を完全に読みきっていた。直進する軌道を反対側へといなし、次の攻撃に備えようとして、

 

 「クソ! 追尾する剣だと!?」

 

 弾き飛ばされた剣が大地を抉り、土壁に突っ込む寸前に軌道を捻じ曲げた。スラストベーンでもついているかのように切っ先を曲げるや、弾かれたように槍兵の胴体目掛け直進する。弾く、跳ね返る、けれど剣は意思があるかのように何度も何度も執拗に槍兵を狙い続けた。

 第三者による横槍を受けて猛犬が騎士を睨み付けた。はめられたか。騎士は囮で狙撃役が止めを刺す。戦場ではごくありきたりの光景だが、どうにも眼前の騎士らしからぬ行動だった。タイミングとしてもおかしい。マスターであろう手に令呪を帯びた男を前面に出すというリスクを負う理由もわからない。

 槍兵は脳裏に囁かれる撤退命令に犬歯をきりきりと鳴らした。背後から襲い掛かる剣を槍の高速回転で弾き、地を蹴った。

 

 「勝負はお預けだ! その心臓、俺が必ず貰い受ける!」

 

 槍兵が青い閃光と化して疾駆した。後を剣が追いかける。

 あっという間に場に静寂が満ちた。

 騎士がため息を吐くと、胸に抱えた愛しき主の頭を撫でた。

 

 「ふう。行ったようだな。後を追いかけるか? 残るか。命令を、我が主(マイロード)。追いかけるならば伏兵、狙撃、罠、誘導の可能性が……」

 「あ、あ、えっと……セイバー? さん。離してもらえないですか。苦しいです」

 

 妙に堅苦しい口調で士郎が呻いた。女性に対する免疫が低い男が唐突にモデルなど歯牙にもかけない美貌を宿した乙女の胸元に抱かれるとどうなるか。男に二度も殺されかけたもとい一度殺された後にもう一度殺されかけるという衝撃も去ることながら、高原に咲く一輪の花のような美しさという雷に打たれて思考が麻痺しかかっていた。例え甲冑越しとはいえ顔と顔は触れ合うような距離にあるし、鼻腔を付くかすかな女性の気配(におい)が感覚を痺れさせていた。

 

 「断る。すまないが敵がいる。乱入してくるとは、とんでもない奴らだ。私はここにいる。隠れてないで降りてきたらどうか!」

 

 騎士が声を張り上げると、主を盾の後ろに隠した。

 すとん。街路樹と土壁を乗り越えて主従が姿を現した。

 赤と黒という共通点を持ちながら、男と女という相反する性質を持った一対。漆黒を両側で結い上げた線の細い少女と、竜骨のような厳しい筋肉に武装し黒白二色の(けん)を佩びた男が地に足を付けたのだ。

 赤黒二色の男と騎士の視線が絡み合う。片やいぶかしむような目つき。片や、推し量るような、疑念と一抹の懐かしさを宿した目つき。

 果たして沈黙を破ったのは騎士の胸に抱かれていた青年だった。抱えられたままでは恥ずかしいという単純すぎる理屈で盾の影から這い出てきて、口を結んで立ち尽くす二名の人物を認めたのだ。男の方はわからないが、少女の方には見覚えがありすぎる程あった。

 

 「遠坂!?」

 

 穂群原学園2年A組。学園一の美人。アイドル。高嶺の花。赤い女が仁王立ちしていた。

 にこにこ。いっそ不気味なほどの朗らかな笑顔を浮かべつつ遠坂凛が歩み寄る。

 

 「衛宮くんごきげんよう。美しい夜ね」

 「あ、あぁ」

 

 言葉の裏にある強制力に士郎の額から頬に汗が伝った。

 逆らったら殺す。逆らわなくても殺す。赤い悪魔の微笑みだった。

 高嶺の花はどうやら猛毒を持っていたようだった。

 

 「少し、話をしないかしら」

 

 少しどころでは済まないのだろうな。

 騎士はマリオネットかくやかくかくとした動きで少女を案内する主の姿を見てふむんと鼻をならした。




アルトリウスの隙だらけのぶん回し薙ぎ払いはその隙を盾で隠すのが本来の戦い説を押したい。バッシュに繋げたりしていたのではないか。
全盛期でしかも宝具勢ぞろいなのでエクスカリバーと盾とシフとか呼べるんじゃない(適当)
外見はまんまアルトリアだがfate初代のと槍の使い手になったアルトリアの中間くらいの見た目の想定

続くかどうかはダクソ2で初見ヒントなしでつるはしゲットできるくらいの確率。完結はアーマードコアが発売されるかどうかの確率

未使用音声聞く限り古臭いしゃべり方っぽい。好青年。シフなんかにはタメ口でしゃべったりするので仲良くなると男口調でフレンドリーに接してくる系のつまり作者の人間性に染みる性格以下略

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