テイルズオブベルセリア~True Fighter~ 作:ジャスサンド
今のところ大体一話でイベント戦が終わる程度のペースなのですがいささか物足りない感じがしています…
皆さんは如何でしょうか?
血翅蝶からの依頼を受けてベルベット達は動いていた。
彼らに与えられた依頼は三つ。
・ゼクソン港の倉庫に集められている赤箱の破壊
・ガリス街道で行方不明になったメンディという学者の捜索
・ダーナ街道を進んでやってくる王国医療団の護衛
これらの達成の見返りとしてアルトリウスの行動予定の情報を教えるという条件を提示してきたのだ。
他にすがるもののないベルベットは躊躇いなくそれを受け入れ、すぐさま行動に移した。
そして効率性を重視して三つある依頼を二組に別れて達成すると
ベルベット・ライフィセット・ガイアがゼクソン港の赤箱の破壊を、ロクロウとアイゼンがメンディの捜索に乗り出し、先に片付いた方が残りの王国医療団護衛を行うという体制をとった。
依頼を遂行するにあたって障害となるのは倉庫の警備だ。そこでガイアはローグレスを発つ際シルフモドキを飛ばしベンウィックに警備を引き付ける旨を伝えた。
「…」
「何か気になるのか、ライフィセット?」
ゼクソン港への道すがら何やら思い悩む様子のライフィセットにガイアが言葉をかけた。
「ロクロウは業魔の剣士、アイゼンは聖隷の死神、マギルゥは変な魔女…僕はなんなんだろ」
「自分が何者か、か…難しい問題だな」
ガイアもライフィセットと同じ疑問を持った経験があるだけに彼の悩みは他人事には思えない。
だからこそないがしろにせずきちんと向き合って答えるのが、ライフィセットのためになるとわかっていた。
「難しい?」
「ああ、自分が何者であるのか…その答えを見つけることは口で言うより簡単じゃない。一生かかっても見つけられるかどうかもわからない 。それだけ難しいんだ…自分の中で自分自身の存在を確立することは」
「ガイアはできたの?」
「できたつもりだけどどうだろうな…今はそのつもりでもまた自分がなんなのかわからなくなるかもしれない。そうなる可能性は充分ありえる」
ガイアの言葉を受け止めたライフィセットは漠然とだが自分が直面している問題の過酷さを知って、表情を曇らせる。
「どうすればいいんだろう?」
「そうだな、俺が思うにまず自分を好きになることから始めたらどうだ?」
「自分を好きに?」
「そうだ。ライフィセットは今の自分好きか?」
言われてライフィセットは考え込む。
テレサの使役聖隷だった時は自分に何の感慨も持つことはなかった。
ただ命令に従い、ただ道具として存在する、それだけでいいんだと思っていた。
そうして使われ続けることが自分がこの世界に生を受けた意味なんだと決めつけていた。
でも今は違う。そんな自分をライフィセットは受け入れられない。
「好きかはわからないけど嫌いじゃないかな…ベルベットがくれた名前は好きだから」
「ならまず第一段階はクリアだな。後は自分をよく知っていこう…嫌いなところも好きなところも」
「そうすれば見つかるかな?」
「前進はすると思う。答えを見つけられるかはライフィセット次第、自分が納得できて自分を好きになれる答えを精一杯悩んで探す…俺に言えるのはもうこれぐらいだ」
「よくわからないけど、わかった…ありがとう」
ライフィセットはガイアに礼を呟くと彼は快く頷いてみせる。
その時だった。
ゼクソン港の方角からシルフモドキが飛来しガイアの目前で翼を羽ばたかせ、停滞した。
脚には紙が結ばれており、ガイアはおもむろにそれを外して手に取る。
「手紙?ベンウィックから?」
「いや…」
封がされた手紙を破かぬよう剥がしガイアは中身を改める。
失礼だとわかっていても内容が気になったライフィセットは真下から文面を覗き込む。
『拝啓 グラン様
貴方がいなくなってもう二年が経ちました。先日まで私はビアズレイの街で巡察官の任に励んでいました。現地の人達との交流から学ぶことも多く、失敗もしてしまいましたがその度に貴方のことを思い出し貴方ならどうするのだろうとつい考えてしまいます。巡察官は貴方が望んでいた役職、その役職に私が就いたからには全身全霊をかけて励むつもりで日々精進しています。
この手紙が貴方に届いているのかわかりません。
ですが私は今も貴方がどこかで生きてくれている届いて信じています。いずれまた必ず会いましょう。
ローグレスで待っています』
(この手紙…聖寮の人から?どうしてガイアに?それにグランって…)
巡察官は聖寮の職務の一つ、ということは差出人は聖寮の人間だ。だが何故聖寮の人間が海賊に手紙を宛てるのだろう。
その疑問を解消するために差出人の名前を見ようとするがガイアの指先がその辺りに添えられていて、名前を隠す形になってしまっていた。
「ねえ、その手紙って-」
「人違いだな」
「え、でもシルフモドキが」
それが嘘だというのはライフィセットにもわかる。
シルフモドキは人の波長を読み取り連絡を取り合うことを可能とする優秀な鳥だ。
その鳥が人を判別し間違えるなど、聖寮で数多くの書物を読破したライフィセットにはない情報だ。
「名前が違う。おそらくこのグランと俺の波長が似てたんだろうな…」
本当にそれだけだろうか。違うならどうしてそんなにも哀しげな雰囲気をするのか
ライフィセットはますます疑問が膨れ上がる。
懐疑的な眼差しを向けるライフィセットを余所にガイアは手紙を折り畳み、封筒に戻す。その際できるだけ開かれた痕跡が目立たぬようにしながら
「手紙戻しちゃうの?」
「俺に宛てられたわけじゃないからな…相手に届いていないことを送り主に教えてあげないといけない」
そう注釈を入れたガイアは手元に寄せたシルフモドキの脚に手紙を巻き付け、空中に飛ばす。
ライフィセットは引き返すシルフモドキを眺めていると、先を歩くベルベットから注意されてしまう。
「遅いわよ!早く来なさい!」
「う、うん!」
若干ライフィセットは萎縮するも即座にベルベットの元まで駆け出し、その小さな背中を温かな瞳に映したガイアは速度を速めて歩く。
「ごめんグランはもう…いないんだよ」
グランという人間は死んだ。
今ここにいるのはグランの身体を借りたガイアという名の全く別の人間だ。
ゼクソン港に着いたベルベット達はすぐさま倉庫に進んだ。
倉庫の前に人の影はなく侵入は容易に可能だった。
「ベンウィック達は上手くやったようだな」
「壊す箱ってこれだよね。何が入ってるんだろ」
「確認する必要なんてない。ライフィセット、火をつけて」
ベルベットの指示通りにライフィセットは火属性の聖隷術で赤箱に火を放ち、瞬く間に炎は成長し燃え広がっていく。
依頼を達成したベルベット達は早々に引き上げるべく足早に倉庫を後にする
しかし
「待ちなさい!」
それを阻む者がいた。その凛とした声と姿を認めた瞬間ガイアに喉の奥が張り詰めるような、強烈な感覚が走った。
「嘘だろ…」
ずっと会いたかった。でもできることなら出会わない方がいいとも思っていた。
なのにどうして…どうしてこんなところに君がいる
-エレノア
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数刻前エレノア・ヒュームはヘラヴィーサからの長い航海を終えこのゼクソン港に帰還した。
彼女は飛ばしたシルフモドキの脚に巻き付いた手紙を手に、悲痛な面持ちでローグレスに向かうところであった。
「…またですか」
何度も何度も手紙を送っては待ち望んだ返事が来ることはなく、読んだ痕跡すら見受けられない。
「やはりもう…」
口ではそう言うも尚も返事の帰ってこない手紙を送り続けているのは、やはり自分が彼の死を受け入れられずにいるからだ。
両親も彼も次々と目の前からいなくなっていった。
どうして自分だけがこうして生きているのだろうと思う時がある。
そんな思いを胸中に秘めて歩いていると視界の端に黒いコートを映し取った。
何気なくそのコートを辿っていくとエレノアの目付きは鋭く変わり、歯を食い縛る。
「業魔ッ!」
ヘラヴィーサで対峙した業魔がそこにいた。
両親と幼馴染みをエレノアから奪った存在の同類が
「待ちなさい!」
エレノアは迷わず槍を握り締め業魔ベルベットの前に立ち塞がる。
ベルベットの他にもテレサの聖隷二号と見知らぬフードの男がいたが、彼女の意識は彼らにはまるで向けられておらず敵意の的になっているのはベルベットのみ。
「涙目の」
「一等対魔士エレノア・ヒュームです!」
エレノアは使役聖隷を呼び出し槍を片手に飛び出す。
真っ向から突っ込んでくるエレノアをベルベットはブレードで応対し、二体の使役聖隷にはライフィセットとガイアが一人ずつ受け持つ。
エレノアと同じ槍持ち聖隷にライフィセットは間合いを保ちながら術を唱える。
「重圧砕け!ジルクラッカー!」
重力を操る聖隷術が使役聖隷に乗りかかり発動しかけた相手の術を中断させ、全ての行動に制限をかけた。
自分の意思で戦うのはまだ慣れていない。
アイゼンを参考にしようにも彼とは同族であるものの、積んだ経験値に差がある上に戦闘スタイルも異なる。
どうすべきか悩むライフィセットをガイアが叱咤した。
「ライフィセット、自分流でいけ!」
「自分流で……うん!」
ガイアの声にライフィセットは力強く頷いて答える。
戦闘経験の未熟なライフィセットに長期戦は不利、故に強力な聖隷術を連続で撃ち込み早期にケリをつける。
「鏡面輝き熱閃手繰れ!カレイドイグニス!」
重力の檻に囚われた使役聖隷の四方より光の熱線が襲いかかり、その身を焼き焦がす。
それで決まりだった。
使役聖隷は糸が切れたように顔から地に倒れ伏して意識を失う。
「やった!」
初めての単騎での勝利に喜びから握り拳を作るライフィセット。
それを端目にガイアは敵の放った炎の聖隷術をスライディングで回避する。
滑りこんでやり過ごした聖隷術の影響で巻き上がった熱風が背中を温めるのを実感しつつ、ガイアは銃口から光弾を連射。
低威力の赤い光が使役聖隷の右肩の付け根や両の膝元に命中し、使役聖隷は隙を見せた。
そこを見逃すつもりのないガイアは体術-三散華を叩き込む。
「こいつでどうだ!」
スライディングを併用して間合いを詰めたガイアはパンチを一度、二度と決め最後の回し蹴りで使役聖隷を壁に吹き飛ばす。
これで使役聖隷は使い物にならなくなった。
(あっちはどうだ)
金属音が打ち合う方を見やるとそちらは互角のようだった。
ベルベットとエレノアの剣と槍は互いに相手に迫るも後寸前というところで阻まれ、有効打を与えられずにいる。
だが使役聖隷が全滅したとわかったエレノアは一瞬動きを乱しベルベットに槍を落とされる。
気合いで槍を手放すことなかったものの、自らの状況的不利を瞬時に読み取ったエレノアはベルベットとの距離を置く。
「聖隷も役に立たなくなった。終わりね」
「まだです!」
「そう、なら」
-まずい!
ベルベットはエレノアを殺す気だ。
彼女にとって復讐の妨げとなるものは全て敵とみなされる。
導師アルトリウスの命に従う対魔士であるなら尚更だ。
もう諦めてくれ、ガイアはエレノアにそう願うも彼女は断固としてベルベットに牙を向く。
そしてベルベットもまた同様に刃をエレノアに突き刺そうと身構えている。
「くそっ!」
どちらも死なせなくない。その一心でガイアは銃口を突き動かし発砲しようとしたが
「エレノア様はボクが守るでフよ~!」
「「……は?」」
戦場に不釣り合いな真の抜けた声が何処からか飛び出した。
虚を突かれたベルベットとガイアが瞳を巡らせ声の出所を探すと、エレノアの体から緑色の輝きと共に小さな聖隷が地に足をつけた。
シルクハットの目深に被った小悪魔のようなビジュアルのそれは如何にもやる気満々の目で、ベルベットを威嚇する。
「かかってこいでフー!」
「…かわいい」
「そ、そうでフか~!」
ライフィセットのぼやきに途端に照れくさそうに頬を赤らめる仕草を見せる小悪魔聖隷。しかし数秒後、その頬が恐怖で真っ青に染め上げられることになろうとは彼も想像だにしていなかっただろうが。
「見ぃつけたぞぉぉぉぉぉ…!」
「このバッドなお声は~!?」
(まさか…)
地を這う大蛇を思わせるねちねちとした陰湿な声。
そんな声などガイアの知る限りでは一人しかいない。
「裏切り者ビエンフー!神妙にお縄につけ~い!」
「で、でたああああ!!」
「こ、こら!戦いなさい!」
(やっぱりな)
船頭から降り立ったその者はライフィセット曰く変な魔女ことマギルゥ。
彼女の全容を認めた小悪魔聖隷は大袈裟な震え声をあげてエレノアの中に引っ込む。
そうしている間にも倉庫の火は激しくなっており、ついには窓を割って屋外に進出するまでに悪化した。
「火が上がる時間は稼いだ。逃げるわよ」
「うん」
「お前も来い」
「こぉら!儂も坊のように優しく丁重に扱わんかーい!」
「あんまり喋ってると舌噛むぞ」
走りながら乱雑な運び方をするガイアにマギルゥは猛抗議するも彼はそれをスルーし、ベルベットとライフィセットの殿を勤める。
逃すまいとエレノアは追撃に出ようと体が動くも燃え上がる倉庫の存在に思い留まり、足を止めた。
「くっ…どうして私はこんなにも無力なのですか!」
ヘラヴィーサでもここでも業魔を仕留め損ない、対魔士の任を果たせない自分に苛立ちを募らせるエレノア。
彼女は消火作業に取りかかりながら、もし今の自分を見たなら彼は何を思うのだろうと考えていた。