テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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第6話です。
今回からようやくベルセリアパーティーとの絡みが書けました。
今のところ一番書きやすいのはマギルゥですかね


第6話 共同作戦

赤い光が海上を行くバンエルティア号の甲板に着地し、人の姿に戻る。

フード付きのローブで目元を隠した男をベンウィックが出迎えた。

 

 

「お疲れさんリーダー、はいこれ水ね」

 

「助かるよベンウィック…この騒ぎは何事だ?」

 

 

水を口に含みながら訝しげに訊ねるガイア。

バンエルティア号は大砲による砲撃を行っており、その狙いとなっているのは前方を航海する船であった。

 

 

「ああ、今業魔らしい連中にけしかけてるとこなんだ」

 

「変なタイミングで戻って来ちゃったな。でも何でまたそんなことを?それに業魔って」

 

「そうかリーダーは怪獣が出てすぐ戦ったから知らなかったんだっけ…ヘラヴィーサを焼き払った奴らがどうやら業魔の集まりだったらしいんだ」

 

「じゃあ今追いかけてるのがヘラヴィーサを襲撃した業魔の脱出船か。業魔の力を借りて何をするつもりなんだアイゼンは」

 

「決まってるだろ?見晴らし台を抜けるためさ」

 

「見晴らし台…ヴォーティガン海門か。そういえばこの辺りの海域だったな」

 

 

ノースガンド領とウエストガンド領、この二つの海峡に建設された聖寮の要塞施設。それがヴォーティガン海門だ。

徹底した防衛体制が敷かれておりその周到な警備は、海を渡り行く海賊達から『見晴らし台』と皮肉を込めて呼ばれている。

 

「あそこはノースガンドとウエストガンドからの侵入者を王都に入り込ませないためにかなりの対魔士が配備されてるし、僕らだけじゃ突破が厳しい。それはわかるけど…」

 

「やっぱり、複雑だよなリーダーからしたら。元々仲間だった奴らや守るはずだった場所を襲撃するのは、しかもそのために業魔と手を組むなんてさ」

 

「それは昔僕だった者の話だ。そいつはもういない」

 

「リーダー…」

 

「変わらないままじゃいられないからこの海賊団の仲間になってこの船に乗ってきたんだ。その道を選んだことに今さら後悔はない。でもありがとうベンウィック」

 

 

ベンウィックにそう礼を告げるとバンエルティア号の砲撃が止み、進行速度が急激に弱まる。

 

 

「ガイアとベンウィック、他数人は俺と来い。残りの連中は周囲の警戒を怠るな」

 

 

陸地に船を寄せるとバンエルティア号の船首からアイゼンの号令が船尾まで響き、海賊団の主要メンバーは陸におりていく。

 

 

「副長からの命令だ。降りるぞ」

 

「了解!」

 

 

かけられた板を伝ってアイゼンと合流した先には五人の若者がいた。

ベルベットとロクロウにマギルゥ、蜥蜴の業魔のダイルそしてテレサの使役聖隷二号。

 

 

「うおっすげー!本当に業魔の集団だ」

 

 

フードの奥からガイアが一行全員に眼差しを送り二号を注視する傍ら、ベンウィックが業魔を前に物怖じすることなく白い歯を向きだしに笑う。

 

 

「業魔と知ってやるかいかれた奴らだな。陸の上なら容赦はせんぞ」

 

「まったくね」

 

 

もはやこの状況下では呑気としか言い表せないベンウィックの口調に反してベルベットとロクロウは各々の武器を構え、いつでもやる気満々といった様子だ。

 

 

「命令よ、二号。こいつらを蹴散らせ」

 

 

目を向けず言い放ったベルベットに二号は逆らわず紙葉を展開し、投げつける。

魔力が蓄積されたそれらが飛来するのをベンウィックはたじろぐ素振りを取らず、一歩もそこを動かない。

 

 

「おっと、あんたらの相手は俺じゃないぜ」

 

「俺だ」

 

 

アイゼンがドスの効いた声を発するとベンウィックの足元の地面から競り上がった土壁が魔力が込められた紙葉をはねのける。

その術を垣間見たベルベットは思わず言葉を滑らせた。

 

 

「聖隷!」

 

「いいや、死神だ」

 

 

ガイアとの目配せを行いアイゼンが前に進み出る。

単騎でやり合うつもりの彼の意図が読めないと言いたげなベルベットを端目に、最初からそれを知っているベンウィックとガイアはこの場を任せ距離を置く。

彼らが退いたのを見てとったマギルゥも下銭な笑みを露骨にアピールしつつ、側の岩にぺたりと座り込む。

 

 

「くくく、儂らに戦いを挑むなど百億万年早いわ」

 

「お前は戦力じゃないのか?」

 

「野暮なことを聞くのーそこはあえてそっとしておくのが紳士じゃろうが。花も鼻白む乙女じゃぞ儂」

 

「どこが乙女よ!」

 

 

マギルゥに突っ込みを入れたベルベットがアイゼンに直進を開始する。

それが開戦の合図となり控えていたロクロウと二号も各々の攻撃方法を用い、アイゼンを攻め立てる。

紙葉が飛び交い、剣撃と拳が交錯する様を傍観するマギルゥは能天気に軽口を呟いた。

そこにガイアが歩みマギルゥに質問した。

 

「まあ見事にドンパチやっとるのー」

 

「本当にあんたは戦わないのか?」

 

「言ったじゃろう。儂はか弱い乙女じゃて派手な乱闘は嫌いなのじゃよ。戦いはあやつらに任せておけばええ」

 

 

ガイアからの問いかけにマギルゥは微笑みを崩さず何事もないように返答を投げ返す。

 

 

「随分と買ってるんだな」

 

「なにしろ脱出不可能とされた監獄島から逃れ街一つを破滅に追いやった冷酷無惨な悪しき業魔じゃからのう。少なくともそこいらのならず者相手に遅れをとるまいて…それよりそちもええのかえ?そんな暴漢共を主らの聖隷は一手に引き受けておるんじゃぞ」

 

「そっちが買ってるように俺もあいつを信頼してる。あいつはそこいらのならず者とは格が違う」

 

「信頼とは…まあ、嘘と汚れでまみれた裏社会で生きる海賊の言葉とは思えんのう」

 

 

したり顔で語るマギルゥの探るような目線に気付きガイアは反射的に首を反らし、戦いの経過を見守る。

三人を同時に相手にしながらもアイゼンは決定打を受けず渡り合っている。

お互いが敵に直撃を与えられぬまま時が過ぎ、ある瞬間アイゼンが拳を下ろした。それは戦いの中断を意味していた。

 

 

「合格だ。力を貸せ」

 

「は?ずいぶん勝手な言い草ね」

 

文句を垂れながらもベルベット達は武器を納めアイゼンの話に耳を傾ける意思を示す。

 

 

「こちらも戦力が足りない協力しろ」

 

 

アイゼンはベルベット一行に説明した。

彼女らがヘラヴィーサを壊滅に追い込んだ業魔であると知りながら力量を試したこと。

あのまま進んでいればヴォーティガン海門にぶち当たり危険を侵していたであろうこと。

こちらも同じく海門を抜けたいがいかんせん戦力が不足していること。

 

 

「海賊に協力する気はない」

 

「自分の目で確かめるか?いいだろう、命を捨てるのも自由だ」

 

それらを聞いた上でベルベットは協力を拒み、アイゼンもそれを容易く受け入れた。

 

 

「なんじゃ断ってもよいのか?」

 

「お前達はお前達で、俺達は俺達でやる。それだけのことだ」

 

 

マギルゥにそう返すアイゼンは彼らに背を向け歩き出す。

一人そのまま行こうとする彼にガイアが同行を申し出る。

 

 

「俺も行く」

 

「いやお前はバンエルティア号に残れ。もしも何かあった時に対処できる奴が必要だ」

 

 

淡々とした顔色で言いのけた彼は、ベンウィックとガイアを置き去りに単身ヴォーティガン海門へ向かう。

 

 

「リーダーどうする?」

 

「……ベンウィック、出航の準備を整えておいてくれ」

 

 

不安そうな面持ちを隠せないベンウィックにそう答えると、ガイアはベルベット達の元に足を運び頼み込む。

 

 

「アイゼンはああは言ったが俺からも頼む」

 

 

再度に渡る海賊からの申し出にベルベットは顎に手を当て熟考し、まるで考える気を微塵も見せないマギルゥが彼女に聞く。

 

 

「どうするつもりじゃ?」

 

「そうね…」

 

「どのみち俺達は船をまともに動かすこともままならない。海賊なら船の操縦はお手のものだろう。向こうもああ言ってることだしここはお互い協力したほうがいいんじゃないか」

 

 

ロクロウの意見を取り入れベルベットは思案を続けた。

海賊の実力がアテになるかはとにかくアイゼンという聖隷の技量は手合わせをして、かなりのものであると確信している。

ヴォーティガン海門がどれだけの戦力を保持しているか詳細は把握できていないが、彼と自分達が手を組めば船の一隻や二隻突破させるのは難しくないはず。

 

 

「いいわ。けど要塞を抜けた後王都まで船と船員を貸してくれるなら乗ってもいい」

 

「王都か…わかった。それまでは全面的な協力を約束しよう。それと試すような真似をして悪かった」

 

「海賊が謝るの?」

 

「全ての海賊が無礼な者ばかりじゃない。それだけの話だ…アイゼンを頼む」

 

 

海賊らしからぬ意外な面に目を丸くするベルベットにガイアはそう返事を寄越すと踵を返し、船内に乗り込む。

それに追随するかのようにマギルゥとダイルもバンエルティア号へ歩を進める。

 

 

「ではではよろしく頼むぞベルベットや。儂はあやつらの船で待っておるからの」

「俺もそうさせてもらうとするか。船乗りじゃ戦力にならないしな…アイフリード海賊団の船に乗るのはちと不安だが」

 

 

マギルゥとダイルは足早にバンエルティア号に搭乗し、彼らを乗せた船は陸地を遠ざかりアイゼンと同じくヴォーティガン海門を目指す。

 

 

「いいのか?ベルベット。ダイルはともかくマギルゥを連れていかなくて」

 

「あいつが戦う気がないのはさっき見てたでしょ。これから聖寮の施設に攻め入ろうって時に戦う気のない奴が近くにいたんじゃたまんないわ」

 

「ふぅむ、それもそうだな」

 

「私達も行くわよ」

 

 

 

 


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