テイルズオブベルセリア~True Fighter~ 作:ジャスサンド
春から新生活が始まるので今後益々投稿頻度が少なくなるかもしれませんが、放置したりということは考えておりませんので長い目で見守ってくださるとありがたいです
慌ただしい時間を終え、すっかり静んだ空気に満たされた店内にはカウンターでマーボーカレーを食すライフィセットや円卓の上にボロ雑巾のように体を突っ伏すガイアなど、疲れを癒す各々の姿があった。
「皆お疲れ様。おかげで助かったわ」
「礼は受け取っておくわ。それより早く説明して、なんであたしたちを呼びつけたのか」
「この人を王都から連れ出して欲しいね」
せっかちね、と口を突いて出そうになった言葉を引っ込めてタバサは本題に入った。
タバサの言う『この人』、彼女が目線で指し示した方にはカウンターに座っている人物。
飼い慣らしているのか手元には一羽の鷹が大人しく佇んでおり、その人物はガイアと同じようにフードで顔を隠していた。
「目的地は?」
「お上の手が届かないところまで」
「そんな場所があるならこっちが教えて欲しいくらいよ」
「生憎こっちもそういう場所探しててな。どこかいい場所を知らないか」
ベルベットとロクロウからの返答にタバサは考え込む。
「そういえば、ここ最近聖寮本部と監獄島タイタニアの連絡が途絶えてるって噂よ」
「監獄島か…」
その響きはベルベットに過去の記憶を思い起こさせる。
故郷と家族との幸せを剥奪された彼女が三年もの長きに渡り、幽閉されていた忌々しい場所。
日の光すら差し込まない世界から摘ままれた者たちの巣窟。
あれからあちこち回ってたくさんの出来事があったが、あの場所だけは今思い出しても胸糞悪くなる気分しかしない。
「確かにあそこなら喰魔が食べる穢れも多そうだ」
「しかも逃げ出した囚人が好き好んで戻るとはお行儀のいい聖寮は考えんじゃろーしな」
一時をそこで過ごし、ベルベットと共に監獄島を脱け出したロクロウとマギルゥが賛成の声をあげる。
罪人を収容する施設なら人の負の心から発生する穢れも摂取できるし、脱獄人のベルベットたちが身を隠すには意表を突ける。隠れるなら都合の良い条件が整っている。
「状況を確かめる価値はある、か。業魔に関して何かない?」
「離宮にいた業魔が別の場所に移ったそうよ」
間を置いてタバサが口にする。
「それって結界に閉じ込められてたって言う巨大な鳥の業魔のことだろ。だとしたら何の意味があるんだ」
「確かにそうだよね。あの業魔もクワブトやモアナと同じ結界の中にいたんだから、きっとそこが地脈点になってたはずだし別の場所に移す理由なんてないと思うけど」
聖寮の行動にある不可解な点にガイアもライフィセットも口を曲げて、考えに耽る。
「とにかくその頼みは引き受けるわ。業魔の情報、任せたわよ。どんな些細なことでも-」
「ええ、必ず貴方たちに伝えるわ」
要求の合致を経てベルベットとタバサの交渉は円満に終わった。
ベルベットやマギルゥがそれぞれ席を立ち、出入口に向かい鳥を連れたフードの男もそちらに続く。
(香水の臭い?)
-清らかな花
男が横切った瞬間エレノアは彼の体からそんな香りを感じた。身なりからはとても想像が付かないような高貴で甘い香りを
ベルベットは海を眺めていた。
灰色の空、不機嫌に荒れる波風、まるで自身の心の有り様を映しているように思えた。
(またあそこに戻るのね。あたしが長い間閉じ込められてたあの地獄に)
あの牢獄で何もかもが苦しい時間を過ごした。
鎖に繋がれ自由を奪われ、輝かしい太陽の光も届かないうすら寒い闇の中で時を無駄にした。三年も
そんな日々を思い出すだけで異形の右腕が疼く。
(あいつはあたしたち家族を裏切った。あたしから全てを奪ってライフィセットを…何としてもあいつの企んでることを暴いてこの手で潰してやる。あいつの命諸とも…!)
ふつふつと沸き上がる憎しみで握った手に力がこもる。
その時微かに軋む木の音と気配を感じて振り返ると
「何の用?」
「この間はすまなかったな。迷惑かけた」
ガイアがそう言って隣に並んでふぅと息を付く。
隣に並んでしばらくしてから彼は口火を切った。
「別に大したことじゃないわよ。でもあんなの二度も三度もやられたんじゃさすがに迷惑よ」
「次は気を付ける」
「わかってるならいいわ」
素っ気なく淡白な会話。その中でベルベットはガイアの声色に力がないことに気付いた。
その理由に思い当たる節はあったが、しかしあえて触れはせず黙り込む。
とその時上から火の玉が降り、バンエルティア号の横…海面で弾ける。
「この攻撃、敵襲か!?」
「空から、ってことは業魔ね」
船体が傾き、柵に捕まりながら攻撃が飛んできた方角‥上空を見上げると灰色にくすんだ空の中に複数の魔物が羽ばたいている。
人間の女性が翼と腕が一体になったような姿のハーピー、それが群れを成していた。
「業魔が来たぞ!お前ら気合い入れろ!」
「了解、急げお前ら!砲を上げろ!」
アイフリード海賊団の船員たちは迅速に動き回り、船の武装を起動させる。
とそこに
「何なんですか!?今の揺れは!」
「皆大丈夫!」
「敵襲だ!迎え撃つぞ、急いで武器を取れ!」
船内から出てきたエレノアとライフィセットにアイゼンは告げながら、接近してきたハーピーの横っ腹を殴りつける。
そして既にベルベットとガイアは周囲を飛び回るハーピーを見据え、迎撃を行っていた。
「相手は空だ、俺が仕掛ける!援護を頼む!」
「ちゃんときっちり当てなさいよ!」
銃から分散した青い光条をかわしながら進むハーピーたち。その中の一羽の動きを予測してベルベットは跳躍。
相手の爪を真下で通過させて足の仕込み刃を喉元に食い込ませる。
仲間の死を受けて激昂したハーピーが死角から飛びかかろうとするが、赤い光の弾に撃ち抜かれて同じ末路を迎える。
「ヒートレッド!」
「貫け、霊槍・獣炎!」
「ブレイズスォーム!」
他の場所でも多くのハーピーが炎に飲まれ羽の一筋も残さず灰となり、数少ない個体もロクロウの小太刀の錆となり絶命する。
そうして着々と数を減らしていく中でベルベットたちは一ヶ所に集い身を寄せ合う。
「モアナとあの男は?」
「中でダイルや海賊たちが付いてくれています」
「一時はどうなるかと思ったがこの調子じゃすぐに片が付きそうだな」
そう誰もが思った時霊的な感に優れたライフィセットとアイゼン、ガイアの三人は新たな危険の予兆を感覚で感じ取る。
「まだだよ、まだ何か来る!」
『グアアアアア!!』
甲高い鳴き声と共に灰色の空を引き裂いてバンエルティア号の進路上に立ち塞がるように滞空する鳥がいた。いや鳥というよりはワイバーンのような翼竜に近いかもしれない。
「ヤバいって!あんなのに取りつかれたらいくらバンエルティア号でも船体が持たない!」
翼竜-有翼怪獣チャンドラーの図体を見て舵を握るベンウィックの声が震える。
チャンドラーが羽をはためかせるその度に風を引き起こし、波と船を揺らす。
「急いで近くの物に掴まれ!」
咄嗟に船の上にいた者たちは柵や支柱に手を伸ばして吹き飛ばされぬよう強風に耐える。
だが強風に身体を飛ばされぬようにするので精一杯でとても攻撃まで手が回らない。
「早く倒さないと!皆海に落ちちゃう!」
「ですが相手は海の上、しかもかなりの巨体ですよ!さっきの業魔のように簡単に倒せるかどうか」
「しかもその上落ちぬようにするので手一杯で術による攻撃もままならん。ピンチもピンチじゃ。こんな時都合よく巨人が助けに参上してくれないものかのう」
マギルゥの言う通り巨人に変身すればこの状況を切り抜けられる。それは他ならぬガイア自身がわかっていた。実行に移そうともした。
だができなかった
(ここで変身するわけにはいかない。でも他に手立てが…くそ、どうすれば!)
変身したくはないが他の代案も思い付かない。ジレンマに悩まされるガイアの視界に黒い巨影が横切った。
『ギュアアア!』
突然どこからか出現した巨鳥がチャンドラーに突進をぶつける。風が止み、姿勢を落ち着かせたベルベットは空を見上げ巨鳥の姿に反応を示す。
「あれって…あの時の」
ローグレスの離宮で目撃した業魔。それと今チャンドラーと戦っている巨鳥はまさしく瓜二つであった。
その巨鳥はチャンドラーの喉元に嘴を突き刺し、引き抜く。
『グアアアアア!』
それで戦意を喪失したのかチャンドラーは喉から血を垂らしながら反転し、バンエルティア号から遠ざかっていく。
「なんとか助かったな。しかしあれはなんだ?あいつは離宮にいた業魔じゃなかったか?なんでこんなところに」
「彼は私の友人だ」
ロクロウの言葉に応じたのはベルベットたちでも海賊たちでもなかった。船内への扉の前に立つ男、血刺蝶から護衛を依頼された人物だった。
「ありがとう。助かったよ」
その男の元に巨鳥は舞い降り、腕に止まった。体を普通の鷹と同じサイズに縮小させながら
「普通の鳥になった!?」
「あんた何者?」
驚くライフィセットと疑問を目に浮かべるベルベット。
二人の前で男はフードに手をかけ、外した。
「なっ!?」
「貴方は!」
露になった素顔を目の当たりにし、ガイアとエレノアは目を見開き唖然とする。
「名を明かさずにここまで連れてきてしまってすまない。私はパーシバル、ミッドガンド王国第一王子」
船内でパーシバルはベルベットたちに全てを打ち明けた。
自身の身の上、将来国をまとめるために幼少の頃から個人の感情より理を優先した教育を強いられ、そんな環境で友であるグリフォンが自由に空を飛ぶ姿を見るのが唯一の楽しみであったこと
しかしある日そんな友がカノヌシの力に適合して喰魔となったせいで聖寮に取り上げられてしまった。
その友を救うために対魔士を欺いて結界を解いたのだが解放されたグリフォンが対魔士を殺めてしまった。
そのせいで王家には戻れなくなってしまったらしい。
「つまり王国は聖寮が喰魔を作っている事実も含めてアルトリウスの理と意志に手を貸し、貴方はそれに反抗した、と」
「しかしまぁ大胆なことをしたものじゃな。いくら友のためとはいえ地脈点から喰魔を引き剥がすとは。知っておろう?地脈点から喰魔がいなくなればその喰魔を喰魔が喰らっていた穢れはその周囲に溢れだす。お主のしたことは-」
「王家の人間の行為として反しているのはわかっている。だがそれでも私は友が自由を奪われ、犠牲になるのを見過ごすわけにはいかなかった」
「世界や一国の安寧より一羽の鷹か…」
他の何を擲ってでも心の救いである存在を守りたい。
生まれも環境も何もかもが離れた世界にいるはずなのに親近感を覚える。彼の言動からベルベットはそう感じた
だからだろうか。ついこの問いを目前の人物に投げてみたくなった。
「鳥は何故空を飛ぶと思う?」
「それはアルトリウス様の」
そうそれは導師アルトリウスの言葉、そしてかつてベルベットが義兄アーサーに問われた言葉でもある。
「解剖学の本には骨が軽くて翼を動かす筋肉にすごい力があるからだって-」
「いや飛べない鳥は鳥ではないからだ。私はそう思う」
生物学的な見地から答えを出そうとするライフィセットに対してパーシバルはそう言った。
「勝手なことと承知でお願いしたい。どうか私とグリフォンを君たちの元に置いてくれないだろうか」
「俺は賛成だ。王子の立場は聖寮を相手取るのに使える。」
「命の恩人でもあるしな。今度はオレたちが守ってやらねばオレの義に反する」
アイゼンとロクロウが述べパーシバルの要求を受け入れた。
と、そのタイミングでバンエルティア号の動きがピタリと止まる。
「降りるぞ、無事着いたようだ」
アイゼンの言葉でベルベットは目付きを鋭くさせる。
着いたのだ…
理に反した者たちが身を囚われる絶海の孤島に。
ある意味で復讐の始まりの地となった場所、監獄島タイタニアへと。