テイルズオブベルセリア~True Fighter~ 作:ジャスサンド
非常に投稿速度遅い作品ですが、何卒本年もよろしくお願いします。
ガイアとジャグラーが村に戻ってくると浜辺の辺りに賑わう人だかりができていた。
その中にはベルベットらの姿もあり、二人の姿を見るとライフィセットが小さな手を振った。
「あ、ガイア。ここだよ」
ライフィセットの声と手を頼りにガイアとジャグラーは人混みを掻き分けて、手前まで辿り着く。
「ライフィセット、解読の方はもう終わったのか?」
「ううん、まだまだ。キリのいいところまで進んだから今日はここまででしようってグリモ先生が。それでベルベットのところに来たらエレノアが巫女をやるって聞いたから見てみたくて」
「なるほど、お疲れ様」
「その人は?ガイアの知り合い?」
「あ、ああ…えっと」
どう答えたらよいのやら
隣にいるジャグラーのことを聞かれてガイアが言葉の引き出しを探る。
すると
「お初にお目にかかる小さな聖隷君。俺の名はジャグラス・ジャグラー、元対魔士だ。以後お見知りおきを」
目線をライフィセットに合わせるため身を屈めたジャグラーが礼儀正しく代わりに答える。
薄気味悪いぐらいやんわりとした優しい笑顔で、とても本人の物とは思えない程かけ離れた穏やかな声色で言う友人のあまりの豹変ぶりにガイアはギョッと魚のように目を見開く。
「対魔士ってことはエレノアを知ってるの?」
「あいつの恥ずかしいところとか色々とな…お前の顔」
「僕の顔に何か付いてる?」
「お前、二号か。テレサに引っ付いてた」
ジャグラーはじっとライフィセットを見つめる。
対魔士だった頃テレサ・リナレスが使役聖隷の片割れに目の前の聖隷と同じ顔がいた。
「なんで僕のこと…あ、そっか。エレノアと知り合いで対魔士ならテレサ様も知ってるよね。そうだよ、僕は二号。でも今は違うよ」
「何?」
「ライフィセット、それが今の僕の名前だから」
「ほぅ、それは失礼した。では改めてよろしく、ライフィセット」
「よろしく、ジャグラー」
感心したような目と穢れのない純粋な目を送り合うジャグラーとライフィセット。
二人を交互に見てガイアは
(やっぱ、ほんと、慣れないな…あんなジャグラー)
先のジャグラーの言葉を疑うつもりではないが記憶の中の人物と目の前の人物が同じであるのが受け入れ難い。
起こり得るあり得ない現象を前にしているようで不気味、はっきり言って気持ち悪い。
と、そのようなことを考えていると周囲からおおっ、と声が沸き上がる。
「お、主役の登場したみたいだぞ」
ロクロウの言葉に釣られて他の皆もそちらからやって来る人物を見る。
左右に分かれたいつものツインテールは解かれ、白と蒼海色の巫女衣装に身を纏ったエレノアがナターシャを伴って現れた。
「ほぉ~なかなか珍妙な格好をしておるではないか。表情アレなのがちとあれじゃが」
「確かに表情が堅苦しいのは気になるが、似合ってていいと思うぞ。なあ?ライフィセット」
「そうだね。いつもと違うエレノアって感じでとっても可愛いと思うよ」
「…へぇ、ああいうのが好みなんだ」
「その言い方だと普段お前はエレノアを可愛いくないと思っている。そう聞こえるが?」
「そんなことないよ。エレノアはいつだって可愛いよ」
「おやはや、これは驚いたわい。いつの間にかそんな小生意気にも大胆なセリフを坊が吐けるようになっておったとは」
それぞれ思い思いの感想を呟くライフィセット達。その輪の中にはちゃっかりとジャグラーも加わっていた。
アイゼンはそれに聞き耳を立てながらを唯一何も述べずにいるガイアに近より、耳打ち程度のか細い声で訊ねる。
「どうだ?感想は」
「…なんか、すっごい可愛い。あんなエレノア初めて見た」
「ふっ、そうか」
その感想にアイゼンは失笑する。
「万物に宿り自然を司る四聖主の一角、水の聖主アメノチ様」
声も音も一切が消えると浜辺へと歩むエレノアは教会で懺悔するように膝を折って、ナターシャから教わった通り祈りを始める。
ハリアの人々もエレノアの祈祷に合わせて目を閉じて、砂地に膝を付け始めた。
「我らハリアの民は穏やかな時と豊穣を与えてくださったアメノチ様の加護により、無事この時を迎えることができました。今宵アメノチ様の加護に深く尊敬と感謝の意を表します。我らの祈りをどうか受け取ってください。そして今後もハリアの村に加護をお与えください」
祈祷が終わり、ハリアの村には祭りの雰囲気に包まれた。
五人の女による南国風のダンスと四人の老人による楽器の演奏でハリアの夜を盛り上げている。
そんな中
「とても見事でしたよ。対魔士様、初めてなんて思えないくらい」
「ありがとうございます。貴方のおかげでアメノチ様へ我らの祈りを捧げることができました」
「いえ、対魔士として当然の行いをしただけですから」
村人に囲まれてあまりの勢いに気圧されて戸惑うエレノアがいて
「豪快な飲みっぷりだなあんちゃん。どれ、もう一杯いくか」
「応、頼む。こんなに上質な心水は久しぶりだ、まだまだ飲み足りん」
「ペンギョンの唐揚げも食うか?酒のつまみにはピッタリだぞ」
ロクロウは村の男達と心水の飲み合い
「このぬいぐるみ…」
「それはイズルトにいた商人からの貰い物だよ。かわいらしい見た目だけどなんかよくわからなくてね」
「これはピンキストの島とも言われているティポ島で流通している人形なんだが、島がここよりずっと遠くにあるらしく簡単には手に入らない代物でな。実物を見るのは初めてだ」
「そんな珍しいもんだったとはねぇ、どうだい?買ってくかい?」
「では、そうさせて貰おう。妹に送ったら喜びそうだ」
アイゼンは出店している雑貨屋でファンシーな人形に興味を示していた。皆村人に混じって祭りを楽しんでいるようだった
「あやつらすっかり溶け込んでおるのう。単純というかなんと言うか、聖寮に追われてる身だというのに気楽で羨ましいわい。やれやれ、少しは勤勉なこの儂を見習ったらどうじゃ」
「勤勉ねぇ、起きてるのに寝言が言えるなんてさすがだな」
村人に混ざって祭りを満喫する二人を呆れのこもった眼差しで見るマギルゥにガイアはきつい言葉をぶちまける。
「これはこれは心外じゃのう。儂のどこをどう見たらそんな言葉が出るんじゃ。見てのとおり、儂はこんなにもかよわ~くておしとやかな乙女じゃというのに」
「いつもが一番騒がしいのに何言ってんだ。ローグレスの時だって率先して奇術団の真似事してたし、こういう祭り事絶対好きだろ」
「ちっちっちっ、わかっとらんのう。まるでわかっておらんわ…よいか、周りがうかれておるのに便乗するのは簡単じゃ。自らの手でムードをメイキングし周りをざわつかせてこそ一流の芸人というものじゃて」
「…あっそ」
いつから芸人になったのかだとか、魔女じゃなかったのかだとか、そういうどーでもよい指摘はもはや海へと投げ捨てることにした。
指摘したその瞬間からまた面倒くさいダルがらみが始まるのは決定づけられた未来だ。そんな未来への一歩をわかっていながら踏み出すのは愚か者のすることだ。
「ところで、ビエンフーが見当たらないけどどこ行った?」
目線を反らした時マギルゥの足元にいつもいるはずのビエンフーの姿がないのに気づく。
「さあのう、わからんわ」
「わからんわっていいのか。そんなんで」
「大方そこらの娘に色目使って片っぱしからナンパでもかけてるんじゃろ。ビエンフーごときにいちいち構ってる暇はないわ」
「あんだけ探してた癖にドライだな。もっと大事にしてあげないとまたいなくなっても知らないぞ」
「いいんじゃよ、あやつはそういう扱いで。もし逃げ出した時にはまた引っ捕らえればよい。ま、もう二度とそんな気が起きぬようみっちり教えておるし、問題なかろう。じゃ、また後での~」
最後に何やら物騒めいた事を残してマギルゥはガイアから離れて、一人どこかへ歩いていく。
(ビエンフーを探しに行ったのか、それとも単に暇潰しをしに行ったのか…)
暗闇に消えたマギルゥにそんなことを思いながらガイアは祭りの賑いへと目を移す。
「それよりも、どうするか」
祭りが終わるまでまだかなりの時間がある。
この後何をしようかと考えていると、ある人物が目に留った。
「ふぅ…」
一人砂に座り込むエレノア。
緊張と疲れもあって深く息を吐いた時彼女はふと、砂を踏み締める音と気配に反応してそちらを振り向く。
「ガイア」
「お疲れさん。やっぱり緊張したか」
「こんな大勢の人前で歴史あるお祭りの大役をするとなると疲れますし、緊張もしますよ」
「だろうな、気持ちはわかる。でも結果よかったじゃないか、無事上手くいって。これ食べるか?さっきもらってきたんだ」
そうフードの奥で破顔してガイアはエレノアに皿に乗っかった食べ物を渡す。
「キッシュ、ですか?気持ちは嬉しいのですがこれは、その…」
「ほうれん草は入ってないって言ってたから安心しろ」
「そうですか。よかった」
キッシュを凝視して警戒していたエレノアはその言葉に安堵してキッシュを迷いなく口元に運ぶ。
「おいしいか?」
「ええ、とても。ありがとうございます」
「そうか、ならよかった」
キッシュを頬張るエレノアの横顔をガイアは見つめる。
満足そうに喉に運んでいた彼女だがふと突然、ピタリと動きを止める。
「どうした?」
「…なんで知ってるんですか」
「へ?」
「私がほうれん草苦手だってこと貴方に言ったことありませんよね。なのにどうして知ってるんですか」
「……あっ」
(しまった…!)
失念していた。
エレノアがほうれん草を苦手としているのは知っていた。しかしそれを知っているのはグランであって、今エレノアの前にいるガイアとしては知っていてはおかしいのだ。
咄嗟に言い訳が思い付かず、エレノアの追及の眼差しを浴びるがままになってしまったガイア。
するとそこに思わぬ助け船が現れた。
「俺が教えてやったのさ。巫女探しの間の、話の種にな」
現れたのはジャグラー。彼はベルベットとライフィセットを伴っていた。
珍しい組み合わせだなとガイアが考えていると、ライフィセットがエレノアに話しかけていた。
「エレノアお疲れ様。大変だったでしょ?」
「ありがとうございますライフィセット。口元に何かついてますよ」
「え!?どこっ?」
「私が取ってあげます。こっちに来てください」
ライフィセットの目線に合わせてしゃがむエレノアと先ほどまで何か食べていたのか食べかすを取ってもらって恥ずかしそうにするライフィセット。
和やかな二人にガイアがほんわかな気持ちになっている
と、いきなり横からジャグラーに肩に腕を回されると同時に耳元で囁かれる。
「妬いてるのか?お前」
「いや全然。仲良いな~って思ってただけだけど」
「ほぉ、全然ときたか。てっきり俺はずっと昔から一緒にいる幼なじみを取られて嫉妬してるのかと思ったが」
「嫉妬?まさか、ないない」
「はっ、どうだかな」
「本当だって」
「まぁ、お前がエレノアとライフィセットとかいうあの聖隷が何をしてようが構わないのはわかったが、あのお嬢さんはどうだかな?」
「お嬢さん?あ、ああ~…」
納得した調子でガイアが見たのはベルベット。腕を組んで冷静な風を装っているが、人差し指が何度も上下に揺れ、エレノアとライフィセットを見つめる眼差しからは浅はかならぬ敵対心を感じさせる。
「あれは見るからに-」
「妬いてるね。でも仕方ないと思う部分もあるけどね、ベルベットはライフィセットに特別な思いあるみたいにだし」
「そりゃまた素敵な話だ。業魔と聖隷のラブロマンスなど本でも出せばさぞかし話題になるだろうな」
「絶対誉めてないだろそれ。ラブロマンスってわけではないだろうけど…まぁ、意外に似た者同士な二人かもよ。君とベルベット」
「何がまぁだ。バカも休み休み言え。俺とあいつのどこが似てるってんだ」
「素直じゃないところとか、口では文句を言いながら世話焼きなところとか、無理して悪ぶってる時があるところとか」
「アホか」
わざわざ指を折ってまで挙げ始めたガイアの言葉を妄言とばかりにジャグラーはあしらう。
すると彼らがチラチラと自分の方を見ていたのにベルベットが気づく。
「何コソコソ話してるのよ」
「いんやぁ、別に何でもないさ。なあ?」
「ま、まぁ…そうだな」
明らかに怪しんでいるベルベットから意識的に目を反らすガイアを軽く一笑するジャグラー。
そしてコキッと首を回してからゆったりとエレノアに歩み寄る。
「こうして間近で見るとやはり面白い格好だな」
「その言葉バカにしてるんですか?それは確かに私には不釣り合いな格好ですけど」
「誉めてるさ。いいんじゃないか?馬子にも衣装とでも言った感じで」
「やっぱりバカにしてません?それ」
上目遣いのままジト目で睨むエレノア。
期待していたそのままの反応が返ってジャグラーはうっすら笑う。
「先も言ったが改めて言わせてもらおうか。巫女を引き受けてくれたこと感謝する。おかげでとりあえず祭りを行えた 」
「え?あ、いえ、この村の方達の力になれたのなら私にとってもありがたいことです、けど…」
「けど、なんだ?」
「…変わりましたね。ジャグラー、以前の貴方だったらこんな言葉言われるとは想像もつきませんでした」
「揃いも揃って似たようなこと言いやがって…」
「え?」
つい先ほども聞いた覚えがあるだけにジャグラーは苦虫を潰した顔で口走る。だがすぐにそれを打ち消すように新たに言葉を覆い被せる。
「そう言うお前は、変わらないな。良くも悪くも昔のままだ。憎たらしいぐらいに真っ直ぐだ…そんなところが癪に触ったが今となってはまぁ、悪い気はしない」
「ジャグラー!」
「っと、こんな話をしている間に時間になったか」
浜辺から来たナターシャの声に応えるようジャグラーはゆったりそちらへ歩み寄っていく。
どこへ行くのかという疑問がエレノアを始めとする多くの者に浮かんだ瞬間、ジャグラーは立ち止まった。
「これからお前達にいいものを見せてやる」
そう言い残したジャグラーの姿はナターシャと肩を並べて浜辺へと遠退いていく。
「いいものって何のことだろう?」
「何のことでしょう」
ライフィセットもエレノアもそしてガイアも怪訝な目でジャグラーとナターシャの動きを追う。
そしてベルベットも表情の変化こそないが関心はあるようで三人に倣ってこれから始まる何かに意識を向ける。
「おおっ、待ってました!」
「今夜は何を見せてくれるんだい?お二人さん」
先ほどまで別の踊り娘達がいた高台に登った二人を村の男達は囃し立てるように迎える。
送られる声援にジャグラーは梅干しを食べたような渋い顔を僅かに見せつつも、オカリナに唇を当ててる。
~~~~♪
オカリナが音を奏でる。穢らわしい悪の象徴たる業魔のイメージとは天と地ほどかけ離れた優しい音色が浜辺を中心に村の隅から隅まで広がっていく。
聞く者全ての心を穏やかにさせるメロディーに沿って舞う彼女。その姿はさながら天使のよう、見る者全てを虜にする天使がそこにいた。
「…うわぁ」
踊りなど初めて見たのだろう。ライフィセットの目は夜空に照らす一等星に負けない輝きを帯びていた。
「ジャグラーにこんな特技があったなんて」
エレノアもまたライフィセットと同様に釘付けになっていた。自分の知るかつての彼ならば絶対にしないであろう行いを好き好んで行う今いる彼に驚きを禁じえない。
そう顔に出ていた。
「いい音楽だな」
「え…?」
どうしてだろう。
他の誰かが言ってもきっと気にも留めない言葉のはずなのに、何故ガイアから出た言葉となるとこんなにも敏感に反応してしまうのだろうか。
その答えがわからずもやもやした感覚を抱えたまま、エレノアは演奏を眺め続けた。
-まるで楽園だ
業魔が音楽を奏で、人間の娘が音色に合わせて踊り、他の取り巻き達はそれに興奮し沸き立つ。
その光景はある者の心に影響を与えた。
光輝く微笑みを向けてくれた親友を始めとする村人達、時々くだらないだじゃれを言うけれどいつも温かい姉、病気で苦しい体なのに自分の身を案じてくれた優しい弟。
そして…時に厳しくも同じような実の家族みたいに接してくれた頼りになる義兄
(あんなことがなければあたしは今もあんなふうに)
自分が失った物の全てがこの村にはある。業魔と人間が共存している世界で唯一の村
失った過去にはもう戻れない。戻りたいなどと思うのは自分が弱い証拠だ。
それがわかっていても目の前の光景を見るとやはり思ってしまう。そして優しい過去を思い出す度、憎しみが拳を握り、奥歯を噛み締めさせる。
(あの時にはもう戻れない。わかってる、だからこそあたしは必ず復讐する。ニコやライフィセット、あたしから何もかもを奪ったあの男に)
穏やかなメロディーはただ一人、ベルベットの心を癒すことはなかった。
ジャグラーの音楽はオカリナですがガイさんのオーブニカと同じ音楽という設定です