テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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第20話 仲間じゃなくても

三つ角の昆虫業魔グロッサアギトとの戦いが幕を開けた。

 

 

「はあっ!」

 

「せぇい!」

 

 

先に動いたのはベルベットとエレノア。

ブレードと長槍を振るい飛びかかるも、グロッサアギトはその巨体からは考えられない素早さでかわしてみせた。

 

 

「ウィンドランス!」

 

続けて放たれたのは多方向に拡散する青い光の弾と疾く切れ味の鋭い風の刃。

一斉に迫るそれらの攻撃に動ずる素振りはグロッサアギトにはなく、むしろ被弾を省みず突進してきた。

 

 

「かわせ !」

 

「よけろ!」

 

 

流星の如く猛スピードで接近するグロッサアギトの突進を、ガイアとアイゼンは互いを心配しながら真横へ飛んで回避した。

ほんの数秒前までいた地点の土は深く、大きく抉り取られ、破壊力の高さをまじまじと見せつけられる。

 

 

「危なかったな。今のは」

 

「すばっしこい上に頑丈とは面倒な相手だ」

 

 

それだけの破壊力を秘める突進もそうだが、光弾と聖隷術をもろともしないグロッサアギトの頑丈さに二人は肝を冷やす。

 

 

「呑気に言うておる場合ではないぞ!また来るぞ!」

 

『グアアアア!!』

 

 

グロッサアギトは自らの体を回転させて再び突撃してくる。

マギルゥが霊力を圧縮した光の爆発を起こすも、グロッサアギトの侵攻は止まらない。

 

 

「さっきより速いぞ!」

 

「今から回避は無理だ!間に合うか…!」

 

 

ドリルのような恐ろしい回転をするグロッサアギトを目前にガイアは緑のカプセルを銃に装填。

正面に向かって引き金を引いて、光のバリアを盾代わりに自分達の前に形成する。

 

バリアはグロッサアギトの突進を受け止めるが、勢いは殺せずグロッサアギトの勢いは削げない。

ピシピシとガラスに亀裂が入った時に発生するような音を立てるバリア。

それに焦りを覚えてガイアは叫ぶ。

 

 

「防壁が壊れる!これ以上はもたない!」

 

「ジョ、ジョーダンじゃろ~!?」

 

 

マギルゥが狼狽えるがそれで結果が変わるなどありえるはずもなく…

 

そしてついにバリアがガラスの破片のように砕け散り、三人はグロッサアギトの体当たりを諸にくらってしまう。

 

 

「ぐわああっ!」

 

「ぐううっ」

 

「ひょええ~!」

 

ガイアもアイゼンもマギルゥも、三人等しく背中から豪快に木々に叩きつけられる。

受けたダメージが相当でかかったためかガイア達は苦悶の声を溢し、立ち上がることも億劫だ。

そんな三人に追撃するためグロッサアギトは滑空を開始する。

 

その時ベルベットが割って入りグロッサアギトの角を刃で受け止める。

 

 

「ぐっ、うううっ!」

 

 

羽根を推進力として勢いを強めるグロッサアギトの突進に圧されながらも、ベルベットは堪える。

次第に足が後ろへ後退していき、さすがに限界かと思われたところにグロッサアギトに火炎と、白と黒の光弾が命中した。

 

 

「霊槍・獣炎!」

 

「シェイドブライト!」

 

 

エレノアとライフィセットの聖隷術が炸裂し、グロッサアギトの装甲は命中した箇所から黒煙が立つ。

動きが止まった隙を逃さず、エレノアとライフィセットの頭上を飛び越えたロクロウが二刀小太刀を振るう。

 

 

「瞬撃必倒、この距離なら外しはせん。零の型破空!」

 

 

ロクロウがグロッサアギトの真横から斬撃を浴びせ、遠くまで吹き飛ばす。

そのおかげでベルベットも、彼女に間一髪救われた三人も危機を脱することができた。

 

 

「助かった。すまない」

 

「ナイスじゃベルベット!ロクロウもぐっどタイミングじゃったぞ!」

 

「礼なら後、まだ終わってないわ」

 

「気にするな。しかし思った以上に厄介な業魔だなこいつは」

 

 

ガイアとマギルゥから礼の言葉をもらったロクロウは業魔らしからぬ笑みを浮かべた後、グロッサアギトの吹き飛んだ先を睨みつけるように見据える。

 

 

『グワアアア!』

 

 

ロクロウの一撃が効いたのかグロッサアギトは怒りのままに木々を薙ぎ倒し、奇声を上げて浮かび上がる。

 

 

「しぶとすぎじゃろ~。まだピンピンしておるではないか」

 

「さてどうするか…っと!」

 

 

グロッサアギトはロクロウに体当たりを仕掛け、かわされてもなお彼を執拗につけ狙う。

 

「ロクロウにばかり攻撃を…!」

 

「さっきのが相当頭に来たようじゃな~」

 

「丁度いい。俺がこいつの相手をしてる内に策を練ってくれ!」

 

人ならざる業魔の身体能力を活かしてロクロウはグロッサアギトの突進を難なくかわす。

一時ロクロウにグロッサアギトの相手を引き受けてもらい、ガイアとアイゼンはこれまでの戦闘を分析する。

 

 

「あの機動力が相手だ。下手に近づけばかわされてまた攻撃を食らう羽目になる…」

 

「だが接近戦を捨てて術で応戦しようにもあの装甲の前では決定的な一撃を与えられる見込みは薄い。隙を作ろうにもそう簡単にはいかないだろう」

 

「そんな…他に何か手はないのですか?」

 

 

悲観的な言葉しか出てこない状況にエレノアは困惑の色を露にする。

ベルベットも口にはしないが、明確な打開策が思い付かず険しい表情をしている。

 

 

「勝てるよ。皆で力を合わせれば」

 

 

そんな曇りがかった空のように暗い雰囲気に光が射し込む言葉を投げかけたのはライフィセットだった。

 

 

「今なんと言ったのじゃ?ライフィセットや。もう一度よーくはっきり聞こえるよーに言ってくれんかのう?」

 

「どういう意味ですか?ライフィセット」

 

 

マギルゥもエレノアもその言葉を言ったライフィセットの真意が気になり、彼に質問する。

 

 

「僕見てて思ったんだ。皆本当はもっと上手に戦えるはずなのにもったいないって」

 

「上手に戦えてないか…確かにそうだな」

 

「誰かの攻撃に続いたり、同時に攻撃を仕掛けたりはあれど基本個人の力だけでどうにかしようとする考えが頭にあった…全員で協力しようなんて発想自体思い浮かばなかったろう。だが協力する意識を念頭において動けば…」

 

「数は私達の方が上です。ライフィセットの言うように協力してその利点をもっと活用できればさっきより有利な戦いができるはずです」

 

 

ライフィセットの主張を受けてアイゼンもガイアもエレノアも肯定の意見を並べる。

だがそうではない者もいた。

 

「坊よ。それは本気で言っておるのか?ここにいるのは仲間意識の欠片もない利害の一致で一緒にいるだけの連中じゃぞ。そんな連中に力を合わせるなぞできると思うか?」

 

「今回ばかりはマギルゥに賛成ね。あたし達は仲間じゃない」

 

 

マギルゥのみならずベルベットもライフィセットの言葉を否定する旨を告げる。

しかしベルベットは更に重ねてこう続けた。

 

 

「だけど利用できる物を最大限に使えてなかったってのはあんたの言う通りだわ…業魔だろうと聖隷だろうと人間だろうと関係ない。目的を果たすためなら利用できる物はなんだって利用する。それがあたしのやり方」

 

 

あくまでも冷徹な表情を乱さず言うベルベットにガイアは口元を綻ばせる。

 

 

「それならそれで構わないが、ただ利用されるだけってのは割に合わない。こっちも利用する時は利用してやるからな」

 

「勝手にしなさい。別にあんたに利用されようがどうにも思わないし、あたしもそう簡単に使われる気はないから」

 

「ふん、言ってろ」

 

 

利用されることを甘んじて受け入れその上で相手も利用する。

それがこの面子ならではの協力関係の印と言ったところか。

 

ベルベットとガイアのやり取りに、そう内心で苦笑混じりに呟やいたアイゼンはマギルゥを見やる。

 

 

「マギルゥ、お前はどうする?」

 

「…嫌じゃ」

 

「マギルゥ…」

 

 

この期に及んで意地を張るマギルゥにガイアは呆れながら諭そうとする。

だがそれを止めたのは他でもないマギルゥ自身の言葉だった。

 

 

「頼みもまともにできぬ者に力を貸す程儂の力は安くはないぞ。どうしても力を合わせて欲しくば『どうかお願いします。マギルゥさん、あなたのお力添えが必要なんです~』と言うがよい。そうすれば手を貸してやらんこともないぞ」

 

 

かなり上から目線のお言葉だったがそれでもライフィセットは聞けて嬉しかったようで、穏やかな微笑みでマギルゥのご所望に応じた。

 

 

「どうかお願いします。マギルゥさん」

 

「うーむ、いくらか足りておらぬ部分があったが、まあよいじゃろう。ではでは皆の衆、共に一致団結。七人八脚の精神でいくぞ~~!」

 

 

打って変わってすっかり気を良くしたマギルゥは万歳で喜びを示し、感極まった高らかな叫びが森に響く。

 

 

「俺とライフィセットで奴の動きを封じる。まずはそこからだ。ロクロウ、悪いがもう少し踏ん張ってくれ!」

 

「いこう、ガイア」

 

「ああ」

 

 

後半部分をロクロウに向かって大声で告げるとライフィセットとガイアは互いに頷き合うと共に動き出す。

二人が行動を開始したのをグロッサアギトの執念の追撃をやり過ごしながら目撃したロクロウは、彼らに攻撃を委ね自らは回避に専念する。

そして何度目かになる体当たりをかわされたグロッサアギトが旋回のため動きを止めた時

 

 

「重圧砕け、ジルクラッカー!」

 

「シャープネス!」

 

 

ライフィセットの形成した重力場がグロッサアギトを捉えた。

少し遅れてガイアの射出した紫の光も縄の形を為し、脚の一つを絡め取る。

筋力強化の術を自分にかけているため紫の縄の戒めは通常時より強力になっている。

 

 

『グアアアアア!!』

 

 

狙っていた獲物を仕留め切れずそれどころか横槍を入れられたことが腹に据えたのか、グロッサアギトはくぐもった叫びを出す。

力場から脱出するため羽根をはためかせ浮上しようとするグロッサアギトの抵抗に、ライフィセットとガイアは顔をしかめながらも抗う。

 

 

「今じゃ~!伸びろ、伸びろ~!!光翼天翔く~ん!!!」

 

 

霊力を込めた式神を最大限まで伸ばしたマギルゥの一撃がグロッサアギトに決まる。

彼女らしいふざけた技名だがそれに反して威力は凄まじいようで、グロッサアギトはふらつき抵抗が弱まる。

 

 

「続けい!エレノア、ベルベット!」

 

 

マギルゥの合図の元彼女が操る式神の上に乗ったエレノアとベルベットが、グロッサアギトの頭上…上空に向かう。

 

 

「ぐくぅ、くそっ…ここで逃すわけには!」

 

 

その最中、先の攻撃による痛みに襲われたガイアが苦悶の声を口元からこぼす。

銃身を握る手に込められた力が一瞬弱まり、それに伴ってグロッサアギトの挙動が激しくなる。

ぶり返す痛みに堪えながら銃を握るガイアの手にふと大きな手が重なる。

 

 

「持ちこたえろよ。ガイア」

 

「何度も面倒をかけさせるな…ロクロウ」

 

 

ロクロウの支えもあって姿勢が安定し、銃身も固定される。

束縛が強まったせいでグロッサアギトの挙動は緩慢となり、そこにベルベットとエレノアが仕掛けた。

 

 

「容赦しない。消えない傷を刻んで果てろ!リーサル・ペイン!」

 

「参ります、奥義!スパイラル・ヘイル!!」

 

 

重力落下の補助を得た剣と槍から繰り出される一撃がグロッサアギトの体を左右から襲う。

ベルベットとエレノアに切り刻まれたグロッサアギトは浮遊する力をなくしたのか、地に全体を付け倒れた。

だが間もなくして再びグロッサアギトは起き上がり、反撃に出ようとする。

 

 

「いい加減にしつこい…!」

 

「大丈夫だ。次で終わる」

 

「その通りだ」

 

ベルベットの悪態に対してのガイアの言葉に応えるように金貨を指で弾いた音が鳴る。

と同時に二人の中間を黒き衣が颯爽と駆け抜けた。

 

 

「覚悟はいいか?かわせるものなら、かわしてみな!ウェイストレス・メイヘム!!」

 

 

間合いを詰めたアイゼンの拳がグロッサアギトの腹に当たる部分にぶちこまれる。

疲弊していた状態で強力な一撃をもらったグロッサアギトは悲鳴すら上げられず、激しく吹き飛ぶ。

どこまでも宙を漂うと思われたその巨体はやがて結界に接触し、止まるとピクリとも動かなくなった。

そしてその体から禍々しい黒い煙が霧散し、グロッサアギトは普通の虫と変わらない元のサイズに戻った。

 

 

「ふ~とんだ昆虫採集じゃったの~」

 

 

戦いを終えてマギルゥがそう感想を告げる。

その一方でライフィセットは大人しくなったグロッサアギトを手の平に乗せて、ベルベットに頼み込む。

 

 

「この虫連れていっちゃ-」

 

「ダメよ。処分するからどいて」

 

 

ライフィセットの言葉を最後まで聞かずしてベルベットは即答する。

処分するという言葉を実行するべく業魔の腕を解放した彼女だが、何を思ったのか振り上げた腕を下ろさず停止させていた。

 

 

「聖寮が守ってたんだ。殺さずに様子を見た方がいいんじゃないか?」

 

「…」

 

 

背中でロクロウの一言を受けたベルベットは考えた後、業魔の腕で結界に触れた。

ベルベットによって結界は粉々に砕け、破壊した張本人は一度目を瞑るとライフィセットに視線を留めて呟く。

 

 

「ちゃんと面倒みなさいよ」

 

「うん!」

 

 

許しを頂いたライフィセットは気持ちの良い笑顔と眼差しをグロッサアギトに注ぎ、その彼と虫の元に残る男三人が集う。

 

 

「よかったな。ライフィセット」

 

「名前、決めないとな」

 

「新種ならば発見者の名前の付けるのが通例だ。ライフィセットオオカブト」

 

「いやそれならライフィセットオオクワガタだろ。この方がカッコいい」

 

 

-まさかまた

ベルベットら女性組は揃ってこの後の展開が容易に察せられ、そして清々しいまでにその通りの流れになった。

 

 

「あ?さっきも言ったろうが。こいつはカブトだ」

 

「わっかんねぇ奴だな。これはどう見たってハサミだろ、つまりこいつはクワガタだ。大体一年やそこらで死ぬカブトのどこがいいんだよ」

 

「死ぬのはあえてだ。太く短く、それがカブトの生きざまだ」

 

 

このままでは論争に終わりが見えない。

そうとわかりきっていたガイアは二人の会話に割り込む。

 

 

「そんなにクワガタかカブトで揉めるならもう二つ混ぜた名前にすればいいだろ。ライフィセットオオカブガタとか」

 

 

それはガイアからすれば平和な解決策になると思っていた。だが彼の予想に反して現実は違った。

 

 

「それは、ちょっと…」

 

「センスないな」

 

「もう少しマシな名前があるだろ」

 

「語感も悪くて言いづらいでフしね」

 

 

ライフィセットのみならずロクロウにアイゼン、果てはビエンフーにまで酷評されてしまう始末。

 

 

「ライフィセットに言われるならまだわかるがお前らに反論される筋合いはないはずだ。お前達がクワガタだのカブトだの言い争うから考えた折衷案だぞ」

 

「にしたってカブガタはないだろ。名前からしてすごく弱そうな感じがするぞ」

 

「見た目と名前の差が激しすぎる。とてもこの虫に相応しい名前とは思えんな…」

 

「お前らな…」

 

 

情け容赦のない批判の嵐にとうとうガイアも声を震わせて怒りを惜しみ無く前面に出す。

さすがにもう虫の名前で言い争うアイゼン達を見ていられなかったライフィセットが彼らに、自分の考えた名前を言う。

 

 

「クワブト!クワブトはどう?」

 

「クワブトか。悪くない名前だな」

 

「カブガタなどというふざけた名前よりかなりな」

 

他人(ひと)の考えた名前にしれっとそういうことを言うな…!いやまあ、それはそれとして…いいんじゃないか。その名前ならアイゼンもロクロウも納得するだろうし」

 

 

どうやら満場一致でクワブトに決定したようだ。

グロッサアギト改めクワブトと名付けられた虫をライフィセットはキラキラした純粋な目で、名残惜しそうに見つめた後そっと鞄の中にしまった。

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

「やっぱりクワブトって新種なのかな?」

 

「おそらくそうだろう。数々の大陸で様々な虫を見てきたがクワブトのような虫は初めてだ」

 

「明らかに他の昆虫と違うもんな」

 

「初めからこうだったのか、それとも何らかの過程で変異したからこうなったのか気になるな」

 

「生息環境の違いが原因だとしたら樹林にはクワブトのような昆虫がまだ存在する可能性はあるな」

 

「クワブトみたいなのがもっといるの?」

 

「実際に本当にいるか保証はできないがな。だが仮にいたとすればワァーグ樹林の環境が変異の原因ということの証明になる。そうなれば昆虫学会に革命が起こるのは間違いない」

 

「とにもかくにもまずクワブトについてよく調べてみないと。そうだな…まずは普通のカブトとクワガタとの生態の比較をしてみることから始めてみるのはどうだ?そこから何か違いが発見できるかもしれない」

 

「ならばカブトとクワガタが一匹ずつ必要になるな」

 

「花を届けたら後で取りに行くか。虫取りには自信がある」

 

「でもベルベットが許してくれるかな?」

 

「「「……」」」

 

 

ライフィセットの言葉に男性陣一同は頭を捻らせ、皆一斉にベルベットの方を見やる。

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

 

その視線に込められた要求を見抜いたベルベットは当たり前だと言うように、きっぱり否定する。

 

 

「そこをなんとか…」

 

「しつこい」

 

 

それでもなお粘り強く交渉するガイアに付き合っていられないベルベットは彼を冷たくあしらう。

そのやり取りを見届けたエレノアとマギルゥは口を揃えてぼやく。

 

 

「男の人ってどうして皆虫にあんなに夢中になれるんでしょう」

 

「こればかりは儂にもまるで理解できぬわ。ライフィセットはまだしも何故にその他の奴らはあそこまで興奮できるのやら…虫なんぞに浮かれる年頃でもあるまいに」

 

「好奇心に年も人種もない。謎を解き明かしたいその思いは皆等しく持っているものだ」

 

「あ~わかったわかった。もう何も言わぬわ。お主らが暑苦しく盛り上がろうが何をしようが勝手にすればよかろう」

 

 

今のアイゼンを相手に話を長引かせても面倒臭いだけと見なしたマギルゥは適当に話を打ち切る。

利害の一致で組んでいるだけと言いながらも不思議なことに和やかな雰囲気で、レニードに戻るベルベット達。

するとレニードに着くまでに渡る最後の橋を目前にして、反対側から誰かが歩み寄ってきた。

 

 

「よぉ~う、元気かい?」

 

「ザビーダ…!」

 

 

気さくに声をかけてきたザビーダ。

彼の第一声と姿を認識したアイゼンは先の浮かれっぷりを捨てて、ザビーダへと駆け出す。

接近するアイゼンに牽制するように銃口をけしかけるザビーダは彼の気迫に物怖じせず、軽い調子で言葉を発する。

 

 

「おっと、ケンカの相手はまた今度だ。デートに遅れるわけにはいかないんでな」

 

「デート…?」

 

「それはアイフリードの物だ。何故てめえが持ってる?」

 

 

訝しげに眉をひそめるガイアに構わずアイゼンは問いかけをする。

しかしザビーダはそれに真面目に答えはしなかった。

 

 

「拾ったんだよ。どっかで」

 

「茶化すな。ケンカ屋、力づくでも話させる」

 

「ハッ!副長さんよ、あんたは殴られたら口割んのか?」

 

「試されるのはてめえだ」

 

「話したけりゃ話す。殴りたきゃ殴る。それを決めるのは俺の意志だけだ」

 

 

アイゼンと問答を続けたザビーダはそう言って自らのこめかみに銃口を突き付け、迷わず引き金を引いた。

甲高い発砲音がした途端ザビーダは緑色の気を一瞬纏い、ニヤリと不敵に笑う。

 

 

「ちょいとアゴヒゲのかわいこちゃんを待たせてんだよ。終わったら語り合おうぜ…拳でな」

「っ!まちやがれ!」

 

 

それだけ告げて風の力を使って何処かへ消えたザビーダ。

そして逃すまいとそれを追うアイゼン。

 

 

「アイゼン!」

 

「皆に花を渡さないと!」

 

「お前達に任せる!」

 

 

ガイアとライフィセットの声にそう返したアイゼン脇目も振らず、ザビーダの気配を追いかけた。

 

 

「どうするの?」

 

「花を届ける。アイゼンを追うのはその後だ」

 

「なら急ぐわよ」

 

 

念のためガイアに確認を取ったベルベットは返答にそう切り返した。

 

 

「ベンウィック!花を持ってきたぞ!!」

 

 

レニードの船着き場まで駆け足で着き、ガイアは事前にライフィセットから預かっていた

 

 

「リーダー、よかった!…あれ、副長は?」

 

 

待ち望んでいた薬の到着に喜んだのも束の間戻ってきた中にアイゼンの姿がないと知り、ベンウィックは表情を曇らせる。

 

 

「アイゼンは-」

 

「ケンカ屋の聖隷を追ってピューとどこかへ消えおったぞ~」

 

 

ガイアの言葉を妨害する形でマギルゥが代わりに事情を説明した。

それを聞いたベンウィックはマギルゥの緊張感のない口調が癪に触らない程、気がかりなことがあるようで声を荒げてガイアを問い詰めた。

 

 

「その聖隷ってザビーダって奴だろ!何で一緒にいかなかったんだよ!」

 

「壊賊病の仲間を放っておけるか!心配するな。すぐアイゼンを連れ戻しにいく」

 

「ですが追うにしても場所がわからくてはどうしようもないのでは?」

 

 

エレノアの指摘は最もだ。

ザビーダもアイゼンもどこに行ったのかわからない。

これでは連れ戻そうにも、それができない。

 

 

「ザビーダって奴を追ったならたぶんロウライネだ。聖寮に出入りしてる商人から聞いたんだ。メルキオルって対魔士が手配してる聖隷を捕らえるために大がかりな罠を張ってるって」

 

「メルキオルだと…!情報は間違いないんだな?」

 

「ああ、本当だと思う」

 

 

手をこまねいていた時ベンウィックからもたらされた情報と名に、ガイアを始めとする一同はそれらに食いつく。

 

 

(メルキオル…今度は何を企てているんだ?)

 

 

まさかここでメルキオルの名を聞くとは思わず、ガイアは頤に手を当てて考える仕草をとる。

その彼から少し離れたところでエレノアも同様に思案していた。

 

 

(メルキオル様が直接指揮を取るなんて一体ザビーダに何が…いえそれよりも)

 

 

エレノアはライフィセットとガイアを横目で見つめる。

 

 

(この二人をメルキオル様に渡せば聖寮に戻れる)

 

 

アルトリウスの命令が果たせれば晴れて聖寮に復帰できる。

もう裏切り者の汚名を被ることもなく、業魔と一緒にいることからも解放されるのだ。

 

 

「ベンウィック、いつでも船を出せる準備はしといてくれ」

 

 

ガイアはそう指示を下すと、ベルベットに向き直る。

 

 

「メルキオルが待ち構えているなら確実に危険が付きまとう。それでもアイゼンを連れ戻すのに協力してくれるか?」

 

「危険なんて今更よ。それにどうせ断ってもあんたは行くでしょ。あんた達の船長も連れ戻せるチャンスなんだから」

 

「アイフリードを?」

 

「アイゼンだって何も考えず一人でザビーダを追いかけるなんてしないはずよ。それでもそうした理由なんてアイフリードしかないでしょ」

 

 

言われて初めてその可能性に至ったガイアは確かに…と頭の中で納得した。

 

アゴヒゲのかわいこちゃん、ザビーダはそう言っていた。

アイフリードの武器を所持していたことといい、ザビーダはアイフリードとどこかで面識があったのは明白だ。

だとすればアゴヒゲのかわいこちゃんとは、おそらくアイフリードを指している。

あの時点でそれにいち早く気付いたこそあえてアイゼンは誘いに乗ったのだろう。

 

アイフリードの行方を知る数少ないチャンスを逃すまいとして

そしてアイフリードの安否が心配なのはガイアも同じ。

ガイアにとってもアイフリードは自身に大きな影響を与えた人物だ。

聖寮に囚われているのなら何としても助け出したい。

 

 

「どうするのじゃ?行くのか行かぬのかはっきりせんと間に合わなくなってしまうぞ~」

 

「そうだな…悪いが、もう暫くアイフリード海賊団(俺達)に付き合ってもらうぞ」

 

 

 

こうしてベルベット達と共にガイアもロウライネの塔を目指す。

 

 

 

 




誤字報告や感想などありましたら、お気軽にお願いします!


以下、戦闘終了後の掛け合いです。
今回の話を考えてたら思い付いたので、書いてみました


ロクロウ「来るなら来い、まとめて斬り倒す!」
ガイア「来るなら来い、まとめて撃ち倒す!」
マギルゥ「来るなら来いっ、まとめて笑い倒す!」

ロクロウ・ガイア「「台無しだ…」」

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