テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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2017年最後の投稿になります。

来年もこの作品を書き続けていきますのでよろしくお願いします。



第18話 壊賊病

サウスガンド領へ進路を取るバンエルティア号。

波風に両側を結った髪を揺らすエレノアはある光景を見ていた。

 

 

「進路はどうだ。ライフィセット」

 

「大丈夫。この方向で合ってるよ」

 

「そうか。何か問題があれば遠慮なく言え。この船の舵を握っているのはお前だ」

 

「任せて。僕がちゃんと皆をイズルトに着けるようにするから」

 

「大した心意気だ。そこまで言うなら心配ないだろうが、もし間違えたら承知しないぞ。気を緩めるなよ」

 

 

羅針盤を片手に進路を確認するライフィセットと彼を激励するアイゼン。

エレノアが捉えていたのはその両者だった。

 

 

「そんなに珍しいか?あの二人が。さっきからじっと見て」

 

 

ふと後ろから聞こえてきた声。

エレノアがそちらに目をやると彼女が想定していた通りの相手が、ガイアの姿があった。

彼に向けた視線を一旦切ってまたライフィセットとアイゼンに移したエレノアは暫し、間を置いてガイアに口を開く。

 

 

「彼らは最初からああなのですか?…初めからあのように彼らは自分の意思を持っていたのでしょうか?」

 

「…そうだな。二人共最初から意思があった…いやアイゼンはそうだったがライフィセットは違ったな。初めて会った時からあんな風にはっきり自分の感情を表に出していたわけじゃない」

 

 

エレノアの問いかけにそう答えたガイアは出会ったばかりのライフィセットの顔を思い浮かべる。

 

 

「ライフィセットが聖寮の使役聖隷だったのは知っているだろう?会って間もない頃は感情を表現することもなかったし喋るなと言われたら本当に何も言わなかった。文句一つ何も」

 

 

テレサに付き従っていた時からライフィセットは無機質な表情しか作らなかったし、どんな命令にも抗わず従っていた。

 

「それが今じゃあんな風に自然な笑顔を見せるようになったの本人の中で色々な要因があったろうが、たぶん一番は名前を与えられたことだろうな」

 

「名前…?」

 

 

エレノアの反復にガイアは頷く。

 

 

「二号なんて味気ない名前よりよっぽど意味のある名前を与えられてからライフィセットは大きく変わった。死んでいたも同然の扱いを受けていた使役聖隷だった時よりずっと生き生きしてる」

 

「聞き捨てなりませんね」

 

 

温かい声色で語るガイアだったが、彼の言葉を黙って聞いていたエレノアに反発されてしまう。

 

 

「私達対魔士は聖隷に不当な扱いなどしていません。聖隷がなくては対魔士は業魔と戦うことはできない。だからこそ私達は聖隷を貴重に扱っています」

 

「道具として貴重に、だろ」

 

 

エレノアの言葉を制してガイアは低くそれでいて力強く否定する。

 

「例え聖隷が意思を持っていた事実を知らなかったとしても聖隷を道具として扱い利用していたのも事実。最期の時まで意思を封じられたまま命を散らした聖隷達の前でその言葉を堂々と言えるか?」

 

 

真っ直ぐ見据えエレノアを映したガイアの瞳は彼女を通して別の存在を被せていた。それはかつての自分。

昔聖寮のいた頃の自分とエレノアは瓜二つだ。

聖寮の教えが世界の真理と信じ、まるで疑わおうとしなかった。

見えていた世界の姿を本当の意味で理解していなかったのだと、今の彼女を見ていると改めて実感させられる。

 

 

「…アルトリウス様の理想のためです。人々が幸せに暮らせる世界を、災厄のない世界を作るアルトリウス様の理想の実現するためにはやむを得ないことです」

 

「その理想を実現するためになら聖隷がどうなろうと構わない…ずいぶんと優しい救世主様だ」

 

「あなたのような無法者の海賊にはわからないでしょうね。アルトリウス様のかがげる理がどれだけ多くの人の希望になっているか」

 

 

あからさまな敵意の込めて鋭く睨みつけるエレノア。

話に踏ん切りがついたと見なしたエレノアはガイアの横を通り抜けるが

 

 

「使役聖隷はどうした?」

 

 

エレノアが完全に体を横切る前にガイアからそう訊ねられた。

その質問の意味を察した途端、彼女は微かに体を震わせた。

思い出したのだ。かつて志しを同じくした者によって自身の使役聖隷をなくしたことを

 

 

「これまでの戦いでお前は本来使役していた聖隷を出すことはおろか素振りすら見せなかった。何故だ?」

 

「その質問に答える義務はありませんよね」

 

 

一度は止めた足を動かし、ガイアから離れようとする。

だが不意にエレノアの左手を温かい感触が包み込む。

 

 

「え…」

 

 

左手から伝わる感触にエレノアは目を張り、その正体を探る。

真っ先に見えたのは彼女の手を握るもう一つの手。

エレノアが目線を上げると、その手を伸ばしていたのはガイアだった。

 

 

「大事なことだ。これから背中を預けることになる以上は戦力の確認は欠かせない。だから、教えてくれ」

「え、あ、はい…」

 

 

思いも寄らぬ相手が意外な行動を目の当たりにしてエレノアは当惑しながら、浮いた返事をするしかなかった。

一拍間を置いて落ち着いたエレノアは呼吸を整えてから、語りかけた。

 

 

「ご推察の通り今私の聖隷はライフィセットだけです。以前使役していた聖隷は紛失しました」

 

「失った原因は?」

 

「それは……業魔に奪われました」

 

 

薄々予想していた回答だった。

ガイアは思考の海に浸かり、考え込む。

 

(やっぱり使役聖隷を失っていたか…離宮ではベルベットもロクロウも使役聖隷を殺していないはずだ。なら殺したのはもっと別の業魔…一等対魔士の使役する聖隷を殺せる強力な業魔が他にいるのか…)

 

 

そうガイアが考えを巡らせていると

 

 

「あの…もういいですか?」

 

「どうした…?」

 

「ですから手を離してもらえますか?」

 

「あ、ああ。すまない」

 

「い、いえ」

 

 

指摘されて初めてエレノアの手を掴んでいたのに気付いたガイアはパッと素早く手を離し、そっぽを向く。

エレノアもまた気まずそうな素振りをしていた。

そのままどちらも動かず静寂が流れる。

 

 

「全員緊急体制ー!!」

 

 

居心地の悪い空気の中ベンウィックの伝令が勢い良く駆け抜けた。

 

 

「一体何事ですか?」

 

「アイゼンに話を聞く。一緒に来い」

 

 

戸惑うエレノアを連れ添ってガイアは階段を下りる。

そしてアイゼンやベルベットなど海賊員を抜いた全員が集まっているのを見ると、そこに合流して状況の確認を行う。

 

 

「何があった?」

 

「壊賊病だ。さっき三人倒れた。三日前に最初の兆候が見られた」

 

「三日前…そんだけ前に発症してるならここにいる全員が…」

 

「おそらくな。エレノア、お前はどうだ?体の不調を感じないか」

 

「いえ問題ありません。ですが何故私だけに聞くのです?そもそも壊賊病とはどのような病気なのですか?」

 

「壊賊病とは-」

 

 

アイゼンが答えようとするとそれを遮ってマギルゥ代わりに説明する。

 

 

「原因不明の高熱を発し最後は砂のごとく崩れて死ぬという奇病じゃ。かつて四海を制した海賊団の船で流行し、一味が全滅したことから『壊賊病』と呼ばれるようになったとか色々言われておる。空気中の塩分濃度が関係しているとも、海水に住む微生物のせいとか原因は未だに不明な病じゃが何故か人間にしか感染しないのじゃよ」

 

 

懇切丁寧に語るマギルゥのおかげで壊賊病について理解したライフィセットは、説明を聞く中で生まれた疑問を素直に言葉にした。

 

 

「人間しか発症しないならマギルゥやガイアもじゃないの?」

 

「ハッ!?そうであった!なんという悲劇、こんなところで死んでしまうとは~」

 

 

楽観的な声色で大げさな仕草でへこたれるマギルゥ。

そんな彼女に誰も心配を寄せることはなくむしろ

 

 

(マギルゥ(こいつ)が奇病で死ぬなんて天地がひっくり返ってもありえない)

 

 

そう確信めいた思いを持っていた。

 

 

「少しでも体調が変だと感じたら言ってくれ」

 

「それはあんたもよ。あんたも感染するかもしれないんだから」

 

 

エレノアを気遣うガイア。

ガイアの感染を懸念するベルベットはそうはっきり告げるが、彼はきっぱりその可能性を否定する。

 

 

「俺は平気だ。そういうのには耐性がある」

 

 

根拠のない言葉であったがベルベットはそれ以上追及せず、話す相手をアイゼンに変更する。

 

 

「治す薬はあるの?」

 

「もちろんだ。海賊病にも特効薬がある。今進路を変えてそこに向かっている…」

 

「ここから近いのか?そこは」

 

「ああ…」

 

 

そこでアイゼンは一時ある人物の顔を伺った後、その場所を口にする。

 

 

「レニード港だ。壊賊病の特効薬サレトーマの花はそこで手に入る」

 

 

レニード、その地名に縁がある二人が驚愕に目の色を変えたのはほぼ同時だった。

 

 

 

--------

 

 

 

「奴らはレニードに向かうようだ。今しがた報告があった」

 

 

海を隔てたローグレスの聖寮本部にてメルキオルとゼブブは秘密裏に集まっていた。

 

 

「レニード、面白いところに足を運んだな。よもやアレの存在に気付いたのではないか?」

 

「いやどうやら思わぬ事故があったようだ。報告を聞く限り、レニードに向かうことは奴らも想定していなかったと見える」

 

 

顎髭に手を添えるメルキオルの返事にゼブブは両腕を後ろに回し呟く。

 

 

「ゼブブ…少々手を貸してはくれぬか」

 

「ほう、お前が自ら儂に協力を申し出るとは珍しい。一体どんな無理難題を押し付けられることか」

 

「単純な人探しの延長だ」

 

「…なるほど。そういうことならば喜んで協力させてもらおう」

 

 

メルキオルが画策していることにおおよその見当がついたゼブブはこれから起こるであろう未来に、口角を少し吊り上げた。

 


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