テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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ベルセリアの設定資料集は買っていたのにゼスティリアの設定資料集は買っていないことに気付きこの間買いました。
ゼスティリア発売から何年経ってるんだろうと思いましたが、ベルセリアももう一年経ってたんだったなと時間の早さを思い知らされました


第15話 號嵐(シグレ)を追い求める剣士

大太刀を背負うがっちりと筋肉の引き締まった体格をした剣士。

刀斬りを撃破したと思われたその背中にエレノアは驚愕の声を上げた

 

 

「特等対魔士。シグレ様!?」

 

「お、久しぶりだなエレノア。なんだお前、業魔に捕まったか?それとも裏切ったか?」

 

「い、いえ…これは…その…」

 

 

底知れぬ強さを感じさせる風格に似合わぬ気さくな笑顔を浮かべるシグレ。

事情を説明したくともベルベットらがいる側ではそれも叶わず、エレノアは尻すぼみになり言葉を濁らせる。

しかしシグレは彼女の様子を気にかけるわけでもなく、興味なさげにさらっと話題を変えた。

 

 

「まあどっちでもいい。好き勝手やってる俺が言えた義理じゃあないわな…しっかし今日はついてる。いつにも増して騒がしいと思ってきてここに来てみれば、ばかでかい巨人がいるとはなぁ…しかもおまけに征嵐にまで出会えるときたもんだ。こんだけ盛りだくさんな日はそうそうないぜ」

 

 

その言葉に嘘偽りはないようでさも嬉しそうにシグレは白い歯を剥き出しにして、無邪気に笑う。

相方のそんな可愛げのある横顔を見上げる猫聖隷ムルジムは名残惜しさをほのかに感じていたものの、シグレに告げた。

 

 

「シグレ、なんかさっきからこっちを睨んで子がいるわよ。無視しちゃ可哀想」

 

「悪い悪い。昔から弟をいじめるのがクセでな、なあロクロウ」

 

「シグレ…」

 

 

ムルジムに指摘されたシグレと目を合わせたのはロクロウだった。

彼は敵意を剥き出しにしてシグレを仇敵を見るような瞳で睨み付けている。

 

 

「弟?」

 

「変わらないなシグレ」

 

「バカ野郎、メチャクチャ強くなってるっての、この近くにいたんなら見てたろ…俺が巨人を斬り伏せたのを。そっちこそ相変わらず俺を斬るなんてできもしないことを考えんのか?」

 

「ロクロウが斬りたい相手ってお兄さんなの?」

 

「こっちもあの時とは違うぜ…ライフィセット今度は手を出すなよ」

 

 

驚くライフィセットにロクロウは忠告し二刀小太刀を手に、刃先をシグレに向ける。

揺るぎない敵意を宿した赤い瞳を見たシグレは弟の変化に気づいたようだ。

 

 

「おお、お前業魔になったのか、そりゃあおもしれえ!」

 

 

およそ対魔士とは思えない反応だ。

弟が討伐すべき対象たる業魔になったというのにシグレは口元に笑みを保っている。

 

 

「だがよ結果まで変わるかな?俺の號嵐(真打ち)號嵐(影打ち)を折られてしょんべん漏らしたあの時とよ」

 

「…後悔しろ、あの時オレを殺さなかったことをな!」

 

 

どちらともなく間合いを詰め両者の刀が中間で混ざり合う。

それを機にロクロウもシグレも己の技と剣を己の兄弟にぶつける。

 

 

「弐の型醍地!」

 

 

ロクロウの突き立てる二刀小太刀をシグレは大太刀を片手で難なく振るいいなす。

剣技が弾かれたことに動揺を覚えずしてロクロウは一がダメなら二の技、二がダメなら三の技と続けざまにランゲツ流を仕掛ける。

洗練された冴えたわる技の応酬を繰り出すロクロウ。

息をもつかせぬ果敢な猛攻だと観戦するライフィセット達は評価するが、受け手になっているはずのシグレは何食わぬ涼しい顔を保っていた。

 

 

「どうした?業魔になってもあん時とは変わんねえってことか?違うだろ?本気でかかってこいよ」

 

「ああ、望み通り全力でお前を斬ってやる」

 

「いい悪い顔だ。その意気でこい」

 

 

シグレの刀より走った衝撃波が土を抉り真っ直ぐロクロウに向かう。

特等対魔士の地位に身を置く者なだけあって常人には到底出し得ない力がロクロウに迫るが、彼もまた常人を越えた存在。業魔である。

冷や汗をかかずかわすと、衝撃波が後方へと抜けたと直感するよりも彼の体はシグレへと進んでいた。

 

 

「うおおお!」

 

 

足元を凪ぐ大太刀を跳躍で回避しロクロウはシグレの頭上を飛び越える。

-とった!

ロクロウは一点の曇りもなく自らの勝利を確信した。

着地と同時に体を捻って二刀小太刀の一閃でシグレの首を斬り落とす。それで終わりだった。

相手がシグレでなければ

 

 

「何!?」

 

 

ロクロウの二刀小太刀はシグレの皮膚に触れるか否かの位置で停滞していた。渾身の一撃は大太刀によって防がれたのだ。

しかもシグレは小太刀に一瞥もくれずに己の直感のみで防御を成功させてしまった。

さしものロクロウもこれには愕然とし、その口元から驚愕の声が溢れる。

 

 

「やるじゃねえか業魔になっただけはあるな。だが残念だったな。これぐらいじゃ俺の首はとれねえ」

 

「ぐうう…おわっ!」

 

 

シグレの反撃にロクロウは咄嗟に飛び退いて反応し小太刀で刀身を受けてみせたが、むなしくもその体は宙に舞い地面に激突する。

零距離に等しい間合いからの斬撃でありながら、その身に刀傷を負わずに済んだのは業魔の為せる業とでもいうべきだろう。

しかしそれでロクロウに勝利が傾きはしなかった。

 

 

「これでしまいだな」

 

「くっ…」

 

 

全身を地に付けたロクロウにシグレが大太刀を突き出す。

切っ先は目と鼻の先にありシグレがその気になれば、すぐにでもロクロウを殺せる程に近い。

 

 

「ロクロウ!」

 

 

ロクロウを助けたい、何とかしたいというライフィセットの思いが体を動かした。

だがそれは彼自身の体ではなく

 

 

「え!?体が、勝手に!?」

 

 

エレノアだった。

金縛りをかけられたような強制力が彼女を蝕み、彼女の意思に反した行動をとらせた。

抗えず槍を手にロクロウの加勢に入るエレノアだが、そこに短刀が投げ込まれ彼女は柄の部分で身を守る。

 

 

「きゃ!」

 

「邪魔するな!」

 

 

業魔の証明たる右目を高ぶる感情によって赤く光らせたロクロウはエレノアに激昂し、再び小太刀でシグレに斬りかかる。

だがシグレはこれ以上斬り合う気はないのか、刀を肩に担いでロクロウに言い放つ。

 

 

「今日はここまでだ」

 

「シグレぇぇ!」

 

 

冗談ではないと言わんばかりにロクロウは疾走を続けるがシグレは顔色一つ変えずに、大太刀を彼に差し出すように宙に置く。

 

 

「はやるな。今のお前が強え刀を持ったら面白ぇと思ったのさ。そこのじいさんに打ってもらえ。で、もういっぺんやろうや」

 

「じいさん?」

 

「そこの業魔はクロガネって言うのよ。征嵐の刀鍛冶よ」

 

 

シグレとムルジムは件の刀斬り業魔を一瞥して、更にこう続ける。

 

 

「この先のカドニクス港で待っててやる。俺を倒さねぇと島からは出られねぇぜ」

 

「勝手なことを!」

 

「気に食わなきゃかかってきな」

 

 

ベルベットの反論にシグレは大太刀の素振りにより、引き起こした風圧をもって答える。

砂塵が飛び上がりベルベット達は腕で庇うように視界を隠し、突風が納まるのを待つ。

そんな彼女達をシグレは高らかに笑う。

 

 

「はっはっは!精々精進しろ業魔共!」

 

「シグレ様!私は特命を-」

 

「ああ、エレノア…お前マジで裏切りやがったんだな。次に会ったら叩き斬る」

 

 

弁解を試みるエレノアをシグレは拒絶し、ムルジムを連れて洞窟内へと去っていく。

不可抗力であるといえども、シグレを攻撃してしまったのだから何を言ったところでどうしようもない。

そうわかっている。

頭ではわかっているのだがそれだけにシグレの言葉はエレノアの対魔士としての心に傷を負わせた。

 

 

「……」

 

「エレノア、僕」

 

 

うつむき黙りこくるエレノアにライフィセットが謝罪の言葉を口にしかけた時、アイゼンとマギルゥそしてガイアが合流した。

ローブはところどころ黒焦げて穴が空き、アイゼンに肩を借りているガイアにライフィセットが目を向けるとマギルゥが言葉を発した。

 

 

「なんじゃお主らまだこんなところにおったのかえ?ずいぶんとのんびりしとるの~」

 

「何があった?」

 

 

辺り一面の光景に目を走らせたマギルゥとアイゼンの質問にライフィセットは一から説明しようとするも、ベルベットがそれを遮り代わりに質問で返す。

 

 

「それが-」

 

「後で説明するわ。ガイア、古文書は無事よね?」

 

「ああなんとかな…」

 

「ならいいわ。次からは気を付けなさい。代えがあるわけじゃないんだから」

 

 

ガイアが懐より取り出した無傷の古文書を見てベルベットはひとまず安心する。

古文書は未知の存在たるカノヌシを知る手がかりかもしれないのだ。

そう易々と失ってはしゃれにならない。

 

 

「お前達この男の連れだろう。ついて来い」

 

 

ベルベットがそう思ったのと刀斬り業魔クロガネが話かけてきたのはほぼ同時だった。

 

 

「ついて来いって?」

 

「来ればわかる」

 

 

クロガネの先導で一行はヴェスター坑道を進む。

坑道として使われているだけあって整備も行き届いていて、通路の端に置かれた数多の水晶が窮屈な道筋を照らす。

いくつもの狭苦しい道を通って行き着いた場所は様々な刀と鍜冶器材が広がる工房のようなところだった。

 

 

「すごい…刀がこんなに…」

 

「伝説の刀鍜冶クロガネは號嵐に勝つために生き永らえてたんだな」

 

 

散らばった様々な形状と紋様の刀にライフィセットとロクロウは感心の声を出す。

 

 

「そうだ。俺は全て捨て號嵐を超える刀を打つことだけを考え続けた。そして気付けば-」

 

「業魔になっていた…か」

 

「貴様も號嵐の継承者…兄を斬りたいがためにその身を堕としたと見える…」

 

「同じ穴の狢だ。俺にお前の刀を預けてくれないか」

 

 

ロクロウはそう提案を持ちかけた。

永きに渡る年月を経ても尚號嵐を超える刀を造り続けた刀鍛治に

 

 

「何十、何百と刀を打ち続けてきたが結局號嵐を超える刀は造れなかった…そんな俺の刀を求めるのか」

 

 

クロガネは地べたに無造作に散らばる己の作品を見下ろして言う。

クロガネの手によって打たれた品々を見たロクロウは何の掛け値なしの賛辞を送る。

 

 

「もちろんだ。何十年経ってもお前は刀を打ち続けている。お前はまだ折れていない」

 

 

負けることは恥ではない。

敗北したからと言ってそこで終わってしまったらそれこそ意味がない。

ロクロウの業魔の証拠たる紅い瞳がそう訴えているのをクロガネは見抜いた。

 

 

「お前になら任せてもいいかもしれんな」

 

 

ロクロウの姿勢に感銘を受けたのかクロガネは彼の要求に応じた。

 

 

上の方(・ ・ ・)でいいな」

 

「ああ。腕さえあれば打てる」

 

「破ッ!」

 

 

了承を得るなりロクロウはクロガネの首を斬り落とした。

これにはライフィセットやエレノアも肝を冷やした。

 

 

「な、何をするんですか!?」

 

「慌てるな。刀の素材(・ ・ ・ ・)を斬り離しただけだ」

 

 

狼狽えもせず整然とした物言いにエレノアとライフィセットは眉を吊り上げる。

するとロクロウの言葉を裏付けるようにクロガネは頭を失ったというのに、何不自由なく立ち上がった。

 

 

「そういう業魔だったのね」

 

最初から意図があってのことだろうと踏んでいたベルベットは腕を組んで、府に落ちたように呟く。

ライフィセットもクロガネが無事だと分かり安堵から大きな息を吐いたが、ロクロウの言葉を振り返った途端また驚きの感情がぶり返す。

 

 

「この頭を刀にするの!?」

 

「ああ、恨みの塊であるこれ()で號嵐・影打ちを打ち直す」

 

「待て、これは昔の弱い心を忘れないための戒めにすぎん。俺はシグレに勝つためにランゲツ流の裏芸二刀小太刀を磨き上げてきたんだ」

 

「……わかった。お前のために短刀を打とう」

 

ロクロウの主張を受け入れたクロガネは自らの頭部を抱えて作業台へ移動し、愛具を手に刀の精製に取りかかる。

金槌で刀を作り始めるクロガネを重たい眼差しで見守るロクロウ。

彼らの邪魔になってはならないと、ベルベット達は工場を出てすぐのところで小休止をとることにした。

それぞれが距離を置いて刀の製造を待つ中、ライフィセットは不自然な座り方をするガイアに気づいた。

 

 

「あっ…!」

 

 

気になって注視するとガイアの左腕から地面へ滴り落ちる赤いどろどろした液体が見えた。

慌てて駆け寄りライフィセットはガイアの容態を気遣う。

 

 

「血が出てるよ!」

 

「ライフィセット…平気だ、これぐらい」

 

「待ってて、すぐ治すから!」

 

 

ライフィセットの掌から迸る穏やかな光がガイアの左腕に照射され、傷口を塞いでいく。

 

 

「すまない…っ!?」

 

「まだどこか痛むの!?」

 

「いやもう大丈夫だ。ありがとう」

 

 

左腕の傷は完治したはずなのにガイアの口から漏れる苦悶の声。

心配するライフィセットにひたすら回復の必要はもうないと拒むガイア。

その様子を見かねたベルベットはひとしきり深く呆れた息を吐くと、ガイアに近付きその背中を叩く。

 

 

「っっ~~~~!!?」

 

 

雷撃のように激痛が全身を一瞬で駆け巡る。

せめてもの抵抗か歯を食い縛り叫び声を上げなかったが、ガイアはピクピクと小刻みに震えていた。

必死で堪えているのは誰の目からも明白だ。

 

 

「これのどこが大丈夫なの?」

 

「…これぐらいどうってことはない」

 

「へぇ、ならもう一度同じことしても平気なわけね」

 

「……」

 

 

意地らしく脅迫してくるベルベットにガイアはぐうの音も出ず黙りこくる。

 

 

「まったく自分の体のことぐらい自分で管理しなさい。わかったらさっさとライフィセットに診てもらいなさい」

 

 

ベルベットの進言にやむなく従うしかないガイアはもう一切の文句を吐かなかった。

 

 

「背中が痛む。ライフィセットもう一度治してくれるか?」

 

「もちろん!」

 

(背中…?)

 

 

ガイアの言葉にベルベットは訝しむように眉を上げる。

 

 

「大変でふ~!船着き場にいた一等対魔士が大勢向かってくるでフ~!!」

 

 

ちょうどその時何処かへ行っていた様子のビエンフーが騒がしく、大声を上げて戻ってきた。

 

 

「シグレは港で待つって言ってわ。となると…」

 

「一等対魔士の独断か。シグレの意図でないにしても面倒なのは変わらないが」

 

「裏切り者エレノアを粛清するって言ってるでフ~!」

 

ガイアとベルベットが呟く中ビエンフーが興奮気味にまくし立てる。

 

 

「粛清…」

 

 

同じ志を持つ仲間であるはずの対魔士に命を狙われる現実に心を痛めるエレノア。

彼女の意に反して物事は動き、ベルベット達は迎撃に出る。

 

 

「迎え撃つわよ」

 

「俺も行こう…」

 

やりきれなさが出ている表情のエレノアにガイアは言葉をかけず、立ち上がろうとする。

 

 

「あんたはここにいなさい。本調子じゃないのに来られても足手まといになるだけよ」

 

「心配するな。もう-」

 

「俺達だけで充分だ。手負いの手を借りる必要はない」

 

 

ベルベットだけでなきアイゼンにも制されガイアは二の句を口にすることなく、視線を落とす。

引き下がったガイアに数秒程目を留めたベルベットはエレノアに指示を下した。

 

 

「あんたは来なさい。誓約なんでしょ、あたしの指示には従いなさい」

 

「…わかりました」

 

 

反抗というよりかは傷心の色を強く見せるエレノアであったがベルベットやライフィセットの追随して、一等対魔士を迎撃に出る。

彼らの姿が見えなくなるとガイアは唇を強く噛み、拳を岩壁に打ちつけた。

マギルゥは腰に手を当ててそんな彼を退屈そうに眺めていた。

 

 

 




アスタリアの学園衣装マギルゥさんがかわいいけどキツい
似合わないわけじゃないんだけどなんか、なんか違う…

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