テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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感想並びに評価を下さりありがとうございます!
これからも精進していきますので何とぞよろしくお願いいたします!


第11話 風のザビーダ

「離宮の地下に巨鳥の業魔が?」

 

「ああ、怪獣並みの大きさの鳥が結界に封じられていた」

 

 

ゼクソン港の街角でガイアとアイゼンは声を潜めて話し合う。

ガイアが離宮を離れた頃ベルベット達は最下層まで逃亡を謀ったギデオン司祭を発見した。

だが彼女達がギデオン司祭を視界に納めた時にはその体は既に息絶えていた。

グリフォンのような巨鳥の業魔がギデオン司祭を嘴で貫き、白衣を鮮血に染め上げたというのだ。

幸いにも聖寮の張った結界の外にベルベット達はいたために、ギデオン司祭と同じ末路を辿ることはなかったようだが、この一件で新たな謎が一つ生まれた。

 

 

「なんだって聖寮はそんな業魔をこのローグレスに隠しているんだ…?」

 

 

安全と信じきっている街中の、それも聖寮の管理する施設に大型の業魔がいる。

その事実を知ればローグレスの人々は蜘蛛の子を散らすように、大混乱に陥るであろうことは想像に難くない。それだけ人々は業魔の存在を恐れているのだ。

 

 

「わからん…だが余程見られては不味いもののようだ。あの対魔士も業魔の存在を知らなかったようだ」

「対魔士、それってまさか…」

 

「離宮でギデオンを庇ったあの女対魔士だ」

 

「やっぱりあの後アイゼン達を追ってたのか」

 

「安心しろ。殺してはいない、余計な危害も加えていない」

 

 

それを聞いてガイアは安堵し、そっと胸を撫で下ろす。

 

 

「あれが以前お前の言ってた幼なじみか」

 

 

アイゼンの問いかけにガイアはこくりと頷き眉を細める。

 

 

「できれば会わずにいたかった…彼女にとっての幼なじみはもういないんだ。だから無関係なままでいればよかった」

 

「しかし思惑に反して出会ってしまった…皮肉な話だな」

 

「ほんとだよ」

 

 

ひとりごちるガイア。淡白な口振りとは裏腹に表情は険しく、アイゼンは彼の心中を汲み取った上でこう言い出す。

 

 

「今回は殺さずに済んだが次もまた同じ選択が取れるかはわからん」

 

「わかってる…いずれまた戦うことになる。間違いなく」

 

「なら俺から言うことはない」

 

 

突き放したような物言いだがそれが彼なりの気遣いだとガイアは知っている。

無言の感謝を心中で送りつつ、姿なき幼なじみに思いを馳せる。

 

 

(ノア…今の僕を見て君はどう思った?)

 

「副長!リーダー!」

 

 

そこにベンウィックがやって来てアイゼンとガイアの目前で足を止める。

 

 

「何かわかったか?」

 

ベンウィック達アイフリード海賊団の一員らには現在アルトリウスのいる聖主の御座に関する情報収集及び偵察を依頼していた。

きっと進展があったのだろう

 

 

「それがペンデュラムを使う聖隷がいたんだ」

 

「何?」

 

 

アイゼンの目付きが一変し眉間に皺を寄せる。

その彼とは対照的にベンウィックはいささか興奮気味で捲し立てるように話を続けた。

 

 

「しかも検問の対魔士を全員ぶっ飛ばしたんだ。あいつなら船長ともやりあえる」

 

「わかった。俺が直接行って確かめる。ガイア、ベルベット達には」

 

「説明しとく…ただなるべく暴走しないように」

「わかっている」

 

 

ガイアに後を任せたアイゼンは聖主の御座があるとおぼしき方角へ駆け出す。

ほとほと心配になりながらもガイアは腕を組み、思案する。

 

 

「その聖隷がアイフリードと互角ならランクはアイゼンと同じ。協力を結びつけることができればAランクの聖隷が四人揃う」

 

 

タバサからの情報によれば聖主の御座の周辺に張られた結界を破るにはAランクの聖隷が四体必要とのこと。

こちらの手元にはライフィセット、アイゼン、ビエンフーの三人。つまり後一人ランクAの聖隷が必要になる。

ベルベットは対魔士から奪えばいいと言っていたが、わざわざそんなことをする必要はなくなるかもしれない。

 

 

「なら船長のことを聞くついでに協力してもらおう。まさに一石二鳥だ」

 

「それはそうなんだが…」

 

「なんか困ったことでもあんの?」

 

「アイゼンってああ見えて暴走しがちなところあるだろ?」

 

「確かに…口が聞けなくなるまで相手がボコボコにされてなきゃいいけど」

 

 

ガイアとベンウィックが二人揃って不安な予想していると、ちょうどそこにベルベット達が情報の進捗状況を訊ねるために歩み寄ってきた。

 

 

「ちょっと何どうしたの?」

 

「アイゼンが先走って検問に向かった」

 

「マジかよ」

 

「困ったの~鍵が一本脱走したぞ」

 

 

ベルベットの質問に隠し事なく簡潔に受け答えたガイアにロクロウとマギルゥは、率直な感想を口からこぼす。

何故そんな行動に出たのか、と気になるベルベットの顔を見たガイアは彼女が訊ねるより早く口火を切る。

 

 

「アイゼンは聖寮の検問を襲ったペンデュラム使いの聖隷を探しに行った」

 

「ペンデュラムは船長が行方不明になった現場に落ちてた武器なんだ」

 

「そいつが連れ去ったってこと?」

 

「わかんないよ。でも無関係とは思えない」

 

「なるほどな。それでアイゼンは自分の船長を連れ去ったのがその聖隷かどうか真偽を確かめようと検問に向かったわけか」

 

 

会話の流れを総括したロクロウにガイアは正解だと言わんばかりに首を縦に振る。

 

 

「ウチの船長の失踪にその聖隷が関わっているにしてもそうでないにしても、聖寮の検問を襲撃したのなら聖寮を敵対視していると考えていい。上手くいけば結界の破壊に一役買ってくれるかもしれない」

 

「そうね…どっちにしてもまずアイゼンを追うのが先、急ぐわよ」

 

ベルベットの賛成が得られたというわけで一行は早速行動に出る。

 

「情報助かる。ベンウィック、バンエルティア号は任せた。万が一俺達が戻って来なかった時のために備えて出港の手筈は整えておいてくれ。何かあったらシルフモドキを飛ばして連絡する」

 

「ラジャー! 」

 

親指を突き立てサムズアップするベンウィックの表情にガイアは心の内で返し、ベルベット達とアイゼンの後を追いかけた。

 

 

--------

 

 

空の色が夕焼けの橙から夜の黒に変わった頃、エレノアは一人森の中にいた。

離宮での事件の顛末を報告するためアルトリウスのいる聖主の御座。

そこからローグレスへの帰路についているのだ。

 

 

「なんてこと…ローグレスに業魔の侵入を許してギデオン司祭を守りきれないなんて…自分が情けない」

 

 

ヘラヴィーサで、ゼクソン港であの女業魔を討てていればこんなことにはならなかった。

そうしていればギデオン司祭は命を落とすことはなく、災いの種が振り撒かれることはなかったはず。

なのに自分はできなかった。

 

 

「次こそは必ず-っ!」

 

 

落胆するエレノアだがどこからか不穏な気配を感じ、武器を手に取る。

静けさの中故に余計に不気味さが増す得体の知れない気配にエレノアは息を飲む。

そして木々に潜む茂みが微かに揺れた。

 

 

「何者です!姿を現しなさい!」

 

 

自ら感じた気配が気のせいではないと確信したエレノアは語気を凄めて言う。

そんな彼女の前に茂みの奥から出てきたのは

 

 

「久しぶりだな。エレノア」

 

「ジャグラー…?」

 

 

エレノアは驚きの余りに息を詰まらせ、目を見張る。

目の前の存在が信じられないとでも言うかのように。

 

 

「鳩が豆鉄砲でも食らったような顔だな。どうした?俺の顔がそんなに珍しいか?」

 

 

しかし彼女の困惑に反して現実にジャグラーはここにいる。

対魔士の名残はなく黒衣に身を包んだ格好ではあるが、言葉を発し笑みを浮かべる男は間違いなくエレノアの知るジャグラーだ。

 

 

「本当にジャグラーなんですね?無事でよかった!」

 

 

彼の存在を認めた瞬間エレノアの中に懐かしさと喜びが込み上げる。

すっかり警戒心をほどいたエレノアはジャグラーとの距離を縮め、早口で話す。

 

 

「二年前何があったのですか?今までどこにいたんですか?」

 

「エレノア…落ち着け。そんなにまくし立てられては話せることも話せない」

 

「あ、すみません!つい」

 

「ふん、お前は変わらないな。記憶にある通りだ。昔のままだ」

 

「昔って程前の話じゃないでしょう?最後に会ったのは…でも無事で良かったです」

 

 

聖寮にいた頃と変わらないジャグラーにエレノアは目尻に涙を溜めていた。

彼女は指先でその雫を拭うとジャグラーに提案を持ちかける。

 

 

「ここではなんですからローグレスに行きましょう。オスカーにも貴方が生きていることを伝えたいんです。それに私も聞きたいことがたくさんありますから」

 

「そうだな…だがその前に一つ頼みたいことがある」

 

「なんですか?」

 

「ここに来る道中で傷を負ってしまってな。治療をしてもらえないか?」

 

「わかりました。そういうことなら喜んで」

 

 

ジャグラーの頼みをすんなり買って出たエレノアは自らの使役聖隷を顕現し、彼の治療を命じる。

ローグレスの方角を見つめていたエレノアはジャグラーへと向き直る。

 

 

「ジャグラー、貴方が無事ならひょっとしてグランも-」

 

「うわあああああ!!」

 

 

期待を込めて投げかけたエレノアの質問は断末魔の悲鳴にかき消されてしまった。

 

 

「え…?」

 

 

それ以上の言葉は出なかった。

使役聖隷から治療を受けていたはずのジャグラーが聖隷(ソレ)を切り捨てる。

目を疑いたくなるような光景を見せつけられては、エレノアにはそうするしかできなかった。

 

 

「ジャグラー…何を?」

 

 

震えたか細い声を漏らすエレノア。

ジャグラーは彼女を尻目に懐から一枚のカードを取り出す。

人差し指と中指の間で怪しい光を放つと足元に転がる聖隷は光へと変化し、カードに吸い込まれるように消えていく。

聖隷の消失を見届けたジャグラーは再び刀を手にエレノアに狙いを定める。

 

 

「ッ!?」

 

 

刀の軌道が自分に近付いていると直感したエレノアは残る二体の使役聖隷を召還し、守勢に転ずる。

使役聖隷二体は協力して防御陣を展開した。

だが禍々しい気を帯びたジャグラーの刃は防御陣を一太刀で突き破り、使役聖隷もろともエレノアの体を木の幹に叩きつけた。

 

 

「がっ!!ごほっ、ごほっ!」

 

「無様だなぁエレノア」

 

受け身も取れず背中を打ち付けたエレノアは咳き込み、顔を歪ませつつもジャグラーを見上げる。

二人の使役聖隷も同じく刃の元に切り伏せカードに吸収するとエレノアに近寄り、跪く彼女に目線を合わせるために膝を曲げる。

その拍子にエレノアは目撃してしまった。

月光の輝く星空に下でジャグラーの瞳が鮮血にも似た淀んだ光を放っているのを。

 

 

「その目、ジャグラー…そんな、あなたはまさか業魔に…?」

 

「ああ、お前のだいっ嫌いな業魔だ」

 

 

ジャグラーは恥じる素振りもなく口角を吊り上げて笑う。

業魔の瞳も相まって一層不気味さを醸し出すその笑みにエレノアは瞬きすらできず、絶句する。

 

 

「アルトリウスの耳に入れておけ。そのうち貴様の首を跳ねるとに来るとな」

 

 

ジャグラーはエレノアの喉元から頤にかけて指先で掬うようになぞると彼女の前から立ち去る。

 

「なんてこと……いえそれよりも今は…」

 

 

極度の驚きと恐怖から動けずにいたエレノアは我に帰るなり、元来た道を全力で引き返しす。

 

 

「こうしてはいけない…急いでアルトリウス様に報告しなければ!」

 

 

 

 

--------

 

 

 

検問の区域まで足を運ぶと辺りには対魔士達が意識を刈り取られ、地べたに倒れ伏していた。胸の付近が浮き沈みしていることから気を失っているだけで死んではいないようだ。

 

 

「対魔士達が気絶している。アイゼンはどこ?」

 

「あそこにいるよ。誰かと戦っている」

 

 

土の上に寝そべる者が多数を占める中で、きちんと両足で立ち、戦いを繰り広げる二者の姿をベルベットとライフィセットは捉えた。

 

徒手空拳で攻めるはアイゼン、振り子のような形状の武器を手に彼と渡り合うは褐色肌を黒服で隠した聖隷。

 

 

「あれが検問の対魔士を襲った聖隷か。珍しい武器を使っているな」

 

「アイゼンが攻めあぐねている。アイゼンと互角とは…並みの相手じゃないな」

 

 

ロクロウとガイアがペンデュラム使いの聖隷を観察し、そう呟く。

ガイアの言葉が示すようにアイゼンは間合いを詰めるべく懐に飛び込もうと接近するも、ペンデュラム使いは己の武具を手足の如く器用に扱いそれを阻止してみせる。

 

ベルベット達が居合わせても両者共に一歩も譲らず、対等なバトルを継続している。

 

「やるじゃねえの。おたく何者だい?」

 

「俺はアイゼン。アイフリード海賊団の副長だ」

 

「アイフリードの身内かぁ、こいつは楽しめそうだ」

 

「やはりアイフリードをやったのはお前か」

 

 

さも愉快そうに笑いながらペンデュラム使いの聖隷は闘志を保つ。

相対するアイゼンも一見して落ち着きを払っているように見えるが、その鋭き目付きの奥には覇気が宿っていた。

闘う気のアイゼンにベルベットが制止の声を送る。

 

 

「アイゼン!こいつは聖寮を襲った上手くいけば結界を破れる」

 

「つまらねえ理屈言うなって」

 

「俺は、俺のやり方でけじめをつける」

 

「「邪魔するな」」

 

 

何の偶然かペンデュラム使いの聖隷とアイゼンの言葉が呼応し、まったく同じタイミングで重なる。

そしてまた己の直線上の相手に向かっていく両者にベルベットはブレードを抜刀し、介入の意思を表明した。

 

 

「そう、じゃああたしもあたしのやり方でやらせてもらうわ。あんた達を動けなくして結界を開ける!」

 

 

そう言うが早いがベルベットはアイゼンとペンデュラム使いの聖隷との私闘に割って入り、場の状況は完全に一変した。

 

 

「なんでこうなるんだ?」

 

「薄々予想はしていたがな…」

 

「そこの者ども何を呆けておる!さっさとベルベットを助けるんじゃ、そうせんと後が怖い」

 

「確かに、すまんアイゼン!」

 

「う、うん」

 

 

呆れたようにぼやくロクロウとガイアにマギルゥは一喝し乱入を促す。

それを受けてロクロウとライフィセットはやむなくベルベットに協力し、ガイアも後々殴られるのと喰われるのとどちらがマシかと一瞬考えた後参戦を決意した。

 

ベルベットとマギルゥ、ロクロウはアイゼンを抑えにかかり、ライフィセットとガイアはペンデュラム使いの聖隷を鎮圧に取りかかる。

 

「邪魔すんなっての!怪我するぜ」

 

「忠告には感謝するがこうでもしないと後でもっと怖いのが待ってるんでな」

 

 

宙を鳥のように縦横無尽に駆け巡るペンデュラムを光弾で撃ち落としながら、ガイアはそう言葉を返す。

風の霊力を伴うペンデュラムは光弾と交わる寸前で軌道を変更し、自ら目掛けて飛来するそれをガイアは横向きに飛んで回避する。

 

 

「いい得物じゃねえの。お前もあいつと同じアイフリードの身内か?」

 

「だったらなんだ?」

 

「そいつも異大陸から手に入れたアイフリードからの貰いもんか?」

 

 

余裕めいた表情のまま言ったペンデュラム使いの聖隷をガイアは一瞬、回避行動を止める。

 

 

「どうやら色々とアイフリードから聞いたみたいだな…他には何を知ってる?」

 

「さあな、知りたきゃ自分で確かめな」

 

「そうだな。ならお前の言う通りそうさせてもらう。意地でもな」

 

 

ガイアは弾を込め、夜空に放つ。

紫の光条は暗い空に煌めき、複数の流れ星と化してペンデュラム使いの聖隷に迫る。

 

 

「いいねえ!これだこれ、ノリの良い奴は好きだぜ!」

 

 

気を高ぶらせるペンデュラム使いの聖隷は自らの武器を器用に操り、蜘蛛の巣のような形状の膜を描く。

分散した光弾は残らず全てペンデュラムに阻まれ、聖隷に触れることは叶わなかった。

息をつくまもなく攻守が変わり、ガイアはペンデュラムの反撃から懸命に逃れる。

あまりに無駄のない反撃の糸口を掴めずにいた。

 

 

「相性が悪いな」

 

 

直線的にしか進まない光弾と自在に好きなタイミングで軌道を変更できるペンデュラムとでは、真っ向面からぶつかった場合の結果は先の通り。

接近戦に持ち込む手もあるにはあるが、相手はアイゼンの猛攻にも物怖じしなかった。

懐に入る前に返り討ちに遭うのが関の山だ。

 

とてもではないが勝ちを掴み取るのは不可能に思われた。ただそれはガイア一人であったらの話だ。

 

 

「ライフィセット、力を貸してくれ。重力の術を使ってくれタイミングは指示する」

 

「う、うん」

 

 

複雑な軌跡を描いて身を貫ぬかんとするペンデュラムに回避しか有効な選択肢のないガイアは、背後のライフィセットに助力を乞う。

受け答えはしたが、微かに不安が込もっているようなその声にガイアは銃を握りながらそちらを振り向く。

 

 

「心配するな自信を持て…お前は自分が思っているより強い。アテにしてるぞ」

 

「うん!」

 

 

今度の返事は違った。ちゃんと自分がやってやると意気込みが表に出ていた。

-これならば任せても大丈夫

そう確信したガイアは赤の威力強化の弾丸を装填し、逃げ回るのを止めた。

何かを企んでいるのはペンデュラム使いの聖隷にも判断できた。

 

 

「回避を止めた…誘ってやがるな。面白れえ、受けてやろうじゃねえの」

 

 

何かを企んでいるのは容易に想定できた。

だがあえてその挑戦に乗りペンデュラムの矛先をガイアに向けた。

全力の霊力を注ぎペンデュラムの速度はこれまでの比ではない。体のどこに刺さっても風穴が開く程に貫通力を増している。

 

 

「今!」

 

「重圧砕け!ジルクラッカー!」

 

 

あわや胸元に切っ先が刺さるか否か寸前のところでライフィセットの術が発動し、ペンデュラムはガイアもろとも重力空間に捕らわれた。

進行も退却もできなくなったペンデュラムを余所にガイアは指先を使い、既にペンデュラムの使い手である聖隷に発砲する。

 

「-やべっ!」

 

 

鉛なら当然重力に巻き込まれ役立たずになるが光は別だ。光は重力には縛られない。ペンデュラム使いの聖隷は着弾よりいち早くそれに気付き、握った自らの武器を手放し右に跳ねて直撃を免れる。

草の上を二転三転しつつも体勢を整え、反撃に出ようとするペンデュラム使いの聖隷。

しかし彼が風の術を詠唱し効果を発揮することはなかった。

 

 

「ここまでか」

 

「これで終わりね」

 

 

ベルベットに背後から首筋にブレードを突き立てられたペンデュラム使いの聖隷は諦めたように、手を上げる。

アイゼンもロクロウに羽交い締めにされており、アイゼンとペンデュラム使いの聖隷の私闘に幕が引かれた。

 

 

「俺の負けだ。やるじゃないのお前、さすがアイフリードの身内ってところか」

 

「露骨な誉め言葉は返って相手の機嫌を損ねるぞ…負けてたのは俺の方だ」

 

「だろうな。確かにあのままやり合ってたら負けてたのはお前かもな…だがケンカはケンカだ。勝ったのはお前達。んで、負けたのは俺だ」

 

「変わった奴だ…だが嫌いじゃない」

 

 

敗北を喫したというのに晴れやか笑みを浮かべるペンデュラム使いの聖隷。

表裏のない潔い微笑みに、 彼の人となりが表れているように思えてガイアは掛け値なしにそう評価した。

 

 

「んで?どうするんだい?」

 

「導師を殺す。そのためにあんたの力が必要なの」

 

「一緒に導師を殺せってか?」

 

「そうしたいのなら別に構わないわ。こっちは最低限結界を開いてくれればいい」

 

「面白れえなあんたも、いいぜケンカに勝ったのはあんたらだ…結界を破るぐらいは協力してやるよ」

 

 

ガイアの代わりに語ったベルベットの答えにペンデュラム使いの聖隷は楽しげに口角を吊り上げる。

 

 

「では聖隷のお歴々、結界の前に~♪」

 

 

マギルゥの言葉にビエンフーが外界に召還され、アイゼンやライフィセットそしてペンデュラム使いの聖隷と並び立つ。

ライフィセットが結界に手を翳すと彼の指先が触れた瞬間に結界は砕けたガラスのように飛び散り、道先を開く。

 

「後は任せたぜ。その方が対魔士の慌て顔が見られそうだ」

 

「待て、まだ肝心なことを聞いてない」

 

 

呼び止めたアイゼンに場を去ろうとしたペンデュラム使いの聖隷は、まるで意に介さないと言いたげな口調で振り返る。

 

 

「それ以上はやめとこうぜアイゼン。命の取り合いになっちまう」

 

「…何者だ?お前は」

 

「風のザビーダ、ただのケンカ屋さ。縁があればまた会えるかもな」

 

 

それだけを言い残してペンデュラム使いの聖隷いや、ザビーダは星空の街道を徒歩で去っていく。

彼の後ろ姿を見つめていたアイゼンにベルベットは声をかける。

 

 

「結界は開いたわ。追うなら止めないけど」

 

「いや神殿に向かう。アイフリードの行方に近いのはメルキオルの方だ」

 

「バカね。割り切れるなら最初からそうすればいいじゃない」

 

「そんなに器用じゃない。だからここにいる」

 

 

てっきりアイフリードの行方を気にするあまりザビーダを追うだろうと考えていたばかりに、あっさりと割り切りを見せたアイゼンにベルベットはつい一言口を滑らせた。

 

 

「…バカね、本当に」

 

 

-まったく男ってのはどうしてこうも不器用な連中ばかりなのだろう。

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

神殿の奥深く、聖主の御座の最深部に座禅を組んで佇むは導師アルトリウス。

彼は何者かの気配を察知し、視線を合わせることなくその存在の名を呼んだ。

 

 

「何用だ?ゼブブ」

 

 

その名前がアルトリウスの口から音として放たれると中肉中背の対魔士の男がゆらりと現れ、彼に告げた。

 

 

「カノヌシの復活は滞っているようだな」

 

「問題ない。穢れは着々と揃いつつある。復活は時間の問題だ」

 

「それなら構わないが…そう猶予はないぞ」

 

 

ゼブブがそう言葉を残し去った時祭壇の紋章が強力な輝きで空間を照らしだした。

 

 

「この輝きは…何が近付いている」

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

聖隷術で張られた結界の仕掛けを攻略し、空にまで伸びているのではないかと億劫になるぐらいの長い階段を上がったベルベット達はやっとの思いで神殿の入り口に到達した。

そこでガイア達は中に侵入する前にベルベットからアルトリウス打倒の戦法を聞かされたのだが、その内容は奇想天外な発想の産物だった。

 

 

「ライフィセットの術を使ってアルトリウスの間合いに突っ込む。あたしは斬られようが焼かれようが構いはしない。あんたはあたしが動けるように回復し続けなさい」

 

ダメージを貰うこと前提の捨て身の特攻とも言える戦法だ。自らの命をも武器として認識していなければまず考えとして出てこない策に、ライフィセットとガイアは息を詰まらせる。

 

 

「なるほど。捨て身覚悟の戦法か…それなら敵の意表を突くことはできるな」

 

「隙を作る前にくたばってしまわなければよいがの~」

 

 

しかしそんな彼らとは異なりロクロウとマギルゥはそれに自分の意見を告げる余裕があり、ガイアは己が共に行動している者達の異常さを改めて感じざるを得なかった。

 

 

「でもそれじゃベルベットが-」

 

「これは命令よ」

 

異常だと知りそれでも尚も、彼女の身を案じ考え直す機会を与えようとしたライフィセットにベルベットは無慈悲なまでにそう言い捨てた。

有無も言わせぬ彼女の対応にガイアは寒気すら覚えていた。

しかし無理矢理寒気を収め、意識を切り替える。

 

 

(他人の心配ばかりしてる場合じゃないな…僕も)

 

 

アルトリウスの前に立つということがどれだけ危険かよく知っているだけにガイアは顔を強張らせ、ベルベットに感じていたのとは別の冷たさが全身を支配する。

 

そんな彼の心境なぞ露知らずベルベットは我先に神殿内部に足を踏み入れた。

 

 

 

 




レイズにアイゼン参戦決定しましたね。
エドナとどう絡むかが楽しみです…妹と仲の良い(弄り相手)がいると知った時の反応も見たいですね

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