テイルズオブベルセリア~True Fighter~ 作:ジャスサンド
できるだけ両作品の要素を組み合わせて考えているのでどうかひとつよろしくお願いいたします!
第1話 ファーストミッション
-急がなければ。彼の者の復活を止めなければ人間の世界は再び破滅する。
-天族と人間の共存のためにも世界は常に進歩しなければならない。しかし彼の者が復活する度に人間の歴史は断絶の時を迎えてしまう。それはあってはならない。人間が己のが業と向き合い穢れを受け入れるためにも
-既に二つの光は託した…早急に残る光を託すべき人間を見つけなければ
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聖寮
それは人々の希望の象徴。聖隷を従え悪しき業魔を相当する対魔師の集まり。彼らの出現により業魔病に蝕まれかけた世界は救われ、世界には再び秩序が戻った。
対魔師の存在は業魔に太刀打ちできぬ人々は感謝と敬意を祓い平和な過ごしていた。
その聖寮本部の一室。
日が昇り始めた時刻のその部屋には、毛布にくるまって静かに寝息を立てる男がいた。
肩まで伸びた茶髪に黒曜石のような濃い黒色の瞳の持ち主だ。
夢でも見ているのか表情にはどこか楽しげな感じを漂わせている。
「起きて」
「いてっ!?」
頭に加えられた衝撃で彼は目を覚ます。
眠気で回転が鈍い頭とおぼろげな視界が回復すると寝台に寝そべった彼を見下ろす者がいた。
少し長めの鮮やかな赤毛をツイテールで整え、シワ一つない清潔な身だしなみをした少女。
彼女は呆れた声色で未だに夢の世界に意識が傾いている目をする彼に物申す。
「いつまで寝てるの。もう見回りの時間よ」
「ん…あ。もうそんな時間なんだ…ありがとうノア」
「まったくもう、急いで着替えて。布団は私が畳んでおくから」
ノアと呼ばれた少女エレノアはそう言うと背後で男が着替え始める。
エレノアは温かみがまだ微かに残っている毛布をピッシリとズレがないようたたむと、白衣の制服に袖を通し顔を冷水で洗い支度を終えた男に再度声をかける。
「用意できたみたいね。じゃあ行くわよグラン」
対魔士は王都ローグレスに本部が置かれそこから各々が与えられた任を全うするべく各地に赴いている。
一等対魔士になってまだ日の浅いグランとエレノアにここ数ヶ月間、与えられたのはローグレスの街中を徘徊する任であった。
「聖堂も異常なし、これで今日のノルマは終わった」
「何事もなくてよかった。ゼクソン港で数日前業魔が発生したばかりだから」
「その話は聞いてるよ。確かその業魔を討伐したのは」
「グラン、エレノア!」
噂をすれば何とやら
耳に届いた凛々しい声色にグランがそう思っている合間に、ブロンド髪で青い瞳をした穏和な顔立ち声の青年が彼とエレノアの元にやって来た。
「オスカー、お疲れ様です」
「ありがとうエレノア。二人は哨戒中か?」
「今終わったところ。そっちこそ大金星だって聞いたよ。ゼクソン港に現れた業魔の群れを倒したって」
「耳が早いな。もうローグレスに届いているのか」
「早いと言ってもローグレスとゼクソン港の距離はそう離れていませんしそう珍しい話ではないでしょう」
「確かに、それもそうだな」
オスカーを加えた三人は談笑を交えながらローグレスの整った街中を散策する。
「二人共そろそろ一等対魔士らしい役目が与えられる頃合いじゃないか?グランは巡察官を希望しているらしいが…君ならローグレスの警備隊を率いるなり、故郷のイズルトを統括ぐらいの実力はあるだろうにどうして巡察官を希望するんだ?」
「駄目かな。同じ一等対魔士のテレサはヘラヴィーサを統治してるし、やっぱり一等対魔士はそういう役職に回った方がいいものなのか?」
「駄目とは言わない。巡察官も聖寮に重大な役職だ。しかし、あまり好き好んで希望する者は少ない」
「単に世界を回りたいからという理由だけなんです。この人が希望してるのは」
エレノアがジト目でそう補足しグランは心外そうに眉を吊り上げる。
「そんな軽い理由じゃないよ」
「そんなことありません。世界のあらゆる場所を見て周りたいって巡察官の役目そっちのけの発言をしていたじゃないですか」
「だけどニュアンスが違うじゃん。それじゃまるで僕が仕事に打ち込まない不真面目な人間みたいな言い方だよ」
「あってるじゃないですか。それに今朝だって、私が起こしに行かなかったら寝坊をして-」
「あー!聞こえない!何も聞こえない!」
「また貴方はそうやって!昔からそうです!不都合なことに耳を背けないでください!」
(相変わらずだな…この二人は)
第三者がいようといまいとお構い無しとばかりに繰り広げられるグランとエレノアのやり取りにオスカーが苦笑と一緒に、率直な感想を自らの内でぼやく。
そうこうするうちに三人が聖寮本部の前まで行き着くと、門前の壁に対魔士を象徴する白き衣装を羽織った男が背中を預けるように寄りかかっていた。
オスカーとは対象的な紅い双眸をした、黒くスラッとした質感の髪を額の前で分けた男に気付いたグランはあっと声を上げる。
「ジャグラー」
「ようやく来たか」
彼の名はジャグラス・ジャグラー。
グランとエレノアの同期でありながら彼らより早く一等対魔士になった男であり、蛇心流という剣術の使い手とされる男だ。
「よくもまあ四六時中べたべたしていられるなお前達」
「べたべた…!?べ、別にそんなんじゃありません!任務です!あくまでも任務としてですから!」
ジャグラーと呼ばれた男の言葉を真に受けたエレノアがムキになって否定するも、からかった本人はそれに対して返事をよこすことはなかった。
壁面に寄りかかっていたジャグラーにオスカーは訊ねた。
「ずっと待っていたようだがジャグラー、我々に何か用があるのか?」
「そうだ、と言ってもお前には用はないがな」
オスカーに対して数秒にも満たない間のみ目を合わせたジャグラーはエレノアへと視点を切り替え、グランに手を伸ばす。
「エレノアこいつを借りるぞ」
「はい。それは構いませんが」
「助かる。ついて来い」
「え?」
エレノアに許可を取ったジャグラーはグランの腕を掴むや否や聖寮本部内に引き込むように引っ張る。
廊下を歩いている最中も話が飲み込めないグランにジャグラーは用件を説明する。
「アルトリウス様がご指名だ。俺とお前で来るようにとのことだ」
「アルトリウス様が?」
アルトリウス・コールブランド
聖寮のみならずその名を轟かせた人物だ。
一年前の緋の夜に多数の聖隷を使役し軍すら太刀打ちできなかった業魔の群れを一掃し、一躍救世主として世間から絶大な指示を得た。
一等対魔士をも凌駕する筆頭対魔士でもあり聖寮どころか、王や教会にも及ぼす程の影響力の持ち主。
そんな人物が同じ聖寮内の人間とはいえたかが訓練生から一等対魔士にあがったばかりの小僧を直々に指名して、一体何の用なのか。
訳が分からず困惑している間にグランはアルトリウスの執務室を目前にしていた。
「細かい話は俺も知らん。俺はお前を連れて来いと指示を受けただけだからな」
ジャグラーがノックしドアを開ける。
「失礼しますアルトリウス様、グランを連れて参りました」
「暫し待ってくれ」
必要最低限の私物しかない室内の中心で大量の書類と格闘しつつも落ち着きを払った様子の男はそう返す。
一区切りついたところでペンを置き、ジャグラーとグランへ目を巡らせた。
「早速だがお前達二人に調査を命じる」
「調査、ですか?」
「ウエストランドのブルナーク台地に行ってもらいたい。ロウライネの塔で対魔士の新人訓練を経験した君達ならよく知っている場所だろう」
ジャグラーとグランの言葉に頷いたアルトリウスは更にこう告げた。
「レニードに駐在する対魔士からの報告によればブルナーク台地で新たな遺跡が発見されたそうだ。お前達には小隊を率いてその遺跡の調査をしてもらう」
「お言葉ですがアルトリウス様、遺跡の調査なら近場であるレニードの対魔士達にやらせれば早い話ではありませんか。何故わざわざローグレスにいる我々を派遣する必要があるのでしょうか?」
「ジャグラー…?」
アルトリウスに切り込んだジャグラーにグランは冷や汗が滲む。
「それは-」
「既に一度行われた調査に基づいた結果だ」
いつの間にか部屋にいたのかジャグラーとグランの背後には二人の男が音もなく立っていた。
どちらも対魔士らしい白衣に身を包んでいるが、雰囲気はどことなく清涼な感じとは離れているようにグランとジャグラーの二人は思った。
「あなた達は?」
「彼らは私の側近の特等対魔士だ。最も最近着任したばかりで公には知られていないがな」
(側近だと…?)
アルトリウスからの言葉にグランは納得したようだが、ジャグラーは疑い深い目付きを彼らに注ぐ。
髪先が黄色く染まった水色の髪をした丸渕メガネをかけた男と、肥えた体つきをした赤紫の髪の四十程度とおぼしき男の二人組。
「私はガッツと言う。以後お見知りおきを」
「ゼブブだ」
二人組の男の社交辞令が済むとアルトリウスはその中の一人、ガッツに注文した。
「ガッツ続きを二人に」
はっ、とガッツは答えるとグランとジャグラーに説明する。
「その遺跡が発見されてすぐレニードの二等対魔士達が調査に乗り出し、内部を調べた結果危険があると判明した。おびただしい数の魔物のみならず遺跡の周辺には業魔も多数確認されており、調査部隊にもかなりの被害が出た」
「そこで一等対魔士である君達にこの件を命じたい、そういうことだ。出立は明後日、十数人の二等対魔士の小隊を結成しブルナーク台地の遺跡を調査してほしい。同行する二等対魔士の選抜はこちらで行う。以上だ」
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「すごいことじゃない。アルトリウス様からの直々の勅命なんて」
自室に戻ったグランから先程アルトリウスからの依頼を受けた旨を聞いたエレノアはそう、感嘆の意を表した。
我がことのように嬉しさを声色に乗せるエレノアを余所に浮かない様子のグラン。
そんな彼の顔色が引っかかったエレノアはグランに質問する。
「嬉しくないの?」
「嬉しくないなんてことはないよ。アルトリウス様からの勅命なんて対魔士にとってはとても光栄なことだと思うし」
「ならどうしてそんな浮かない顔をしているのかしら?」
「ジャグラーがさ、ずっと険しい表情してたんだ。アルトリウス様の執務室を出てからずっと、それがちょっと気になってて」
訓練生時代からジャグラーの直感は飛び抜けていた。
剣士としての第六感が冴え渡っているとでもいうのだろうか、戦闘のみならず自らに迫る危険には人一倍敏感な男だ。
それを身近で知っているだけにグランは不安を拭えずにいた。
「ジャグラーが…本人に聞いてみたの?」
「聞いても何でもないの一点張りで取りつく島もなかった…まあわからないことをいつまでも気にしてもしょうがないんだけどさ」
自らそうやって踏ん切りをつけたグランは雲っていた表情が一転して明るくなり、エレノアに伝える。
「いつ戻れるかわからないけど当分の間は仕事の方、僕の分もよろしく」
「しょうがないわね。その代わり帰って来たらスイーツご馳走してくれる?」
「こないだダイエットするなんて言ってたのどこの誰だっけか?」
「そ、それとこれとは話は別!ほらよく言うでしょ、おやつは別腹だと!」
「はいはい、わかったわかった」
怒気を含んだエレノアの物言いにグランもさすがにやり過ぎたと僅かばかり反省の念を感じ、それ以上のからかいをやめる。
「気をつけて」
「わかってるって」
まさかこの時彼らは思いもしなかっただろう。
この後に起こる出来事が彼らの進む未来に大きな影響を与えることを