【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

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軽いノリのパートは筆が乗りやすいんですが、シリアスパートの難しさは何とかなりませんかね。


第5話 アーガス村、到着!

「いやー、本当に助かった。ありがとさん」

「どういたしまして。村まで運べばよかったんだよね?」

「ああ、後は魔法でどうにでもなる」

 

 オレたちは無事アーガス村に辿り着く事ができた。

 アーガス村は何処にでもある辺境の村といった印象だ。

 畑作を主要産業としたごく普通の農村。

 

 市場を軽く見渡すと、根菜類が主な売り物のようだ。

 民芸品の取り扱いがないので、おそらく観光は盛んではない。

 

「うーん、ここってもしかして宿場とかないのか?」

「うん、ここはよその人は滅多に来ないからね。必要な物があるなら僕たちが街へ買い物に行く立場だし」

 

 店を構えるなら大きな街に。商人にとってのお約束だ。

 そして街はより有力な市場を持つようになり、そこに魅力を感じて多くの人が集まる。

 街に人が集まった結果、どんどん田舎から人がいなくなる。

 ああ悲しきかな、田舎と都会の格差はいつだって広がる一方だ。

 

「とはいえ来る人が皆無って訳でもないだろうし、どこかには泊めてもらえるだろ」

「それだったら……そうだね、村長の家がいいよ。大抵の来訪者はそこに行くし、お風呂もあるから」

 

 まあオレとしては屋根があれば何処でも等しく天国だ。

 勇者といえど、戦場を駆け回る一兵卒に過ぎない。

 野営用テントに入れる機会も多いが、同じぐらいに野宿の機会もあった。

 岩を枕に、砂利をマットレスにする寝心地の悪さは体力に来る物がある。

 

「そういや、アレクの家とかは駄目なの?」

「えっ、僕の家かー……」

 

 村への道中、アレクには鎧運びと道案内で世話になった。

 宿泊代としていくらか支払えばアレクへのお礼にもなる。

 初対面の老人よりは、年代が近い同性のアレクの家に泊まるほうが気楽だしな。

 

「僕の家よりは、やっぱり他の方が……」

「おいアレク、村長への報告はどうした」

 

 アレクが遠慮の言葉を出そうとすると、横から声が聞こえた。

 そこには禿頭の男が一人、眉に皺を寄せて立っていた。

 

「ハイネルさん、えっと、報告は今から行くところでして……。森には特に何もありませんでした……」

「異常なしだとぉ? あれだけの騒動があったのに何もないって事はないだろ」

 

 確かに、オレが隠し通そうとしたせいでアレクの調査は半端な所で終わってしまった。

 だけどそれに責任があるとしたらアレクの物ではない。

 個人の事情で、ギーグとの戦闘を隠そうとしたオレのせいだ。

 

 その後も、ハイネルさんは様々な言葉でアレクを叱責し続けた。

 その言葉にアレクは全く反抗しようともしないし、他の村人も一切とがめようとしない。

 まるでアレクがそう扱われる事が日常であるような、そんな異様な光景が続く。

 そして次の瞬間、その場の空気を凍らす呪詛がハイネルの口から飛び出た。

 

「全く、半端者の分際で怠けてんじゃねぇぞ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アレクの伏し目がちな様子が更に深まった。

 アレクにとって、半端者という言葉は呪いになっているのだろう。

 涙こそ流していないが、表情から彼の心が傷ついているのは確かだ。

 

 半端者を罵声の言葉として浴びせたのは、ハイネルだ。

 だがハイネルがそれを言う原因を作ったのは、オレだ。

 オレが昨晩の騒動を、軽率に隠そうとしたばかりに――。

 

 ならばオレがすべき事は一つだけだ。

 男らしく、責任を取る。それだけだ。

 

「異常は何もありませんでしたよ」

「ああ? 何だお前は」

「オレ……いや、私はユウといいます。とある豪商の娘で、見識を広める為に旅をしています」

「お前みたいなチンチクリンがか? 馬鹿も休み休み言え」

 

 今のはちょっとイラッとした。

 責任に関係なく殴りたくなるほどに。

 

「まあ私の身分は置いておきまして、異常がないのは本当です。正確にはなくなったというべきでしょうか」

「ああ? どういう事だ?」

「実は昨晩の騒動は、私と【ヒュージワーム】の戦闘音なんです。あまり悪目立ちをしたくなかったので、無理言ってアレクさんの調査を引き上げてもらったんですよ」

 

 流石に食人鬼と戦っていました、とはいえない。

 なので、あの森に生息していそうな巨大な魔物と戦っていた事にした。

 ワーム系の魔物は森林地帯には多くいるので、変異種と戦っていたとしても違和感はないだろう。

 

「嬢ちゃんよぉ。あんまり大人をからかうもんじゃないぜ。

 本当だって言うなら証拠を見せてみな。

 【ヒュージワーム】が何処までデカいワームかは知らないが、上質な素材が取れたはずだぜ」

「本当ですって、塵もなく消し飛ばしたので物的証拠はないですけど」

 

 そう言うとハイネルはきったように笑い出した。

 物的証拠もないのに主張するのは我ながら馬鹿だと思う。

 それでも、オレの行動で起きた不始末はオレが処理しなきゃいけない。

 だからこそ、いくら矛盾していようがアレクを庇うために言葉を続ける。

 

「おいおい嬢ちゃん、それはいくら何でも無理があるってもんだぜ。

 背中にご立派な剣を抱えていれば信じてもらえると思ったか?」

「じゃあ【ヒュージワーム】を倒したという実力を見せれば問題ないですよね?」

「ああ? まあ、ないだろうけどよ」

 

 今のオレの魔力量は少ない。

 単純に考えればオークやコボルトのような人型の魔物すら狩れるか分からない。

 だけど魔法ってのは使い方で如何様にもできる物なんだぜ?

 

「《爆紅蓮花(フローラルイグニッション)》!」

 

 一輪の花火が、音もなく空に打ち上げられた。

 昼の明るさにも負けない、七色の花がはっきりと見られる。

 

「……スンゲーきれー」

 

 ハイネルさんが魔法で打ち上げた花火に見とれたのか、呆けたように声を出す。

 

 今のは見かけだけ炎魔法のようにみせただけの光魔法だ。

 基本式は光の基礎魔法《光爆(フラッシュ)》だが、ここまで改編すると《爆光造花(フローラルイミテーション)》と呼ぶべきか。

 効率よい魔法式を組み立てたので、見かけほど魔力消費は消費していない。

 これが本物の《爆紅蓮花(フローラルイグニッション)》なら、常人の魔力10人分と引き替えに城を一つ焦土にできるけれど。

 まあ今のオレにはそれだけの魔力がないんですけどね!

 

「これで信じてもらえましたか?」

「お、おう」

 

 田舎という事もあって、オレの魔法を精査できる人はほぼいないだろう。

 昼をも照らす閃光を見せれば、それだけで実力者として理解してもらえた。

 

「……ありがとう。ユウ」

 

 今思えば、出会ってからのアレクは一度も笑ってなかった。

 オレの裸に慌てたり、オレに疑問を持った時に難しげな顔をしたりと、表情自体は豊かだったのに、楽しげな顔をした事がなかったのだ。

 

 けど、お礼を行った時のアレクは、確かに笑顔を浮かべていた。

 元はといえばオレが原因なのでマッチポンプみたいな物だけど、それでもアレクの笑顔が見られてよかったと思えた。

 

「じゃあ行こうぜ、アレク。お前ん家に」

「うん、そのままうちに泊まるっていってよ」

「ああ」

 

 ちょっと気恥ずかしくなったので、話題を切り替える事にする。

 先ほどの話の流れから、そのままアレクの家へ宿泊する事になった。

 

 さて、地面においた荷物を拾ってと。

 そして鎧を、《身体強化(エアマッスル)》で、持ち……上げて……。

 

「どうしたの、ユウ。……もしかして」

 

 いつまでも動かないオレの事情を察したのか、オレに小声で様子を窺ってきた。

 ああ、そうだよ! 後先考えないから、またやらかしちゃったよ!

 

「ごめん。さっきので魔力が切れたから、やっぱり鎧は運んでもらっていいかな」

 

 

 

 

 




ハイネル「特技は《爆紅蓮花(フローラルイグニッション)》とあるが?」
ユーキ 「はい。《爆紅蓮花(フローラルイグニッション)》です」
ハイネル「《爆紅蓮花(フローラルイグニッション)》とは何のことだ?」
ユーキ 「魔法です」
ハイネル「え、魔法?」
ユーキ 「はい。炎魔法です。敵全員に大ダメージを与えます」
ハイネル「……で、その《爆紅蓮花(フローラルイグニッション)》はこの村において働くうえで何のメリットがあるんだ」
ユーキ 「はい。敵が襲って来ても守れます!」
ハイネル「いや、この村には襲ってくるような輩はいません。それに人に危害を加えるのは犯罪だよな?」
ユーキ 「でも、魔族にも勝てますよ!」
ハイネル「いや、勝つとかそういう問題じゃなくてだな……」
ユーキ 「敵全員に100以上与えるんですよ」
ハイネル「ふざけるな! それに100って何だ。だいたい……」
ユーキ 「100ヒットポイントです。HPとも書きます。ヒットポイントというのは……」
ハイネル「聞いてない。帰ってくれ」
ユーキ 「あれあれ? 怒らせていいんですか? 使いますよ。《爆紅蓮花(フローラルイグニッション)》」
ハイネル「いいぞ。使ってみろ。イオナズンとやらを。それで満足したら帰ってくれ」
ユーキ 「運がよかったな。今日は魔力が足りないみたいだ」
ハイネル「帰れよ」

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