【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。 作:青木葵
2000字ぐらい書いたのを没にしたり、机に向かわなかったり、プリヤ映画見てたりしてたらこんな事になってました。
これから更新はマイペースに進めます。
絶対終わらせるからそこは安心して……。
夢を見た。
シェリアと決別してしまった結果、彼女が孤独にむせび泣く夢を。
シェリアと決別できなかった結果、彼女が魔族との接触に葛藤する夢を。
夢を見た。
アレクを同行させ続けた結果、彼を死地に追いやってしまう絶望を。
アレクと離別した結果、オレ自身が挫けてしまう絶望を。
夢を見た。
久遠の時の
夢を見た。
聖剣を奪取してしまった結果、泥沼の戦場で人と魔族に多くの死人が出てしまった光景を。
聖剣を奪取できなかった結果、魔族という存在が塵芥も残らないほど死に絶えた世界を。
――夢を見た。
■■■■■■■■■■をしたおかげで、皆が笑い合える世の中になった世界を。
■■■■■■■■■■できたために、人と魔族が手を取り合っている世の中を。
■■■■■■■■■■がきっかけで、リリシアたちと復縁できた光景を。
夢の彼方にあったのは、何れも絶望だけ。
思えば、オレの選択の果てにはいつも絶望しかなかった。
聖剣を手に取った結果、多くの魔族を死に至らしめた。
ただ絶望に流され続けた結果、庇護すべき人とは決別してしまった。
失敗の責任を清算するために、仲間の心を傷つけてしまった。
オレの希望はいつだって、誰かが与えてくれた物だ。
リリシアが孤独から救ってくれた。
ディートリヒやシェリアが友情を与えてくれた。
ギーグが身を守る
アレクが、自己嫌悪に陥ったオレを
それなのに、オレは誰かに希望を与えられていない。
与えたのは絶望だけ。
だからだろう。
希望に溢れた世界を夢想しても、その過程が
絶望に満ちた風景を想像すれば、それが現実の光景として創造されるのは。
――夢を見た。
復讐の果てに、荒野に斃れ伏す男の夢を。
彼はオレではなく俺。
聖剣を介して繋がったからこそ見える、俺の人生の総決算。
彼の人生は正に災厄と呼ぶに相応しかった。
ただ生きるだけで死を振り撒き、魔族に絶望を与える。
人々が救われ、彼が剣聖という賞与を得たのも、復讐の副産物に過ぎない。
男の人生は無意味だった。
結局魔族への復讐も、道半ばで吸血鬼の女に阻止された。
報復のみを是として掲げた生も、久遠の時を持つ
だというのに彼は、死の間際に笑みを浮かべていた。
まるで
何故、お前は満ち足りている。
お前も、オレと同じじゃないのか。
ただひたすらに
そのオレの問い掛けに、
――――――――――
両の目が開き、泥沼の夢想から意識が覚醒する。
夢。
そう認識するのに、時間はかからない。
何度も繋がったとはいえ、聖剣がない現状で彼と出会える術はそれしかないのだから。
目覚めたばかりだというのに五感は鋭敏だ。
拘泥した思考に、
普段には不快に感じるそれも、悪夢から逃れる
シェリアの決別からは、1日が経過している。
あの時から彼女と接触する機会は一度もなかった。
オレの言葉が相当堪えたのだろう。
こちらとしてはその方が好都合だ。
一切の邪魔が入らずに作戦を進行できるのだから。
だが後悔の念は大きい。
シェリアが仲間思いであり、反面そこがそのまま弱点である事は分かっていた。
彼女を孤独に追いやるのは、巻き込まないための措置としては正しい。
けれど、その為に彼女の心にどれほどの傷を負わせてしまっただろうか。
いっそのこと彼女を仲間に引きつれ、ここから逃げ出した方が良かったのかもしれない。
一瞬その光景を夢想するが、そこでも彼女を苛む現実がありありと浮かぶ。
どの選択をしても、後悔するに決まっているのは分かってる。
それがオレの在り方だからだ。
どの道を選んでも後悔しかない。
だったら、少しでも苦しみが長くない道を選ぶしかない。
きっとシェリアなら、その内新しい仲間ができるだろう。
ディートリヒだって近い先に彼女と復縁できるはずだ。
それなら、この選択は間違っていないはずだ。
そう思っているのに、この胸の後悔は晴れてくれなかった。
悩みを消化できずに熟考していると、意識の端に動きを捉えた。
視界こそ闇に遮られているが、音からして寝袋で彼が
「悪い、起こしちまったな」
「ん、いや。大丈夫だよ。
こんな時間にユウは何をしてたの?」
「いや、ちょっと考え事をな」
魔力を発火源とし、ランタンに火を付ける。
昼とも夜とも区別のつかない地下の闇に、夕陽よりも
「やっぱりシェリアさんの事、後悔してる?」
「ああ、当たり前だろ」
「今までの事を考えると、後悔してない方が少ないんじゃないの?
凄く後ろ向きな考え方しているよね、ユウって」
「色々あったんだよ、色々と……」
本当に色々な事があった。
その
人を救いたいと戦っても、結局は誰かを傷つけてばかりで。
1年の時を経て心を通わせた仲間が相手でさえも、結局は仇で返す事しかできていない。
今まで様々な場面で間違え続けてきた。
これから先も間違え続けるだろう。
一体どうすれば、誰かに希望を与える事ができるのだろうか。
「ねぇ、ユウは今までたくさん後悔してきただろうし、これからもいっぱいすると思う。
だけど、1つだけ分かっていてほしいことがあるんだ」
「何だよ、急に真面目くさった言い方になって」
「ユウはした事は確かに間違っていたのかもしれないけど、正しかった事もあると思うんだ」
「そんな事はないぞ」
本当にそんな事はない。
オレが築いてきたのは屍の山と踏み
アレクの事だって、いつ傷つけてしまうか分からない。
ただ、こうして一緒にいる方が楽だから今は旅をしているだけだ。
きっと機会があれば、オレはすぐにでもアレクと決別するだろう。
そんな薄情なオレが正しい行いなんてできている訳がない。
「ううん、そんな事あるよ。
だって僕はユウに救われたんだから」
アレクの慰めは、オレの耳を疑うような一言だった。
オレが、アレクを救えた?
冗談だろう。
むしろオレはアレクに救われてばかりで、その恩を何も返せていない。
「なるべく村では明るく振舞っていたけど、それは僕にとって攻撃されないための自衛手段だった。
害意のない存在だって思われれば、以前より扱いは悪くならないだろうから。
誰かに優しくしたいって気持ちはあったけど、自分も優しくされたいって見返りを求めてるみたいで、どうにも手を伸ばせなかったんだ」
アレクが自分から弱みを晒したのは初めてだった。
以前はオレが不用意にそれを暴き、自分勝手に助けようとした。
その結果はオレの自滅で、結局オレがアレクに助けられる羽目になった。
そんな情けないオレに何故弱みを晒してくれるのだろう。
「だけど、ユウと出会って考え方が変わった。
最初は僕を魔族だと知らなかったとはいえ、普通に接してくれた。
ユウの境遇が特殊とはいえ、知ってからもそれは変わらなかった。
そんな人間関係、僕はお父さんとお母さんでしか知らなかったんだ。
それを思い出させてくれたのは、間違いなくユウだよ」
そんな事はない、と否定しようと思えばできただろう。
心の底では、どこか魔族を下に見た憐憫や哀れみがあったと。
だが、それは以前にぶつけた醜悪な感情そのものだ。
それを聞いてもなお、アレクはオレに恩義を感じている。
そのひた向きさを、オレの意固地で否定できる訳がなかった。
「ユウの後悔した日々だって、その裏で救われてきた人は絶対にいる。
誰かを助けたいって思っているユウが、誰一人として助けられていない訳がない。
その証明として、僕がここにいるんだから。
ありがとう、ユウ」
その言葉のおかげで、オレは気づけた。
ああ、オレは意地になっていただけだったんだと。
自分の力で誰かを救えた。
その事実を認めてしまえば、自分の心も救われてしまうから。
だから死に目を向け、生から目を逸らす事で救いを絶った。
そうしなければ、犠牲にしてしまった人に報いる事ができないから。
だけど、こうしてアレクに感謝を告げられて気づかされてしまった。
オレは犠牲になった人に報いたかった訳じゃない。
オレは誰かを助けて、その人に感謝されたかったんだ。
リリシアと会ったあの日も、アレクに助けられたあの日も。
オレを助けてくれた人の顔は、どこまでも眩しかったから。
オレも彼らのように、誰かを助けられる人になりたかったんだ。
「そうか……アハハッ! そうだったんだ! ハハハッ!」
一度気付いてしまえば、全ての感情が怒濤の様に押し寄せてくる。
涙も鼻水も、滂沱の勢いで流れ出てくる。
だが、笑いもまた止まらなかった。
おかしい訳でも、嬉しい訳でもない。
かといって、今までの自分を嘲笑するものでもない。
堰を切ったように押し寄せる感情が、笑いという手段でしか表現できないのだ。
だから、感情の奔流が止むまで涙も笑いも止めなかった。
誰かを救うのなら完璧でありたいと思った。
憧れた人たちがあまりにも格好良かったから、それを継いだ自分にも汚点があってはいけないと。
それが増長し、汚れたくないという願望にすり替わっていた。
だけど同時に、他者の救済を捨てきる事もできない。
血の様にこびりついた感情は、いつしか歪な意固地へと変貌していた。
――オレの心はいつの間にか、
その
オレがかつて持ち、今取り戻した本当の夢――それを見つける事ができたのだ。
「ありがとうアレク。
お前のお陰で、オレが何をしたいのかが見えたよ」
「いや、どういたしまして」
顔にこびり付いた液体を拭いながら、オレは感謝を告げる。
謝罪しか言えなかったあの時とは違い、何だか面映ゆさが
だけど、確かに言えたのだ。
その返礼の挨拶もアレクから返ってきた。
こうした何気ないやり取りが、オレはずっと欲しかったんだ。
なら、この信念を貫く行動を見せなければならない。
そうじゃなきゃ、二度と『勇者』なんて誇りは背負えないだろう。
「そうと決まれば……。おい、ギーグ! 起きろ!」
「何じゃ。夜更けに騒々しい。
少しは老体を労わらんか」
「その筋肉で衰えてる訳ないだろ。
そんなことより見つかったんだよ、オレの答えが!」
「ほう……それはどのようなものか?」
「それを今から見せてやる!
組手だ、組手の準備をしろ!」
「何でこの話の流れで組手になるの!?」
困惑するアレクを放置しながら、オレとギーグが対峙する。
赤橙色のランタンの
揺れる
現状の実力差も、その長さと同じ――いや、その程度では収まらないだろう。
だが、オレにはギーグを満足させる解を見せられる自信があった。
彼が両の拳を中段に構える。
オレもそれに呼応し、中段に構える。
徒手のまま、1本の剣を携えて。
意図の分からないポーズに、アレクの困惑は深まっていく。
オレの手には当然何も握られていない。
だが、構えは中段に両手剣を握る剣士のもの。
この構えの意図、目の前の鬼には一目瞭然だろう。
その証拠に、彼の目は闘志の炎で
開戦の狼煙は、互いの視線が交差した刹那だった。
コンマの時が過ぎた時、二人の肉体はすれ違う。
一本取った。
そう確信できる一撃を打ち込んだ。
しかし、当然一本取られたのはオレの方。
手加減されたとはいえ、重い鈍痛が五臓六腑に響く。
「……なるほど、カカカッ!
なんと欲張りな! 面白い!」
「ぼ、僕には何を見せたいのかさっぱりだよ……」
「うおおお……いてぇ……」
だが、オレの一撃は完璧だった。
手に握られた虚空の
絶無の魔力と無力な膂力、この2つの相乗が生み出す
伽藍洞のこの身では、無為の一撃にしかならない物だ。
だがその中身を満たす物があれば、確実に届く。
その虚構の事実は、ギーグの高笑いが証明している。
「ねぇ、筋肉だけで分かり合える世界に入らないでよ。
さっぱり理解が追いつかいじゃないか」
「おお、悪かった。
だけど、ようやく決心がついたよ」
この夢は大きすぎて、誰かに言えば10人中9人が笑うだろう。
きっとこの体格の子供ですらそんな夢はみないだろう。
だけど、気恥ずかしさなんて微塵も湧かなかった。
眩しさに目を背け、泥沼に逃げたけれど、この世界でずっと持ち続けてきたものだから。
「オレは、人と魔族の争いを終わらせてみせる!
妥協なんて一切しないッ!
目の前の奴らを片っ端から救う!
オレの目指す
ようやっとユーキを主人公っぽく書ける……!