【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

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ちょっと急ぎ足で書いたので分かりづらい描写が多々あるかもしれません。
後で見返して改稿するかもしれませんが、大筋は変わりません。


第4話 潜入、地下浄水魔法陣!

「魔法で浄化されてるって聞いたから綺麗なのかと思ってたけど、結構臭いんだね」

 

「あくまで下水道だからな。一応浄水機能はあるとはいえ、水の底はヘドロだらけだぞ」

 

 ランタンから溢れる赤橙色の(あか)りが石畳で覆われた通路を照らす。

 他に光源のない闇の道は、平衡感覚を麻痺させる重圧を帯びている。

 

「これから魔法陣に細工をしていくぞ。

 ちょっとついてきてくれ」

 

 そうしてオレたちが辿り着いたのは、少し開けた広間だった。

 石畳に四方を囲まれている(さま)から、さながらここは玄室のようだ。

 

「見て分かる通り、ここの床には魔法陣が書いてあるだろ?

 これが上部の街と地下通路にある魔法陣全てと連動して、1つの魔法陣として機能しているんだ」

 

 二重円に六芒星、2つの四角形を組み合わせ、情報補完のために多量のルーン文字が散りばめられた魔法陣。

 この魔法陣は水路で他の魔法陣と連結され、結果として都市の魔法陣全体が1つのそれとして機能する。

 

「この中から都市の監視装置として機能している魔法式を読み取る」

 

 オレの右手から魔力が放出され、魔法式の内容に沿った効果が僅かに現れる。

 微弱な魔力を流し、その発動内容から魔法式を解読する。

 魔術師にとって基礎とも言える解読方法である。

 

「これで内容は大方分かった。

 後はこうやってっ!」

 

 魔法陣にナイフを突き立て、僅かに情報を改変していく。

 監視機能を掌握するには大規模な改変を要求される。

 ここの魔法陣だけでなく、全体の7割に手を加える必要があるほどだ。

 

 だが、この作業は慎重さも要求される。

 魔法式の改変は、内容によっては消費される魔力量も変化する。

 その違いに気づかれれば即座に侵入がバレかねない。

 

 大胆、それでいて慎重に。

 5分ほど時間をかけてこの魔法陣の改変を終えた。

 

「とまあこんな感じで、地下水道全体の魔法陣に手を加えてくって訳だ」

 

「なるほどね。でも、これだけ大掛かりな作業だと結構時間がかからない?

 ヘドロが水中に溜まってるって事は定期的に清掃員も来るだろうし、見つかったら全部パーになるよ」

 

「要所要所だけやっていけばすぐに終わる。

 多分3日ぐらいで仕上がるだろうな」

 

 この魔法陣の改変だって5分で終わった。

 ギーグとオレで二手に分かれて作業すれば、恐らくすぐに終わる。

 

「せっかく弄るんだし、この魔法式は存分に使わせてもらおう。

 さぁーて、どうやってイジイジしていくか」

 

「……ユウ、すっごく悪い顔している」

 

「面倒な悪戯小僧じゃな。

 もっと大胆に破壊した方が楽じゃろうて」

 

「ギーグさんも自分の価値観を基準にしないでください」

 

 呆れた2人の姿を見ながらも、オレは改変作業を続けていく。

 どういう風に改変するのかをギーグに伝え、完全に飲み込めたであろう時に作業分担の旨を伝える。

 

 弄るのは音の反響で物体の位置関係を捕捉する魔法式だ。

 いわゆるソナーの要領で敵の位置を確認し、逃走経路を確認するためのものだろう。

 この方法は対象を視覚的に捉える事が難しい。

 物体の位置を捉えられても、そこに立っている者の姿までは確認できないからだ。

 この魔法式の精度なら大まかな背丈しか分からないだろう。

 

 これなら、もうちょっと大胆に改変作業に当たっても大丈夫そうだ。

 

「よし、これならいける。

 オレはこれから地上に出て、フォートランデ街で直接工作行為をする」

 

「えっ!?」

 

 オレの言葉に驚愕の声をあげるアレク。

 発言があまりにも突飛だったので無理はないが、割と合理的な理由がある。

 

「この魔法式の探査精度はあまり精密じゃない。

 敵の位置を確認した後、追跡を確実にするために導入された物だ」

 

 ソナー探知の監視網など白黒(モノクロ)のカメラ以上に使い勝手が悪い。

 これなら街中に出ても、最低限人の姿をしているオレなら怪しまれずに済む。

 

「地下水道の魔法陣だけで都市全体の魔術が機能している訳じゃない。

 手っ取り早くやるには地上にも出る必要がある」

 

 改変作業を早く済ませられるならそれに越した事は無い。

 むしろ改変でこの魔法式をこちらの手に掌握できれば、こちらを圧倒的優位に立たせる事もできる。

 フォートランデ攻略の為に、地上への進出はどうしても必要な作業だった。

 

「だから……その……」

 

 地上に出る必要性はもう話せた。

 だから最後に、それを実行するための切り札を手に入れなければならない。

 そのために、オレは2人に大事な頼み事をしなければならない。

 

 2人の血を飲む。

 

 それはオレが吸血鬼としての生を得るためには必要な行為だ。 

 人の国では元英雄の反逆者、魔族の国では虐殺の殺戮者。

 そんな立場のオレが細々と生き延びるには、どうあっても力が必要だ。

 そしてその力は、吸血をするという簡単な行為で取り戻せる。

 

 だというのに、震えの止まらない口からは何も言葉が出ない。

 

「ユーキよ。地上に行くというならこれを持って行け」

 

 意気地なしのオレを諫める訳でもなく、ギーグは何かを渡してきた。

 それは2本の試験管だった。

 容積は10mL(ミリリットル)にも満たない、小さな小さな物だ。

 だがそれを満たす液体はどこまでも赤く、紅く、朱く、そこに命の重みがあると否応なしに実感させられる。

 

「これって、2人の……」

 

「儂とアレクからの餞別(せんべつ)じゃ。

 これさえあれば、お主も戦えるじゃろ」

 

 正直に言えば、これを口にするのはまだ怖かった。

 密閉容器に入っているというのに、見るだけで鉄の香りが鼻を突く錯覚がする。

 同時に胃から込み上げそうになる酸味も、無理矢理抑え込まなければならなかった。

 体も心も、吸血行為を拒否している。

 

「どうしても詰みそうな時はすぐにでも飲ませてもらうぜ」

 

 それでも、オレはその2本の試験管を大事に仕舞った。

 あくまでも危機に面した時に対処するための血液。

 そこには即座に牙を突き立てる事を強要しないアレクやギーグのささやかな気遣いが感じられる。

 

 それにも答えられないようじゃ、この先に何かを為せる訳がない。

 体の震えは、自然と止まっていた。

 

「じゃあ、僕も覚悟を決めるよ」

 

「アレク?」

 

「フォートランデの街までついていく。

 フードを被れば僕の見た目は人間と同じなんだし、誤魔化すのに手間はかからないはずだよ。

 今のユウは1人にするとやっぱり心配だしね」

 

「お前、そういって最初からついてくるつもりだったろ」

 

 あらかじめ用意したような理由付けに、思わず苦笑してしまう。

 覚悟を決めるだなんて取ってつけた言い方しなくてもいいのに。

 

「いざという時はユウが守ってくれるんでしょ?

 だったら何の問題もないって」

 

 相変わらずコイツの肝っ玉は据わり過ぎている。

 フードの壁なんて風一つで取り除かれるのに、その不安以上にオレを信じてくれる。

 

「ああ、オレがばっちり守ってやるよ。

 そうさ、やってみせるさ!」

 

 2人のお陰でちょっとだけ前向きになれた。

 ディートリヒにもシェリアにも謝って、聖剣を奪取してみせる。

 その先をどう生きるかはまだ分からないけど、前に進むための決意は固まった。

 

「それじゃ、ギーグはさっきオレがやったように地下の工作を続けててくれ。

 オレたちも終わったら一旦戻るから、ここで落ち合おう」

 

「やれやれ、人使いの荒い奴じゃ。

 こう見えても儂は老体なのじゃぞ」

 

「アンタなら10代の奴らと競える体力ぐらい有り余ってるだろ」

 

 相変わらず皮肉の好きな奴だ。

 だからオレも、ギーグに対しては皮肉で返す。

 これが一番彼と気軽に言葉を交わせる手段だから。

 

「それじゃ、行ってくるぜ!」

 

 出立の言葉を告げ、オレとアレクは街の東端に位置する出入り口を目指す。

 そこは住宅街が広がる場所だ。

 昼のこの時間なら仕事で多くの人が出払っているので、目立たずに侵入できる。

 

 

 




しょぼい監視網なら掌握しなくて良くね? って思うかもしれませんが、それについてはまた詳しく説明します!

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