【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

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今回は違う視点からのシーンです。
回想にしか出てなかった奴らがちゃんと登場するぞ!


第3話 友たちの思い

「ディートリヒ。入るよ」

 

 ノックもしない不躾な態度でシェリアが部屋に入る。

 癖っ毛の混じった金髪のショートヘアと、眠たげな目元が印象的な少女だ。

 

 それに対して、ディートリヒと呼ばれた部屋の主は呆れたような仕草を見せる。

 オールバックに(まと)めた暗い茶髪、髪と同色の鮮鋭な瞳を持ち、見る者に鋭利なイメージを与える。

 

「ユーキがここに来てる。

 私たちに会いに」

 

 彼女はいつも通りに、必要最低限の言葉だけで意思疎通をする。

 どのようにしてユーキが来ているか、その話をどこから聞いたからなど、普通なら話すような内容は一切告げない。

 このように端的な話し方ばかりするので、彼女はどこの団体でも孤立しがちだった。

 

 もっとも、1年間冒険を共にしたディートリヒからすれば、その言葉の裏を読み取る事など容易ののだが。

 ユーキが来るという話は衛兵たちの立ち話から知ったのだろう、と適当に当たりをつける。

 

「彼を迎えに行く。

 ディートリヒも行こう?」

 

 ユーキの帰郷、それによって彼と久々に再開できる。

 運が良ければリリシアも一緒かもしれない。

 また仲間四人で、楽しく冒険できる。

 それまで一人きりの時間を多く過ごしてきたシェリアにとって、それはとても喜ばしい事だった。

 だからこそ、仲間の一人であるディートリヒもこうして誘っているのだが――、

 

「俺は行かない」

 

 彼から放たれたのは拒絶の一言だった。

 シェリアにもその言葉は半ば予想できていた。

 だがディートリヒがユーキとの決別を望んでいる事をハッキリ見せつけられるのは、二人の仲を近くで見てきたシェリアにとっては辛い事実だった。

 

「おそらく、お前の言うユーキが俺たちに謝罪しに来るという目的も間違ってない。

 だが、アイツの狙いには聖剣ストレシヴァーレも含まれているだろう。

 アレは人が現状持ちうる兵器の中でも最大火力のものだ」

 

 自責の念を感じたユーキは、間違いなくその原因である聖剣を破壊しようと目論む。

 ディートリヒはユーキの本心にどこまでも臆病な一面があると知っている。

 贖罪(しょくざい)を求めるユーキは、そうやって責任を取らなければ重圧から解放されないだろう。

 だが、それは人類に対する反逆だ。

 

「もしそれを奪うというなら、アイツであっても俺たちの敵だ」

 

 敵対するというなら、かつての仲間であっても斬り捨てる。

 それが聖国に剣を捧げる騎士として育ったディートリヒの信念だった。

 

「でも、私たちは……」

 

「仲間だと言いたいのか? 随分と腑抜けた事を」

 

 未だに仲間意識を大切にしているシェリアは、ディートリヒの割り切り方に納得できなかった。

 今からでも仲間として関係を修復したいと強く願っている。

 だがディートリヒは決別をハッキリさせるために、シェリアの抱える暗い心を公開する。

 

「一番魔族を憎んでいたのはお前だろう、シェリア。

 もはやユーキもリリシアも、俺たちにとっては敵対者でしかない」

 

「……ッ! 分かってる!

 魔族に父さんと母さんが殺されたって!」

 

 復讐心、それはシェリアが幼少期から持つ生への原動力だった。

 魔族が時折見せる人間味のある表情も、聖教の教文を支えとして無視し続けてきた。

 魔族を滅ぼす事で、父母が死んだ時のような悲しい戦いを終わらせる。

 実に平凡な魔力量しかない彼女が一流の魔術師としての腕を手に入れたのも、その執念があってこそのものだ。

 

「でもリリシアもユーキは、それでも仲間だもん!」

 

 だがシェリアにとってユーキたちと冒険した1年は、復讐に全てを捧げた10年よりも重かった。

 だからこそ、1年の友情を守る為に10年来の復讐を捨てる決心を叫ぶ。

 口下手な彼女の口調も相まって、その叫びは子供の癇癪(かんしゃく)のようだった。

 

「そう思うなら好きにするといい。

 だが彼らの肩を持つというなら、それは人類への裏切りだという事を知れ。

 ここには、二度と来るな」

 

 どこまでも真っすぐなシェリアの訴えも、ディートリヒの心には届かない。

 国のため、民のために剣と共に生きてきた彼は、仲間という些事(さじ)()すべき事を(たが)える事はない。

 それを貫くためなら、未だ人であるシェリアであっても敵とみなす事を躊躇(ちゅうちょ)しない。

 聖騎士としての称号を賜ったディートリヒとは、そういう男だった。

 

「馬鹿ッ!

 君が一番会いたがってる癖にッ!」

 

 これ以上の問答に意味はないと悟ったシェリアは、目から雫を散らしながらディートリヒの部屋から走り去る。

 捨て台詞のように吐かれた罵声は、シェリアがそうであって欲しいと信じる願いだった。

 

「……こちらから行かずとも、アイツは必ず来る。

 聖剣が安置された大聖堂、その地下庭園に」

 

 涙ながらの本心で迫ろうと、ディートリヒの信念は揺るがない。

 彼は生まれてからずっと剣を握り、剣と共に生きてきた男だ。

 彼と言葉を交わそうというなら、言葉ではなく剣でなければ伝わらない。

 それをディートリヒ本人も理解しているからこそ、聖剣を臨む場所でのユーキとの決着を望む。

 

「ユーキ。人という立場を失ったお前には、この国の居場所などない。

 (つるぎ)(もっ)てそれを分からせてやる」

 

 ディートリヒから見たユーキという少年はどこまでも強く、同時にどこまでも弱い。

 彼には、ユーキにどうしても伝えなければならない事がある。

 だからこそ、何の(うれ)いもなく決闘のできる場所を欲する。

 

 聖騎士の手を伝う震えは期待感の現れだった。

 ディートリヒとユーキが剣を交わしたのは、訓練中の緩撃(かんげき)だけだ。

 未だ交わした事のない強者との剣戟、かつての仲間との信念をかけた決闘。

 これほどの高揚感を感じたのは、ディートリヒという男の18年の人生で初めての出来事だった。

 




シェリアちゃんの口調がちょっとロリっぽくなったけど、これでも160cmぐらいの設定のつもりだし、おっぱいはまな板のリリシアと違ってちゃんとついてm(ここから先の項目は《爆紅蓮花(フローラルイグニッション)》されました。

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