【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

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第2回の説明回!
ギュイーンキュピーンって感じにピカーッってなる回です。
何を言っているのかはオレにも分かりません。


第2話 フォートランデ攻略作戦

「着いたぞ! あれが聖都フォートランデだ」

 

 白亜の高い城壁で円形に覆われた街全体が視界の彼方に映る。

 遠く離れたここからでは、街内部の様子は中央地区に建つ大聖堂の頂部しか確認できない。

 

 フォートランデは別に閉鎖的な都市である訳ではない。

 現に聖都への道には数多くの人々が(ひし)めいている。

 雪染めの山嶺(さんれい)がごとき城壁は外敵を払う為に建造された物――遙かな昔、ここが戦場の最前線だった事を証明する物に過ぎない。

 国防の手段としてはもはや無用の長物だが、ここ聖国ニューヴェリアスにおいては威光の象徴としてその白磁の肌を爛々(らんらん)と輝かせている。

 

「凄い……! こんなに大きな街、初めて見たよ」

 

「ニューヴェリアスの首都だからな。政治的にも商業的にも、ここが聖国の心臓部って訳だ」

 

「帝国には規模こそ同等の街はあれど、ここまでの活気はなかったのう」

 

 そうギーグは言うものの、オレたちには小鳥がさえずる声しか聞こえない。

 まあコイツなら聞き取れてもおかしくないか。

 

「あそこは聖国で見ても特に異様な街だからな」

 

 フォートランデが異質とされる理由、それは生活施設の一部が既に自動化されている事だ。

 下水道程度しか自動化されていないとはいえ、排泄物は基本的に垂れ流しのこの世界では画期的な開発だ。

 きっと100年もすれば照明などの設備も充実するだろう。

 

 その生活基盤の根幹を担っている超常技術、フォートランデに潜入するにはそれを十分に理解する必要がある。

 

「これから潜入作戦を説明するぞ。

 まずは必要な事前知識からだ」

 

 とはいえ、説明するのは難しい内容ではなく魔法の基礎知識だ。

 ギーグはとうの昔に理解しているだろうし、3ヶ月で知識を詰め込んだアレクの理解度の再確認を兼ねたものだ。

 

「アレク、魔法を発動する為には何が必要だ?」

 

「魔力と魔法式、だよね」

 

 そう、魔力と魔法式が魔法を起動する重要なファクターだ。

 他の要因もあるといえばあるが、これらを理解していれば十分だ。

 

 銃――とはいってもこの世界には存在しないが――をイメージするのが一番近いかもしれない。

 魔力は火薬が爆発する際に発生するエネルギーに相当し、魔法式は弾丸を射出する機構、すなわち銃の構造に相当する。

 術者本人、あるいは空気中からくみ上げた魔力をどのような形で放出するのか、またエネルギー放出の指向性などを決定づけるのが魔法式である。

 

 もっとも銃とは違い、魔法の場合はエネルギーで何かしらの物質を射出するよりエネルギーの塊をそのままぶつける事の方が多い。

 物質の射出などは摩擦によりエネルギーのロスが多く発生するからだ。

 ほとんどの魔法が火、風、電気、光などエネルギーに変換しやすい現象が中心となるのはそれが理由である。

 

 また、魔法式は魔法発動において最も重要なファクターだ。

 銃の構造同様、魔法式に少しでも不具合があれば、運が良ければ不発――最悪の場合、術者の命に関わりかねない。

 そのため、魔法式を扱う場合はそれまでの研究で実用性が認められた物を使用する魔術師が大半だ。

 素人が生半可な知識で組み立てた銃が実用に足る訳がないのと同じだ。

 即興で実用レベルの魔術を放てる魔術師など、この世界においては――戦略級兵器に匹敵する存在だ。

 

 ……冷静に考えればここに該当者が2名ほどいるのは内緒だ。

 アレクの魔法の才能は今のところ特異な物が見られないので、彼が異端の道を歩む事はおそらくない。

 彼には既存の魔法を駆使してもらう事になるだろう。

 

「じゃあ次の質問だ。

 魔法式として使用される代表的な物は何だ?」

 

「魔法陣、呪文の詠唱、それと星痕(スティグマ)だよね」

 

「よし、大丈夫みたいだな。

 じゃあアレクがちゃんとそれらを用いて魔法が使えるか実践してみてくれ」

 

 とはいっても、訓練の時に発動できるのは既に確認済みだ。

 この演習は魔法学基礎の最終試験みたいなものだ。

 

 アレクは木の枝を筆として、大地のキャンパスに魔法陣を描く。

 

 魔法陣とは、この物質次元上に魔法式を視覚可能な状態で表した図形の事だ。

 平面図形でも立体模型でも、目に見える形で記されていればなんでもいい。

 アレクが地面に描いているのは、ルーン文字と円を組み合わせた魔法陣だ。

 ルーン文字は魔法陣の簡略化を目的として開発された物で、2~5画程度で書ける容易さから重宝されている。

 事前に式を準備できる事から、魔術師はこれを記した装備を戦場に持ち込む事が多い。

 

 アレクが木の枝を陣内に置き、魔力を流し込む。

 すると小さな火花が発生し、木の枝に引火する。

 今回は木の枝1本だったのであまり火の勢いは激しくないが、焚火などを起こすには十分な火種だ。

 この準備に10秒程度しかかからないのだから、魔法というのはつくづく便利だ。

 

「風よ吹け、《息吹(ウィンド)》」

 

 アレクがそう告げると、右の手のひらから微風が流れる。

 既に燻りかけてた火種はその一息で鎮火する。

 

 今のが呪文を用いた魔法だ。

 言葉の抑揚、文意、声量などによって魔法式の意味を構築、それにそった魔法を起動する物だ。

 魔法陣と違って事前の準備が必要ないので、覚えていれば状況に応じて魔法を使い分けられるのが利点である。

 他方で、呪文の詠唱中は無防備になりやすい欠点もある。

 簡略化した呪文で魔法を発動する手もあるが、その分過剰に魔力を消費してしまう。

 総じて見ると、選択肢は広がるが使いどころの見極めが難しい魔法だ。

 

 また、魔族がその名を冠するのは呪文と星痕(スティグマ)の魔法が人間より強いからだとされている。

 彼らは人よりも広い声域を持っており、より多くの魔法を使う事ができる。

 魔族の魔法を人が使おうとすれば、発声できない音のせいで暴発する危険性がある。

 

「最後は星痕(スティグマ)だな。

 《身体強化(エア・マッスル)》を使ってみてくれ」

 

 アレクは地面から小石を一つ拾い、《身体強化(エア・マッスル)》を発動しながらそれを握り拳の中にしまう。

 彼が手を開くと、そこには粉々になった石が残っていた。

 

 人体には筋紋、血管、骨格など模様と解釈できる部位が存在している。

 それらも捉え方によっては天然の魔法陣と考える事もできる。

 生まれついて人体にある魔法陣、それが星痕(スティグマ)だ。

 

 星痕(スティグマ)由来の魔法は、《身体強化(エア・マッスル)》のように任意で魔力を流して発動する物と、魔力を自動で喰らって常時発動し続ける物が存在する。

 おそらく吸血鬼特有の再生能力は後者だ。

 常時発動型の星痕(スティグマ)は基本的に強力だが不意に魔力を消費する事も多いので、『魔術師としては』大成できない人が多い。

 吸血鬼の場合は尋常でない魔力量があるので例外だろうけれど。

 

「さて、あと例外としてあるのが無詠唱魔法だけど……アレクはどうだ? 感覚的に発動できそうだと思った物はあるか?」

 

「いや、全くないよ。魔法式を脳で組み立てろって言われても、何をイメージすればいいのか全く分からなくて……」

 

 この世界において究極とされる魔法系統、それが無詠唱魔法だ。

 星痕(スティグマ)を用いた魔法は、使用した際に魔法陣として機能している体の部位に微熱が走る。

 だが、星痕(スティグマ)どころか一切の魔法式を介さずに魔法を発動できる異例な人たちがいる。

 その異例な人こそが、俺やギーグなのだ。

 

 彼らが魔法を発動できる理由の仮説として最も有力なのが、脳内で魔法式を組み立てているという物だ。

 俺もこの解釈で間違っていないと思う。

 人間の脳内には多数のニューロンがシナプスで繋がった網目状構造(ネットワーク)が存在する。

 ここを電気信号が走り、その命令によって初めて人間は思考した通りの行動を取る事が可能になる。

 思考の際の電気信号の疾駆、これは見方に寄っては立体型の魔法陣を構築していると考える事もできる。

 

「という訳で頭の中の網をギュイーンキュピーンって感じにピカーッって何かが走っているのをイメージすれば発動できると思うんだけど……」

 

「ごめん、その説明10回目ぐらいだけどやっぱり理解できないや」

 

「安心しろ、オレもなんで使えるか全く分からん」

 

「ユウ、殴っていいかな?」

 

 とは言っても、本当に分からないんだから仕方ない。

 このイメージだって、あの時どうやって魔法を使っていたのかを思い出しているに過ぎない。

 ただ炎の魔法を使いたい。

 そう思えば炎を出せる。

 完璧に記憶した数学の公式のように、思考を巡らせずとも答えがすぐに出てくる。

 それがオレにとっての脳内魔法式だ。

 

「だから具体的に説明しろって言われても無理なんだよ。

 これが数式だったら共通言語である数学記号を使えばいいけど、無詠唱魔法には誰にでも理解できるように説明できる言葉が存在しない。

 だから擬音だらけの曖昧な説明しかできないんだ」

 

「儂の場合、風魔法は大気を練り込むイメージを、雷魔法は魔力をそのまま叩きつけるイメージをしておる。

 個人でもイメージの様子が食い違っている以上、その統計化は難しいじゃろうな」

 

「やっぱり無詠唱魔法は才能の問題なのか……」

 

「残念だけどそういう事だな。

 ない物をねだるより、ある力を振り絞った方がいい。

 という訳でアレクは引き続き魔法陣主体で魔法を覚えてくれ」

 

 無理をし過ぎたりするのはよくないからな。

 それに無詠唱が使えないという凡才ぶりから、魔法陣魔法の天才になった人をオレは知っている。

 彼女と同レベルになれとは思わないが、自分ができる分野で可能な限りの努力をするのが成長には大事な事だと思う。

 

「魔法の基礎理論への理解は十分みたいだし、フォートランデの特徴について説明するぞ」

 

 そう言ってオレは地面に二重丸の図と、上下にすり鉢状の絵の底に二本の直線を引いた図を描いた。

 

「大分簡略化したけど、こんな感じにフォートランデは上から見ると城壁に囲まれた円形、横から見ると地上と地下水道の二層に分かれた構造になってる。

 そんで、地上の大通りを大まかに書き足すとこんな感じ。

 地下水道の構造は行った事がないから分からないけど、地上の通りと同様にある規則性を持って作られているはずだ」

 

 そう言いながら、オレは二重丸の内部に多数の直線を引いていく。

 それは緻密さこそ異なるものの、アレクが先ほど火花を出すために描いたあの図に似ていた。

 

「まさか……フォートランデは街そのものが巨大な魔法陣になってるの!?」

 

「そういう事。

 住民の間じゃ常識だけど、アレクはあんまり出る機会がなかったから知らなくても仕方ないだろうけどな。

 これが住民のインフラと、フォートランデが金城鉄壁の城砦である理由を支えてるんだ」

 

「なるほどのう……。

 魔族領でもこのような計画立案は進んでいたが、人は既にこの技術を確立しておったか」

 

「とは言っても、この魔法陣はそこまで強い効力はない。

 現状実装されてる機能は下水の自動浄化と、街中の監視ぐらいだな」

 

 魔法陣型の都市が確立されたのは、オレがこの世界に生まれ落ちる数ヶ月前の出来事だったらしい。

 あれから1年半の歳月が流れているとはいえ、著しい技術向上がある訳ではない。

 せいぜい監視の網が都市全体へと広がっているぐらいだろう。

 

「という訳で、地下水道からなら見つからずに都市内部へと潜入できる。

 重要施設の大体の位置は覚えてるし、そこから地上に上がって一気に大聖堂まで向かう。

 後は聖剣をちょろまかして即時退散だ」

 

「でも……ユウはそれでいいの?

 地上に出れば僕らが魔族の集団だってすぐにバレるし、街は大混乱だよ。

 そうなったら衛兵たちとの乱闘は避けられない。

 僕は乱闘の時に自分を守りきれる自信がないよ」

 

「その点は大丈夫だ」

 

 3ヶ月の旅の間、ずっと考えてきた。

 元はといえば、オレの失態で始まった不祥事だ。

 だから、決着はオレの手でつけないといけない。

 

「地上には、オレ一人で出る。

 お前とギーグは地下水道で待機してもらう」

 

 それを聞くなり、2人がギョッとした表情を見せる。

 

「無茶だ!

 今の状態じゃマトモに戦えないって言ってたのはユウ自身じゃないか!

 だったらギーグは最低限ついていかせるべきだろ!」

 

「オレが地上に出た事に気づかれれば、捜索隊が地下にも来るかもしれない。

 そうすれば一人で孤立したアレクには抵抗できる手段がないだろ。

 その保険としてギーグも待機だ」

 

 その後もオレとアレクの議論は平行線のまま続いた。

 ギーグはその事態を見かねたのか、オレに言葉をかける。

 

「ユーキよ。

 お主の作戦はある意味間違っていない。

 戦力にならないアレクを安全圏へと置いていく。

 非常に合理的な選択じゃ」

 

 ギーグはオレを肯定するように言葉を紡ぐ。

 だが、彼の表情はオレを諫めようとしている。

 

「じゃがのう、お主の作戦は破綻しておる。

 それはユーキが圧倒的強者であって初めて成り立つ作戦じゃ。

 そもそもの特攻部隊が攻撃力0では、敵陣に切り込むなどとてもじゃないができぬ。

 だからお主は強者としての力を取り戻す必要がある」

 

 作戦の矛盾を、抉るように指摘する。

 最終的にギーグが何を言いたいのか、二の句を聞かずとも理解できてしまう。

 

「どうしてもその作戦を決行するというなら、儂らの血を啜れ」

 

「……ッ!」

 

 最後まで先延ばしにし続けていた決断。

 それをこの場で下せと、ギーグは確かに告げた。

 

「お主には今まで相当な時間があったはずじゃ。

 吸血鬼としての生を得る、アレクを置いて孤軍で城砦に突撃する、全てを投げ出して平穏な生活を送る。

 その時間があれば、これらのいずれかを選ぶ事ができたじゃろう。

 じゃがお主はいずれも選ばず、儂らと戦う事を選んだ」

 

「……どの選択肢も、そう簡単に選べるもんじゃないだろっ」

 

「それでもお主は、選択しなければならない場所に来てしまった。

 だったらこの場で決断を下すしかない。

 儂らとお主自身の為に」

 

 戦いから逃げるのも怖くて、ズルズルと居心地のいい冒険を続けてしまった。

 すべき事を後回しにしたツケが、今になって回ってきただけだ。

 ここで答えを出さないといけないのだろう。

 それでも、オレは――。

 

「……地下水道に行きつくまでに3日ほど、そこで必要な工作を行うのにもう何日かかかる。

 それまでには、答えを出しておく」

 

「ユウッ! それはあまりにも不誠実じゃないの!?」

 

「儂はそれで構わん。

 それまでに答えが出せるというなら、な」

 

 再び打ってしまった、逃げの一手。

 アレクの言う通り、ギーグに対して失礼な返答だ。

 でも、まだ血を飲むのが怖いんだ。

 もう少し整理する時間が欲しい。

 

「ごめん、ギーグ。

 それまでには血を吸うって決断するから」

 

「……そうか。

 それでもお主は戦いの道を選ぶのじゃな。

 儂好みの返事じゃ」

 

 犠牲者を増やさないために、聖剣ストレシヴァーレを奪取する。

 この目的だけは間違えない。

 

 だから、戦う事は躊躇(ためら)っちゃいけない。

 衛兵たちが立ち塞がるなら全員昏倒させてでも道を切り開かなければならない。

 

「ユウ。

 もしその時でも吸血しないなんて言ったら、二度と戦場には立たないでね。

 そこでも逃げたりしたら、ユウにはその覚悟がないって事なんだから」

 

「ああ、分かってる」

 

 アレクもギーグも、オレの我儘(わがまま)に付き合ってくれている。

 それも最大限の譲歩付きで。

 

 だったら、覚束(おぼつか)ない足つきでも進まなければならない。

 それがオレにできる、唯一の償いだから。

 




大放出って感じに設定垂れ流したけど、本編に必要な事だからね。
仕方ないね。

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