【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

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新章スタート……の回ですが、今回はユーキが出てくる話ではないので、サイレント更新です。
本編は今日の19時更新になります!
12時間後をお楽しみに!


第2章
第0話 剣聖、荒野に斃れ伏す


 長い長い旅路だった。

 その過程で、数多くの賞賛があった。

 その果てに、剣聖という称号を賜った。

 

 だが、人からの賛美では俺の心は満たされなかった。

 俺の欲求を満足させる唯一の(すべ)は、ただただ血潮で大地を満たす事だけだった。

 

 魔族を、人ではない者を、怪物どもが跋扈する西方の地を、ただ一振りの(つるぎ)で蹂躙する。

 醜悪な顔貌(がんぼう)、迫り来る刃、宙を舞う血飛沫。

 獰猛な咆哮、逃げ惑う悲鳴、絶え間ない怨嗟。

 鼻を突く鉄臭さ、戦場に舞う塵の香り、死肉が焼け落ちる刺激臭。

 視覚、聴覚、嗅覚がそれらで満たされてこそ、俺は生きているという実感を得られる。

 

 剣という武器は実に素晴らしい。

 取り回し、リーチが共に程よいバランスなので振りやすい。

 刺突、斬撃、打撃と戦況へのアプローチをする手段も多い。

 魔族を殺すのに、これほど優れた武器はないだろうと確信している。

 

 魔法という技術もまた素晴らしい。

 剣には足りない物、長距離への攻撃手段、爆発的な破壊力を補ってくれる。

 応用次第では防御手段にも使えるため、その汎用性は異様に高い。

 魔族由来の技術だというのは気に食わないが、外法(げほう)を以て外道を殺せるならそれもまた一興だ。

 

 俺は決して許しはしない。

 魔族という、人にとって不倶戴天の仇を。

 奴らは身を挺して俺を守った人を、母を笑いながら殺した。

 奴らは戦場に出兵した人を、父を帰らぬ存在とした。

 奴らは最後に残された大事な人を、親友を嬲り殺しにした。

 

 あの時から、俺の研鑽の日々は始まった。

 他の物は一切顧みず、戦場へとひた向きに赴く。

 

 1日目は剣の重さに惑わされ続けた。

 1週間後は殺す事に満足感を覚えていた。

 1ヶ月後は何体殺さなけらばならないと義務感に駆られた。

 1年後は、何の感慨もなく殺し続けた。

 10年後には、戦場以外の場所では生きる意味を見出せなくなっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 辿り着いた果ては何もない荒野だった。

 将の首は既に斬り落とした。

 兵卒の身は焼き尽くした。

 味方の兵は、一人たりとも残っていなかった。

 

 魔族の奸計(かんけい)によって、俺たち人側は劣勢の中での戦いを強いられた。

 逃げ場は防がれ、突破口を切り開かねば即座に死が襲ってくる過酷な戦場だった。

 そこを踏破できたのは、ただ一人だけ。

 両軍相打つという結果は、どちらが勝者と言っていいのだろうか。

 

 俺の20年に渡る復讐劇は、熾烈な物から陰惨たる物へと変貌していた。

 初めは魔族を殺す事に充足感を得ていた。

 今は殺しても満たされる物はない。

 逆に殺しをしなければ不安を感じるようになっていた。

 

 そんな人生でも、俺はいいと思った。

 そうでなければ、死んだ彼らに報いる事ができない。

 当時10歳だった自分が何もできなかったのは当然だった事ぐらい分かっている。

 それでも、俺は自分と魔族を許す事ができなかったのだ。

 

 死者ばかりが地を這う荒野。

 生者(せいじゃ)はただ自分一人だけ。

 そこに、もう一人の人物が現れた。

 

 彼女の銀髪は月明りのような燐光を放っていた。

 翠色の双眸もまた、宝玉のような煌めきを携えている。

 美の頂点として存在するために生まれたような姿だった。

 肌、髪、瞳、いずれの輝きも作り物としか思えない艶めかしさがある。

 表情に人間味を見出せなければ、動く彫像と言われても疑わなかっただろう。

 

 俺は問う。

 お前は人か。それとも魔族か。

 彼女は数秒考え込んだうちに、こう答えた。

 私は吸血鬼だ。

 

 吸血鬼。人ならざる者。

 そうであれば、俺の解もただ一つだ。

 この身に携えた一振りの剣を(もっ)て、彼女を討伐する。

 それが魔族殺しの果てに剣聖の称号を得た、俺の役目だ。

 

 俺の人生は、その地で終わりを迎えた。

 




to be continued...

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