【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

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第20話 いざ、聖都へ

 土を掘った穴の中に、男たちの肉体を収める。

 自分の手で土葬をしたのは、初めてだった。

 

「悪いな、手伝わせちゃって」

「いいよ、これぐらい」

 

 ギーグが殺したシュンナムの人たちは、大木の根本に埋葬した。

 墓石も戒名もない墓だけど、作らないよりはいいだろう。

 

「カカカ、わざわざ埋葬するほどでもなかろうに。

 あやつらはお主を殺そうとしていたのだぞ」

「シュンナムの人だってオレを襲ったのに悪意があった訳じゃないし……。

 言ってしまえば、お国騒動に巻き込まれただけだからな」

 

 救国の英雄が異形の怪物へと変貌した。

 例え自我が残っていようと、人としての外見を保っていようと、それでは正義の旗印として担ぎ上げるには不安定な存在だ。

 オレにとっては理不尽だけど、致し方ない事だと思う。

 

 だから、オレが彼らを恨む道理はない。

 恨んでいないなら、墓ぐらいはちゃんと作ってあげるべきだ。

 

「それで、ユウはこれから何をするつもりなの?」

「とりあえず、オレは聖都フォートランデに向かう。

 あそこは聖国の首都だ。

 ディートリヒやシェリア、それと聖剣はあそこに戻ってる可能性が高いだろうし」

 

 それに、リリシアも。

 ふとそう思ったが、可能性は薄い。

 オレ自身が吸血鬼と判明した以上、彼女も同様に吸血鬼だとバレているだろう。

 生きているとすれば、聖都の連中が追跡部隊を組んでいるはずだ。

 

「ディートリヒとシェリアの拠点は聖都にある。

 リリシアはいないだろうけど手がかりぐらいは見つかるだろ。

 ストレシヴァーレは、オレの見立てが正しければ王宮に再安置されるはずだ。

 アイツらに謝らなきゃいけないし、聖剣なんてもんは野放しにできないしな」

 

 仲間への謝罪もそうだが、それ以上に重要なのは聖剣ストレシヴァーレだ。

 人の自我を喰らい、過去の英雄を召喚する――それはもはや魔剣と呼んだ方がいいだろう。

 アレが存在するか魔族が討滅されない限り、悲劇は止まらない。

 一人、二人――終戦まで、何人が飲まれるか分かったもんじゃない。

 

「アレク、ギーグ。二人には迷惑をいっぱいかけちまったけど、こうして立ち直れたのはお前らのおかげだ。

 本当に、ありがとう」

 

 上手く笑えているかは分からないけど、精一杯の笑顔で礼を言う。

 二人とも笑顔を返してきているので、きっとオレの笑顔も自然な物になっているだろう

 ただギーグのは、強面というのもあって……少し怖い。

 

「それじゃ、またな」

「え?」

「んむ?」

 

 今生の別れを告げると、二人は驚嘆の声をあげた。

 

「ユウ、まさか一人で旅立つつもりだったの?」

「いや、お前らこそ付いてくるつもりだったのかよ!」

 

 やめろ、ジト目で見るな。

 でも、常識的に考えれば置いていくのは仕方ないんだ。

 

「いいか、オレはこれから聖都に行くんだぞ。

 オレもお前らも魔族だ。

 お尋ね者のオレはともかく、お前らは歓迎ムードなしの危険な旅になるんだぞ?」

「危険など、儂の前には無いも同然よ。

 小童こそその細腕でどうするつもりじゃ」

「うっ……」

 

 確かに今のオレは一兵卒相手でも戦えるかが怪しい。

 シュンナムの人たちが持っていた短剣を武器として拝借しているが、この筋力では心もとない。

 

「わ、分かった。

 百歩譲ってギーグは同行は許可するとしよう。

 でもアレクはアーガス村に戻れ。

 あそこならとりあえずの衣食住を確保できるはずだ」

「嫌だよ」

「何でだよ!」

 

 安全の為だと言っているのに理解してもらえない。

 聞き分けがないアレクを言い含めるべく思案しようとするが、彼の言葉の方が速かった。

 

「ユウは一人になると絶対に自滅し始めるから放っておけない。

 昔の話とか、出会ってからの印象から鑑みて、一人旅を出すには不安過ぎる」

「ううっ! ズイブンと辛口評価なんですね、アレクさん……」

「だって、勝手に突っ走った結果が荷馬車で連行でしょ。

 それに聖都に行くのだって元はと言えばユウの不始末を処理するためだし、一人で行かせたらまた課題が増えそうじゃないか」

「ぐぎぎぎぎぎ」

 

 悔しいけど反論の余地がない。

 だけど、アレクを巻き込むのはオーキス村長に悪いしな……。

 ギーグはオレたちのやり取りを見て愉快そうに笑ってやがる。

 そのギーグに人差し指の先端を向け、アレクへこう反論した。

 

「コイツが保護者という事で、今回は勘弁願えないでしょうか?」

「ギーグさんは強いけど、絶対に生活能力皆無だからダメ。

 野営するのと蛮族になるのは違うっていうのを覚えて」

 

 ダメだ、これは(てこ)でも動かないパターンだ。

 ちくしょう、これでも野営ぐらいは一人でできるんだぞ。

 というか、何で蛮族認定されたのにコイツは高笑いを続けられるんだよ!

 

「だー、もう! 分かったよ。

 ただし、ここから先の生活圏の住人は人が中心だ。

 だから、基本的にオレの指示に従ってもらうからな!」

 

 アレクはアーガス村で生活していたが、その他の場所を見た機会は少ないだろう。

 それらを加味すると、一番人の常識に触れているのはオレという事になる。

 隠遁生活だろうと、そこを理解してないと捕まる可能性がある。

 

「カカカ、コイツは楽しくなりそうじゃのう」

「これからよろしくね、ユウ」

 

 全く、こうしてみると問題児だらけのパーティじゃないか。

 元勇者、現吸血鬼、非力貧弱虚弱のオレ。

 常識人だけどハーフエルフで、戦闘力皆無なアレク。

 素性がよく分からない上に、筋肉隆々な肉体のせいで人だと誤魔化せないギーグ。

 

 でも、何故だか不安じゃない。

 1年前もこうだった。

 リリシアたちと一緒に聖都を立ったあの日も。

 

「よし、じゃあ行こうか。聖都へ!」

 

 今度は出立じゃなくて潜入だけど、気持ちはあの時と同じだ。

 きっとこの二人となら、目的を成し遂げられる。

 

 そんな予感がする。

 




はい、今回で第1章は完結になります!
ここまで読んでくださった皆様には本当に感謝しています。

突然ですが、この小説の投稿を1週間停止します。
理由は活動報告の方に記載しているのでそちらをお読みください。
という訳で、第2章の連載は8月30日(水)の19時からになります!

今後もユーキたちの冒険を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、しばらくさようなら!

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