【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。 作:青木葵
今回は久々にあのキャラが登場します!
また、第1章は今回含めて後3話で完結します。
しばらくプロットの再整理や書き貯めで投稿から離れる事になるので、1週間ほど時間をいただきます!
詳しくは1章完結時に活動報告で連絡します。
では、今回の話をお楽しみください。
アーガス村の外れにあるクレーターは、天災ではなく人災によってできたものである。
その中心に座し、
彼、ギーグの半生はまっこと酔狂な物であった。
オーガは生来の魔力が少ない種族である。
それ故に他者の死肉を喰らい、より強大な魔力を得る風習ができた。
一時期はそのために殺戮を是とする風聞があったほどだ。
現代では魔族間での交流が進み、食肉の為に殺害を行う行為は禁忌とされた。
他部族を敵に回すようになれば、その抗争で此方が滅びかねないからだ。
だが、オーガの中には未だに食してもよいとされる種族がいる。
それが魔族の不倶戴天の敵、人間だ。
魔族に比べると平均的な魔力は劣るが、それでも動物の肉よりは効率がいい。
オーガ達はこぞって戦場へ
ギーグもまた、戦場で人を喰らい続けたオーガの1体だった。
だが、彼は満足できなかった。
喰らった血肉があまりにも不味かったからだ。
ギーグの内包する魔力は、オーガとしては規格外のものだ。
彼の呼ぶ
魔力の枯渇した並みのオーガならともかく、彼にとって人の肉など酸味が強いだけのものだった。
満足のいかない
将軍として指揮をするのは、一兵卒として戦っていた頃よりも退屈だと彼は思った。
直接、己の手で敵将を
疲れで乾ききった口で血を
誰も彼もが弱すぎる。
弱者の肉は不味い。
己の中で、いつか極上の血肉を喰らう事がギーグの夢となっていた。
ある日、自身を統率する存在こそが甘美な味わいを持つのではないかと気づいた。
ワースマル帝国皇帝であり魔帝の称号を得た男、ハウンドヴェルズ・ジーギガス。
武を
結果は、ギーグの満足のいくものにはならなかった。
――血の一舐めすらも許さない、圧倒的な魔帝の暴力。
帝国四将軍として畏怖されていたギーグさえも太刀打ちできない。
それが魔帝ハウンドヴェルズの実力だった。
ギーグは確信した。
己を満足させるには、将などという狭い器に収まっていては駄目だと。
強者の血肉を口にする為には、何よりも自由で、暴力的な存在、鬼神へと昇華しなければならないと。
それからのギーグの行動は単純だった。
帝国から脱走――同時に逃走を許さぬ他の四将軍を殲滅し、彼らを腹に収めた。
以後は飽くなき旅を続け、すれ違い様に強者を喰らう。
いつの日か、魔帝の肉体に齧り付くために。
ギーグの彼岸への旅を始め、30年ほど経過したある日の事だった。
森の深淵にいたのは、少年とも少女とも見分けの付かない外観の人間。
あてもなく歩みを続ける姿は弱弱しく、今にも果ててしまいそうな枯れ木のようだ。
だが、その肉体から
手にした剣も、希代の宝剣を思わせる煌めきを放っている。
その姿を目にした瞬間、ギーグは心臓の鼓動を抑える事ができなかった。
彼の体は、魔帝にも匹敵する美味だろう。
いや、もしくはそれ以上。
己を満たしてくれるという確信と共に、彼に挑戦する。
戦ってみれば、その勇者はただの抜け殻だった。
何も信念も持たず、ただこの世への妄執だけで彷徨う亡者。
そんな抜け殻だけの勇者に敗北した。
満たされるためだけに強者に挑み、勝利を収め続けた。
その半生の全てが、空っぽな人間に倒される事で否定されたというのに。
その事実が、ギーグにとっては何故だか愉快だった。
自身がこのような感傷に至っている理由を知りたい。
今のギーグにはそれが食欲以上に重要だった。
答えを知る為、彼はあれからずっと瞑想に耽っている。
その集中を削ぐ音が、3時の方角から聞こえた。
「
その方向に立っていたのは、
黒髪の中から尖った耳が覗いており、エルフの血を引いているが分かる。
「っ、僕はアレクと言います。ここにどうしても必要な用事があって来ました!」
「ふん、知った事ではない。とっとと立ち去れ」
「帰れません! ここにはユウを、友達を助ける手がかりがあるかもしれないんです!」
「ここは見ての通り何もない。儂と小僧でドンパチやった結果、焦土にしてしまったのでなぁ!」
カカカと笑いながらギーグが発した言葉。
その言葉からエルフ族の少年は何かの確信を持った様な反応を見せる。
「その子って、僕より一回り小さい背丈で銀髪じゃありませんでしたか!?」
「そうじゃが、どうかしたのか?」
「やっぱり……そうなると、ユウが残した物がここにあってもおかしくないか」
少年の言葉を聞き、ギーグの中で一つの答えが出た。
勇者ユーキは何かトラブルに遭遇してしまった。
(あやつ、何もかも失った抜け殻だと思っておったが……)
全てを失っても、誰かと親密な交友を築いている。
ギーグの心にはユーキへの強い関心が生まれた。
「なぁ坊主よ、お主はユーキ……いや、ユウとやらを助けたいだろう?」
「当たり前だよ! 僕とユウは友達なんだから」
「なら、儂から一つ提案がある」
鬼神は獰猛な笑みを浮かべて、少年へと語りかけた。
「その救出の全てを、儂に任せてもらえないかの?」
to be continued...