【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

17 / 34
所用があるので早めの投稿です。
今日は遅刻してないぞ! やったね!
……明日大幅に遅刻するフラグだこれ。


第17話 少年の旅立ち

「ユウ! どこだ、ユウー!」

 

 アレクは鬱蒼とした森の中で、友の行方を追っていた。

 彼の衣服は木々に引っかかったせいかボロボロになっている。

 様々な迫害から彼を守ってきたフードはもはやその機能を果たせなくなっている。

 

 それでも、彼はその足を止めない。

 今ここでユウを見失えば、彼女はきっと無理をし続ける。

 絶対に、彼女を引き留めなければ――。

 

 突然、彼の鋭敏な耳に枯れ枝の折れる音が聞こえた。

 音の響きからして、恐らく人の物。

 ユウである事を期待して呼びかけようとするが、それを躊躇わせる音が続いた。

 

 耳をすませば、それは足音ではなく雑踏だった。

 ユウ以外の人物がいる。

 それも深夜の森の中に、多数。

 危険を察知したアレクは、木陰から彼らの様子を(うかが)った。

 

 確かに、ユウはそこにいた。

 男たちに、麻袋でも扱うかのように雑に担がれた状態で。

 

 怒りのあまり、思わず飛び出しそうになる。

 しかし自分が彼らに対抗できる可能性が薄い事に気づき、もう一度身を潜めた。

 

 彼らは8人組だ。

 同一の衣装を着ていることから、一つの集団として組織されている事も(うかが)える。

 また、彼らはユウを無力化してしまっている。

 ユウの剣技を見た事はないが、業物の剣を持っているから弱くはないはずだ。

 それを制圧してしまえる彼らは、戦闘経験のないアレクでは到底太刀打ちできない。

 

 どうすればいい。

 統率された男たちの手際は素早い。

 少し目を離しただけでも見失ってしまいそうだ。

 

(逃がして、たまるかっ!)

 

 移動する方角からして、おそらく盆地に向かっている。

 そこは森とは違い開けた場所であるため、そこに馬車などの移動手段があるのだろう。

 

 幸いアレクにはこの辺りの土地勘がある。

 一旦村に救援を呼びに行き、先回りするだけの余裕は十分にある。

 

 そう決め込んだアレクの行動は早かった。

 彼は道とも言えぬ道へと引き返す。

 木々がフードに覆われていない頬を掠め、傷つける事にも構わずに。

 

 

――――――――――

 

 

 

 村に着いたアレクはオーキス村長の家の前で立ち止まった。

 即座に扉に手をかけようとするが、躊躇いが生じたようにその手が止まる。

 

(村の人たちを……何より、オーキス村長を巻き込んでいいはずないッ!)

 

 彼らは手練れの戦士だ。

 この村の人たちでは一切太刀打ちできないはずだ。

 勝ち目がないのに個人的な感傷で村人でない者を助けるなんて、協力してもらえるはずがない。

 

 しかも自分はハーフエルフ、蔑視の対象なのだ。

 だからこそアレクには誰も深い干渉をしてこなかった。

 そんな少年の言い分なんて誰も聞くはずがない。

 

 それに消極的な形ではあるが、彼は村の人によくしてもらった方だ。

 隣町のマールトへ買い出しに行った時に、一度見た光景。

 半淫魔(ハーフサキュバス)の少女が住民たちに石を投げられていた。

 最終的に裏路地へと連れていかれた彼女がどうなったのかはアレクには分からない。

 だけど彼女が今も人間的でない暮らしをしているのは確かだろう。

 いや、彼女が生きているのかすら怪しい。

 

 それに比べれば、アレクはまとも仕事を貰え、料理などを楽しみながら暮らせている。

 その恩を仇で返すような事をしていいものか。

 

(でも、どうすればいいんだよ……)

 

 ユウを助けたいがために、村に戻るまではガムシャラに走る事ができた。

 だけど、満点の星空の下で平穏が続くアーガス村の空気を壊すのにも躊躇いが出てしまった。

 

(いっその事、皆が嫌いなら巻き込むのにも抵抗感がなかったのに――!)

「アレク? 帰ってきていたのか」

 

 外出から帰って来ていたのか、オーキス村長がアレクの背後に立っていた。

 

「村長、こんな時間に外出なんて何処に行っていたんですか」

「お前の所に行こうかと思ったら、誰もいなかったのでな。こうして戻ってきた訳だ」

 

 何の用があったのか気になり、アレクは村長の言葉を待つ。

 二の句を継ぐにはあまりにも長い()を置いた後、村長は思いがけない事を言った。

 

「――すまない、アレク。私は、お前を随分と傷つけた」

 

 謝罪の言葉に、アレクは驚愕の表情を浮かべた。

 

「ユウという少女に言われて気づいた。

 私は今まで、お前の境遇から目を背けていた。

 最低限身の保証をしているから十分だと。

 本当なら、もっと――個人として接するべきだったはずなのに」

 

 村長は、家族として接するべきとは言えなかった。

 苦虫を噛み潰したような表情で、俯いている。

 

(ああ、オーキス村長はきっと、怖いんだ。

 許されるのも、拒絶されるのも、どっちも)

 

 だからこそ大事なことを告げた今でも本音を割って話せない。

 罪悪感を持った自分が、救済されるのを許さない。

 臆病な感情の自分が、人から嫌われるのを許さない。

 

(だったら、本音で向き合えばいいだけだね)

 

 そこからは、アレクは淀みなく自分の気持ちを話せた。

 そうでないと村長は、いや、彼らは自分を許せないだろうから。

 

「オーキス村長。僕は昔、村の皆が嫌いでした。

 ハイネルさんや村長、それに、父や母も」

 

 蔑視され続けるという環境は、幼少期のアレクには耐えられないほど苦痛だった。

 そうなると分かっていながら子を為したり、ここに生活の拠点を構えた両親もまた許せない。

 聡明なエルフの血を引いてしまったが故に、彼はその境遇になってしまい、理解も届いてしまった。

 だから、皆を憎んでいた。

 

「でも、結局憎みきれませんでした。

 皆、心のどこかに優しい部分を持っていたから。

 きっと、どこか違えばもっと仲良くできたはずなのに」

 

 ハイネルさんが自分を排斥しようとしたのも、エルフという存在が村を脅かすのが怖かったから。

 アレクがたまたま優先度が低かっただけで、他の人への思いやりは人一倍ある。

 

 村長は消極的ながらも、アレクが村に居続けられるように尽力してくれた。

 その恩だけは、決して忘れてはいけない。

 

 両親は自分を愛してくれていた。

 確かに彼らの判断はアレクを苦しめていた。

 それでも、彼らの愛が本物だった事に嘘はない。

 

「だけど、僕もその気持ちを皆に伝えられませんでした。

 村長と同じで、自分を見せるのが怖かったんです」

 

 でも、彼女はアレクを友と呼んでくれた。

 アレクがエルフの血筋だと分かっても、それは変わらなかった。

 

 彼女に突き飛ばされた時、アレクは一瞬困惑した。

 だが村長と話した事で、今なら彼女の気持ちが分かる。

 

(ユウもきっと、自分を見せるのが怖かったんだ。

 今ならそれが分かる)

 

 自分の一番見せたくない醜さ。

 そこを晒してしまったが故の混乱だ。

 アレクにとって、それぐらいは許してもいい事だった。

 

 何故なら、アレクとユウは友達だから。

 

「だから、村長と僕の関係はお互い様です。村長だけが気に病む必要性はないですよ」

 

 そして、村長とアレクにあった関係の亀裂もまた、すれ違いによって生まれた悲しいものだ。

 だから本心から許したいと思えた。

 

 言葉を交わしたことは少なくても、アレクにとってオーキス村長は家族だから。

 

「村長、僕は今から事件に巻き込まれたユウを助けに行きます。

 皆さんの助けはいらないので、僕一人で大丈夫です」

 

 頭の整理がつけば、アレクの判断は早かった。

 ユウと出会った時、執拗に隠された森の騒動。

 

(あの場所に、きっと何かある)

 

 ユウを助けられる手がかりではないかもしれない。

 それどころか、そこに行くだけでアレクは命を落とすかもしれない。

 

 だけど、そんな事で今更躊躇うアレクではなかった。

 アレクの心にあるのは、ユウを助けるために全力を尽くす――その覚悟だけだった。

 

「いってきます、お爺ちゃん」

 

 オーキス村長は、アレクの言葉に思わず止まってしまう。

 初めて成功した祖父への悪戯に、アレクは笑みを浮かべながら別れの会釈をした。

 




to be continued...

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。