【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

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今日も今日とて遅刻投稿です、ごめんなさい!
3800字と気合いを入れたので許してください!
あ、何でもはしません。(真顔)


第15話 剣を抜く意味は、何処にある。

「ッ! はぁっ……はぁっ……」

 

 気づけばオレは、再び森の中にいた。

 アレクから全力で逃げたオレは、体力が尽きるまで足を止めなかったようだ。

 そのせいか全身は土と汗にまみれ、強烈な不快感を発していた。

 

 木々の隙間から夜空を見上げる。

 星の傾きから2、3時間は走ったのではないことが伺えた。

 また、森の植生の違いからここはギーグと戦った場所ではないとも。

 

 逃避の果てに、森の深淵へと辿り着く。

 あの時と全く同じ光景だ。

 勇者としての責を捨て、解放されたいと願ったあの時と。

 

「結局オレは、何も変わっていないじゃないかッ」

 

 行動に伴う責任なんて全く考えず、気安く引き受ける。

 気づいた時にはそれに押しつぶされ、無責任に全てを投げ出す。

 

 オレの人生は、そんな愚行の繰り返しだ。

 幼い頃から、1年前から、つい数週間前から、まるで成長していない。

 

 リリシアを傷つけた。

 ディートリヒとシェリアを裏切った。

 そして今度は、アレクの心を弄んだ。

 

「一体オレは、どうすればよかったんだよっ!」

 

 自分はいつから失敗していたのか。

 つい数週間前か、1年前か、それとも最初からか。

 だが愚かにも、何処で何を間違えたのか、そんな事も分からない。

 

「誰か教えてくれよっ……。オレはどうやって、どうやってアイツらに謝ればいいんだ」

 

 自分にできる限りの償いはしたい。

 でも、逃げ出した自分にそんな資格なんてある訳がない。

 自分をどん詰まりに落とす二律背反の思考に、心底辟易させられた。

 

 突如、その堂々巡りを止める声が聞こえた。

 

「その星晶の剣、勇者ユーキ殿とお見受けして間違いないな」

 

 振り返った先にいたのは、複数の男たち。

 深緑を基調に斑紋のあるローブを着ており、腰には鈍色に光る暗器を携えている。

 

 言葉を発したのは中央に立つ男だ。

 決してオレを逃がさない意志を感じさせる鷹のような瞳で、こちらを睨んでいる。

 

「そういうお前たちは、聖国第零番工作部隊……シュンナムか」

「どうだろうな。先ほどの質問を否定しないという事は、そのように受け取って構わないな?」

「へっ、それもどうだろうな」

 

 意趣返しの返答をしつつ啖呵を切ってみたものの、この状況をどう打破すべきか。

 シュンナムは聖国お抱えの工作部隊――その重要性から勇者であるオレにすら組織の存在しか明かされていない。

 所属者の素性や組織の所属を示す意匠(シンボルマーク)などは、一切秘匿。

 一般人にはまことしやかに実績が語られるだけ――徹底的な情報封鎖と脅威の主張によって、裏から人社会の治安維持を担ってきた者たちだ。

 

 オレがその正体を当てる事ができたのも、勇者であるオレを拘束しうる戦力に当たりをつけたら彼らしか存在しなかったから。

 もっとも、全盛期のオレであれば本当に捕らえる事ができたのかは怪しいものだが――。

 

「さて、我々が今の君に接触したのがどういう意味か分かるかな?」

「勿体ぶって質問ばかりぶつけてくるんじゃねーよ。単刀直入に言え。狙いは、この聖剣だろ?」

 

 剣の持ち主に英雄と同等の力量を与えるストレシヴァーレ。

 それを手にしたオレはもはや戦略級兵器にも比肩する戦力を持っているだろう。

 

「文字通り一人を生け贄に英雄を召喚できる。上等な宝具じゃねぇか、奪還したいのは当然だよな」

 

 だが、それに相応するデメリットは当然ある。

 英雄の色に染まるのは、使用者の実力だけではない。その心もだ。

 少なくとも力を使用している際はほぼ憑依させた英雄に自我を食われる。

 初期に数度だけ力を解放し、そこで体感的に剣技を身につけたオレは運がいい方だ。

 その方法を取らなければ、もっと早い段階で英雄に飲み込まれていたのかもしれない。

 

「大方、別世界からオレを呼び出したのも自国民を生け贄にするのは世論的に不味いからだろ?」

「実に合理的な考え方だね。もっとも、それが真実かを答える義理はないがね」

「ふざけんな、お前たちの戦争に、オレたちの世界を巻き込むんじゃねぇぞ! この世界に呼び出される奴がっ……」

 

 どれだけ辛い思いをするのか。

 自分が苦労を強いられてきたと暗に示すその言葉だけは、口から出せなかった。

 

 言えば、安い同情を誘っているようにしか思えない。

 勇者としての役目を強制されたとしても、最終的に責任を問われる行動をしたのは自分なのだから。

 多くの魔族の命を奪い、仲間たちを裏切った罪だけは、オレが背負わなければならない物だ。

 

「とにかく、こんな物を人の手には置いておけない。オレが手厚く葬らせてもらうぜ」

「断る。それは泥沼の抗争を最終戦争へと変えるものだ。聖剣さえあれば、人は一滴の血も垂らす事なく平穏な世界を手にする事ができるのだからな」

 

 シュンナム構成員たちは、同時に暗器を構える。

 統率された彼らの動きに、脱出する隙はない。

 彼らとて一流の戦士だ。

 常時のオレが相手であっても、団の結束を(もっ)てすればオレにも劣らない対応ができるだろう。

 

 圧倒的に弱体化したこの肉体で、この状況をどう切り抜けるか――。

 

 思案と同時に、オレは右手の構成員一人に対して《放電(ショック)》を放つ。

 相手を気絶させれば御の字程度の微弱な電流を流す魔法だ。

 命中すれば、か細い希望程度は作れる。

 

 だが、その願いも虚しくコートにローブに当たった電撃は霧散する。

 シュンナムほどの組織ともなれば、対魔機構(レジスト)なんて組み込まれていて当然だ。

 

 だが、諦める訳にはいかない。

 少しでも、少しでもオレが許されるためには――。

 オレの手で、聖剣を葬らなければならないのだから。

 

 そして手にしたのは、石の刃。

 鈍ら刀にも劣る、今のオレのような弱弱しい武器。

 それを携え、電撃を向けた構成員に刃を突き立てる。

 

「なんだぁ? そのへっぴり腰はよぉ」

 

 玉鋼の暗器に石のナイフは折られる。

 骨の柄との噛み合いが上手くできていなかったのか、石自体の強度が弱かったのか。

 どちらにせよ、手に伝わってきたのは確かな敗北の振動だった。

 

 腹部を殴られ、崩れ落ちた四肢を踏みつけられる。

 完全な拘束状態だ。

 高威力の魔法も打てない今では、ここから脱する(すべ)はない。

 

「あれま、勇者ともあろう人が随分弱くなってまぁ。吸血鬼様の伝承とやらも眉唾物か?」

「黙れッ! オレは何としてでも、その聖剣を封印するッ!」

「おー、怖い怖い。でも、ちょっとだけ大人しい子供の方がおじさん好みかなー?」

 

「ギィイッ!?」

 

 闇夜に暗く光る暗器が、右腕に突き立てられた。

 同時に広がる血の匂いに吐き気を催しかけるが、それを上回る苦痛が嘔吐を抑える。

 

「さて、伝説とやらが本物か、御開帳といきますか」

 

 傷から短剣が引き抜かれると同時に、異変が発生する。

 裂傷とは違う熱がそこに集中する。

 炙られるような痛みが気絶しそうになるが、それが引くと明確な異変が右腕にみられる。

 既に流血が止まっていたのだ。

 

「再生……能力……?」

「はっはっは! 弱っちいから拍子抜けだったが、上等な化け物になっちまったみたいだなぁ!」

 

 急所を狙っていなかったので、深い傷ではなかった。

 だが、浅い傷でもない。

 数秒で血が止まるなど、本来はありえない。

 人の身どころか魔族としても規格外な能力だ。

 

 確かに化け物と侮蔑されても、仕方のない体だ。

 

「だからどうしたっ」

「あ?」

「例え怪物になったとしても、オレはオレだッ!」

 

 他人に化け物と忌み嫌われようと。

 無責任な自分が好きになれなくても。

 オレはオレでしかない。

 だったら、その業も罪も全部背負って、最後まで抗うしかないじゃないか。

 

「はぁー……お前、本気で自分に生きる価値があるとかまだ思っている訳?

 なぁユーキ嬢ちゃん、いい事を教えてやろうか?」

「っ、何をだ……!」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべつつ、棟梁の男はオレにその言葉を告げた。

 

「お前が異世界から召喚されたっていうのはな、ちょっと語弊があるんだ」

「何……?」

「お前はただの複製体なんだよ。聖剣の、星の中に記録された一体の人格のな」

 

 言っている意味が、よく分からない。

 

「星ってのはな、ある種の生命体なんだよ。誕生してから死滅するまで、確かな鼓動を続けている。その一生の記憶が星晶宮って場所に記録されてるんだ。

 だけどなぁ」

 

「ごくたまに、この星にないはずの情報(バグ)が紛れ込んだりしてるんだよ。それがお前だ」

 

 理解が、わずかに追いついてしまった。

 

「星も生きてる以上、夢を見るもんだ。その荒唐無稽な情報の集合体、それがお前を構成する要素だ」

 

 お願いだ、やめてくれ。

 だってオレは確かに地球で生まれて、育って、それから――。

 

「チキュウとかニホンとか言ったっけか? そんな世界はこの世のどこにも存在しないんだよ!

 星が記憶を整理する上で偶然生まれた、妄想の産物って訳だぁ!」

 

 やめてくれ。もうそれ以上は聞きたくない。

 

「聖国はそれを拾い上げて適当に人間の体に当てはめてやっただけにすぎない」

 

 全部が終わったら、オレは帰るんだ。

 故郷(ちきゅう)に。

 

「お前の存在はなぁ、一から十まで全部偽物なんだよ!」

 

 空虚なのは、心だけじゃなかった。

 体も、経験も、全てが虚構。

 嘘偽りでしかない存在なのに、周囲には災厄しか振り撒く事ができない。

 

 ああ――もう、無理だ。

 生きる意味が、見つけられない。

 

「そんなお前に残された価値はただ一つ」

 

 もう何もかもどうだっていい。

 どうにでもしてくれ。

 

「伝説の魔族、吸血鬼の生き残り。

 それを大罪人として公衆の場で処刑する。

 そうすれば人々は歓喜に震える事ができるって訳だぁ!」

 

 オレが死ぬ。

 殺される。

 そんな事でも、人間の希望として(いしずえ)になれるというなら。

 

 

 

 そんな最期も、悪くないかもしれない。

 




to be continued...

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