【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。 作：青木葵
今回で回想編は終了です。
というよりプロット段階でコレを１話で収めようと思ったのは流石にアホだね！
後で２話分の編集に直しておきます。
迫る
敵は目の前の《リリシア》だけではない。
焼かれた大気が
その極限環境にさえ適応しているのか、リリシアの刃に衰えは見られない。
吸血鬼の肉体というのは、何処まで強靭なのか。
「案外体力ないのね～、男の子の癖に！」
「ッ！ 言ってろっ！」
脳神経のパルスを走らせ、風魔法《
大気の流れに指向性を与え、
気道の確保は完了した。
これで条件は
「ッラアアアァアアッ！」
「っック！？」
剣技、魔法の速度では
魔法自体の威力では若干劣るものの、手数の打ち合いで本来なら
だというのにリリシアに決定的な一打を加える事ができないのは、彼女の大局観が異常なまでに広いからだ。
敵の剣技、
その上で形勢を判断し、
これが極平凡な、一流の戦士が持つ大局観だ。
一方、リリシアの持つ大局観は異様の一言。
全力の彼女と相対して、初めて理解できた。
彼女は戦場の全てを、３６０度の全てを
敵の戦闘能力だけではない。
大地に転がる砂礫、刻一刻と変化する風の流れ。
戦場の環境、その変化すらも把握しているのだ。
故に彼女は見逃さない。
それらの隙とも呼べぬ隙を見抜き、一打を加える。
生半可な敵が相手であれば、彼女は開戦の法螺貝が鳴ると同時に詰みまでの棋譜を描く事ができるだろう。
「舐めるなァ！！ ッォオオオオオオッ！」
「チィッ！？ これだから脳筋で戦える奴はッ！」
読み合いで勝てないというなら、それに応じた攻め手を講じればいいだけ。
――常に最大火力の連撃を放つ。
単純にして、最も暴力的な解答。
一手一手、それら全てが
そうすれば、彼女は絶対にジリ貧になる。
彼女の対応速度は、詠唱のせいで
消し漏らした一撃の残り火に
彼女の白刃を弾き、無理矢理上段に構えさせる。
ここで全力の一撃を構築――打ち消しすら不可能な一撃を、回避不能な間合いでぶつける。
壱の式――《
弐の式――《
参の式――《
並列した三大魔術。これらを１つの魔導として束ねる。
脳を焼くほどの頭痛――それらを抑え込み、全霊の一撃を放つ。
三位一体の究極攻撃魔法、《
全ての音を掻き消すほどの暴力を以て、迅雷、火焔、烈風が吹き荒れる。
対岸で《
だが、この程度の一撃で
聖剣の刺突を
勝利を確信し、表情が歪むのが分かる。
だからこそ、雷火が晴れた後に彼女が浮かべていた顔に驚愕する。
彼女は、
だが、全霊を込めた一撃はもう止まらない。
どんな応手が来ようとも、
ストレシヴァーレの刃が、彼女の腹を貫いた瞬間――。
リリシアの唇が、『オレ』の唇に重なった。
驚嘆が漏れそうになるも、口蓋は完全に塞がれている。
動揺を見逃さず、彼女の舌が
刹那、口に生暖かい液体が流れ込む。
液体の半数は
だがもう半分は、鼻腔をも貫く鉄臭さを帯びた、強烈な粘り気を持っていて――。
彼女の
そして喉奥を、先端で優しく一突きする。
反射的に、
幾度も、幾度も、妖艶な舌の踊りによって、多量の液体が『オレ』の内部に送り込まれる。
やめろ。
その量は、手に降りかかる返り血にも匹敵するのではないかと錯覚する。
やめろ、死んじゃうぞ。
さっきまで
何秒、何分、何時間か分からなくなるほど、刺激的に行われた液体の供給。
彼女の口が離れると、その唇は
――血を飲まされた。
理解と同時に、全身の細胞が血液に
苦痛と共に、剣聖としての自我が消え、オレの自我が戻ってきた。
その時に知覚したのは、鮮烈な惨状であった。
腹を聖剣に貫かれたリリシア。
魔導によって荒れ果てた草原。
いや、それだけではない。
全てから逃げるために、聖剣に全てを託してしまったが故に、今まで切り捨てた魔族たちの顔一つ一つ。
その全てが、オレの脳裏にフラッシュバックした。
「オレは……オレはぁ……！ ぁあああああああッ！」
どうしようもないほどの過ちを犯した後悔。
to be continued...