【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。 作:青木葵
何卒、何卒ご慈悲を!
魔族と人は同じ存在――その認識が、脳裏に貼りついて消えない。
だからオレは逃げた。
思考を止め、
文字通り自我を消して剣を振るい、大地に
腕力を
戦いの果てに、
そこまで逃げ切れば、全てを忘れられると妄信して。
時折、聖国軍の人達が
例え魔族相手であろうと、個人が暴走して一個師団にも匹敵しうる戦果を上げているのは問題なのだろう。
もう聖国にも、戻る場所はない。
だったら最短で帰り道を歩くだけだ。
時間間隔はほぼ麻痺していたが、1ヶ月ほど経過していただろう。
たった一人で死の行軍を続ける。
それでも、
――奴らが母さんを、父さんを、親友を殺し、挙句に村に火を放った時の記憶は、鮮明に残っている。
時折、聖国軍の連中が
元より聖国に戻るつもりなどない。
「待って、ユーキ!」
懐かしい声を聞いた瞬間、
馬鹿だな、
「アンタ、逃げればどうにかなると思ってるんじゃない?」
「逃げたい時は逃げればいい。そういったのはお前だろ、リリシア」
「ッ! それはそうだけど、でも今のアンタは逃げても辛そうにしている。
だったら、私は何としてもユーキを引き止めてみせる。
それが今の私にできる、最大限の償いだ!」
宣誓と共に、彼女は剣を構える。
リリシアの実力は
適当にあしらって、早くワースマルに乗り込もう。
そう思い、
「そうだ、アンタに一つ言わなきゃいけない事があるんだった」
何気なく彼女の口から放たれた一言。
「実は私、人間じゃなくて吸血鬼なんだ」
言葉と共に湧いて来たのは、
――復讐だ。復讐だ。復讐だ。
冷静沈着な
初撃、次撃、追撃と、絶え間なく剣戟を浴びせる。
普段通りであれば四度目の一閃で彼女は
しかし、彼女は
それどころかこちらを押し返さんとすべく、聖剣に向かって剣を打ち合う。
腕力で言えば勝っているはずのこちらが、一歩間違えればはじかれそうになる。
彼女の剣が聖剣に絡みついてくる様が錯覚として現れるほどだ。
「お前ッ、そんな力をいつッ……!」
「ごめんね~。私ってば昼行燈なの、吸血鬼だからね!」
だが、無理な体制で放たれたのか、彼女の切っ先はあらぬ方向を向いている。
――互いに残心。
剣戟の技量は互角。
なればこそ、戦いの舞台を
得意の炎魔法《
6本の炎槍が、彼女の四肢、心臓、頭蓋を的確に貫く――。
「《
直前、霧散。
励起状態だったはずの魔力は詠唱によって基底状態になり消滅する。
「それじゃあお返しに、《
意趣返しに彼女も同じ攻撃魔法を使用。
全霊で放たれるその炎槍の本数は、実に9本。
紅蓮の一斉掃射が
回避不能な槍だけを
そこからは、火炎、雷光、烈風の入り混じる乱戦状態。
魔法だけでは手数不足とお互いに判断し、戦場は
この場に天災の惨状が顕現した。
当然、渦中で剣を振るう
無詠唱の
皮膚を
極限状態の中での剣戟は、瞬く間の失態が死に繋がる。
音鳴り止まぬ
――幾度となく続く暴圧。
それに決着がついたのは、思いがけない瞬間であった。
to be continued...