Side一誠
とてもおめでたい事があった。
ベルファスト国王の息子つまりはユフィナ達の弟が生まれた。
ちなみに名前は冬夜がヤマトと名付けたみたいだ。
それと…俺と冬夜が搭乗っていたナイトバロンが機能不全を起こしてしまいオーバーホールもし難しい状態になってしまった。
モニカによるとどうやら俺達の規格外な魔力にFG自体が耐えられなかったみたいだ。
これは早急にでも「蔵」のバビロンを見つけないと…。
ある日、FGの素材にもなっているオリハルコンが不足しているとの事で俺達はオリハルコンゴーレムの捕獲にイーシェンの山脈へ向かっていた。
「ム?…」
「なんだか様子が…」
オリハルコンゴーレムを無事捕獲した直後、なんだか山脈に生息している動物達の様子が可笑しい事に気が付いた。
ミスミドの黒竜の時以上にざわめきが激しい。
この感じは!?…
凄く嫌な予感がした直後、俺と冬夜以外の時間が止められる。
「世界神様!これは!?…」
「緊急に伝えるべきかと思うてな。
この付近で並行世界の儂が転生させた者が別世界の神の力を暴走させてしまったみたいなのじゃ」
「別世界の神様ですか!?」
「通りでピリピリ來る筈だ…これは恐らくその神自身だけの力じゃない!」
「え!?」
「よく気が付いたの!そう、これは神を行使出来る人間、神がかりの者が暴走を引き起こしているみたいじゃ!」
神がかりの人間か…もしや旧ラミッシュ教国の惨殺事件はソイツが?…
「とにかく急がねばその神が邪神へと成り代わってしまうのも時間の問題じゃ!
儂はそれ故手が出せんのでな…」
「なら俺達が代わりに暴走を止めるしかないようですね」
まだ邪神になっていないのであれば世界神様は手出し出来ない。
「頼んだぞ!」
世界神様はそれだけ告げて神界へと戻っていった。
「グッ!?…」
「何よコレ!?…」
世界神様の時間停止が解除された瞬間、俺達は突如不協和音に襲われ激しい頭痛を感じた。
「ッ!神気解放!…」
「その手があった!…」
即座に俺とついこの間何時の間にか覚醒していた冬夜も神気を開放してなんとかノイズを抑える。
が他の皆は瞬間に察知しシュヴァルトライテを盾にしたユフィナ以外影響をモロに受けて満足に動く事が出来ない。
瑠璃達はなんとか俺達同様に大丈夫なようだが。
ユフィナに皆の避難を指示し対峙する。
「来る!…」
「おっと!瑠璃頼む!」
『合点!』
ノイズを更に増した波状の攻撃が俺達に迫り来る。
なんとか回避し俺達はそれぞれの得物を手に詠唱する。
「グラビティー!それとシャイニングジャベリン!」
「綴る!『踊れ踊れ雷神の槍、迅雷、百雷、招来れ 世に永遠に生くる者なし刹那、閃き、快楽けらく貪れ 瞬きの内に全てを擲撃て 遅れる者ぞ後悔召さるな今宵、殺戮の宴なり 果てよ果てよ果てよ 命全て散り果てよ 魂の解脱 軽やかならんこの軽きをこの躍動をこの自由をこの幸福を全ての者に分け与えよ!』【稲妻の螺旋<サンダーストームヘリックス>】!」
「…」
「チィッ!…」
「イッセー、またアイツの様子が!…」
やはり生半可な攻撃は通用しないか。
暴走した神は体を脱ぎ捨て進化する。
その体には取り込まれたのであろう全裸の魔族らしき少女が浮かび上がってきた。
その少女は酷い傷を受けた状態と見られた。
まさか神がかりの力を暴走させた人間は‥‥見つけた。
ならここはやはり奥の手を使うしかなさそうだ。
「神がかりか…ここからはアンタ自身がどうなるか俺にも予想がつかない…だからそれぐらい歯食いしばれ!【デュアル・ダ・カーポ・フォルテシモ】!」
暴走神がいずれ邪神へ変貌してしまうその前に俺は取り込まれた少女にはあまり影響をきたさないように最大限のダ・カーポを叩き込んだ。
ダカーポを叩き込まれた事で暴走神はその理があるべき姿へと回帰していく。
そこには先程の少女と神がかりの力を持っていたであろう青年が倒れていた。
神がかりの青年は気絶していただけだったが魔族らしき少女は片足が切断されているという重症を負っていたので慌てて錬金棟に運び込む。
フローラが肉体再生も可能とする技術を搭載したカプセルがあると言っていた事を思い出したからだ。
フローラに少女を預けた翌日、俺は一応捕縛という形で神がかりの転生者の青年に詳しい話を聞いていた。
「旧ラミッシュの事件はアンタの仕業で間違い無いな?」
「ああ…」
転生者の青年、鳳凰寺 信は重い口を開く。
神がかりの力は並行世界の世界神様からの特典ではなく元々彼が生前から持ち得ていたようだ。
という事は彼は陰陽の家系の人間だったという事になる。
また彼は数奇な事に彼の世界では「ナイツ」と呼ばれる悪霊と善神のハーフの神が宿っていた。
その力を狙おうとした不届きな輩によって家族もろとも惨殺されこの世界に転生したとの事。
信は旅の途中で旧ラミッシュの事を聞きあの様な事件を起こした。
神を信奉する人間として偽物の神の名を使って好き勝手していたラミレス教団が余程許せなかったのだろう。
あの魔族の少女とは迷子の成り行きで出会い仲良くなったらしい。
だが俺達が渓谷を訪れる数分前に信が目を離していた隙に彼女は何者かに襲われあの傷を負わされたらしくそれを見た彼は思わず力を暴走させてしまったとの事。
それについては何度も謝罪してきた。
また俺の撃ち込んだダカーポの影響で悪霊側の力が弱体化したらしくとりあえずしばらくは暴走は起きない事だろう。
信は旅を中断し件の少女を守りたいと言ってきたので俺は快く了承した。
そして翌日、少女の具合を確認しに錬金棟を訪れた。
「あ…」
彼女は既に目を覚ましていた。
欠損していた右足はすっかり再生され元通りだ。
「よかった!…」
「信?…」
信が彼女の無事を目にしかけよるが当の少女は何処か様子が可笑しい。
「あ、アノ~どうやら彼女は自分の事に関しての記憶を失っているようデしテ…」
「「なっ!?…」」
フローラの予想外の言葉に俺達は驚く。
どうやら己の名前はおろかどうして自身が襲われたのか直前の記憶までもが欠けてしまっているようだった。
信に彼女の名前を聞いてみるがあまり自分の事は語らなかったらしく彼にも分からなかったようだ。
不便なので仮の名前として少女はイーシェンで倒れていた事もあり桜と名付けられた。