Side一誠
リーニエ王国からの使者が俺にかしずく。
アレ、これ冬夜も呼んできた方が良いパターンだったか?
「そ、双王陛下殿の御活躍のお噂はかねがねお聞きしております!
それで不躾なのですが陛下が転移魔法を使えるというのは真でございますでしょうか?!」
「ああそうだが…」
「そうですか!でしたら是非共我が母を救う為に陛下のお力を借して頂きたいのです!」
「どういう事だ?」
まるで話が分からんぞ!
「は!これは申し遅れました。
私はリーニエ王国第二王子のクラウド・ゼフ・リーニエでございます」
「何!?…」
成程な…俺にはこの時点でも大体の事の次第は察する事が出来た。
「正直あんな兄のいる国など出ていきたかった…しかし母上を置いていく事など私には出来ません!…」
妾腹の子であったクラウド王子は母親と引き離されいつも兄である件の馬鹿王子に嫌がらせを受け続けており、今回の縁談使者もほぼ使いっ走りだという事。
王子の母親は病気だと偽りの診断を下されてもう一つのリーニエ王家の持ち城の地下に幽閉状態で面会すら出来ない状態。
母親を盾にされてしまい国を出ていく算段をも失い兄やその取り巻き達にいいように使われる日々。
俺は正直な話彼にとても同情していた。
かつての自分と重ねたから。
「そこまでとは…リーニエ王は何も言わないのかね?」
「父上は宰相のワルダックに逆らえないのです…父を擁護していた者達はほとんどが彼の手によって次々と追放されてしまっていて味方がいないのです…」
王子は暗い表情をする。
そいつが悪の根幹か。
「ひょっとして今回の縁談は…」
「恐らく結婚の発表と共に王位継承を行わせるのが狙いかと…」
やはりか!…馬鹿王子は相手など誰でもよかったのかもしれない。
いや、自分に逆らえない弱者としてスゥを手玉に取ろうともしていたかもしれない。
本当に危なかったな。
「今回の縁談の使者に命じられた時、逆にチャンスなのではないかと思いました。
オルトリンデ公はブリュンヒルド双王陛下殿と親しい仲だとお聞きしておりましたものですから!
まさかこうも早く願いが叶うとは!」
「それでクラウド王子、母親を助ける為に手を貸して欲しいのだな?」
「はい、なにとぞお願い致します!」
王子がまた土下座し始める。
そこで
「ブリュンヒルド双王陛下殿に申し上げます」
いきなり侯爵様が改まった口調で口を開いた。
「此処は一つ、西方同盟諸国の緊急会談を招集するべきかと。
この件はベルファストだけでなく他の国にも意見を求めて事に充たるのが望ましいかと思われます」
成程、今回の件ははっきり言って他国の内政干渉に等しい行為だ。
帝国や教国の時は結果的に只のテロに等しかったのでうちの国だけでも十二分に動けたのだが今回ばかりはそうもいかないか…。
冬夜にも伝えなきゃならないしな。
「そうだな…ならば早急に西方同盟諸国緊急会議を開催する事を各国に通達してくれ!」
「は!」
「あ、ありがとうございます!…」
これに王子も酷く驚き感謝の意を何度も述べてきた。
ン?…今気が付いたのだが俺はクラウド王子が抱え持っていた物に目がいった。
「ム?…クラウド王子その絵は?…」
「え?ああ、コレの事ですか。
オルトリンデ嬢との御婚約が決まった暁にベルファストへの贈答品にとワルダックに持たされていた物なのですがね…」
「ちょっと拝見さしては貰えないだろうか?」
「よろしいですよ!」
「悪いな。…こ、コレは!?…」
「その絵が何か?」
彼にその絵をじっくりと見せてもらう。
変哲の無い只の風景画ではあったが間違い無い!…この描き方の感じといい!…
「王子!この絵を是非引き取らせては貰えないだろうか?!
勿論タダでとはいわない!」
「え、ええまあ…御婚約は破棄という事でしたし多分大丈夫かとは思われますが…」
「恩に着る!」
何故この絵をリーニエの宰相が持っているのか疑問に感じたがすぐにそれに思い当たりクラウド王子に国王に即位した時の為の支援金として絵の代金を支払った。
翌日
「という訳です」
「フム、確かに我が国で得ている情報もその様なものであったな。
リーニエにおける宰相の権力はまさに国王をも凌ぐ勢いだそうだ」
「儂の所はあまり国交がないものでな、なんともいえないが…」
リーニエ王国の第一馬鹿王子や取り巻き共の情報を緊急会談で共有し合う。
「だが個人的にその宰相や第一王子の所業には腹が立つな。
泣きを見させられるのは国民だろうに…」
「それもそうですわね…。
ラミッシュの方にも風の噂話は聞こえてきますけど、どうやら北のパルーフ王国との戦争準備の為に重税を課し強いているのだとか…非常に愚かしい事ですわ…」
「まるでかつての何処かの国のようですね…」
「…その件はすまない…」
緊急会談でミスミド、新生ラミッシュ教国、レグルスはそれぞれに意見を述べる。
「しかしなんとかしてクラウド王子を王位に即位させるのは良いのだがそれでリーニエは纏められるのか?
その宰相や第一王子の腰巾着共ばかりではまともに話を聞くとは到底思えないぞ?」
リーフリース皇王も今のリーニエはまともではないとそう言う。
「それに関しては、クラウド王子派の人達の御協力も必要不可欠です。
お心当たりありますよね?」
「え?…ええ!以前宰相を務めていたクープ侯爵率いる貴族達ならば。
何かと私を影で支えてくれていた者でもあります」
俺の問いにクラウド王子は答える。
何かと馬鹿王子や糞宰相に酷い扱いを受けている貴族達の有志がいたようだ。
「その前にクラウド王子としてはどうなんです?母親を助け出したら他国へ亡命するという手もなくなないですが?」
冬夜も彼に尋ねる。
「い、いえ!…少し考えていたんですけれどもやはりこのまま宰相達に苦しめられている無実の国民達を見捨てるなんて出来ません!
私に出来る事があるのならばそれを成し遂げたいのです!」
クラウド王子もこれ迄を振り返り立ち上がろうと決意したようだ。
なら彼のその決意に応えなければな!
「よく言ったな!
ならば我等ブリュンヒルド公国及び西方同盟諸国は全面的にリーニエ王国第二王子であるクラウド王子を支援する事にする!
異論は無いな?」
「おうとも!」
「今のリーニエは好きになれん。
同盟国として賛成する!」
「他国の腐敗はいずれ此方にも悪影響をきたす…その事を身を以て知った帝国に異議はない!」
「私も賛成でございます!」
「決まりですね!」
満場一致でリーニエ王国への介入が可決される。
「それで…我々は只リーニエに抗議を申し入れるだけで良いのかね?」
「ええ、クラウド王子の件とは別件なのですが皆さんコレを見て下さい」
そこで本日のもう一つの議題に入る。
俺はクラウド王子から買い取った件の絵を皆に見せた。
「これは風景画でしょうか?」
「上手いな!それもかなりの腕前と見た!」
「ですがそれが何か?」
「以前の会談でラミッシュとクラウド王子以外にはお話し致しました件ですよ…」
「ああ、イッセー殿の前世の…ってまさか!?…」
「ええ、この絵を描いた人物は恐らくリーニエの馬鹿王子達の奴隷にされている…確かリーニエの法も奴隷は禁止されている筈だな?」
「ええ、その筈なのに兄は何十人と奴隷を従えています…」
「だから、元はミスミド妖精領の住人であり、イッセーの恋人でもあるあの子を取り戻したいの!
もしかしたら他国の住人も誘拐されて奴隷にされている可能性だってあるわ!」
呼んでおいたリーンもそう告げる。
彼女もほんの僅かでも覚えてくれていたようだった。
「そういえば最近、リーフリースでも行方不明者が続出しているとの話を聞いている…その可能性は大いに高いか…調査する必要性がある」
「自らの欲と野望の為には自国の法をも犯すか…腐っていやがる!
猛抗議だなこりゃ!」
「ありがとうございます!」
リーンの進言でリーフリース皇王にも思い当たる節があるらしく、獣王様も遺憾の意を唱えた。
かくして俺達は第一王子廃的・奴隷奪還作戦を開始するのだった。