Side一誠
「ふう!…」
俺達のブリュンヒルド公国が建国、双王として即位してから色んな事があった。
建城…というより改城の際の幽霊騒動、イーシェンから鳩姫さん、義元さんが俺の、武田四天王の人達が冬夜の家臣として志願してきたり、「錬金棟」のバビロンを確保したりとだ。
「双王様、ラミッシュ教国から使者が参っておりますがお通ししてもよろしいでしょうか?」
「何?ラミッシュ教国から?」
「一体なんだろう?とりあえず話を聞いてみようか」
「は!」
建国の際に見向きもしなかった全く親交の無い国からだというのが疑問に感じていたが話も聞かずに追い返す訳には流石にいかないので通し諸見の間へと向かったが後に少しばかり後悔する事になった。
「お初にお目にかかりますブリュンヒルド公国双王陛下。
私はラミッシュ教国教皇エリアス・オルトラの使いで参りました、司祭ネスト・レナードと申します」
「同じくフィリス・ルギットでございます」
いかにも司祭ですといわんばかりのおっさんネストとまだ戸惑い気のある銀髪の少女フィリスさんがかしずく。
「御叮嚀な挨拶痛み入ります。
して、わざわざラミッシュ教国から如何な御用件でしょうか?」
俺達の隣に立つ家臣となった元武田四天王の高坂さんが尋ねる。
主に冬夜が余計な事を言って拗らせないようにの対応だ。
「はい、我が教国の教皇はブリュンヒルド公国と深く誼を結びたく思っております。
つきましてはこの地にてラルス教を幅広く布教する為是非共国教として認めて頂きたく教会の建設を…」
「その気は我が国にはない」
「…今何と?」
「ちょ、ちょっとイッセー殿!?」
やっちまったな…でも俺は止まる気はない。
どの道冬夜も同じ様な事を思っていただろうしここは敢えて俺が言おう。
「だからブリュンヒルド公国としては宗教を一つに定める気はないと言ったのだ」
「で、ですから我が国は貴国への援助も…」
「だからそれも必要無いよ!」
それでも粘ろうとするおっさん司祭を俺達は強く突き放した。
「では双王陛下は神を信じないと?」
「まさか信じてますとも!自分自身の内なる神をね」
「僕等みたいに信じ深い人はあまりいないと思うよ?」
「矛盾してませんかねそれは?…」
「第一、ラミッシュの神は他にも存在している筈だが?」
「ええ、確かにいますが光の神ラルス様こそ我等の絶対なる至高の神なのですよ」
アカン、これは明らかに宗教と呼べる程のものじゃない。
少し調べた事があったが第一このラルス教は根本からが可笑しいのだ。
絶対正義の神などといわれているようだが闇属性魔法の適正を持っているだけで異端の対象とされたりしている人がいる。
「ならば一つ聞く。
そのラルスが絶対正義の神だというのなら何故この世に犯罪者が蔓延っていられるんだ?」
「そ、それは…そ、その為に我等がいるのです!神の手となり足となり…」
「それはアンタ等の力によるものだろ。
決して神の力なんかじゃないそこを履き違えるんじゃない!」
言い過ぎだとは思うが妄信程怖い物はないのだ。
「な、ならば双王陛下の信ずる神は一体何をもたらしてくれるというのです?」
「何も?あの人忙しい身の様だしね」
「所詮は神の定義が無くては何も出来ない臆病者の集まりのようだな」
今の俺は最早神様家族化してますと暴露する訳にもいかず、冬夜も世界神様達の事を言う訳にいかずそれしか言う事はない。
「…どうやら双王陛下は相当な悪しき神に魅入られているようだ。
ここは一つ浄化の洗礼を行わねば!…」
「「はあ!?」」
俺達の言葉に反論出来ずにいたおっさん司祭はわなわなと震えながらそんな事を言い放ってきた。
なので
「琥珀、そいつ取り押さえて」
『御意!』
「な、何を!?…」
世界神様を悪の神と罵られ流石に怒点を振り切ったのだろう。
冬夜が本来の状態の琥珀に指示しおっさんを拘束させた。
そしてこれ以上彼の話を聞いていても埒が明かないので俺がゲートで城外に追い出した。
今頃水びたしになっているだろう。
しかもあのおっさんカツラだったようで一瞬取れていたな。
フィリスさんが唖然としていた表情でこちらを見ていた。
ちょっとやり過ぎた感はあったな。
「も、申し訳ありません双王陛下!
此度の御無礼どうかお許しを!」
「ああすまない。
ちょっと頭にきちゃってね。
こっちもそっちの神様馬鹿にしたようなものだしおあいこさ」
すっかり怯えきったフィリスさんを見て俺達はいつもの調子に戻す。
「こ、此方こそネスト司祭は如何にもな感じですがそれ程信仰心の様な物は感じられませんでしたし」
なんだ結局の所あのおっさんは出世狙いでブリュンヒルドに来たのかよ。
どっちが神様に失礼なんだか。
その後、彼女からラルス教の信仰や教団の行いについて薄々と疑問を感じていた事を聞き、それを偶然見ていた世界神様が現世に降臨して彼女と話をしたりした。
その上でラルスという神などいなくもしかして精霊の類だったのではないかとの神様本人の話を聞いた彼女はどこか心のモヤが晴れたかの様な表情で国に帰っていった。
あれなら大丈夫だろう。
そう思っていた矢先の数日後、フィリスさんが処刑されるかもしれないとの報を聞いた。