Side一誠
「コイツ等ってさ凄く馬鹿なんじゃないのかにゃ?」
「触れない方がいいぞ馬鹿が伝染る」
「それは嫌だにゃー」
何があったのかというとある日の深夜、俺と冬夜の屋敷が同時に一個小隊規模の襲撃を受けた。
何故こんな事になったのかというと時間を遡らなければならない。
それは襲撃を受ける前日の事だ。
俺と冬夜はエルゼと八重を迎えにベルファスト騎士団の訓練場を訪れていた。
だがそこに彼女達の姿はなかった。
先に帰ったのかなと思いその場を離れようとすると
「なんだ貴様達、此処で何している?」
「見慣れん顔だな。
使用人か?此処は貴様等の様な者達が来る場所ではないぞ」
俺達の格好の何処をどう見たら使用人だと思ったのか声をかけてきた十数人の男達にイラっとくる。
どうやらまだ若い騎士のようだが…教育がなっていないんじゃないか?
「いえちょっと知り合いが今日訓練で此処に来ていた筈なので僕達は迎えに来てみただけですよ?」
「知り合いだと?」
「おい、もしかしてあの女達じゃないか?最近レオン将軍と模擬戦している武闘士と剣士の」
冬夜が彼等に聞いてみる。
間違いなくエルゼ達だ。
「ああ~、お前等も上手い事将軍に取り入ろうって腹か。
全く下賊な庶民は節操が無いな」
「軍に入ろうとあの女達のツテでも使おうってか?わはは笑っちゃうねえー!」
「軍の数は揃えないと格好がつかないからな。
平民共でもいないよりはマシという事さ。
我々騎士団の様に選ばれた名誉ある者とは違うんだよ」
金髪、赤毛、茶髪の若騎士がそんな事を言ってくる。
どっちが下賊だよと思わず言い返しそうになったがグっと我慢する。
冬夜も同様に唇を噛みしめている。
「おいお前等、もしかしてあの女達の男なのか?」
「そうだったら何だ?」
「…他人のプライベートに踏み込んできてほしくないんだがな…」
さっさと去ろうとしたもののげひゃひゃと下品な笑いを浮かべていた茶髪に聞かれ半ば投げやりに俺達は答えた。
その事に後に後悔する事になったのはいうまでもないが彼等はまた下品な笑いでこう言ってきた。
「そうか…なら将軍のベッドの中でも探すんだな。
きっと今頃女達もイイ声上げて…ぶべえ!?……」
「その汚い口を閉じろ!」
「スリップ!」
「「おべえ!?」」
茶髪の言葉に遂に俺と冬夜はキレた。
俺は茶髪をブン殴り、冬夜はスリップで若騎士達を転ばせた。
なによりレオン将軍もそんな事は絶対にしない!
俺達だけでは飽き足らず彼やエルゼ達の名誉も踏み躙ろうとした此奴等を流石に許す訳にはいかなかったのだ。
「き、貴様!その者はバロー子爵の次男なんだぞ!タダで済むと思って…」
「『雷精よ』!」
「ぶべ!?…」
「だからどうしたってんだ?バーロの間違いじゃないのか?」
やたら喚く馬鹿を俺はショックボルトで気絶させる。
ああ、典型的な貴族の馬鹿息子か此奴等。
某見た目は子供、頭脳は大人な名探偵の方が遥かに良いっつうの。
「こ、この野郎!」
「一斉に斬りかかれ!いくら魔術師でもこの人数だ敵う筈はない!」
それでも尚実力差を分かろうとしない若騎士達が金髪の合図で一斉に斬りかかってきた。
OK…そっちがその気ならこっちだってやってやろうじゃん。
冬夜もブリュンヒルドをセーフティーモードにし既に臨戦態勢だ。
「スリップ!」
「『雷精よ 光纏う紫電の一閃 ショックスピア』!」
「な、何!?…」
「「うわあああー!?」」
冬夜がブリュンヒルドの無限ループ弾を撃ち込み、俺はショックボルトを発展させた雷の槍を金髪に向けて投擲し剣を弾き飛ばした。
「そ、そんな馬鹿なッ!?…」
剣を弾き飛ばされた金髪は憎々しそうに此方を睨んでいた。
「そこまでにしてはくれないだろうか?」
「ン?」
「お久し振りです。イッセー殿に冬夜殿」
そこで声をかけてきた人達がいた。
リオンさんともう一人銀髪の騎士だ。
「ふ、副団長!こ、此奴等がいきなり…」
みっともなく金髪が俺達を指差しながら銀髪の騎士に訴え出る。
「黙れ!」
「!?」
「お前達が普段から国民に狼藉を働いていたのを知らないとでも思っていたのか!」
「そ、それは!…」
がそんな無茶苦茶な訴えは銀髪騎士にはお見通しで聞き入れられる事はなく逆に若騎士達は問い詰められていた。
此奴等影でそんな事をしていたのか…彼等は絶望の表情を浮かべていたが自業自得だ。
「今迄は家が上手く揉み消していたようだけど今回ばかりはそうはいかないよ。
集団で何もしていないイッセー殿達に襲いかかった事は愚か挙句に返り討ち。
とても同じ騎士だとは思いたくないね」
リオンさんも厳しくそう口にした。
「お前達の処分は追って通達する。
気絶させられた奴にも伝えておけ。
この際なので言っておくが根も葉も無い報復など考えない方が身の為だぞ。
彼等に手を出せばお前達だけでなく最悪家までもが取り潰しなんて事になりかねないからな。
これは冗談なんかではないぞ」
「!?…」
ギロっと銀髪騎士がそう言い放ちながら睨むと金髪は仲間を抱えてそそくさと退散していった。
あ、アレ恐らく彼の話信じてないな。
「すまないうちの馬鹿共が大分御迷惑をかけてしまったようだがどうか分かって欲しい」
「まあそうだろうな」
「まあ、今回の事は僕達もこれ以上事を荒立てるつもりはないので不問という事で」
騎士団全体の評価に響くと思ったのか此方に謝罪をしてきたニール・スレイマンと名乗った銀髪騎士。
彼こそ真の騎士だな。
「そう言ってもらえると助かる」
ニールさんに詫びを入れられた後、リオンさんからも騎士団の現状を聞いた。
今の騎士団のほとんどが貴族の次男、三男と多いらしくそういった微妙な立場のせいか責任感といったものを持ち合わせていない者が少数ではあるがああいった家柄を誇るだけの無能な輩もいるとの事だ。
「全くだ。
まあ、今回は渡りに船みたいな出来事だったな。
あいつ等は騎士団にとっても国にとっても害悪にしかならんがこれで懲りた筈だ。
なんせ姫様達のフィアンセ殿に手を出したとあればな…ははは」
「とか言っていた筈なのに…盛大に死亡フラグを立てるとは…」
「ぐふっ!?…」
この始末である。
何故若騎士(笑)達の仕業であると気付いたのか…普通に襲撃者の中に見覚えのある金髪がいたからだ。
そんなインスタント麺が出来てしまうような時間で考えましたみたいなザルな作戦で俺達をどうこう出来ると思ったのかよ此奴等は。
冬夜の方にも後で聞いたがバローの茶髪騎士と赤毛の奴もいたみたいだ。
ニールさんの忠告もここまで意味を成さないとは…。
メイド部隊のマリアンノから怪しい集団が屋敷に向かっていると情報を受けた俺が立てた屋敷の警備をザルにしたフリ作戦に見事に引っ掛かった襲撃者には他に恐らく私兵団や傭兵らしき人物もいた。
仕掛けてあった罠に引っ掛からなかった奴等は俺と黒歌、マリアンノが沈黙させた。
「な、なんで平民とメイドなんかに!…」
ここまで完全にぶちのめされても尚金髪は俺達を睨んできた。
が
「片が付いたようですねイッセー様」
「そ、そんな!?あ、貴方様は!…」
テラスから事態が終息したとユフィナが姿を現す。
流石にこんな愚者達でもユフィナが何者であるかは知っているようだ。
当然その顔は絶望に染まっている。
「そう種も仕掛けも…あるか。
アンタ等がしようとしたのはベルファスト王家への只の反逆でそして怒りを買うだけに等しい行為だったという訳さ。
ドゥーユーアンダースタン?」
「そ、そんな!?……」
俺の言葉を聞いて金髪騎士(笑)は白目を向いて情けなく気絶した。
後日、この事を聞いた国王様は酷くお怒りになった。
具体的な被害は無いという事で進言し減刑は出来たが結局若騎士(笑)達の愚行で彼等の家もあえなく取り潰しになったのだった。