自覚した罪で彼は強くなる
これから始まる英雄譚
その序曲をここに歌おう
オッス!! オラ、小日向遊策!!
目覚めてみりゃぁ知らねぇ天井でオラワクワクすっぞ!!
いや、ワクワクはしないけど……
通りすがりのキモイイルカ>ワクワクを思い出すんだ!!
……誰だ今の? 何か体が生えたイルカが何か言っていたような……
「お兄ちゃん!!」
その時、ドアを蹴り破るように入って来た我が妹様が抱き着いてくる。
「おー、未来。元気かー」
田舎のおじいちゃんもかくやという表情で、未来を受け止める俺。そして未来はぎゅっとそのまま俺を抱きしめ、泣き出してしまう。
「よかった……本当によかった……わたし、私本当にお兄ちゃんが死んじゃうんじゃないかと思って……怖かった!!」
もっと力を入れて幻ではないここに俺が存在しているということを確かめるように、そして、もう手放さないというように、強く、強く抱きしめる、未来。
俺はそんな未来の様子を見て帰ってこれたと実感すると共に、未来が泣き止むまで、無言でそっと頭をなで続けていたのだった。
「え? もう3ヶ月もたっているのか!?」
未来が落ち着いたのを見計らって話を聞くと、衝撃の事実が判明する。なんと三ヶ月とちょっとの歳月がたってしまっているらしい、それにしても俺よく寝ていたな……
「うん、怪我も大分良くなってきていたのに全然目覚めないから、もうこのままなのかなって……」
「心配かけた、悪かった」
「ううん、私が無理を言ってついて行ってもらったんだから、私のせいだよ……お兄ちゃんは、私との約束を守って響きを庇ってそうなっちゃったんでしょ? そもそも、私が響をライブに誘ったりしなければ……」
「おっと、それは無しだぜ、未来さんよ。俺は行って楽しかったし、響も楽しめたと思う。だから、お前が責任感じる必要はナッシングだよ」
その言葉に未来は納得していないような顔をして、なおも食い下がろうとする。しかし、俺は、しー、と未来の口に人差し指を当て強制的に口を開かせない。そして、トドメとばかりに一言。
「あえて何が悪かったと言えば、ノイズがすべて悪い。それで終わりだろ?」
俺がこの話はこれで終わりだと打ち切らせる。
おっと、そうだ。こればかりは聞かなければならないな。
「響は?」
未来はその言葉を聞くと、少し顔を伏せる。
「……お兄ちゃん、響の事なんだけど」
そこから未来は語り始めた。なぜか責任を感じて俺を避けているらしいこと、そして、今回のノイズ事件のせいで学校でいじめられていることだ。
今回のノイズ事件はかなりの規模の事件であったため、いろんな憶測が飛び交い、生き残った人たちが不当な評価を受けているらしい。
響もそれに巻き込まれ、いじめられてるみたいだ。家にまで来て、死ねなどを書いた紙を貼ったり、スプレーで壁を汚されたり、石を投げ込まれガラスを割られたり。……犯罪じゃないかこれ? と、聞いてみたが、警察は動いたが相手が学生であることと直接相手を傷付けていないことを合わせ、厳重注意くらいしか出来ないらしい。まあ、ガラスを割った奴らは罰金でしょっ引かれたらしいが。
なるほど、なら生徒会長として、響の友として、ほっておくわけにはいかない。
「わかった、早く復帰して勤めてみるよ」
「うん、お兄ちゃん、生徒会長だもんね。早く良くなってよね? 生徒会長が長期欠席って示しがつかないもの」
「おう」
そう言って、未来は帰っていった。
未来が帰った後の病院の個室は広く感じる。
さて、次にすべきことは、と……
「……なるほど」
この空白の三か月間の穴埋めとして、情報収集のため、俺は未来が持って来てくれていた物の中にあった三ヶ月分の新聞を読んでいた。
その新聞には大きな見出しでこうかれていた。
『今世紀最大のノイズ事変発生 被害者数5000人超』
中を一瞥して、読んだ記事の内容を思い浮かべ頭で
『人気アーティスト、ツヴァイウィングのライブ会場で起こった悲劇より一ヶ月、そのライブ会場で起こったノイズの襲撃により行方不明者・死者あわせ5000人超確認された。
5000人を超える人々が死んだこの事件は、ノイズが起こしたと思われる事件の中で最大の被害者数であった4582人を超え今世紀最大の被害者数を更新した。これは、人的な被害も多かったことが確認されており。(中略)生き残った者たちが証言するに、何者かが状況を冷静に考え先導し、それによって冷静さを取り持ったスタッフの活躍が無ければ、被害はさらに拡大したであろうと予測される。
(中略)
なお、この事件により大怪我を負っていたツヴァイウィングの二人は病院に運び込まれたが、現在は治療が完了し、復興ライブなどをしている』
「そっか……、7000人とツヴァイウィングは、奏さんは生き残ったんだな……よかった」
そう俺は独り言ちる。それだけで、救えた人がいるという事実だけで、少し救われた気がした。
全員を救えるというほど思い上がってはいない。が、しかし、もっと早く思いだせていたらもう少しなにかやりようがあったのではないかという思いが、ひどく俺を焦がす。
誰かを助けられるようなヒーローにでもなったつもりか、所詮お前に誰かを救うようなことは出来ない、と俺の中のナニかが言う。それでも、この悔しさと後悔を、俺は忘れない。俺の怠慢、俺の傲慢、俺の怠惰が招いた……俺の罪だ。
……俺は決めた。俺は、きっと、いや、必ずなってやる。
誰かを助けられるようなヒーローに。
俺は決意で拳を静かに、しかし、硬く強く握りしめた……
……シリアスとは何だ? いつ発動する?
この小説じゃあ、どうあがいてもシリアルにしかならないんだよなぁ……
それでは、次回まで!!
用語解説
キモイルカ
全裸にブーツだけの変態。ネオススペースという所に住んでいる。
時たま、人の頭の中に領空侵犯してくるらしい。