残酷な現実に直面した少女が立ち上がる時
歌と決意が奇跡を起こす!!
時は少し巻き戻り、遊策が闘っている最中、リディアンでのことだ。
「緒川さん!!」
「未来さん。ここは危険です!! 早くシェルターに!!」
未来が走って来て、意識の無い風鳴司令に肩を貸す。
「手伝います。それにしても、酷い怪我……」
「助かります」
そうして、未来はシェルターに入り、一息つく。緒川さんは、風鳴司令の傷の手当てを始める。
処置が終わり、ベッドに風鳴司令を寝かせる。
「避難誘導をしていたんですが、一体、何があったんですか?」
「ええ、リディアンにここ最近の事件の犯人が襲撃をかけてきたんです。それを止めるために司令は戦っていたのですが、相手に油断をつかれ怪我を負い、逃げる生徒を庇ってここまで……」
「そう、ですか……なら、今敵は……?」
「遊策君が食い止めてくれています」
「お兄ちゃんが!?」
驚きの声を上げる未来。それを見た緒川さんは、未来の手を取り連れ出す。
「ついて来てください」
緒川さんが入った部屋は小さめの収容部屋だった。
そこには……
「緒川さん!!」
「未来!!」
「みんな!!」
二課のオペレターである、藤尭朔也と友里あおいの二人。そして、未来の、響の友達でもある三人娘、板場弓美、安藤創世、寺島詩織と数人がそこに居た。
緒川さんは、オペレーターの二人に指示を出すと、未来を呼ぶ。
「ここからなら、外の様子を見ることが出来ます」
「モニター出します!」
オペレーターの藤尭はそう言ってモニターを出す。
映し出されたのは、戦う遊策の姿だった。
「お兄ちゃん!!」
「お兄ちゃんって、あの人ヒナのお兄さん?」
「な、何よこれ……アニメじゃないんだから」
そこでは、アクション映画顔負けの戦闘が繰り広げられていた。
フィーネにラッシュをかけ、防戦一方にする遊策。隙をついた遊策の回し蹴りでフィーネを吹き飛ばし、瓦礫に突っ込ませる。
「お兄さん押してるね」
「うん、でも、なんだか嫌な予感がするの……」
「あんなに押してるんだから、大丈夫よ!! やっちゃえ!! お兄さん!!」
なんだかわからないが、と調子よく言うが画面では、次の展開に移っていた。
「え? 攻撃が……」
「当たらなくなった……?」
画面では、遊策の攻撃が当たらなくなり、反撃を受け、組倒されてしまった。そして、何かを首に当てられ注入される遊策が映されていた。
「なに、あれ……」
そして、絶叫を上げながら体から黒い瘴気を放出し、変貌していく遊策が映る。
「お、お兄ちゃん!! っ放して!!」
「どこに行くの!? 今行ったら危ないよ!!」
走り出そうとする未来を安藤創世が止める。
完全に変貌を遂げた遊策はフィーネに狙いを定め……
「動きます!!」
大きく腕を振るう遊策。その遊策の一撃がフィーネを地面に叩きつけ、大地を揺るがし、ズンッという衝撃が地下のシェルターであるここにまで響いてくる。
「あっ、お兄ちゃんが……」
「ッヒ……」
一方的だった、変貌した遊策は一切の遠慮も躊躇も無くフィーネの足を引きちぎり、わき腹を噛み千切った。
一瞬で何とか回復するが、その獣じみた爪で上半身を切り裂き潰す。
そこから、一方的な虐殺でしかなかった。
回復する端から、壊し、潰し、切り裂き、血が舞う。ぐちゃぐちゃと、こねるように血まみれの肉と肉をかき混ぜた。
そして、全身血だらけの獣は楽しそうに、愉快そうに、口を大きく釣り上げる。あごの関節を無視した様に口は引き裂かれ、その牙と肉が見えた。
獣は、大きく開いた口でかき混ぜた肉を捕食する――――
そう、肉を、骨を、命を全て喰らう――――
もうすでにフィーネは動いていなかった。
死んだようではなかったが、強大な力の前ではすべてが無力と悟り、そのままなされるがままになっていた。
「う……」
その殺戮とも捕食とも取れる異様な光景に、胃の中の者が込み上げてくる板場弓美。その場にいるものはもう何も言えなかった。
「誰か……誰か……お兄ちゃんを助けて……」
未来は自身の兄が変貌し、獣となったことに涙し、助けを求める。
――――祈りの声は届いた。
画面の中では、響たち二課の装者が現場に到着したのだった。
そして、現在――――
装者達4人の前に現れた、獣と化した遊策はケタケタと笑い声をあげる。
「お兄さん!! 聞こえますか!? お兄さん!! 私ですよ、響です!!」
「……無駄だ、とりあえず……来るぞ!!」
響の説得虚しく、獣のように咆哮をあげながら、装者達に襲い掛かる遊策。
「チクショウ!! 一体なにしたら、あーなるんだよ!!」
装者達は散開、攻撃を避けながら悪態をつくクリス。
『GYUHAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa!!!! AOOOOOOOoooooooooo!!!!!!』
遊策は咆哮しながら、地面を蹴り翼に狙いを定め、飛ぶ。
「くっ、なんというスピード!!」
「いや、パワーもしゃれにならないぞ、これは!!」
翼は避けるが、その遊策の速度にギリギリの所だった。先ほどまで翼のいた場所には大きなクレーターが出来ていた。
「くっそ!! どうすりゃいいんだ!!」
「止むを得まい!! 攻撃だ!!」
「ショックを与えて元に戻ることを祈るしかない、ってことかよ!!」
その間にも、戦況は目まぐるしく変わっていく。
獲物を奏に変え、襲おうとする遊策。奏は自身の槍で遊策の両手をガードし、つばぜり合いのような体制になる。
「ぐぐぐ、攻撃加えるなら今、だぞ……」
「無茶しすぎだ!! 奏先輩!!」
クリスはガトリングガンにギアを変え、弾丸をばらまく。
全て、遊策に当たり血が舞った。
「っつ!!」
クリスは一瞬、舞った血に嫌な顔をする。しかし、遊策は血を流しながら、ニタニタと笑い、意に介した様子はない。
奏は、バックステップでクリスの横に着地する。
「ッチ、これ本当にダメージで元に戻るのかよ!!」
「……戻ることを信じて、攻撃し続けるくらいしか方法あるか?」
そうやって、クリスと奏が相手をけん制しつつ話すが、遊策は次の獲物を見つけ行動に移す。
次の獲物――――そう、今まで何も出きずただ呆けているだけだった響に、だ。
『GYUUUUUUUUUU、RAAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!』
「立花ぁ!!」
「えっ!」
翼が、声を上げるが遅い、鮮血が空に舞う。
「っく……」
「く、クリスちゃん!! どうして……」
それは、響を庇ったクリスの肩から流れた血だった。
更に襲い掛かろうとした遊策だったが、左右から翼と奏二人の攻撃が迫る。遊策は大きく後ろにジャンプし、その攻撃から自身を逃がす。
着地した遊策は、自身の爪についたクリスの血を舐め、愉快そうに笑う。
「っは、あいつにお前を守れって言われてるんだ。それに、こんな怪我大したことねーよ」
クリスは、響にそう笑って銃をいつものボウガンモードにする。
「でも……ごめん、ううん、ありがとうもう大丈夫だから!」
「おう、それでいい!! いくぞ、バカ響!!」
「うん!!」
クリスと響は、遊策に向けて同時に駆けだす。
「がはッ!!」
それと同時に、遊策と戦っていた翼が攻撃によりがら空きの背中を殴られ、吹き飛ばされる。そして、奏に向かおうとした遊策だったが、翼と入れ替わるように、現れた響とクリスにより阻まれる。
それを見た、翼は考える。
「(私も雪音も攻撃の威力に反して怪我は軽い……? どういうことなんだ? いや、そういうことか!!)」
翼は、結論づけると、響とクリスに向かって叫ぶ。
「立花!! 雪音!! 遊策に呼びかけろ!! 遊策は抗っている!! 私たちに大した怪我が無いのが何よりの証拠だ!!」
「「っはい(ああ)!!」」
攻撃を加えながら、響とクリスは呼びかける。
「遊策お兄さん!! 帰って来て!!」
「遊策!! 聞こえてんだろ!! いつまでそのままでいるつもりだ!!」
『GAYUUUU!? GYUUuuuuuuゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?』
攻撃を受け、なぜこうも自分に効いているのか分からないような咆哮を遊策はあげる。
それを見た翼は確信を絶対に変える。
「効いている!! やっぱり、完全に飲み込まれたわけじゃない!!」
「なるほど、目に見えて効いている感じがしてるな!!」
翼と奏は、このままいけば必ず遊策を元に戻せると確信していた。
……全く、うざい。
そう、遊策、いや、遊策の中のナニカはそう考えていた。
特にうざったらしいのは、あの赤い奴と黄色い奴だ。アイツらの声が俺を迷わせる。
青い奴と朱色の奴、あいつらも度し難い。相手をすると手元が狂う。
あの四人さえいなければ、もっと自由に暴れられるのに!! もっと自由に殺せるのに!!
……そうだ、自分は何をやっていたんだ。
――――駄目だ!!
……殺せばいいじゃないか。
――――やめろ!!
ナニカは、内から響く声を無視し四人を殺すことに決めた。
「お兄ちゃん……どうにかして、響たちに声を届かせられないかな?」
どうやら、兄は呼びかけられるたび自身を取り戻していっているような雰囲気がする。
今も、響に名前を呼ばれ、頭を押さえながら暴れるだけだ。咆哮も、獣のような聞き取れないものではなく、ただ叫ぶようなモノに変わっている。
「声を届かせる……それなら何とかなるかもしれません」
緒川さんは、そう言いオペレーターの藤尭さんに聞く。
「確か、リディアンのスピーカーにここからアクセスすることが出来ましたよね?」
「ええ、ですが、今は電気も止まっている状態で……」
「その電気さえ確保できれば……」
そういって、少し考え込む緒川さん。
数秒して、オペレーターのあおいさんが何か思いついたように声を上げる。
「予備電源!! 確か、予備の電源施設が地下にありましたよね? それを起動できれば……」
「しかし、アレはスイッチが扉の奥にあります。どなたかが、通路を通って行ってもらうしか……」
「あたしがいきます!!」
そう言って名乗り出る人がいた。
……私の友人、板場 弓美だった。
「こういう時、アニメなら小柄な人が活躍すると思うから……響が頑張ってるのに、友人の私が何もしないっていうのはいや。だから、何かしたいの!!」
そう言うと、他の二人も声を上げる。
「そうだよね!! ビッキーもキネクリ先輩も頑張ってるのに、私たちが何もしないっていうのはいやだ!!」
「ええ、ナイスです、板場さん。私も微力ながらお手伝いしますわ!!」
三人の視線が緒川さんに行く。緒川さんは少し悩むそぶりをしたが過ぐに返事をする。
「わかりました。ついて来てください!! 未来さんは、残って電源が回復したら、言葉を届けてあげてください!!」
「わかりました!! みんな、お願い!!」
「「「任せて!!」」」
そうして、四人は部屋を出ていった。
それを見送ると、私はモニターに視線を戻し、祈るように両手を胸の前で組んだ。
激戦は続く。
名前を呼びながら、攻撃を繰り返し、遊策は翻弄され切っていた。
それぞれ、動き攻撃を加えていく装者達。
行ける――――
装者達の心はそう確信していた。
それ程遊策の消耗は激しい。
遊策は、バランスを崩した。
そして、それを勝機と取った装者達は、遊策を正気に戻すため、最後の一撃として一斉に飛びかかり、遊策を攻撃する。
『グルル……ヴォォォオオオオオおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
しかし、相手は狂っても、強大だった。大きく咆哮し、全員の攻撃をはじく遊策。余波で装者達全員を弾き飛ばす。
「ぐっ」
「どわっ!」
「ああ!!」
「うあ、きゃっ!!」
全員が別々の方向に弾き飛ばされ地面を転がるが、翼、奏、クリスはすぐさま立ち上がり武器を構えた。
しかし―――――
「響!! あぶねぇ!!」
「う、っく……」
響だけ、足をくじき反応が遅れた。
奏が叫ぶが、すでに、遊策は響を殺すことのできる位置にまで来ていた。
遊策は槍のように腕を変形させ、響の首を狙う。
『死……ネ……』
「あ――――」
響は死を覚悟した。
お兄ちゃんが、響に襲い掛かる映像が見えた。
思わず、私は叫んでしまう。
「お兄ちゃん!! 駄目ぇぇぇぇぇぇ!!!」
その瞬間、パッと施設の電気が一斉についた。
『お兄ちゃん!! 駄目ぇぇぇぇぇぇ!!!』
何処からか聞こえてきた未来の声に、ピタッと、攻撃の手が止まる。どうやら、リディアンのスピーカーから声を発しているようだ。
藤尭さんは汗をぬぐう。
「ギリギリ、電源回復!! スピーカーへ、アクセス完了しました!!」
奇跡ともいう、一瞬だった。
そして、奇跡は続く……一瞬、ほんの一瞬だがその声で遊策は理性を取り戻したのだ。
「ひ、び、き……は、らだ……腹の傷を狙え!! 俺が、俺である内に、早く!!」
迷いは一瞬、だが、このままではどうにもならない。
響は覚悟を決め、拳を握り、叫ぶ。
「お兄さん!! 戻って……来て!! はああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一発必中、硬く握った拳は遊策のがら空きの腹部の傷へと吸い込まれるように入った。
ドンッと、衝撃が遊策の腹から背を駆け抜けていく。
遊策は、その場で膝を折り、異様な獣のような姿が空気にとけて、元の姿に戻る。しかし、全身の力が抜けたようにその場に倒れ伏してしまった。
「お兄さん!!」
そう言って、遊策を抱きかかえる響。
他の装者も集まってくる。
そして、それを一人の女は待っていた。
「ふふふふ、ふはははあっははははは!!!!! 勝った、勝ったぞ!! 目下邪魔だった遊策を戻してくれてありがとう!! これで私を阻むものは居なくなった」
「「「「!?」」」」
笑い声が聞こえ、そちらの方に顔を向けると、カ・ディンギルの横、リディアンの屋上の鉄柵の上に、完全に回復しきったフィーネがいた。
「しまった!! フィーネに時間を与えてしまった!!」
「おいおい、不味くねぇか……あの塔、いや、あれは砲台か!! 今にも発射しそうな様子なんだがどうする!?」
奏の言うように、カ・ディンギル発射のためのエネルギーは充填完了していた。
今にも発射されそうで、光が溢れている。
「あのババア!! いねーと思ったら、ちゃっかり自分の計画を進めてやがったのかよっ!!」
クリスはフィーネの思い通りにさせてしまったことを、悔しそうに嘆き、地面を殴る。
大量のエネルギーを放出する、カ・ディンギルを前に、何もなすすべがなかった。
今に、発射されかけた、その時――――
「え……」
遊策が立ち上がった。
体中ボロボロで、所どころ穴が開き血が出ている。そして、腹部の傷は響が殴ったことにより、大きな傷となり血が大量に吹き出し、赤黒く変色していた。
しかし、その状態でもしっかりと立ち、響に宣言する。
「響……迷惑、かけちまったようだな……後で、ちゃんと謝る!! でも、今は!! あのカ・ディンギルを俺が、止める!!」
「お、にいさん……無茶、ですよ……そんな体で!! それに、止めるってどうやって!!」
「……大丈夫だ、ちゃんと謝りに帰ってくるさ。お前はフィーネを頼む」
「お兄さん!!」
走り出した遊策を止めようとした、しかし……
「行かせてやれ……」
その手をクリスが止める。
「クリスちゃん……どうして」
「アイツは止まらない、いや、止められない……」
確信をもって、そうクリスは言う。
自分を撃たせてまで、目的を完遂させようとする奴だということを、クリスは痛いほど知っている。
だからこそ、カ・ディンギルを止めると言う目的に向かって疾走する遊策を止められないということがわかっていた。
「それでも!! それでも、私は……っ!!」
それでも、遊策がこれ以上傷つくことを望まない響は必死に、走り去っていく遊策に追いすがろうとする。
「大丈夫さ」
そっと、優しく後ろから抱きしめ、優しく言う声があった。
「かなで……さん……」
声の主は、そう奏だ。
奏はギュッと響を抱きしめると、言葉を続ける。
「あたしの時もそうだったろ? あいつは生きることを絶対に諦めない……帰ってくるさ」
そう言って、ニッと笑う。
その奏を見て、響は貯まっていた涙を流す。
遊策を失うかもしれないという現実が、響の心を無残に切り裂いていく。
「お兄さんが、お兄さんが居なくなる……そう考えるだけで私は……駄目なんです……お兄さんがいないと、私はダメなんです……う、うあ、うううう……」
涙を流しながら、自分の心象を語る響に、そっと子供をあやすように頭を撫でながら奏は優しく言う。
「そうか、なら……ちゃんと祈っとかないとな?」
泣く響をゆっくりと、抱きしめるのであった。
俺は走る。血が足りず、ふらついてしまう。腹の傷、体中の銃傷からいまだに血がこぼれている。
が、その俺の前に、フィーネが立ちはだかる。
どうやら、言っても素直に通してもらえそうにはない……なら、押し通る!!
「黙って私がいかせると思うか!!」
「邪魔だ!! どけ!!」
俺は、そう言って、更に速度を上げる。
「我武者羅に速度を上げるだけ!! そんなもので突破できると思うなよ!!」
鞭が、俺に向かって振るわれる。俺は迎撃しようとするが、足がふらつき隙を見せてしまう。
ニヤリとフィーネが笑ったのが見えた……
が――――
「そうだ、邪魔だ。押し通らせてもらおう!!」
翼が割って入った。振るわれた鞭を剣で弾く。
ふらついた俺をグイッと手で引き上げ、前に押し出しつつ言う。
「行け、遊策!! あれを止めて来い!!」
「ああ、言われなくても!!」
飛び出した俺はグッと脚を折り曲げると、地面を思いっきり蹴り上空に飛ぶ。
後ろでは、翼がフィーネの鞭を剣で抑えこみ、フィーネを引き付けていた。
カ・ディンギルの側面を蹴り上げ、さらに上に上がる俺。みるみるうちに、地面が遠ざかっていく。
そして、着いた。
俺は、エネルギー光がほとばしるカ・ディンギルの砲口に身を躍らせる。
「ここからどうする!?」
エネルギーは発射寸前。
――――どうする!?
次の瞬間、光が俺を包み込み、カ・ディンギルは発射された――――
光に包み込まれながら俺は、これまであったことを次々と思い出していく。
これが走馬灯って奴なのだろうか?
その中で、一番古い記憶、生前の記憶だ。
今の今まで、思い出しもしなかった記憶が俺の頭の中にリフレインする。
その記憶は5歳。その時の俺は、テレビで特撮モノを見ていたんだ。
何もストーリーや戦うことの怖さ、戦う者の決意なんざ、分からずに。
それで、見終わって興奮冷めぬまま、父さんに自分の夢を語ったっけ……
『父さん!! 俺、ヒーローになりたい!! 誰かを助けれるヒーローに!!』
変~身、と俺はポーズを取った。
それを見て父さんは、クスリと笑ってこう言ったっけ……
『そうか、遊策はきっとなれるさ……だって、俺の宝物だからな』
そうか……、これが俺の原点……
「そうだ……俺の夢……思い出した……」
確認するように俺は自身の夢を言う。
「誰かを助けるヒーローに……ずっとそうだったんじゃないか、ヒーローに憧れていたんだ……」
自分の憧れを、夢を、思い出し、次に俺が守りたい人々が俺の脳内にあふれかえる。
「だったら、守らないと!! 誰かを、家族を、仲間を、大切な人を!!」
その時、俺のギアが形を変えた。
ガントレットが大きく変わり、大きな爪を持つ
俺は、砲台から発射されたエネルギーを、
奇しくもそれは、原作で響がやっていたエネルギーを繋ぎ束ねることと似ていた。
そして、そのまま俺は力任せにエネルギーを押し返し始めた。
「見とけ!! 俺の生き様ぁぁぁぁぁ!!」
俺の腰のギアがはじけ飛び、ブースターとして再変換される。
グンと、俺がエネルギーを押し込む速度が倍加した。
ドンドンエネルギーを押し込めていき、カディンギルの中央部までエネルギーを押し戻し――――
「響……やったぜ……」
押し込められた巨大なエネルギーが砲台内で暴れまわり、カ・ディンギル中央で俺の言葉ごと全てをかき消し、大爆発を起こしたのであった。
「あ、ああ、ぁぁぁ……お、にい、さん?」
響は、ストンと膝をつき爆発したカ・ディンギルを見上げる。爆発に紛れて何かが、響の元に落ちてくるモノがあった。
それは、遊策の使っていた半壊した腕のガントレットだった。
震える手で、響はそれを拾い上げ、抱きしめる。
「大丈夫じゃなかったんですか……帰ってくるって言ったじゃないですか……」
響はそのガントレットが意味することが解り、大粒の涙を流しながら叫んだ。
「ああ……いやああああ!!!!」
響の鳴き声がその場を支配した。
他の装者たちも涙を流しながら、そんな彼女を見て痛ましい表情をする。
「響……」
奏の悲しそうな声が、ポツリと響の名前を呼ぶ。
――――ガシャリと音がした。
そこには、響と同じように膝をついた状態のフィーネがいた。
「……終わってしまった……私の計画が……もはや、次にかけるしかない……しかし――――」
そう呟いたフィーネは立ち上がり、怒りをあらわにする。
「虫の居所が、収まらぬ!! 全員、生きて帰れると思うな!!」
クリスと翼と奏は涙を流しつつも、フィーネを見据え、剣を、銃を、槍を構えて宣言する。
「うるせぇ!! 負けるかよ!!」
「散った遊策のためにも、ここでお前の野望は終わらせる!!」
「お前は!! お前だけは!! 絶対に許さない!!」
放心状態の響をおいて、戦闘が……始まる。
「っぐう……」
「っく……」
「かっは……」
フィーネの強さは圧倒的だった。
クリス、翼、奏の三人を相手にしてなお、圧倒していた。
「つまらん……こんなものたちに私の計画は、邪魔されたのか!!」
虚し気にそう言って、次に放心状態の響を見る。
近づき、髪を持って響の顔を見る。
「あ……あ……」
「ふん、抗う気力も無いか……」
響を放り、蹴り上げ、地面に転がす。
「あうっ……」
その瞬間に、響の手から遊策のガントレットが零れ落ちてしまう。
響は、急いでそれを拾い上げようとするが、それをフィーネに阻まれる。
「あっ……」
そのガントレットをフィーネは忌まわしそうに見ると、足で踏みつける。
「あの男がいたからだ!! なんなのだ!! あの男は!!」
そう言って、何度も踏みつけるフィーネ。次第に、ガントレットは歪んでいき、ひび割れ始める。
響はやめさせようとするが、殴り蹴られ、ガントレットに近づくことすらできない。
「やめて……やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
響の悲鳴にも似た静止の声も、フィーネには届かない。
そして、とうとうガントレットは、バキンッと音を立てて壊れ去ってしまった。
空気に融けていくガントレット……
それを響は何もできずに見ている事しか出来なかった。
体中の力が抜ける。最後に残っていた物すら無残に壊され、かろうじて残っていた立ち向かう気力も無くなった響はその場で倒れこんでしまう。
「あ……」
ガントレットの最後の残骸が融けたのを見たフィーネは、吐き捨てるように言う。
「……あっけない。全く……下らない男だったな」
「あ、う、うぁ、うぁぁぁぁぁぁぁ……うう、うあぁぁぁぁぁ!!!」
涙を流す、どれだけ立ち上がり言葉を訂正させたくても、無気力感で体が動かない。
ただただ、涙を泣かすしかなかった。
しかし、このままでは終われないものが、一人いた。
『響!! 立って!! まだ、終わってない!!』
「あ……、未来の声……」
リディアンのスピーカーから、未来の声が聞こえ、言う。
『お願い、響。お兄ちゃんの代わりにお兄ちゃんが、出来なかったことをやってあげて!!』
そして、未来は、歌いだす。他にも響やクリス、奏、翼を応援する人たちの声が未来の歌声に重なっていく。
「あたしたちは……まだ、諦めてねぇぞ!! あいつとの約束がある!!」
「そうだ、遊策が残してくれた希望!!」
「決して!! 途切れさせやしない!!」
その歌が仲間たちを立ち上がらせる。次々と立ち上がっていく声がする。
そんな中、未来は響に向けて、更に叫ぶ。
『お兄ちゃんの残した希望を!! 約束を!! 守って、響ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』
「お兄さんが残した希望、約束……?」
歌につられて、響はゆっくりと身を起こしながら、そう自分に問う。
不思議なことに先ほどまでの無力感と倦怠感は無かった。
『お前はフィーネを頼む』
思い出した。そうだ、自分は……
「そうだ、私はまだ……お兄さんとの約束を果たしていない。未来がくれた光と、お兄さんが残した意志……この二つはまだ、私の胸に残ってる……だったら、立てる!! 戦える!!」
歌と決意が奇跡を起こす!!
四人を包み込むような、光の柱が立ち昇った。
「なんだ、何が起こっている!?」
自身の想像を超えたモノが確かに今目の前に、存在している。
フィーネは、その光景に圧倒されていた。そして、やっと絞り出した言葉は疑問だった。
「お前たちの纏っているものは何だ!! それは、私が作った物かァ!!」
「シンフォ、ギアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
光が治まった時、そこに居たのは奇跡を纏いし4人の翼を持つ天使だった。
「私は……了子さん!! 貴女を止めます!! お兄さんとの約束にかけて!!」
響は、限定解除されたギアを持ってそうフィーネに宣言した。
とりあえず、追記しました!!
さて、無印編は残すところ、あと一話となりました。
お付き合いくだされば幸いです。
……感想くれてもいいのよ? っていうか、ください、お願いします!!
どうか、首や肩、頭が痛い作者に慈悲をください。