刀を構え、工場の煙突を見上げる翼。
対峙するのは、シンフォギア・イチバルを纏ったクリスだった。
「何故だ! 何故だ、雪音ッ!! なぜ、立花を撃った!! なぜ私達を裏切った!! せめて、理由を教えろ!!」
翼はクリスに向かってそう叫ぶ。
しかし、返答は鉛玉の雨だった。
「っく!!」
一旦後退し、クリスの射線上から退避する翼。
「(……思えば、私は雪音の事をしっかり知ろうとしていなかったのかもしれない……)」
翼は物陰に隠れながら、出会った頃を思い出す。
始めに見たのは、司令……おじさまに連れられ、借りてきた猫のようにガチガチに緊張した雪音だったな……
その後の自己紹介で、仲良くなって……
『第二号聖遺物・イチイバルの装者として呼ばれた、ゆ、雪音クリス、です……よろしく、お願いします……』
『そうか、雪音と言うのか……しかし、無理しなくてもいいぞ? 言いにくいなら、別に本来の喋り方で』
『わかった……よろしくな! えーと?』
『ああ、私は風鳴翼だ。以後、よろしく頼む』
『翼先輩……で、いいか?』
『翼先輩!?』
『ど、どうした?』
『もう一度言ってくれないか?』
『ちょ、顔が近けぇぞ、アンタ!!』
『もう一回!! もう一回!!』
『なんだよ!? つ、翼先輩!! ……こ、これで満足かよ?』
『……雪音ぇ!!』
『わ~、は、放せよ!! こういうことは家で……って、家でも駄目だろ!!』
そう言って抱きしめた私の中でジタバタと暴れる雪音が可愛くてさらに抱きしめたりもした。
あの時の私は、周りは大人や年上の者たちばかりで、先輩と言われたことが無かった。
あまりにも、新鮮過ぎて何回も言わせようとして、いつの間にか頑として雪音は言われないようになっていたんだっけな……
「翼!! こっちはノイズ片付けたぞ!! クリスの方はどうだ?」
身を隠す私にノイズの相手を頼んでいた奏が帰ってくる。
それと同時に、雪音が動いた。
煙突から、煙突へと渡り、銃弾をばらまく。
銃弾により、土の地面から土煙が上がり、煙に覆われる。
私は、煙を突っ切り一気に接近、雪音とつばぜり合いの体制になる。
「雪音っ!! 何とか言ってくれ!!」
「っは、なら一つ言っておいてやる、あの馬鹿の彼氏、ヤバイかもな」
ッバと、ボウガンをそらし、つばぜり合いを脱出、追撃の斬撃もバックステップでかわし、別の煙突に飛び移る雪音。
私は雪音の言ったことを考える。きっと、馬鹿とは立花の事だ。そして、彼氏とは……ああ、なるほど!!
「遊策が!?」
ヤバイとはどういうことだ?
その疑問を口に出そうとした時、巨大なエネルギー発生を感知した。
これは……向こうの方、丁度、遊策たちが逃げた方だ。
「っち、まずいことになりそうだ……。ここはあたしにまかせて、翼は行け!!」
「しかし……」
何かを理解した奏が私の隣に着地し、そう言うが、私は素直に頷けない。
しかし、雪音が……
「大丈夫だ!! あたしが説得してみるから、翼は行け!! 遊策が連れていかれちまうしれねーぞ!! 遊策の奴は融合症例……つまり、聖遺物の力を研究したい奴らにとって格好の獲物って訳だ!!」
奏がそう言って、雪音に接近戦を仕掛ける。
雪音も雪音で、それを迎え撃ちつつ、私に向かって言う。
「……行けばいいじゃねーかよ、先輩。あたしは、この人の相手であんたを追えね
ーしな」
私は先輩、の言葉に違和感を覚える。
先輩とは、口が裂けても言おうとしなかった言葉だ。それをここで言った意味は?
「そうか、ならば……奏、雪音の相手を頼む!!」
意味はほかならない、何か伝えたいことがあるということだ。
例えば、雪音は遊策と戦った時に何か遊策に頼んだとする。それを達成できなくなるのは困るから、助けに行け……今回はそんな感じか?
ともかく、私は遊策の元に急ぐのであった。
「グッ……、はあ、はぁ……」
ガードした俺の槍が砕ける。
俺は荒い息を吐いて、膝をついた。
「まさか、カルマノイズ3体にここまで抗うとはね」
俺の足元には、カルマノイズの一体が砕けた方とは別の槍で刺しにして、縫い付けてあった。
実は、早々に、一体のカルマノイズを縫い付け、二体のカルマノイズを相手にしていたのだ。
最初の方は、善戦、いや相手が回復するとはいえ圧倒していた。が、急に二体のカルマノイズの動きが急に変わった。
そう、連携を取ってくるようになったのだ。
連携を重ねられ、ガードする一方となり、ついに俺の槍が砕かれてしまった。
そして、間の悪いことに……俺の縫い付けていた槍を砕いて、拘束を脱出するカルマノイズ。
これで振り出し――――いや、アームドギアが砕かれ、結構なダメージを喰らった。最悪の状態になったと言っても過言ではない。
それにしても……
「ぐっ、なんで急に動きが……?」
そう言って気付く、そう、フィーネがソロモンの杖をノイズに向けていたことを。
「そうか、お前がカルマノイズに指示してやがったのか……!!」
「あら、ばれちゃった?」
おどけたようにいい、ソロモンの杖を振るフィーネ。
悔しいが、今の俺にはどうすることもできない。
カルマノイズ複数が相手では、エオンフヤーの本領が発揮できない……
エオンフヤーは一対一を想定し考案されたものだ。技の発動には相手の攻撃を受け流すことが必要になる。多方向から攻撃は捌き切れずに、攻撃を喰らってしまうのだ。
多人数を相手にすること自体は、やって来たので立ち回りは出来るが、カルマノイズ相手にエオンフヤー、もといフジサキバレンシアが使えないのでは、決定打になりえない。
どうする? このままでは、不味い。カルマノイズは生半可な攻撃では、すぐに回復する。一撃で倒せるような大火力が無ければ倒せない。そして、俺には火力がある攻撃がない……
完全に詰んでいるなぁ、俺。
「……でも、それが屈する理由にはなりはしないよな!!」
そう言って俺は、ゆっくりと立ち上がる。
グダグダと色々考えたが、やめだ。いつだって、俺は行き当たりばったりで生き抜いてきたんだ。こんなところで、つまずいていられるか。
さっさと、このノイズ倒して!! クリスの両親助けて!! 心で泣いてる女の子を助ける!!
今はそれだけでいい!!
「ほう……いい目をするじゃない」
「っへ、この胸の闘志、消せるものなら……消してみやがれっ!!」
「なら、お望み通り!! 消してあげるわ、やりなさい!!」
啖呵を切る俺に、カルマノイズをけしかけるフィーネ。
俺は迫りくる攻撃を右へ左へと避け、喰らいそうな攻撃だけを的確に受け流していく。
「お前らの速さと力は、もう慣れた!!」
確かに攻撃力と機動力は脅威だった。しかし、一度体験してしまえばどうということは無い。
問題である、複数同時攻撃にさえ気を付ければ……
「ぐっあ!?」
駄目でした。
やはり、複数同時攻撃がネックになってきてしまう。
ッチ、複数同時攻撃、連携攻撃の肝はフィーネが持つソロモンの杖!!
奴が居なけりゃあ、まだやりようはあるのに!!
どうする?
考えることは必要だ……
ネガティブに考えるのではなく、生き残るためにも、この状況を打破する方法を考えろ!!
火力が無い、火力……火力?
ふと、攻撃を耐える俺の目の端に、何かを入れてあるようなケースが映る。
そこで俺は輸送していた物がなんであったかを思い出し、頬を釣り上げた。
「(目の色が変わった? 何を仕掛けてくる気だ?)」
フィーネは最大の警戒を持って、何が出て来ても対応できるようにソロモンの杖を構え、カルマノイズを警戒させる。
これは遊策が規格外の行動をしてくるがゆえに、野行動だった。
しかし、これは逆に遊策に反撃の目を与えるチャンスとなってしまった。
っバと、ケースに飛びつき、中身を手にする遊策。
あっ、と自身の失策をフィーネが悟った時には遅かった。
「これがデュランダルか!! なんていう力だよ……」
大きな力の鼓動を感じる。
そして、手に持ったデュランダルは黄金に光り輝き、光の柱を立ち昇らせた。光が治まるとただの鈍い鉄の塊だったデュランダルの刀身は、黄金に変わっていた。
しかし、同時に、デュランダルを握る俺の手から感情がダイレクトに俺に伝わっていき、感情を揺さぶり、デュランダルは俺を乗っ取ろうとする。
「ぐうぅぅぅぅぅぅ、意識が、デュランダルに、引っ張られ、そう、だ……」
少しでも気を抜くと、意識を持っていかれそうになる。逆転の切り札として掴んだはいいが、とんだジャジャ馬だ!!
「でも、このエネルギーをカルマノイズに向かって放てば……!!!」
俺はゆっくりとデュランダルの柄を両手で持つと、振りかぶる。
カルマノイズを俺は視界に収め、気合を込め言う。
「喰らえぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
次の瞬間、俺は巨大に膨張したエネルギーを解き放ち、横に一閃。
すさまじい破壊の嵐が吹き荒れた。
極太のレーザーのような光の斬撃が、カルマノイズ達を一瞬で溶かし、一掃したのであった。
「っち、カルマノイズがやられたか……でも、データは取れたし、デュランダルも覚醒した。それに……」
そう言って、フィーネはちらりと視線をやる。そこには、遊策が倒れていた。
先程の斬撃を放った後、力を使い果たし、そこで倒れこんでしまったのだ。
「くっ、そぉ……」
倒れ伏したまま、悔しそうに唸る遊策だったが、全くと言っていいほど体が動かない。
「ふふふ、あの子に頼むまでもないわね、ここで――――」
ゆっくりとフィーネが遊策に手を伸ばした、その時。
一発の銃弾がそこに打ち込まれた。
そして、突然所属不明のヘリが現れ、そこから次々と軍隊のような者たちが次々に降下してくる。
「く!! ここで介入してくるか!! 米国政府!!」
厄介そうにそう言ったフィーネは、遊策を回収しようとする軍隊にむけて新しくノイズを放つ。
ノイズは軍隊を蹴散らす。ノイズの炭素化能力と位相をずらす能力に、米国政府の軍隊はみるみるうちに減っていく。
それを見たフィーネは、改めて遊策を回収しようと手を伸ばす。
そこに、大きな壁が現れた。
「こ、これは、壁!?」
「剣だ!!」
そう言って現れたのは、風鳴翼!!
【天ノ逆鱗】
これは、そう呼ばれる技だった。翼の持っているアームドギアを巨大化させ、地面に突き立てることで、フィーネから遊策を守ったのだ。
「っち……まあ、データとサンプリングは済んだ。今回はこれで良しとしましょう」
あっさりと身を引くフィーネに不信感を募らせる翼は、遊策を庇いながら、油断なく構える。
「逃がすとでも?」
「いいえ、あなたは見逃すわ……遊策君がいるものね?」
「……っく、行くがいい」
一度チラッと後ろを見て、遊策の姿を見る。もうすでに意識を失っているようだった。
悔しそうにそう言った翼の姿を一瞥し、身をひるがえし一瞬で姿を消したフィーネであった……
デュランダル移送作戦……失敗
はい、いかがでしたか?
翼が遊策呼びなのは、未来が居るので小日向がつかえないからです。
それではまた次回!!