少女との話は、青年に何を与えるのか?
そして、青年は陰で動く
「そうか、クリス君が……」
「はい」
俺は今二課の司令室にいる。
今回の事の報告をするためだ。
「わかった、こちらでも動向は探ってみよう」
「ありがとうございます」
報告が終わると、風鳴司令は俺のこれからの事を訪ねてくる。
「これから、響君の見舞いに行くのだろう? これも持っていってやってくれないか?」
そう言って、結構大きな紙袋を渡される。
俺は何が入っているのだろうと、紙袋をのぞき込む。
「ん? ああ、入院生活じゃ退屈だろうと思ってな。家にあるおすすめ映画を30本ほど持って来たんだ」
「ああ、なるほど……わかりました。しっかり届けますね。それでは」
そう言って、俺は司令室を出て、エレベーターに乗りリディアンから出ると、近場でタクシーを拾って、野暮用を済ませてから病院へ行く。
「響、来たぜ」
「あ!! お兄さん!!」
少し照れながらの太陽のような輝く笑顔……
ヤバイ……可愛すぎかっ!!
照れを隠すため、持ってきたものを出す。
「こ、これ、メロンだ。んで、こっちが風鳴司令からの差し入れ。映画の詰め合わせらしいぞ」
「うわぁ~、大きくておいしそうなメロンですねぇ~。これ、高かったんじゃないですか? それに、映画もうれしいなぁ」
響は嬉しそう見舞いの品を抱きしめる。
俺は響を抱きしめたい……っは、俺は一体何を考えて……?
なんだか自分が怖くなったので、話をしてごまかすことにする。
「そうそう、今度サクリストD――――デュランダルを移送する任務があるんだ」
「え、デュランダルを、ですか?」
「知ってたのか?」
「はい!! 二課の最深部には完全聖遺物のデュランダルがあるって聞かされてましたから……」
なるほど、それは装者にもということは職員全員の共通認識だったのだろう。なら、ここに来る前の野暮用で聞いた『色々な勢力がデュランダルを狙っている』という、言葉は無視できないな。
壁に耳あり障子に目あり、ともいうが、職員全員が知っているということは、壁や障子どころか人ごみの中で大声で叫ぶ事と同義。完全公開されていると言ってもいい、情報と同じということだ。誰が、スパイであるかもわからないしな。
俺は、これから起きるであろうこと予測し、はぁ、とため息をつく。
そんな俺を見かねたのか、場の雰囲気を変えるため、響は俺に話しかける。
「それより、な~んと、これを見てください!!」
「それは?」
響が手に広げて俺に見せてきたものそれは――――
「千羽鶴……いや、数が足りないから百羽鶴かな?」
「はい!! これ、友達がくれたんですよ!! 今日、お見舞いに来てくれてですね……」
「なるほど、それにしても綺麗でいい折り鶴だな……折り鶴には、気持ちを込めるものだからな。綺麗なほど気持ちが強くこもっているって聞いたことがあるぜ? きっと、そんだけ響の事を思って折ってくれたんだろうよ」
「綺麗なほど、気持ちがこもってる……えへへへ」
ハニカミながら笑っている響の横顔を見ていたら、俺も自然と笑顔になれた。
「あ、でもな、汚いからって、相手の気持ちがこもっていないって訳じゃないぞ? そこは勘違いしちゃだめだ。折り鶴は願いを託すものなんだ。それを折ってくれたってことは、それが良い意味、悪い意味、どちらであれ想いや気持ちは少なからず入っているよ」
「はい、わかってます!! 私は、本当に友達に恵まれてるなーって思って、嬉しくなったんですよ!!」
「ん、そっか……」
その笑顔を見ていると、小さいことがどうでもよくなってくるな。
しばらく、ニコニコと鶴をいじる響を見て過ごす。
ひとしきりいじり倒し、つなぎが切れ、涙目になった響をあやしつつ、つなぎを直していると響が俺を呼ぶ。
「そうだ、お兄さん」
「んー?」
俺はそれに返事をしながら、つなぎを直す。
ここをこうして……っと、出来た。
「デュランダルの移送任務……無茶、しないでくださいね?」
俺が直し終わり、響に渡すと響はそう言ってきた。
「ああ、無茶はしないよ……」
それを聞くと、満足した顔で言う。
「なら、今回は無効にしてあげます」
「無効って?」
「あの約束の話ですよ。結婚届け、今回は勘弁してあげます!!」
「ふっ、ははは……そっか……なら、今度はきっちり守らないとな、響を」
俺は笑ってそう言う。
ただし、と付け加えて言う。
「勘違いしてもらっては困るが、別に俺はお前と結婚するのが嫌だってことは無い。少しアピ-ルが激しいから困惑してるだけだよ」
すると、響は顔を伏せる。
「……響?」
俺はどうしたのかと心配で声をかける。
すると……
バッと、頭を上げ、カッっと目を開け、言う。
「お、お兄さんがデレた!! 聞きましたか、奥さん!! お兄さんがデレましたよ!!」
……奥さんて誰だよ。
いやしかもデレって、結構俺は響に甘いと思うのだが……
つーか、俺のデレって、誰得だよ!!
「私だよ!!」
響が叫ぶ。いや、地の文に答えるんじゃないよ!?
そして、電話がかかって来た。未来からだ。
『私もだよ!!』
「何がだよ!?」
『いや言わないといけない気がして……』
そう言って、電話が切れる。
うちの妹は電波キャラなのか?
前の病院の時といい……
そんな、こんなあったが、ここから俺は色々な話をした。
今まであった事や、今日あった事、そして――――
そう、クリスのことだ。
響にだけは、包み隠さず、すべて話した。
コイツには知る権利がある。
話し終わった俺に、響は涙を流して言う。
「そうですか……クリスちゃん、そんな理由が……。お願いします……クリスちゃんを、助けてあげて欲しいんです。クリスちゃんは、普段は気取って、かっこつけてるけど、すごくいい子なんです」
「ああ、俺もそう思う」
「でも、責任を感じやすいところもあって……昔、私に一発流れ弾が当たっちゃたことがあるんです。その時、自分の流れ弾で怪我をさせてしまったーって、すごく落ち込んじゃって……」
「そうだろうな、んで、多分今回もお前を撃った事をスゲー気にしてる」
俺は、クリスのセリフを思い出す。
『あたしは、あたしはッ!! あの馬鹿を!! 響をッ!! 撃ったんだぞ!? もう今さら戻れるかよッ!!』
あの心からの叫びが、クリスが自分を責めているであろう証拠だ。
何も思ってないなら、あんなことは叫ばない。
「だからさ、全部解決して、お前の前に縛ってでも連れて来て謝らせる」
「で、私がクリスちゃんを許すっていえばいいんですね?」
「そいうこった!!」
今後の方針は固まっている。
クリスの両親助けて、クリスを開放させ、バックにいる奴を捕まえる。
いたってシンプルなことだ。
やるべきことが決まり、そろそろ面会の時間も迫ってたので、俺は席を立つ。
その時、響が俺に聞いてきた。……答えに困る質問を。
「ところで、お兄さん。聞きたかったんですが、服についてる赤い斑点って、なんです?」
「ん、ああ、ちょっと野暮用をしてる時にペンキがついちまったようだな」
気にするな、と笑顔で、しかし、目は笑わず言う俺に、さほど気にした様子はない響。
その時、ついていたテレビから、ニュースが流れてくる。
『臨時ニュースです。今日、広木防衛大臣がテロリストに襲われたという事件が発生しました。警察では、革新派のテロリストの犯行とみて捜査しています。……なお、広木防衛大臣は怪我を負いましたが、命に別状はないということです』
「はえ~、怖いですねぇ。日本でこんな事件が起こるなんて……でも、無事でよかったですね」
「あ、ああ、そうダナー」
俺の額には滝のような汗が伝っていた。
さて、俺は何も知らないなー。
そうやって口笛を吹くと、看護師が入ってくる。
「立花さーん!! 体を拭く時間ですよー!!」
「なぁに!? 俺はこんなとこに居られるか!! 帰らしてもらう!! てなわけで、俺はお邪魔になりそうなので帰るわ。んじゃなー響」
「あ、うん!! また来てくださいね!!」
俺は手を振ると、扉を閉める。
「ヒーロさん、ちょっと待ってくださいよ~」
「ノーサンキューだ、研修医」
病院を出る前に、医者二人とすれ違う。
そして病院を出てから気付いた。
ポケットにある、響のガングニールの事だ。
また今度お見舞いに行ったときに渡せばいいと思い、俺はその場を後にしたのだった。
……今の俺は知らなかった。
お見舞いにはもう来れないということを……
この小説は比較的に犠牲者は少なめな展開で行きます。
モットーは、モブにも優しい、です。
……なに、一人死んだ名アリのモブがいる? それどころか、普通にモブは死んでる?
す、少なめだから……全くいないとは言ってないから……
話は変わりますが、結構広木防衛大臣好きです、自分。
あと、なんか既視感覚えるキャラが居ますが、ただのモブです。誰が何と言おうとモブです。
それでは次回!!