戦紀絶唱《SIN》フォギア   作:星屑英雄

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少女が撃たれた……

それが青年の心に暗い焔を灯す

青年と雪の少女がぶつかる時

青年は槍を取る――――


16話 激槍・ガングニール

「メール? このメアド誰だ?」

 

 位置だけ表示……なんか、怪しいな。

 でも、行ってみるだけ言ってみるか。

 

 ……と、来たのは良いが……

 

「おい!! どうした響!? しっかりしろ!!」

 

 響が倒れていた。抱き上げた俺の手から、赤い液体が、ボトボトと垂れる。

 

 ……嘘だろ!? 

 

「くり、す、ちゃ……なんで……どうして……」

 

「おい、クリスがどうしたんだよ!? くそ!! 今病院に連れて行ってやるからな!!」

 

 ここからならば、俺が運んだ方が早い。

 俺は、傷をハンカチで抑え、お姫様だっこで響を抱きかかえると、近場の病院目指して駆け出した。

 

 ……俺は何をやってるんだ!! 守ると誓ったばかりなのにっ!!

 

 悔しさと後悔で、グッと噛みしめた口の端から血がこぼれた。

 

 

 

「小日向さん、手術は無事終わりましたよ」

 

「はい、はい、よろしくお願いします。ありがとうございました!!」

 

 看護婦さんから響は無事助かったと報告され、お礼をいい、安堵の息を吐く。ドッと疲れが押し寄せて来て、待合室の椅子にドッカリと座り込んでしまう。

 

 しばらくそうしていると、響の母と父を連れて未来が入って来た。

 

「遊策君、響は!?」

 

「はい、安心してください。峠は越しました」

 

「ああ、よかった……ありがとうね、遊策君、あなたが見つけてくれなかったら響は……」

 

 素直に俺は、返事が出来なかった。

 響は重傷を負ってしまった。俺は守れなかった。俺はその場にいて守らなくちゃいけなかったのに……!!

 もし、これで響が死んでいたら……

 そうやって、自責の念に押しつぶされそうになる。

 

 その時、未来が俺を呼んでいることに気づいた。

 

「お兄ちゃん、ねえ、お兄ちゃん!!」

 

「あ、ああ、なんだ?」

 

 俺はとっさに口を開き、返事をした。

 

「響の事なんだけど、いい?」

 

 そう言って、響の両親に一言断ってから、未来は俺を連れ出す。

 病院の外のベンチに二人並んで座り、未来は話し出す。

 

 クリスから、連絡を貰ったこと。それで、響は待ち合わせてクリスと会っていたこと。この二つを聞く。

 

 それって、つまり……

 

「クリスが怪しいてことか?」

 

「うん、でもそれは無いって思いたい。だって、クリスはツンツンしてるけど、誰かを理由なく傷つける子じゃないし……」

 

「わかった、情報ありがとう」

 

 未来に礼を言った時、俺のスマホにメールが届く。

 また知らないメアドからだ。メールの本文を見る。

 

『あなたの大切な人の大切なものを預かっている。返してほしければ、今日の午前2時に指定の場所に来い』

 

 なるほど、先程のメールと同じメアドだ。このメアドの持ち主が、響を襲った犯人と見て間違いないかもな。

 

「お兄ちゃんどうしたの?」

 

「なんでもないさ」

 

「……嘘、何か危険なことをしようとする時、いっつも眉間にしわを寄せて難しい顔するもん」

 

 ……気づかれたか。でも、譲る気はない。

 

「知ってる、ちょっと言ったくらいで止まらないのも。だって、兄妹だもん」

 

 何でもお見通しという訳、か……

 未来はジッと俺を見つめてから、言う。

 

「必ず帰って来て、病室の響に顔を出してあげること!」

 

 花が咲くような笑顔で、そう言われた。

 

 やっぱり勝てないな。我が妹様には……

 

 俺は、未来の頭をワシャワシャと少し荒っぽく撫でる。

 

「ふわああああああ!? せっかく整えた髪がっ!!」

 

「わーってるよ、絶対帰ってくるさ。お前が嫁に行くまで俺は傍にいる。……まあ、簡単には嫁にやらねぇけどなぁ!!」

 

「なに、なんなの? 誰に言ってるの? プラチナ意味わからないよ!!」

 

 はっはっは、知らなくていいことだよ未来君!!

 俺は頬を叩き、グッと拳を握って気合を入れる。

 さて、現在11時、とりあえず飯でも食って仮眠をとるか!!

 

 

「……ところで、プラチナって何?」

 

「わからないけど、誰かが私の中に領空侵犯してきたみたい」

 

「なんのこっちゃ?」

 

 

 

 約束の時間、約束の場所にて、約束の相手の到着を腕組みして、待つ。ここは、ホテル計画がとん挫し建設中止となった工事現場。近くに公園があるが、異様に人通りの少なくドンパチやってもバレなさそうな場所だ。

 

 背後に気配を感じ、牽制のため言葉を放つ。

 

「待ってたぜ、クリス(・・・)

 

「なんだ、ばれてんのか……」

 

「っは、隠す気も無かった癖に」

 

 そうだ、別にばれてもいいと相手は思っていたのだろう。実際、俺のスマホに来たメアドはクリス本人が使っていた物だということは、未来からの情報で分かっている。

 

 自嘲じみた笑いを見せながら、クリスは俺に問う。

 

「……怒ってねーのかよ」

 

「ああ……」

 

 そう言った後、一旦、俺は声を落とし、殺意を込めた言葉で言う。

 

「腸が煮えくり返って爆発しそうだ。今にもお前を、ぐちゃぐちゃに壊してやりたい」

 

「っつ!!」

 

 自分のやったことに罪悪感があるのか、悲痛な顔を一瞬見せ、それでも許されないだろうと一層自嘲を込めた表情で笑うクリス。

 

「……でもな!!」

 

 まずは、その顔を崩す。

 

「理由なく、お前はそんなことをする奴じゃないだろ?」

 

「は?」

 

 俺の言葉が理解できない、と言った風な表情で俺を見るクリス。しかし、気にせず、俺は言葉を続ける。

 

「俺はクリス、お前の事は何も知らない……でもな、あんなに二課のみんなに慕われてて、困っている人を助けるような奴が、理由も無く裏切るはずないってことぐらい俺でもわかる」

 

「っは!! 二課に最近来ただけの奴がエラソーに!! お前にあたしの何がわかるってんだ!!」

 

「俺だって、知っている!! お前が優しい奴だってことは!!」

 

「っ!? ……うるせぇ!! これ以上、憶測であたしを語るんじゃねぇ!!」

 

 憶測じゃない、俺は知っている。クリスが響の事を心配して色々動いてくれたことも、二課の職員が困っていたら手を貸していることも、パーティーを企画したのはクリスだってことも!!

 恥ずかしながら、これは全部未来から聞いたことだがな。

 でも、俺はあの燃えるバルベルデの街で、小さいながらにも一生懸命誰かの役に立とうと頑張っているクリスを見た!!

 

「だから、理由を聞かせてもらう!!」

 

 俺の言葉に、クリスは顔を歪ませ、言う。

 

「あたしは、あたしはッ!! あの馬鹿を!! 響をッ!! 撃ったんだぞ!? もう今さら戻れるかよッ!!」

 

「なら!! お前が、戻れないって言うなら!! 俺は、お前を気絶させてでも連れて帰る!! 理由は後でぶん縛ってでも聞かせてもらおうかァ!!」

 

「killter Ichaival tron」

「Be Strong somewhere gungnir tron」

 

 そう言って、互いに聖詠を口ずさみ、ギアを纏う。互いに武器を構え、一触即発の空気が立ち込める。

 

 ……俺は、クリスが響を傷つけたことよりも、俺自身が響を守れなかったということの方が数倍腹が立つ。自分で自分を殺してやりたいくらいだ。クリスを恨んでいないと言えば嘘になるが、今は自分に対する怒りの方が大きい。

 

 しかも、クリスはちゃんと死なない様に、被害が最小限になるようにしていたはずだ。

医者の話を思い出す。

 

『ちょうど、わき腹を(かす)るような感じで撃たれている。が、しかし、確かに、血が結構出るようになってるが、処置されてあるから大事には至らなかったみたいだね。それにしても、これは君が?』

 

『いえ……』

 

『なら処置した人に感謝しなきゃならんね』

 

 そうだ、不思議に思っていた。なぜ処置をされていたのか? 誰かが処置したのなら、誰かが救急車を連絡しなければおかしい。

 考えるられる可能性としては犯人が処置したと考えるのが、一番適切だ。

 

 つまり、傷つけたが死なないように、後遺症が出ない様に、傷が残らない様に、したということ。クリスは進んで響を傷つけようとしていなかったという証明になる。

 

……まあ、感謝するも何も撃った人なんですけどね。

 

 そう考え終わった瞬間、クリスが動いた。

 腕のボウガンを、ガトリングガンに変え、乱射する。

 

 散弾、しかも、シンフォギアの、だ。通常ならば、そんなもの屁でもないが、シンフォギアから放たれる銃弾は、まずい。

 俺はバックステップで距離を取り、後ろに向かって連続の後転で散弾を避ける。

 執拗に追ってくる銃弾に、ついに工事現場の壁に追い詰められるが、俺は壁にあるものを引っぺがし、壁を蹴り上げ、上に飛ぶ。

 

「っは、空中なら避けられねえよなッ!!」

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 腰の格納庫が展開し、その中からミサイルを一斉掃射する技が放たれる。

 一斉に放たれた、ミサイルの爆発が俺の姿をかき消した。

 

 

 

 モクモクと、爆発時の煙により遊策の姿が見えなくなる。

 しかし、煙の奥に確かに何かあることはわかった。

 

「やったかっ!?」

 

「やってねーよ!!」

 

 すぐ横から声が聞こえた。

 

 遊策はあるもの――――工事現場の看板を囮に使ったのだ。こいつを蹴り、爆発の嵐を密かに抜け、煙に紛れ接近。

 囮に気を取られている間に、遊策は手刀を横一閃し、クリスの首を狙っていた。

 それをクリスは首をひねることで回避し、右手のガトリングガンをボウガンに戻し、一斉射する。

 

 これにはたまらず、飛びのくが、甘い。踏み込んできたクリスが今度は、左手をボウガンに戻し、すでにつがえていた。

 着地の瞬間とあって、避けられない。十本のエネルギーの矢が遊策を打ち抜いた。

 

「ぐああああああっ!!!!?」

 

 派手に転がり、地面でバウンドするが、飛び起き、距離をとる。

 

「流石に分が悪い、か……」

 

 冷静に分析しつつ、自身の欠点を補う方法を考える。近接戦は自分としては無手より銃相手ならば獲物があった方がいいのだ。

 一つだけあるのだが、それは切り札だ。切りたくはないが、そうも言ってられない状況であると、自分を納得させる。

 

 遊策はしょうがない、と言いつつ切り札を使うため、立ち上がる。

 

「見せてやるよ、とっておき!!」

 

 

 

 俺は切り札を使うと宣言する。

 

「見せてやるよ、とっておき!! これが、俺のアームドギアだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 そう言って、腕を掲げると同時に、両腕のガントレットが分離、それぞれが槍として変形し、俺の両手に収まる。

 

 そう、俺のアームドギアは……

 

「双槍……それが、テメェのギアかっ!!」

 

「そうだ、つがいの槍……それが俺のギアだ!!」

 

 双槍を構え、歌いだす。俺の、俺だけの歌を!!

 

「聞け!! 俺の歌!!」

 

 

「激槍!! ガング、ニィィィィぃぃぃルッ!!!!!」

 

 

 

 ここからが、俺のステージだ!!

 

 

 




暗い焔を灯す(自分に対する)


はい、どうでしたでしょうか?
またまた、ギリギリになってしまいました。

ギリギリなので、次回予告して終わります。

この戦が一体どうなるのか? クリスの、そのバックにいるの者目的とは?
遊策はクリスを助けることが出来るのか?

その答えは続きを見てくださいね!!

そして、奴の登場を見逃すな!!

次回!! 17話 兄弟子

それではまた明日!!




シリアル「まだ、まだだ!! 俺を必要としてくれてる奴がいる……死ぬわけにはいかないんだ!!」

シリアス「お前はまだお呼びじゃねーんだよ!! 座ってろ!!」

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