今回は脱がないよ!
無垢真理領域
「岸波……白野?俺のマスターだって?」
今になって思い知った。
記憶を忘れてしまった当人よりも、
忘れられてしまう方が遥かに辛いのだ。
……私はバーサーカーに、こんな思いをさせていたのか。
ーーーーーーん?
▶︎……何で、頭を撫でるんだ?
「お前が、悲しそうな顔をしてたからな」
「気に障ったなら謝罪するがーーー」
「ああ、すまない。断りもなく女性の頭に触れるなんて、デリカシーに欠ける行いだった」
▶︎……いや、気にしてない。
「そうか、ならいいが」
「ふう……やっぱりダメだな。女性が相手となるとテンで上手くいかない」
誰だコイツ。
いつものハッチャケっぷりはどこいった。紳士にもほどがあるだろ。違和感しか感じない。それになんか変な匂いもするしーーーーーーーーって、待て。
▶︎お前、私がここに来るまで、一人で何をしていた?
「…………」
おい、目をそらすな。
「あっはっはっは」
笑って誤魔化すな!
さっさと吐け!
「あー、その、な?
無人島に一人流れ着いたら全裸になりたくなるじゃん?
それと同じ心境になって、脱いだんだ。
そしたら興奮して、股ぐらがいきり勃ってきてな。
それを、鎮めるためにーーーーーー
ーーーーーそう、ナニをした」
…………………………はあ。
「あれ、引かないの?」
いや、この上なく呆れてはいる。
つまり、お前がやけに紳士的だったのは、賢者モードだったからだと。……はあ。
まあ、どうせそんなことだとは思っていたのだ。
「ええ……寛容過ぎじゃ?普通ドン引きするもんだと思うんだが……」
バーサーカーと契約していた時はこんなことは日常茶飯事だったのだ。この程度で狼狽えていては身が持たない。
言っただろう、私はお前のマスターだったと。
それに、変態性では他の追随を許さないサーヴァントだが、その根底にある優しさや誠実さは既に知っている。
「ーーーーーーそ、そうか」
ほら、行くぞ。いつまでもここで立ち止まっていても事態は好転しない。幸い、この先にも道は続いているようだしーーーーーーーーー!?!?
いや、待て、お前……さっき、私の頭、撫でたよな?
「ああ、撫でたが。それがーーーーあ」
おい、手洗ったよな?
「……いや洗おうにも、水場なんてどこにも無いし」
……つまり、洗ってないと。
「あっはっはっは」
▶︎あっはっはっは
「「あっはっはっは!」」
▶︎死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「ぐあああああああああ!」
「……だからってここまでボコボコにしなくてもいいだろ」
うるさい。
乙女を汚した罪は重い。
恥を知れ。
「くっ……正論過ぎる」
ほら、さっさと行くぞ。
「え?俺も?」
当たり前だ。
今はその兆しは無いが、いつエネミーの類が出てくるかもわからない。私一人で行動するのは危険すぎる。
「いや、そうじゃなくて。こんな奴と一緒に行動したくなんかないだろ?全裸になって興奮して手淫して、剰えその手で女の子の頭を撫でるような奴だぞ?」
「こんなサーヴァントより、他のサーヴァントと契約した方がお前のためだ。俺にこだわる必要なんかないし、そうでなくとも、愛想尽きただろ?」
ーーー何を言い出すかと思えば。こんなことで愛想を尽かすわけないだろ、お前は私のサーヴァントなんだから。
二人で支え合ってここまで来た。
そしてこれからもそれは変わらない。
嫌だと言っても離さないから、覚悟しろ。
「ーーーーーーーーー」
「センパイが理性のあなたを解放すれば、本能であるあなたは消えるんですよ!?」
「それが分かっているなら、どうしてーーーーーー!?」
「どうして、だと?」
「そんなものは決まっている!」
「こいつが、俺のマスターだからだ!」
「こんなどうしようもない俺とサーヴァントとして契約してくれた!」
「サーヴァントの俺を取り戻すために、自分の体をボロボロにしてまで進んでくれた!」
「こんな良い女を守るためならば、仮初めの命など惜しくはない!」
私がバーサーカーが目覚めさせれば、今ここにいる本能のバーサーカーは消えてしまう。
それにも関わらず、彼はBBの攻撃から私を助けてくれた。
「岸波白野!」
「何を躊躇している?俺を殺してでも前に進むと言ったのは、お前のはずだ!」
そうだ、私は前に進む、例え本能のバーサーカーを犠牲にしてでも。
私は前に進み続ける。
いつだってそうしてきた。
私には、それしか出来ないのだから。
「行け、マスター!生きて未来を切り開け!(一度こんなシチュエーションで、こんなセリフ言ってみたかったんだよなあ!くうー、たまらん!)」
進め、進め、進め!
(それにーーー岸波白野、ふむ、見た目も悪くない。話した感じ善良な人物のようだし、何より俺の性癖を受け入れてくれている!
こんな良い女どこを探してもいない。
惚れたぜ、岸波白野!
今この瞬間はカッコイイところを見せる絶好のチャンス、逃してなるものか!)
私はこれから、バーサーカーを殺す。
だが止まるわけにはいかない。
それでは彼の覚悟を無駄にしてしまうことになる。
(ーーーそして二人の関係はサーヴァントとマスターの垣根を越え、今までよりもぐっと近づきーーーーーーフハハハハー!来たぜ、俺の時代!アストルフォとシャルルマーニュが頭を抱えてる姿が幻視出来るが、気にしない!)
それでも、足が止まりそうになる。私を助けてくれたバーサーカーは、ここで消えるのだ。バーサーカーだって、本当は消えたくないはずだ。それなのに、私の我儘のために、私と契約していたバーサーカーのために、消えてしまう。
ーーーああ、涙が止まらない。
(いえーい!アストルフォ、シャルルマーニュ、見てるー?俺は今こそ幸せを掴んでみせるぜー!)
バーサーカーの決死の覚悟、無駄にするわけにはいかない!
私に出来ることはただひとつ、
その名前を呼びかけることだけだーーーーーー!
▶︎来て、バーサーカー!
「とーーーう!」
「遠からん者は音にも聞け!近からん者は寄って見よ!我が名はシャルルマーニュ十二勇士ローラン!舞って散るぜ!」
「マスター、自らの身を呈してまで前に進むお前の勇気、しかとこの身に届いたぜ!」
「お前の勇気に、我が聖剣、その奇蹟をもって応えよう!」
「いくぞ、宝具解放!」
「聖剣、抜刀!」
「トロイアの大英雄ヘクトールよ、力を!」
「輝煌の剣、3つの奇蹟をここに示す!」
「奇蹟を起こせ、デュランダル!」
(ーーー完璧に決まったぜ!)
今回は脱がない、なぜなら既に脱いでいたからだ!
……脱いでないのに、いつもより色々とヒドイ気が……。